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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十二ノ巻
390/460

第三百九十話 明日の予定に

 見慣れた部屋。

「・・・」

 さて、ここは。ここが、自分が今居るこの場所は、和室であり修孝自身の部屋で、そして、修孝は自身の布団の中で目覚めた。


 ガラス窓から見える外の風景は真っ暗で暗い。部屋の中も真っ暗。どうやらまだ夜のようだ。であれば、夜の、今はいつ頃だろうか?


第三百九十話 明日の予定に


 修孝は手を伸ばし、普段から自身の枕元に置いてある行燈に手を伸ばし、その紐を引っ張り、灯りを点けた。

 その灯りは、LEDのような白い光ではなく、やや橙赤色がかった夕暮れ時の太陽のような、つまりランプが点す光の色に近い。


 すると、修孝の部屋は暖かい色調の明かりに包まれて、修孝は部屋の様子を見ることができるようになった。


 修孝がいつものところに掛かってある柱時計へとその視線を遣れば、

「、、、」

 柱に掛かっている振り子時計のその時刻は、長針と短針は、左でまっすぐに重なり合い、つまりそれらの針が指し示すその時刻は、二十時四十五分と言ったところだろうか。


「・・・」

 修孝は布団から、掛け布団を退けてその上体を起こした。


 ぽとん、と布団の上に落ちた白い手ぬぐい。

「っ」

 どうやら今までは、おでこか自身の頸にあったようだった。いや、気を失い(うな)されていたであろう俺のために、用意されていたのか、と修孝は思った。


 修孝の部屋にあるちゃぶ台のような机の上には、木の桶。桶には水が溜まっており、もう一枚の畳まれた白い手ぬぐいが、ちゃぶ台の上に置かれてあった。


 時間を見て誰かが自分の様子を見に来ているのだろう、それは美夜妃か、と修孝は思った。


 そうだ、と修孝は、尿意を催し―――

「!!」

 ―――、だが、そのときちょうど人の気配がした。それも、複数名で、自分の部屋のすぐ近くだ。


 あれよあれよ、という前に、人の気配は、その足音は近づいて、閉じている襖が、静かに、すっ、っと左右に開く。

 そこに立っていた者は、二名。二人とも女性で、一人は成人女性ほどの体格で、残るもう一人の背丈は低い。

 彼女達が修孝の部屋にやってきたということだ。


「お、お目覚めですかっ修孝様ッツ!?」

 ハッ、っとして美夜妃は驚いた。まだ布団の中で修孝が寝ていると思ったからだ。その修孝が布団を剥いで上体を起こし、目を覚ましていたからである。


「―――ッ」

 残るもう一人の人物、彼女は千歳、、、いやその正体は童女の(なり)のクルシュである。その彼女も驚きにその目を見開いた。



「あぁ、美夜妃」

 修孝は答えた。


「修孝様っお身体のお加減はいかがですかっ!? 大事無いですかっ? 美夜妃はとても心配で、修孝様ーっ」

 ささささ―――、畳の縁を踏まずして、またその立居振舞は、上品な育ちの良さを伺わせる美夜妃のその身体の動き。美夜妃は、美しい所作で修孝に駆け寄った。


「お、おう・・・、」

 いまここには、幼い千歳もいる、と、修孝は、がばっと、自身に抱き付いてきそうなほどの勢いの美夜妃を軽く両手で制しながら―――、

「大丈夫だ、美夜妃。俺はこのとおりぴんぴんしている」


「ほ、本当ですか!?修孝様。修孝様はずっと魘されていましたのでっ。それに修孝様はいつも、俺は大丈夫だ、と、お我慢をなされますっ本当にどこも芳しくないところはありませんか?!」


 慌てた様子の美夜妃とは対照的に、その当事者である修孝はとても落ち着いている。

「あぁ。異能を発現させるときに、氣力を酷使したのかもしれん。少し頭が重いだけだ・・・」

 修孝は、軽く前頭部を抑えた。本当はそれだけではなく、夢見が悪かったのも、頭が、心が重い一因になっている。


「修孝様、お水は飲まれますか?」

 美夜妃は、ごく自然に、寝汗を搔いたであろう修孝に水分補給を促した。


「あぁ、飲もう。ありがとう、美夜妃」

 修孝も、ごく自然に美夜妃が差し出したガラスの杯を受け取り、その澄んだ水を、ごくごく、と喉を鳴らして一気に飲み干した。

 修孝は空になった杯を美夜妃に返し、まるで以心伝心のように、美夜妃は、水差しから常温の水を空になったガラスの杯に注いで修孝に渡す。

「どうぞ、修孝様」

「あぁ」



 修孝が水を飲みほし、落ち着いたところを見計らって美夜妃は口を開く。

「修孝様。明日の放課後、ご学友の三条さまと九十歩(くじゅうぶ)さまが、お倒れになった修孝様のお見舞いに伺うそうです」


 その両名とは、修孝の友人であり幼馴染だ。三条悠とは、親友といってもなんの差支えもない。

「・・・あいつらか、、、。で、なんで美夜妃、あいつらが、俺が倒れたことを知っているんだ?」

「それは、修孝様。美夜妃が三条さまと九十歩さまに、修孝様が体調不良で明日の学園はお休みするとお伝えしたからです。―――、あの、、、美夜妃は差し出がましい真似をしたのでしょうか?修孝様」


「、、、―――、」

 いや別に大丈夫だ―――、っと修孝は、首を横に振った。その意思表示の言葉は少ないが、美夜妃自身の言葉をやわりと否定した。修孝にとっては、棚から牡丹餅のような“休み”である。

「あいつら―――、俺を見舞いになんか、わざわざ来なくてもいいのにな・・・」

 ぽつり、、、っとだが、修孝は本音を零した。


「修孝様。そのようなことを言ってはダメです。ご学友の方々は大事にしないといけませんと・・・!!」

「、、、」

 じと、っとした視線を美夜妃に向ける修孝。だが、美夜妃は、修孝のそのようななにかもの言いたげな不服そうな自己肯定感の低そうな視線は、いつも受け流すことにしている。


「それと修孝様っ。修孝様がお倒れになったと聞き及んだ儀紹義父さまが、急遽日府よりお戻りに、修孝様をお見舞いに帰国するそうです」

「・・・あの親父が、、、」

 どうせ“自分の預言書”がどうなったのを気にしているだけにすぎんのだろう、と修孝の頭の中を、そうした思考がよぎった。

「はい修孝様。美夜妃は、明日学園をお休みして巴恵お義母さまと一緒に儀紹さまをお迎えに行かなければなりません―――」


 美夜妃のその言葉。

 明日、美夜妃は、自分のもとには、いない。わざわざ学園を休んで俺の親父を迎えにいかなくてもいい、と思ったが、それもあるが―――。


 夢の光景。


 あれが修孝の脳裏をよぎった。もし、、、あのときのように―――、いやそんなことはない、有り得ない。イニーフィネ皇国は、その軍隊は、『まだ』この日下国を襲ってこないというのに。


 修孝が、己の異能は『予知夢』である、ということを意識し、自身の異能が『予知夢』であると確信した、とき。

 急に、猛烈な不安が―――、

「、っ―――、ッツ」

 ―――、修孝の心を、襲う、いや襲った。



「修孝様?」

 修孝のそのいつもの真面目な表情がさらに本気になったような大真面目に―――、いや強張ったような微妙な表情の変化を感じ取った美夜妃は、修孝に問うた。

「行くな、美夜妃」

「え・・・っ、修孝様・・・?」

「行かなくてもいい。行かないでくれ、美夜妃」

 美夜妃は逡巡。

 その視線が、やや戸惑い気味に揺れる。

「・・・修孝様、どうして美夜妃にそのように、行くな、と言われるんですか?」

 意を決し、美夜妃はその理由を。なぜ、修孝が自分の行動を制する言動を、行くな、と言った理由を修孝に訊いた。


 彼女に訊かれて修孝は口が重い。

「・・・、、、」

 修孝は、


 夢見が悪かった、お前がイニーフィネ軍の竜が吐いた紅蓮の炎に巻かれて死ぬ悪夢を見たせいだ、


 などとは美夜妃に言うことは、とても話し辛く。そして、美夜妃は修孝自身の異能が『予知夢』であるということを、以前に自分が美夜妃に話したことで、彼女は修孝の異能を『予知夢』であると知っている。


 修孝は、自分が美夜妃に話すことで、彼女は近い将来において自身が“死ぬ”ということを確信してしまう、ということを、修孝は簡単に想像できたのだ。


 いわゆる『死亡預言』。

“お前が死ぬ予知夢を見た”

 と、口に出すことで、修孝はそれが本当に成就してしまいそうで、美夜妃に話すのが怖かった。


 かと言って、修孝は美夜妃に強く当たるような口調で、煩いと撥ね退けるような理由有耶無耶にする、ということもしたくはないし、許嫁にはそのように当たり散らしたくもなかった―――。

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