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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十二ノ巻
384/460

第三百八十四話 日下密議―――三

「・・・っ」

 儀紹も、クルシュの言葉に、その話の内容には驚いているようだが、割と冷静さを窺わせるものである。

 彼の頭の中では、皇国で内戦が起こったとして、避難民が押し寄せるほうか、それとも、チェスター第二皇子が勝ったときに起こる結果のほうか、そのどちらのほうが、自分にとって、この日下国にとってどっちが影響が大きいかをその頭の中で考えていたのだ。

 それと、同時に儀紹は、

(どこまで、この“阿婆擦れ”の話は信用できる?)

 と、その疑念の気持ちに心の内に隠していた。そして、裏を取らねば、とそうも思った。


第三百八十四話 日下密議―――三


 クルシュは、自分を“主様”と慕うこの儀紹の内心には全く気付かず、子々孫々の行晃と儀紹に、自身が『イデアル』の構成員として入手した情報を話して聞かせる。


「チェスター第二皇子は、兄ルストロ第一皇子とは違った、直接的なやり方・・・武力で日之国を滅ぼし、この日之国の領域を、皇国に取り込まん、、、いや古き大イニーフィネ帝国の復活を掲げるチェスターと、その一派は“世界の奪回”或いは“強き帝国の復活”と言っておるがな」


「ッツ!!」

 クルシュの言葉を聞いて、儀紹の父行晃に、恐怖からくる動揺が走る。この国が、この民が、自分の国が、自分の家が、そして、日下国が消える―――、という最悪のシナリオを二人が頭の中で想像せずにおられなかった。



「あの、主様―――、」

 ここでようやっと、儀紹は口を開けることができた。

「なんじゃ儀紹よ?」

 クルシュはその童女の視線を儀紹に向けた。


「ほ、本当に、本気でチェスター皇子は、我々に戦争を仕掛けてくるほどに? 我々日之国が存在する所為で、イニーフィネ皇国が衰退?破滅?するですと?そんなバカなことが。本当に、本気でそんなこじ付けのような理由だけで、この日之国を攻めるつもりなのでしょうか?」

 バカな、そんなバカなことか、武力で他の世界を侵略し、併合する?この現代にそんなことが起こるなど到底彼儀紹には理解できなかったのだ。


「ふむ、、、おそらく彼奴チェスターの頭の中にずっとあるのは、“古き大イニーフィネ帝国の復興”じゃ。兄ルストロのやっておる日之国や魔法王国と好を結ぶ政策が堪らなく気に入らんのじゃろうよ。―――」

 偏狭な奴じゃ、、、と、クルシュは苦々しく吐き棄てた。


「ですが、主様。お言葉ですが、たったそれだけのことで、チェスター皇子が、日之国に軍事侵攻するとは、正直この儀紹は到底思えません。戦争は、国力を疲弊させ、多大な軍費は皇国の財政を圧迫します。さらに徴兵された兵士の戦死や戦傷、傷痍などで人的資源も損亡するとも聞きます。チェスター皇子は、そこまでして、我らが日下国へ戦争を仕掛けますかな?私には、到底信じることができませんが」

「儀紹よ、そちは理知的で聡いのう。じゃがの、悲しいかな我ら日下人や、そして、日之民の常識は、イニーフィネ人には通じんものなのじゃよ。彼奴らの古臭く黴が生えたような常識には、の」


 チェスター第二皇子は、本気で実の兄ルストロ第一皇子を亡き者とし、軍事クーデターを起こしてまで、日之国に対して兵を挙げる?儀紹にはそれが甚だ疑問だった、それがまさか、自身の息子修孝の“夢見”と繋がっていることは露にも思わず、思えず―――。

「、、、」

 儀紹は、たとえ自身の日下家の始祖であるクルシュの話でも、彼女の口からそのチェスター第二皇子の話を聞いても、心の底からクルシュの話を全て、頭から尾までを信じることができなかった。


 月之国ならいざ知らず、この現代に、前時代的な直接戦闘を仕掛けてくる?だと。しかも、皇子自ら皇国軍を率いて、境界を越え地上侵攻してくる?

「(そんなバカな―――。この阿婆擦れ、私を脅すために適当なことを吹いているんじゃないか・・・?)」

 かと言って、儀紹は、クルシュが自身を見て不快に思うような態度は取ることもできなかった。儀紹自分の野心がこの場で明るみに出てしまうかもしれない、と彼は考え、その視線をクルシュより逸らすことも、視線を落とすこともせず、できずに、一応はその視線をクルシュに送っている。



「儀紹よ、主様の御言葉が信じられぬのか?」

 だが、息子のことである、すぐに行晃は、儀紹のその瞳の揺れ方や、その手指の動かし方で、息子が密かに内心で思っていることは、“主様への懐疑”であるという事実に気づいたのだ。

「い、いえっ、父上。そのようなことは、ありません。チェスター第二皇子がいかに過激で危険な男であるということに得心がいきました」

 儀紹は慌てて取り成しを示した。


「ならば、よろしい儀紹―――、」

 行晃は、息子儀紹から視線を切り、再びクルシュへ、行晃はその意志の籠った視線を向けた。

「―――、主様。では、我ら父子は、どのように動けばよろしいですか・・・?」

 行晃のその言葉は、その言動は、日下家の始祖であり、創主たるクルシュの指示を仰ぐものであった。


「お主らはまず―――、いや行晃よ」

「はッ、主様・・・!!」

「行晃よ、そちはこの―――、」

 クルシュは、自身の足元に置かれたままになっている『霧雨』を、身振りで指し示し―――、

「―――、『霧雨』を以って、孫の修孝を試してみい。修孝ならこの蔵人殿の神刀『霧雨』が扱えるかもしれん」


「はッ、主様」


「そうじゃのう・・・、」

 クルシュは、うぅむ、っと、考える呈を示し、そして、再びおもむろにその小さな口を開く。

「・・・、儂も加わろう。チェスターめが、その企てを起こさんとするそのときまでに、の。できれば早くじゃ、修孝の覚醒を早う促せ」

「はッ、畏まりました、主様」

 行晃は、畳の上にその両手を着いて、首を垂れた。その姿はまるで、近世の武士のような一礼であった。

「うむ。次に―――、」

 上座のクルシュの視線は、儀紹に移ろう。儀紹に言うこと、言わねばならぬことがあるようだ。

 

「―――、儀紹よ」

「はい、主様」

「そちは気にしておったな?儂が『第六感社』を使うて、なぜに儂が日之国政府に接触したのかを。そちの動き、とうに気づいておったぞ、儂は」


 ギョっ、っと。

「っ!!」

 クルシュより出た自分に向かうその言葉。クルシュの言葉を聞いた儀紹はギョッとした。なぜ、クルシュに自分の動きがバレているのだろう、と。


「くくくっ、そちが態々(わざわざ)小間使いの者、、、近角信吾じゃったか、彼奴を使わんでも、のう儀紹よ、そちが知りたいと思うたことを直ぐに儂に訊けば、儂はすんなりとお主に答えてやるというのにのう」

 くくくっ、ニヤリとクルシュは、その稚児の童女の顔には不釣り合いなほどの、その体躯とは正反対に位置するような老獪で凄惨な笑みを浮かべて儀紹に微笑んで見せた。


「あ、あぅ、・・・その、、、主様」

 儀紹は、しどろもどろに彼女になんの弁明も、何も言えなかった。


「主様?我が息子がなにか粗相をしでかしたのですかな」

「いんや、行晃よ。中々に、儀紹は腹芸が上手くなってきた、と儂は褒めておるのじゃよ。のう、儀紹よ、、、くく、くくくくっ」

「はッ、ははぁ」

 儀紹は、御見それいたしました、と平身低頭。その首をクルシュの前に垂れた。その秘めた反逆の内心は全くもって変わってはいないが。

「儀紹よ、お主は日之国の政界に向いとるかもしれんの」

「この儀紹。主様にはお褒めの言葉を頂戴し、恐悦至極にございます」

「儀紹よ。チェスター第二皇子率いるイニーフィネ軍が、我ら日下を攻めてきたときのために、儂は第六感社を使うて日之国政府に接触しておったのじゃよ。諸々の交渉を、な」

「、、、なるほど、そうでございましたか、主様」

(この阿婆擦れめ、あんたの時代は終わったんださっさと引退しろ。たとえ転生しても現世の政に関わってくるな)

 と、内心で儀紹は思った。


 たとえクルシュがそのように動いていたとしても、ただの徒労、取り越し苦労に終わるだけだろう、と。まさか、この現代に、チェスター第二皇子が本気になって、日之国に対して軍事侵攻を行なうなど、と。

 前時代的で、有史の初めの頃には常識だった直接的な軍事侵攻を、『世界統一化現象時代』のような有事になることを、そんなことを今の時代にチェスターがやってくるわけねぇだろ、と、儀紹は内心ではそう思っていたものの。

 だが、儀紹はその内心を、その考えを口に出して、直にクルシュや父行晃に言うことは憚られた―――。

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