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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十二ノ巻
383/460

第三百八十三話 日下密議―――二

「やはりのう、そちらも知らぬか。ま、あちらさんも、そうそう易々と己らの内情の事は表に出さぬだろうしの」


「「・・・?」

 ん?っと、互いに視線を合わせた父子。だが少なくとも、ある程度の皇国の内情の事を、息子のほうの儀紹は知っている。


第三百八十三話 日下密議―――二


 千歳と名乗る童女は、語り出す―――。

「行晃、儀紹お主らも知ってと思うが、今の現皇帝率いる皇国は親日之国政権じゃ。ま、事実上は、第一皇子ルストロによる親政。彼奴のその主義主張は『開かれ調和の取れた皇国を』じゃ。じゃがの、悲しいかな、ルストロが行なっておる政は、父帝の名代として日之国を含めた四つの世界を、無血開城させてイニーフィネ皇国に取り込み呑み込まんとする太陽政策じゃ」



 おずおず、、、っと、そこで行晃は自分の考えを主に伝えるべく、自らの主にその口を開く。

「、、、では、主様。いずれこの日下国は、いえ日之国は、イニーフィネ皇国に呑合されるということですな・・・?」

「うむ、行晃そのとおりじゃ。それは忌々しき事態じゃな」


 だが、行晃は、千歳のその考えに対して、そうは思わなかった。

「忌々しき事態ですか?主様。 しかし、お言葉ですが主様。皇国は、氣導具や魔導具、またマナ結晶を媒体にした叡智学とも言うべき、新技術に優れていると聞きます。我ら日下国が、日之国より先んじてイニーフィネ皇国と繋がれば、新しい技術革新が、産業革命が起こり、国力増大富国強兵化―――、日之国に対しての抑止力になると存じますが」

 行晃は、自身の主の言葉に疑問符が付いたわけだ、上記の自身が言ったことは、紛れもない事実であるのに。



「―――」

 しかし、千歳と名乗る童女の表情は固かった、行晃の進言を聞いてもその表情は険しいままだ。


 そして、行晃の息子である儀紹といえば―――、

「なるほど、父上。さすれば、我々は早々に境界を越えて皇国と交渉し、互いに人的交流や資源を盛んにせねばなりませんなっ。そして、我ら日下国主の懐、、、いえ、国庫に大量の富が溜まりますな!! 主様、父上っ、さっ早く行動していこうではありませんかっ」

 ―――、彼は父と同じ考えであり、乗り気である。



 だが、千歳という童女は―――、

「たわけ・・・っ」

 ―――と、呆れたような声色で一喝。



「「・・・」」


「行晃。儀紹。そう都合よくゆくわけがなかろう。たとえば日之国が、それより遥かに大きく強く異質な文明であるイニーフィネ皇国と迎合したとしよう。さすれば、日之国は、すぐに皇国の価値観に、その文化に、その文明に、その法に染まる。イニーフィネ人の物事の考えに、皇国に支配されてしまうじゃろう。劣った文明は、優れた強大な文明の前には、風前の灯火じゃ。すぐに皇国の思考に、価値観に染まってしまおうぞ。我ら日下を含めた日之民を見下す皇国は、我ら日之民を二級民、三級民という身分に落とすじゃろうよ。かつて、大昔、儂はのぅ、このクルシュ=イニーフィナは、その災禍を、その災厄をこの眼で直に見たのじゃよ、、、。皇国主導による五世界統一じゃと?バカな。アレは、互いの血で、血で血を洗う世界統一化現象の再来など、赦してならんぞ、行晃よ、儀紹よ」



 千歳、、、いやクルシュの話を聞いて―――、

「「・・・」」

 ―――、口を噤み、だんまりとなった父子。



「さて、先ほど儂が言うたとおり、皇国の宮廷内が二分されていると言うたな?お主ら」

 千歳は、ようやく本題というばかりに、その座布団の上で組んでいる小さな脚を組み直し、居住まいを正して背筋を伸ばした。


「「―――」」

 父子は肯いた。


「うむ。二分されたうちの一つが現政権ルストロ第一皇子率いる日之国を含めた四つの世界を太陽政策で、皇国に取り込まんとする一派で、いわゆる穏健派。そして、もう一つの一派は―――、その一派が、とても、、、いや、かなり厄介じゃっ!!」

 千歳と名乗る少女、、、いや、その正体は、輪廻転生を繰り返すクルシュ=イニーフィナ。しかして彼女の本当の、肉体の母親が与えた日之民としての名は久留主摩耶。


 そんな彼女クルシュは、その稚児には似合わないような、眉間に皺を寄せる苦しく苦々しい表情で、その視線を手元に落とした。


 クルシュのその深刻な様。眉間に皺を寄せたその表情を見た行晃は―――、

「・・・主様、厄介と言いますと、いったいそれはどのような考えのイニーフィネ皇国の一派なのですかな?」

 ―――、行晃は辛抱堪らず、我が主に訊いた。


「先の、儂が言うた自らの皇国に、平和を盾に日之国を取り込まんとし支配しようとする親日之国現政権の派閥を『ルストロの穏健派』とすれば、もう一つの派閥は、それとは正反対真逆じゃ。ルストロ第一皇子の掲げる『開かれ調和の取れた皇国を』に、真っ向から異を唱える強硬・過激派―――、」

 

「―――、彼奴ら強硬・過激派は反日之国を掲げ、いやイニーフィネ以外の他の四世界の存在を全くもって認めない一派じゃ、そやつらは。その頭目はチェスター第二皇子」



「「・・・」」

 つまり、兄弟げんか、身内同士の諍いか、と、二人行晃と儀紹は納得がいった。



「事はそれだけはないぞ、行晃、儀紹。儂自らの伝手で知り得た彼奴らチェスターめが率いる過激派の謀をお主らに伝えてやろう」

 クルシュは、やや前のめりの姿勢になって、声の大きさも落として配下の二名に語り出した。もちろんその内容は、クルシュが『イデアル』の立場として知り得た情報である。


「チェスターめが己の目標を達成する為に、まず手始めに、邪魔な存在である自分の兄であるルストロ第一皇子を亡き者とし、自身の派閥を率いて宮廷を乗っ盗り、その権力で『ルストロ派』を粛清するつもりじゃ」


 兄を暗殺し、兄の幹部一派までも粛清、、、つまり暴君による自身に異を唱える者達を皆殺しにするということだ。



「なんとっ!!」

 ある程度、イニーフィネ皇国の内情を掴んでいる儀紹もこれには驚いた。


 行晃も。

「まさか、、、チェスター第二皇子は武力による政変を起こすつもりなのですかっ!?主様・・・!!」



「うむ、そうじゃ。近々、きっと、皇国で政変が起きるぞ。どの程度の大きさのものになるのかは、今の段階では判らぬが、、、そうじゃのう、もし、ルストロが難を逃れ両者の力が拮抗したとすれば、―――それはもう皇国内での内戦となるじゃろうな。となれば、イニーフィネに最も近いここ日下は、皇国の内紛の戦火を蒙るやもしれん。来るぞ、境界の結場を越えて、イニーフィネの難民が、大量に―――、この日下の地になっ」



「なッ、なんと主様ッツ それは一大事でありますな・・・ッツ」

 行晃は、クルシュの話を聞いてその顔を強張らせる。その表情は、真に主であるクルシュの言葉を、彼女の一挙手一投足を、まるで盲信している様であった。


 確かに、戦火を逃れて難民に押し寄せられたら儀紹も、難民達への対策を考えなくてはならない。時間と労力を割き、難民支援のために国力も割かねばならないからである。

「主様、・・・」

 儀紹は、声を詰まらせつつも、クルシュに問いかけようとしたが、



「そして、万が一、内乱の末に武闘派で過激派のチェスターめが、イニーフィネ皇国の実権を握れば、日之国への圧力が強まるのは必至―――。チェスターめは日之民を滅ぼすために軍を率い、まず我ら日下国に戦争を仕掛け、その背後にいる日之国にも軍事侵攻するじゃろうよ。“チェスターの戦争”じゃな。チェスター第二皇子は過激派じゃ。日之国の存在が、日之民が存在する所為で、自国イニーフィネ皇国が衰退し、破滅の一途を辿っておると、本気でそう思っておる。・・・チェスター彼奴は半ば狂っとるわ。 、、、っ」

 クルシュは顔を顰めて唾棄。



「ッツ・・・!!」

 行晃は驚きと、その怒りにも似た感情に、自身の目を剥いた。行晃の心はすっかりとクルシュに同調している。


 口に一文字にして、

「・・・っ」

 儀紹も、クルシュの言葉に、その話の内容には驚いているようだが、割と冷静さを窺わせるものである。

 彼の頭の中では、皇国で内戦が起こったとして、避難民が押し寄せるほうか、それとも、チェスター第二皇子が勝ったときに起こる結果のほうか、そのどちらのほうが、自分にとって、この日下国にとってどっちが影響が大きいかをその頭の中で考えていたのだ。

 それと、同時に儀紹は、

(どこまで、この“阿婆擦れ”の話は信用できる?)

 と、その疑念の気持ちに心の内に隠していた。そして、裏を取らねば、と、そうも思った―――。


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