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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十二ノ巻
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第三百八十一話 日下の主様おたわむれ

 行晃は、ぽりぽり、っと、漬菜の噛み噛み食べながら、ごくん、っとそれを嚥下した。

「話を正儀(まさき)にしたら、あいつはこの私になんと答えたと思う?修孝よ」

 今度は、ずずっ、っと行晃は、汁物を一口。


「・・・さあ」

 分からない、と言う意味の修孝の“さあ”であった。だが、修孝は、内心予想していた答えはあったのだが、それは言わなかった。


第三百八十一話 日下の主様おたわむれ


「お前と同じ答えだ、修孝」


「―――」

 あぁ、やっぱり正儀もそうだろう、な。と修孝は、正儀が、そう言ったであろう場面を想像した。


「正儀は“子どものお守などしたくない。他のやつを当たってくれ”とな。ったく、、、修孝と正儀、お前達は揃いも揃って、この祖父である私の願いを無碍にしおってからに・・・、これは主様を、、、あぁいや―――、」

 行晃は、孫の前で言葉を濁した。今はまだそのときではない。


 ん?修孝はふと疑問に思った、祖父行晃の話を、その言葉を聞いて。

「主様?」

 そう、“主様”である。

 修孝は、そのような主様などという言葉を、今まで聞いたことはなかった。勿論、『主様』自体の汎用的な意味は知っている、主従関係の間柄にある者達の主のほうのことである。

 だが、日下一門の、宗主であった祖父行晃自身が、『主様を』と言ったことの意味が解らなかったのだ。


「ふむ、修孝よ、日下家一門の年長者のことだ、主様とは。、、、その、頭首の名代つまりその私のことをいう。それにしても・・・全く近頃の若い者は、、、(ぶつぶつ・・・主様をないがしろにしおってからに、、、っ)」


 何だそういう意味か、、、と修孝は納得した。

「はぁ、そういうことですか、祖父さま。残念ながら俺も、正儀と同じ意見ですね。俺もいろいろと忙しいんですよ。だから、子どものお守なんかは―――、」


 ぎろ、、、じろりっと、行晃は急に眼光鋭くなる。無論修孝のその断ろうとする言葉を聞いたからである。

「良いのか?修孝」

 眼光鋭く行晃は、孫にもう一度問いかけた。

「っ。祖父さま?」

「良いのかのう?え?修孝。お前のその“答え”は本当に、熟考した末のものか? よく考えてみろ、修孝。まぁ、正儀も私の孫の一人であるし、お前さんだけを贔屓にするわけではない。―――、」


「―――、、、」


「―――、が、だ。修孝よ、正儀が断りおった、この祖父たって願いを、修孝お主が快諾したとする。そうすれば、きっとお前に箔が着くだろう」


 子守り程度で箔がつく?それを言う祖父の真意はよく分からないが、だが、修孝の心は揺れる。修孝自身幼少の頃より、周りの大人達にまるで擦りこみのように、『日下の跡取り息子』だと、言われ続けてきた。事実、そのような次期宗主としての教育を、作法や所作も習わされ、その心身に叩き込まれてきた。

「、、、っ、」


「それにな、修孝よ。あの娘千歳は、日下一門の次期頭首候補の中では、お前が一番いいと言っているのだ」


 “一番いい”?あの童女が俺の事を? よく分からない、いまいち腑に落ちない祖父の言葉。

「俺が一番いい、・・・?」

 一番いい?修孝は、その言葉がすとんと腑に落ちず。


「うむ。千歳がそう私に言うのだ、修孝お前が好きと、な」


 あの赤い履物の童女が? あ、でも―――、そういう意味か。と、修孝は、得心した。

「ふーん」

 修孝は思うのだ、あの千歳という七歳ぐらいの少女が言う『自分のことが好き』それは、きっと、“俺を遊んでくれそうなお兄ちゃん”という認識で合っているのだろうと。



 トトトトトト―――っ、っという足音。その足音は唐突にやって来た。



「っ」

 その軽快な足音は、和室で正座をして夕食を摂っていた、修孝と祖父の行晃の耳にも届いた。

 その足音は、徐々に修孝達のいる居間でもはっきりと聴こえるぐらいの大きくなっていく。

 つまり足音は、その主は修孝達の元へと近づいてきているということだ。



 

「わーっ、待ってよっ千歳ちゃんっ!!」

 そして、慌てたような美夜妃の声も。

「えへへへへっ美夜妃ちゃんっこっちこっちー♪」

 愉しそうに笑う小さな少女の声。



「あいつ、、、」

 修孝は想像に至れり。きっと、子どものあの千歳とかいう少女が、風呂上りに走り回ってそれを美夜妃が追いかけているのだろう、と。



「捕まえられるものなら、私を捕まえてみてよっ美夜妃ちゃんっ♪」

「わわわわっ、風呂上りは、髪の毛を乾かさないとーっ」

「きゃははははは♪ 髪を乾かす前にすることあるのーっ♪」

 けたけたけた♪

 どたどたどたっ、

 タタタタタっ、


 その言動を、夕餉を食べながら察し想像した修孝と行晃。思わず両者ともその箸を止めてしまった。

「だ、だいぶ賑やかなようだな、修孝よ・・・」

「あ、あぁ」



 パンッ



「「!!」」

 びくっ!!っと驚く、この祖父と孫。


 突然、修孝と行晃が夕食を摂っていた和室の襖が勢いよく左右に開いたからだ。


 襖が開かれた先。開け放たれた向こうの部屋―――。


 襖の敷居を界にして向こう側の部屋との境目。そこに立っていた者は童女。それも年端もいかないような、小学校低学年ほどの年齢の。

 風呂上り、と美夜妃は言っていたが、この千歳という童女は衣服を身に着けている。ちなみに部屋着である。

「・・・(にこ)っ」

 その童女は、まっすぐに修孝を見て、にこっ、っと屈託のない笑みを浮かべて微笑む。

「っつ、・・・」

 修孝は、その年齢には似合わない童女の妙な、大人びたような微笑みの顔に、ハッとして。


 だが、今の転生して数年ほどしか経っていない『彼女』は、小さな子ども姿。そのかわいい愛嬌のある容貌。低い背丈。立ち上がった修孝の腰にも届かない背丈かもしれぬ。

 美夜妃の言葉どおり、どうやらこの千歳という少女は風呂上りのようで、その湿り気でややウェーブがかかったその長い髪。その髪の色は亜麻色である。そして、くりっとしたかわいい目元。


 さきほどまで行晃が修孝に話していた話。その話題に上がっていた主様その人である。そして、祖父行晃が、この童女を日下宗家の屋敷に連れてきたのは、なんのためか、どういったわけがあるのか―――、それがこれから明かされていくのだ。



「っ♪」

 にこっ、っとした微笑みからさらにその笑顔を進ませ、ぱぁっ、っと笑顔になって、その嬉々とさせた表情で、自身をまっすぐに見つめるこの幼い少女。童女。


「・・・?」

 なんだろう?どうしたんだろう? どうしてこの童女は自分を見て、こうも屈託のない笑顔を向けるんだろうと、修孝は思った。

 なぜならば、修孝はこの少女に会うのは初めてのことで、自分とこの千歳とかいう少女は初対面のはずだ。なのにどうして、この少女はなぜこうも、自分を見て、にこっ、っと笑うのだろうと。


 タンっ、っと、少女は、畳を蹴って敷居を越えて―――、

「っ、修孝おにいちゃんっ♪大好きっ♪」

 ―――、ダッシュ♪

 少女は、ダッシュ♪

 修孝に、そのままダイブっ♪

「ちょっ・・・!!お前!?」

 夕食を摂っているこのちゃぶ台にダイブだとっ!? 飛び散るだろうご飯に汁物。そのあとの大惨事のことを、咄嗟に考えた修孝。


 修孝はこれから起きることを予測―――、その剣術で鍛えた足腰をばねに、即座に、まるで跳びあがるかのように立ち上がると、その少女の全身突撃に備え―――、


「修孝おにいちゃんっだーんっ!!♪」


 ―――、ばふっ!!っと、修孝は、跳びついてきた少女を受け止めた。

「うお・・・っ!?」

 軽やかにその足捌きで、修孝はその場で、畳の上で舞った。


 くるくるくる―――、っと、自分の胸に飛び込んできたこの少女の、跳びついてきた勢いを殺すために、修孝は、この幼い千歳という少女を抱き留め、畳の上でくるくるくると舞った回った、廻った。


 修孝自身自覚はあった。自身は、その眼光が鋭いのか、それとも目つきが悪いのか、道を行く子どもには避けられ、同級生や、剣術試合の相手からも、その自身の目つきの鋭さから身構えられることが多々あったのだ。

 だが、それであるのに、こんなにもこの少女は、自分を警戒しないのだ。


 童女を抱き留めた回転がようやく止まり、

「うぷ。。。」

 修孝は満腹の上、自身のお腹に勢いよく飛びついてきたこの千歳という名の少女を受け止め、そして、その場で身体を回転させたのだ。

 目が回りまるで車酔いのように酔って、吐きかけた。今まさに食べていたご飯を吐きかけたのだ。


 苦悶の修孝とは対照的に、千歳はとても満足げな表情を浮かべて、ご満悦のようだ。

 ぴょんぴょんっ♪

「えへへへへっ♪ 修孝おにいちゃんっ」

 ま、ともかく、修孝の次期頭首選考、“彼女”による一次面接は合格である。



 ぱたぱたぱたっ、っと、遅れて駆け寄ってくるのは美夜妃。

「み、修孝様っ!? だっ大丈夫ですか!!」

「あ、あぁ、、、なんとか―――、うぷ、、、っ」

「きゃははははっ♪修孝おにいちゃんだーい好きっ♪」

 けたけたけたっ♪

「もっと遊んで遊んでっ修孝おにいちゃん、みやびちゃん♪」



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