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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十一ノ巻
378/460

第三百七十八話 彼と彼女の日常

「待て、碓水」

 儀紹はハッと思い浮かべたことがあり、自分の前から下がろうとした野添碓水を呼び止めた。

「はい、お館様」

「アレに修孝に、口止めをさせておけ。自身の異能が『予知夢』かもしれないということを。知られれば邪な、修孝を利用せんとする輩が近寄ってくるかもしれぬ、だから気を付けるようにと、アレに言っておけ」

「ハっ、畏まりました、お館様」

 そしてすぐに野添碓水は、音も立てずに主である日下儀紹の自室を辞した。

 

第三百七十八話 彼と彼女の日常


 自身の腹心の重臣である野添碓水が退室していったあとのことだ。


 ぽつり、、、。

「日之国政府が第六感社と接触か、、、信吾よ、よく情報を掴んでくれた。全く、“あの人”は一体なにを考えているのか。―――、」

 日下儀紹は一人、誰もいなくなった和室の自室で一人呟いた。


 昨年末に畳を張り替えたばかりなので、儀紹の自室は藺草(いぐさ)の香りに包まれている。そして、昔ながらの行燈の淡いやや黄味がかった自然光。


 “あの人”―――。儀紹は、自身の過去に訪れた出来事を思い出さずにはいられなかった―――。

「―――“あの阿婆擦れ”め、、、っつ」

 儀紹は、顰めた面で軽く舌打ち。

「もはや老害。、、、っ、だが・・・、“あの老害”に確かめてみる必要はあるな」

 侮蔑を籠めて儀紹の吐く“あの老害、あの阿婆擦れ”―――、それは代々日下家の頭首となり、その次代の頭首の者が、先代から一子相伝の口伝を受け継ぐとき、次代の頭首の前に、“彼女”は身を(やつ)してその姿を現すのだ。


 儀紹が本当は快く思っていなく、彼が忌々しく口走った“あの阿婆擦れあの老害”の人物は、次期頭首の前に現れる。それ故、歴代の頭首達は、皆“その彼女”は苦手である。


 ぽつり、、、っと。

「―――父にでも行ってもらうか・・・」

 儀紹は最後にそう呟くのだった。



 そして、儀紹の自室の上座には、立派な、長さ四尺にも及ぼうかというほどの、立派な抜身の太刀と、羽黒色の鞘が、合わせて二振り静かに祀られてある。その太刀は、照明の光を反射し、淡く、上座の後ろで妖しい光を放ち鎮座する。その反りは刀身の前部が反られている前反りの名刀にして、この日之太刀の銘は『霧雨』というのだ。



数日後。


 修孝は、駅前の有名な黒色の塗装が映える氣導車のモニュメント前へと急ぐ。そこは彼女との待ち合わせ場所で、彼女とは修孝の許嫁大鳳美夜妃のことである。

「―――」

 タタタタ、、、てくてくてく、っと修孝の足取りは急ぐものから徐々に、足取りを普通の歩幅へと戻し、そこにいる彼女のもとへと歩んでいく。


 修孝の目的の人物は、修孝の視線の先に、凛とした雰囲気で佇み、

「―――、っ♪」

 彼女は、自身のところへやって来る修孝に気づいて、その凛とした雰囲気は和らぐ。美夜妃は、約束の人物の登場に、その顔に、ぱぁっ、と満開のひまわりのような花を咲かせた。



「すまん、待たせたな、美夜妃」

 修孝の姿は、日下国首府である日下府の中心街に乗り入れる路面氣車のターミナル駅にあった。学校終わりの、直接この駅に急ぎやってきたので、爪入りの黒い学生服姿の修孝であった。修孝が急ぎこの駅の有名な待ち合わせ場所へとやってきたのはわけがあった。

 修孝のその言葉に美夜妃は、


「いいえ、修孝様っ・・・!! 美夜妃もさっき着いたばかりですのでっ♪」

 明らかな美夜妃のウソではあるが、修孝は特段批難することはない。

「そうか、すまん俺は、、、すこし遅れたかもしれん」

 修孝は、学生服の内ポケットに仕舞っているある銀色の懐中時計をチラリ、待ち合わせ時間より二分ほど遅れていた。

 美夜妃も、特にもうこの待ち合わせ時間に触れる話題は終いと、ばかりに、

「苦節三年。この大鳳美夜妃―――、初めてっ修孝様に、逢引を誘っていただきましたっ♪きゃーっ♡」

 修孝。。。赤面。

「。。。///」


「修孝様っ♪」

「・・・、なんだ、美夜妃、、、」

「ただ、呼んでみただけですっ修孝様♪」

 にこり、っと、破顔一笑。美夜妃はかわいく顔をほころばせた。

「そうか・・・」

 修孝と美夜妃。学校終わりの二月の金曜日の午後。二人は、自分達と同じような者達がちらほらと行き交う、夕暮れの日下府の繁華街へと繰り出したのだった。



「修孝様っこの羽織なんてどうですかっ?」

 嬉々とした美夜妃は、売り物の服の両肩を自身の身体の前で、両手を摘まむようにして、修孝に見せる。

 その服は長袖の上から羽織る和服であり、色はえんじ色。だが、その陣羽織には、和装の衣服にはあまりないような、派手派手な文字のデザインが刺繍され、その背中には、『日下魂、万武不動』という白い刺繍文字が。


 その刺繍文字を一目見て、

「、、、」

 沈黙の修孝。

 その顔色は、怒って黙っているのではなく、なにを、どのような言葉を美夜妃にかければいいのか分からない、のような沈黙である。


 修孝は、美夜妃を気遣い彼女をどうやったら円満に、この上着である陣羽織を自身に着させようとするその気持ちを心変わりさせるか腐心する。

「・・・、、、いや美夜妃よ。この羽織は、、、俺には少し派手ではないだろうか・・・?」

「お気に召しませんか?修孝様」

「あ、あぁうむ、、、美夜妃。俺には、そのそれ・・・『日下魂、万武不動』は、似合わない言葉だと思うが、、、」

「そうですか?修孝様。 美夜妃は、修孝様の剣士としての生き様にぴったりと嵌ったような言葉だと思うのですが」



 ・・・、美夜妃の返しに修孝は必死に、そのクールな表情には、その焦りながら考える心の動きを露も漏らさず―――、

 そして、“お前のその選ぶセンスを一からやり直してこい”などと美夜妃に、はっきりと言って、彼女の心を傷つけてしまっては元も子もない、と必死に考えを巡らす。

 その間、数秒。ほとんど間をおかず修孝は口を開く。


 ぴりっ、っとしたイケメンで、その容貌の真面目な表情を作る修孝。

「・・・、美夜妃よ」

 そして、(もっと)もらしく聞こえる“理由”を思いついた修孝は、彼女の名を呼んだ。

「はい、修孝様」


「日下家は剣士の家系にして、以前は国主としてこの日下国を執り仕切ってきた。そのような日下家たる者は、このような陣羽織を着て目立ってはいけないのだ、美夜妃よ―――、つまりその、なんだ、俺達上に立つ日下家の人間は先ず一番に目立とうとせず、まず臣民のために陰で働き、そして、えぇと、なんだ、―――そう、俺の祖父行晃は、まず臣民に楽をさせ、その上で俺達日下家の人間は、楽しむように、と言っていた」


 完璧に納得したように美夜妃。感心にそのくりっとした目を大きくさせて修孝を見詰める。

「ほえ~、、、さすがです修孝様、お考えが深いのですね」


 あせあせっ、、、と、一方で修孝様は、

「まぁな、、、美夜妃。だから俺に似合う陣羽織とは、そうだな、、、俺に似合っているのは落ち着いた雰囲気の色合いの無地のものだと思う」

「なるほどっ。解りました、修孝様♪」


 ほっ、っと内心で安堵の修孝。だが、一方で、自分で考えた尤もらしい言い訳が、美夜妃にこうもあっさりと通じることに、焦りと、若干の罪悪感を覚えたのだった。

「それよりもだ、美夜妃」

「はい、修孝様」

「せっかくこうして二人して街に出てきたのだ、いろいろな店をひやかしながら楽しもうな・・・っ」

 ふふっ、っと、日下修孝は淡い笑みを美夜妃に向けた。

「はいっ♪修孝様っ」


 そうして、修孝と美夜妃は、二人仲良くして、、、いや、まだ修孝は、美夜妃とは手を繋ぐことは恥ずかしいとは、思いつつも、

「・・・、っ、、、」

 そわそわと、修孝は右手をふらふらと、出したり引込めたり。。。

 そんな様子の修孝を見て、美夜妃は。

「ふふっ♪修孝様っ行きましょう♪」

 ぎゅっ、

「っ、っ/// お、おう美夜妃・・・」

 っと、美夜妃は、修孝の、そのそわそわと、させる彼の手を取り、二人の姿は夕刻の雑踏の街中へと消えていったのだった―――。

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