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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十一ノ巻
376/460

第三百七十六話 予知夢の能力者

 美夜妃(みやび)と野添碓水は―――、

「、っ、」

「! 、、、・・・、」

「・・・―――」

「はい、野添さま」

 ―――、目配せで互いの発言を譲り合い―――、


第三百七十六話 予知夢の能力者


 ―――、最後に野添碓水から先行を譲られた美夜妃が先に口を開く。

「修孝様。美夜妃は、きっとそれは、修孝様が毎夜見る夢は、何か夢ののお告げかもしれない、と、そう思います。これより先、さらに修孝様が、その夢を見続けることができれば、もっとはっきりとしたことが見えてくるかと、美夜妃は」


 ふむ、、、っと修孝は、美夜妃の話を聞き、考え込む仕草で腕を組んだ。

「夢を見続けるか・・・美夜妃、、、。俺が毎夜見るこの悪夢を見続けることができれば、か」

 じぃ、、、っと、修孝が許嫁である美夜妃を見詰め―――、

「あ、いえ、修孝様・・・っ、美夜妃は、修孝様に悪夢を見続けろなど、そのような意味で言ったわけでは―――」


 だが、決して修孝は、美夜妃を睨んだわけではない。この日下修孝という男、生来より目つきが鋭いのである。


 一方で美夜妃は、自分の発言で修孝に不快な思いをさせ、彼の不興を買ったと思ったのである。

「解っている、美夜妃。すまん」

「あ、いえそんな修孝様・・・っ」

 あせあせっ。ホッと美夜妃は胸を撫で下ろした。修孝を好いている自分は、自分の発言が修孝の不興を買ったわけではない、と、ひとまず安堵した。


「であるとすれば、俺が毎夜見る夢は、、、やはり―――。ふむ・・・」

 修孝は再び考える風になって、その腕を解き、顎に左手を当てた。


 考え込む修孝を見て、野添碓水は、修孝のその心理状態から、本人に来たる作用を気にしていた。

「修孝殿。・・・夢見など大して当てにはなりません。あまり気にされないほうがいいのでは?気にし過ぎて、それが心に巣食い、足を掬われるやもしれませぬ。病は気から、とも言いますぞ」

「あぁ、分かっている碓水」

「なればこそ修孝殿―――、」



「・・・あ、、、っ」

 ぽつり、っと美夜妃は呟いた。



「「―――」」

 ちいさく、あっ、っと呟いた、美夜妃に、二人の視線が集まる。

 二人とは、もちろん修孝と野添碓水のものである。その二人四つの目、二つの視線である。



 美夜妃のそれは、心の底に湧いた“嬉しさ”であろうか。それとも、美夜妃は、自身の心の中に湧きあがった“確信に似たもの”を修孝へ伝えられるという“喜び”であろうか。


 自身の発言がきっと、許婚の日下修孝という彼の役に立つかもしれない、という確固たる自信があったのかもしれない、美夜妃には。


 にこり、っと、美夜妃は頬を綻ばせた。

「修孝様っ・・・♪」

 美夜妃のその“嬉々とした”自信たっぷりの顔。


 その表情を見て、修孝は、また美夜妃が『俺自身にとって、すこし面倒くさいが、美夜妃のやつは、俺の為にまたかわゆいことを思いついたんだろう』という心の境地に至った。

 だが、修孝は、その自身の美夜妃への想いを、その表情にはおくびにも出さないのだ。これはこれで、修孝も美夜妃への想いから彼女の“かわゆい思いつき”に付き合うことを、気に入っているのだ。


 修孝は、上記の想いを、心の中で密かに認めてその口を開く。

「・・・、どうした美夜妃?」

「解りましたっ修孝様っ♪美夜妃は思い至ったのですっ!!」

 エッヘンっ、っと、美夜妃は。


 その道場の固い木の床の上に敷いた座布団の上に正座した彼女が、自信満々にその背筋を、胸を反らす。


 修孝は、道着姿の美夜妃の、―――、、、っと、自身の視線が、許嫁である彼女のその反らされた胸元に吸い寄せられる、いや、思わず見てしまうのを堪え―――、

「―――、、、なにか得心がいったのか?美夜妃?」

 ―――、何ごともないかのようなその冷静な表情で修孝は、美夜妃にその真意を訊ねた。


「予知夢ですっ修孝様っ♪」

 予知夢。それは、就寝時に見る夢が正夢であり、結果、その夢見で未来を予知できる能力のことである。


 修孝は、美夜妃の予知夢という言葉を、頭の中で想像。

 反芻し、自身がここのところずっと見続けている夢と符号していることを。

「予知夢―――」

 修孝はぽつり、っと呟いた。

「はいっ修孝様♪ 美夜妃は以前聞いたことがあるのですっ。『予知夢』などの夢の能力者の異能は、その最終段階では、夢を操る力に昇華され、任意で『予知夢』を視ることでき、さらには、敵さんには『悪夢』をも見せることができるそうですっ♪」


「―――」

 修孝は美夜妃のその話を聞き、神妙な顔となり、自身の視線を道場の床に落とした。



 考え込む修孝の一方で、ポンっ、っと、傍で美夜妃の話を聞いていた野添碓水は、左手の手の平に右手をポンっ、っと相槌を打った。

「なるほどっ大鳳殿の言うことが、的を射ているとすれば、修孝殿の異能は『予知夢』ということになりますなっ!!」

「はいっ野添さま」


「俺の異能が『予知夢』・・・? 夢の能力者、だと?」

 修孝は落としていた視線を戻し、美夜妃と野添碓水と交互に視線を遣った。

「あくまで仮定の話ですが、修孝殿」

「ふ・・・む、、、」

 修孝自身、夢の能力者と言われても、これまでの、此度の日下府が火の海と化する夢を見るまでは、それ以前では、はっきりと、朝を起きてもくっきりと憶えているような夢も見たことがなかった。


 それにこれまでは、正夢らしき夢は一度も見たことがなかったのだ。だから修孝は、親しい存在である美夜妃や野添碓水に、“お前は夢の能力者だ”、と言われても、いまいち腑に落ちなかった。


「腑に落ちませんかな?修孝殿」

「あぁ、碓水。俺は今までそんなはっきりとした、、、。そうだな、その前日に他愛ない夢を見て、後から、それとなく判るような、あぁコレは夢のお告げだったのか、などと思うような体験すら俺はしたことがない」

「なるほど、、、それで修孝殿は腑に落ちなかったのですな」

「そうだ、碓水」

 修孝、今の段階では自身の異能は目覚めてはいない。


 日下国の者として、さらに日下修孝という人間は、日下国の国主の家系。さらにその直系の血統である。

 日下家の人間は、普通、物心着いた頃から自身の異能を意識し、発現と発揮ができるというのに、修孝は未だに『未能』であった。

 日下家一族の中には、修孝のことを『不能』と公言し、次期当主資格なしという者さえいるのだ。

 そして、その『不能』と公言する日下一族の者達は、言うならば“反修孝派”と言うことができるかもしれない。ちなみに、“反修孝派”の彼彼女らが次代の日下宗家頭首として推す人物は、修孝の従兄弟の日下正儀(まさき)という人物である。



「あっ、修孝様っ♪私の『力』をお使いになれば、修孝様が“夢見の能力者”かどうか、はっきりと判明するかもですっ♪」

「ふむ・・・。だが、美夜妃、俺はどうも、納得がいかん―――、」

 修孝は口ではそういうものの、もし自身の異能が『予知夢』だった場合―――、美夜妃の『異能』を使って、見る夢は一体どのような光景か―――。


 一体どのような日下の街の風景を見せられてしまうのか―――。


 大火よって燃えゆく日下府の街。

 陥ちゆくその見知った光景、その街。

 火事により焼け死んでいる日下府の一般市民。

 黒焦げになった家々。


 そして、ひょっとしたら予知夢で視るかもしれない、両親の死の姿。そして、許嫁である美夜妃の未来―――。


 言葉を濁しているが、本当は、今の学生の修孝には、夢に見る未来視、それが怖かったのだ。

「―――、ただの徒労に。お前の貴重な『力』を、無駄遣いに―――」


 しかし―――、

 ぶんぶん、っと美夜妃は、修孝の発言中にその首を左右に、横に振る。その行動は、修孝の言葉を遮るかのように、だ。

「いいえ、無駄遣いじゃありません、修孝様っ。もし修孝様の異能が『予知夢』ならば、美夜妃の『力』で修孝様の『そのお力』を増幅できます♪ 増幅できるかできないか、その結果で、修孝様の異能が『夢』であるかどうかの判別ができる、と、こう美夜妃は思いましたっ♪」

 美夜妃は嬉しそうに、自身にこう言ってくれる。


 修孝は常々、自身で、美夜妃は自分にとっては過ぎたる嫁、、、いや自身にはもったいないほどの許嫁であると思っている。

「そう、だな。だが、、、俺はどうも、、、。自分の事だが、どうも・・・」

 自身の異能に関して、しっくりとしない、もしくは納得がいかない修孝だ。あと、自身の『予知夢』で未来を視てしまうという恐怖―――。

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