第三百七十一話 『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第三十一ノ巻-日下国記」「終ノ巻」』
(っつ。霧が晴れるまで待てねぇぞ。早く、雷基理を取りに行って、アネモネを助けて、それからアイナ達に加勢しないといけないのに!! もちろんサーニャと親父さんとのことも気になるし・・・!!)
目標は、雷基理神殿への、この俺の目測は見誤っていないはず!! 濃霧が出ても、このまま、尾根伝いにこの参道を歩いて神殿に向かってしまおう。
「行こう―――」
っと、俺はこの不快な、ジメジメと肌に貼り付くような濃霧の中、脚を踏み出したんだ―――。
第三百七十一話 『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第三十一ノ巻-日下国記」「終ノ巻」』
突如発生した霧。俺の征く手を遮るその由々しい事態に、
「っつ」
俺は軽く舌打ちをした。
ガスのようなその不快な霧の発生は、俺が先ほどサーニャとグランディフェルから視線を切り、再び目標を雷基理の神殿に定めて、足を一歩出したときのことだった。
ここが、この天雷山が高山だから霧が発生しやすいことは仕方がないことかもしれないけれど―――、
「―――っ!?」
―――、霧が晴れていくっ!?
そして、濃霧にすっぽりと覆われたと思ったら、すぐに晴れていき―――、
「あれ?周りが・・・?」
ふぅ―――、っと、まるで風によって霧が払われるかのように、白い霧はすっかりとなくなり、すっきりと晴れていく。
霧が晴れた、その光景が、
・・・っ
(っ、あれ? なんか、おかしくないか?この景色)
すっかりと、濃霧が晴れたんだけど・・・? でも、おかしいぞ?さすがにこの光景は、さっきまでは、ずっと天雷山の神雷の嶽の、その尖った礫だけが続くように広がる過酷な大地だったのに?
「―――っつ」
それなのにどうして俺は―――っつ
「なんで、こんな街中にいるんだ!?」
俺にとって、その街は普通の“下町のような光景”だ。日本の、都会の、都心の一角にあるような街の、そのややレトロ感を醸し出すような下町のような光景だ。
ここは、天雷山のその最高峰の荒涼とした大地のはずなのに―――、足元は赤煉瓦舗装に、頭上はアーチ状になった空の日の光の明るさが透けるアーケード。
左右には、多くの品を陳列した商店の連なり。ずっと先まで続いている。
なんで俺は、こんな下町にいるんだ?
“がやがや、がやがや”
“どやどや、どやどや”
そして、俺の側を、仲が良さそうな男女。老若男女。着物姿の老夫婦。一人歩きの単身者の男の人。
自宅からすぐ近くなのだろう割烹着姿で、買い物帰りと思しき中年の女性。子どもの手を引いた若い母親。
そして、暗色の学生服姿の若い男女のカップル。きゃっきゃっ、と走りゆく鞄を背負った小学生ぐらいの子ども達。
「ちょうど学校帰りの時間か、、、」
そういえば、俺も―――、、、ハッ!!・・・と。
俺はハッと我に返るのように。
く、日下修孝は・・・っつ。
いや、そんな剣呑な気配も、殺気も感じない。彼奴日下修孝の姿はどこにもない。いきなり斬りかかってくることはなさそうだ。
そして、もっとよく周りを見渡せば、ここはけっこう人通りの多い商店街のようだ。
「・・・、・・・っつ」
今のこの、俺が観ているこの光景は“人が暮らして生きている”ものだ。光の向こう。アーチ状に空いた出口。
視線を足元に、前へ、赤煉瓦の畳の道。頭上は、アーチ状のアーケード屋根。俺がいる場所は、誰もが知っている普通の日本の下町のちょっとレトロな商店街。
そのアーチ状の商店街への出入り口の向こうには、石畳舗装の大きな真っ直ぐの大通りを思わせる車道が見える。
大きな車道を白や黒の様々な自動車は、レトロなタイヤの細い乗用車や三輪トラック、
(っ、昭和の初め?)
果ては馬車まで走っている。
(いや、もっと前・・・)
「っつ」
俺は再び視線を手近に戻せば、
“がやがや、がやがや”
“どやどや、どやどや”
違う、ここは日本。いや、日之国か?でも、普通の俺の生まれ故郷の日本の日常の街の光景よりも、この街を行き交う人々や車を観れば、“やや昔”の、戦前?いやもう少し前のような光景の気がする。
「・・・っ」
俺は、天雷山に、その白亜の神殿に、いたはずなのに、なぜだ?なんでこんなところに俺はいる?
「ここは、どこ・・・だ、、、?」
活気づくこの街の喧騒は、天雷山のはずが、ない。
それに何人かの、学生服姿の人達も見える。
「この近くに学校でも・・・―――、」
―――、あるのか?
(ここの学生に訊いてみるか?ここがどこなのかを)
学生なら、俺も同じだし―――、、、と、考えて思い出した。俺は、もう学生じゃないのか。でも、年齢は彼彼女らに近いはずだ。
学校帰りだろうか、ちょうどのいいタイミングで。俺が立っているところの先を、暗色系の制服姿の、俺と変わらない年恰好の、学生鞄を背負った学生の一団が、楽しそうに歩いていく。
彼らはああだこうだ、と愉しく話し合いながら、とりとめのない話をしているのだろうか?
その黒い学生服の男子生徒二人は歩いていき、俺の佇む場所から離れていく。
「―――っ」
二人の男子学生を追いかけて、ここがどこなのかを訊いてみるか?
俺が考えてもたもたして、立ち止まっているその間に、
タタタタタッ、っと。
そのとき軽快な駆け足の、その足音が俺の耳に聴こえてきた。
「!!」
ふっ、っと、その駆ける足取り軽い足音に気づいて俺は、視線をそちらに向けた。見れば、ロングスカート姿の、女子学生が、ちょうどこちらに向かって駆けてくるではないか。
その少女は、ここに立つ俺に近づいてくるような動きになるから、やっぱり、前を歩く男子学生を追いかけていくより、俺は、俺に近づいてくるこの子のほうに訊いてみるか。
(よし、声を掛けてみよう。ここがどこなのかを)
俺は、その女の子が俺の傍を通るちょうどのタイミングで、
「あの―――。、、、」
声をかけてみた。 だが―――、
―――、あれ?無視ですか?
「―――」
俺に、すぐ脇に立つ俺を、呼びかけたのに少女は視線すら俺に合わすこともなく、タタタタタッ、っと元気よく駆けてきて俺を追い越すと、
俺もその少女に視線を泳がせるように、視線を合わせ、視線と身体の位置を、女子生徒が通過したタイミングで、俺はくるりと身体を半回転させれば、
その少女は学生服姿で、髪の毛の長さはセミロングで、髪の毛の色は茶髪だ。髪の毛を茶色に染めているというよりかは、俺の見立てでは、たぶん色素を抜いているのか、もしくは生まれつき、髪の毛が烏の濡れ羽色ではなく、髪の色が薄いのだろう。
その女の子の顔つきや目鼻立ちは整ってはいる。でも、申し訳ない―――、
(―――、アイナのほうが美人さんだな)
いやううん、俺の婚約者補正がアイナに掛かっているだけかも、と、俺はこの駆けてきた少女を一目見て、第一印象をそう思った。
駆けていく少女の先には、さっきの二人して歩いていく男子生徒。
二人は黒い学生服は爪入りで、その彼らの後ろ姿。背格好は、二人とも中肉中背。でも、俺から見て彼らは背中になるのだが、その左のほうの男子のほうが、背が高い。たぶん俺よりも背は高いだろう。身長は百八十センチを超えているかもしれない
「・・・三人は、ツレ同士か?」
先の男子生徒二人と、駆けてきたこの少女は。
「もぉーっ!!待ってってばっ、二人ともっ!!」
追いかけてきた少女が、先を歩く二人に叫べば、
先を歩く男子生徒のその後ろ姿二人。肩に、その黒い学生鞄を掛け持った男子生徒が、俺から見て右の男子だ。
左の背が高いほうの男子生徒は、右手にその学生鞄を、普通に、手にぶら下げて持っている。
右のほうの背が低いほうの、俺とたぶん背丈が変わらないほうの右の男子生徒が、振り返り、少女も追いつき、
「遅ぇーぞ颯希。拾い食いか?颯希」
「べぇーっ、悠じゃあるまいしっ」
“わいわい”
“きゃいきゃい”―――、と。
二人の男女は、楽しそうにじゃれ合うような会話を楽しんで。
「・・・」
そういえば、俺にもあったなぁ・・・。ほんの少し前。俺がこの惑星イニーフィネ五世界に転移してくる前は、しょっちゅう。
今頃あいつら、、、敦司や美咲、天音、己理、、、そして、進路に悩んでいた真のやつは、今何をして、どうなったんだろう。
俺の存在は? 俺は突如神隠しのように失踪したような人になっているのかな・・・。
・・・あと、結城魁斗のやつは、、、俺が転送したあいつも。
意識を前に戻し、俺は
「、、、」
右に少女のほうに振り向いている右の男子生徒、悠というやつのその横顔が俺に見える。なぜなら、すぐ脇に追いついた先ほどの女の子、、、たぶんその名前は颯希というんだろう、その女子生徒と話をしているから。
「いや、ほんとの話。お前なら力ですぐ俺達に追いつけるだろうって」
「私の“力”はそんなに安くないんですー、べぇーっ!!」
少女颯希は、だが楽しそうに、右の背の低いほうの男子悠に向かって、あっかんべー。
やがて、歩いていくその三人の姿は遠くなり、小さくなって、俺は彼ら三人の姿を見失ってしまったんだ―――。