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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
370/460

第三百七十話 駆けろッ白亜の雷基理神殿へ。俺が、きみを、皇位に就けてやる―――

 たとえ、苦労の末に日下修孝を倒せることができたとしても、その代償には多くの時間と、たくさんの氣を消費しなければならないはずだ。

(っ、それじゃダメだ・・・、遅い)

 魔餓尽基に呑まれたアネモネを救い出し、黯黒魔女ロベリアと不死身のラルグスと戦っているアイナとアターシャにも加勢したい。その次だ、お前は日下修孝。

(だから、俺にはお前と悠長に戦っている時間なんてねぇんだよっ日下修孝!!)

 どうやったら上手く、俺は日下修孝を出し抜けるかを考えていた!!


 日下修孝が、その『霧雨』を媒介にして発生・行使させたのが、この目の前の深い霧『虚霧ノ郷』というのであれば、羽坂さんから聞いた『妖刀』の類の話から詮索するに、想像するに、


 妖刀『霧雨』の所有者である日下修孝は、この発生させた妖異現象を行使し続けたければ、その妖異現象たる『虚霧ノ郷』の場所から“動くことができない”はずだ。


 俺は“そう”確信したんだ。


第三百七十話 駆けろッ白亜の雷基理神殿へ。俺が、きみを、皇位に就けてやる―――


 この場に『虚霧ノ郷』を張るために、日下修孝は。

 この場に『虚霧ノ郷』を張っている、日下修孝は。

(この結場の結界『虚霧ノ郷』から外へは一歩も動けないはずだ、日下修孝は)

 サっ、、、っと、音も立てずに、俺は左足を半歩後ろへ。


 しかも、日下修孝が、己の扱う妖刀『霧雨』に、その氣を吸い尽されてくれたら俺にとっても御の字だな。

 奈留が言うには、『妖刀』の類を扱うのは、行使者の魔女の魔力を宿している『魔法剣』とは違い、妖刀所有者は独りで膨大な氣を必要とするそうだし。



「その木偶人形、切刻み斬り崩してやろう、小剱。『日下流霧雨抜刀術』秘刀―――」



 今だッツ

「ッツ」

 ダッツ―――、っと俺は、踵を返して『大地の剱魔兵A』を後目に振り返り。



「―――、『霧雨水燕、斬次遥』」



 日下修孝の必殺技だ!!さっさと退こう。

「―――ッツ」

 脱兎の如く俺は駆け出した。


 日下修孝を貼り付けさせるための囮とした『大地の剱魔兵B』の脇を通り抜けて、神雷の台地のその嶽の、その尖った礫と岩だらけの荒野を、両脚で勢い踏み鳴らし、駆ける。

(俺の代わりを頼んだぞッ『大地の剱魔兵』!!)

 ダダダダッ、っと駆け抜ける。


 ちらり、と視界に入る白銀の鎧姿の二名。

(サンドレッタっ、グランディフェルっ・・・!!)

「っつ!!」

 参道で、互いの聖剣を抜き合うグランディフェルとサンドレッタ親子の姿は目に入るが、俺は神雷の聖なる神殿を目指し、後ろを振り返らず一目散に、わき目も振らず一目散に、神殿へと至る参道を駆け―――、


 サーニャとグランディフェル、、、二人で、何か話をしているようだが、

 ぐらっ、っと

「おッ、と!!」

 っと、危ねっ!! 余所見すんなっ


 俺は、荒野の石に足を取られ、体勢を崩す。こんな角だらけの石ばかり、蹴躓いたら膝や足を切る大怪我に!! 気を付けないとっ!!


 俺はそんなサーニャとグランディフェルから視線を切り、

 頼んだぞ、サーニャもっなんとか親父さんを説得してくれよ・・・!!


 グランディフェル、サーニャ父娘から視線を切って、

「―――、」

 俺は、脚を止めずに、後ろも振り返らずに、雷基理の神殿を目指し―――、

 その過酷な環境ゆえ、樹木の生えていない荒野を慎重に小走りで、さっきは思い切り走ってこけそうになったしな。


 尾根に沿って僅かに踏み跡の着いた雷基理の神殿へと続く参道。

(街中の道?いや、全然違うな。高い山特有の荒野の尾根道だな)

 道幅は決して広くはなく、この天雷の嶽の雷基理の神殿の参道の道幅は、肩幅程度しかなく、もし足を滑らせたなら、ずりずりの山腹を下まで滑落してしまう!!

 そうなれば、自転車やバイクに乗った状態で転倒、生身で道路を滑走したときと同じような“ずる剥け”になってしまう。


 あと少し、、、目の前には切り立った天雷山の山頂が、もう目と鼻の先―――、間近になって大きく見えてくる。

 その頂の馬鹿でかい石かコンクリートのような外観の白亜の建物も。間近で見れば、所々ではあるものの、外壁の化粧石か?そのようなきらきらした塗装が剥がれ落ち、その柱も何本か罅の入ったものや、床に倒れている柱も視得る。


(くそっ、)

 こんなにも息が切れるなんてっ。それとも空気が薄いのか?天雷の嶽の標高はどれくらいあるんだろう。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ・・・っ」

 息が切れる。早く、早く、既に全力疾走ではなく、一歩一歩着実に確実に脚を出して、山を登っていく。


「あと、、、もう、ちょっと・・・!!」

 この尾根を、俺は足をしっかりと地に付けてひた歩く、足を前に出し、ざっ、ざっ、っと、両の脚で登っていく。


 この聖なる岩山め。俺は、眼を眇め、その白亜の威容たるやパルテノン神殿よりも、この女神フィーネの雷基理の神殿は大きいかもしれない。

(かくいう俺だって、生で、現地行ってパルテノン神殿を見たことはないけどな)


 脚を一歩、一足跳びに―――、この上り坂っ。

「くそっ、こんな山の上なんかに、建てやがって・・・、ったく」

(ったく、古代の古き大イニーフィネの人々は、どうやってこんな空気の薄い高山に、こんなにも大きな白亜の神殿を建てたんだ?今だけは恨むぞ)

 思わず俺は悪態を吐いてしまうほどに、登りの傾斜はきつく。しかも、荒地の、足元は悪く尖った無骨な形状の石だらけ。

 違う。

「!!」

 あ、そうか・・・。


 俺が今まで登ってきた天雷山。そうだ、この神雷の台地は、、、世界統一化現象時代に、地殻変動で隆起したんだっけ? そういえば、あの台地。試す者に乗って俺達は、ショートカットで、あの断崖絶壁を飛んで行ったよな。


 だから、この雷基理の神殿が建てられた古代には、ここが雷都っていう聖なる都で。

(元々ここ、天雷山は、神雷の嶽は平地で。神殿は平地だった雷都に建てられたんだ。この白亜の神殿・・・)

 俺は征く手に、その最終地に建つ白亜の神殿を、見上げた。


 もっとも、俺は世界史の資料集の写真でしか、ギリシアのパルテノン神殿を見たことはないんだけどな。


 よしっ、っと俺は、征く先へと仰望していた視線を手元に戻して改めて、ザリっ、っと、荒野の参道を踏み締めるように、一歩脚を出した。

「行くぞ・・・!!」

 早く、神殿から『雷基理』を!!女神フィーネから雷基理を貰う。


(そうだ、『雷基理』は、―――)

 ふと、俺は物思い。

「、、、」

 雷基理。祖父ちゃんの庵に来た野添さん。焚火を囲んで、その名を野添さんから聞いたとき、俺はその霊刀を一目見たいと思った。

 アイナから聞いて、俺は『雷基理』の正体を知り、できれば、その神刀『雷基理』をこの手に取って、俺はそれを、―――。



 あのチェスター皇子でさえ、『封殺剣』を所有していたんだ。もう既に、バルディアのアルスランに討ち取られ、チェスターは、この世にはいないんだが。

「―――・・・」

 皇位継承権第一位チェスター=イニーフィネ第二皇子。


 皇権の象徴たる『封殺剣』は、七基の超兵器の一基『封殺基』の起動鍵。彼奴は死んだから、皇位継承権が一つ繰り上がる。

 つまり、アイナは第三位から第二位に。

(俺は、アイナに“皇位”をプレゼントしてやりたい)

 そして、二つの課題だ、アイナが皇位を継ぐために必要な事柄は。


 一つ目は、イニーフィネ皇国の血統。


(それはすでに問題ないな、アイナは皇女だ)

 確か前に俺が、宮廷内の“アイナを推す人”に聞いたところによると、


 二つ目は、七基の超兵器の“起動鍵”の所有。


 七基の超兵器の『起動鍵』が、同時に『皇権の象徴』ってか・・・。

「・・・っ、」

 つまり、俺が手に取った七基の超兵器の一基『雷基』の起動鍵たる『雷基理』を、アイナにあげれば、皇位は成る。

 といっても、皇位継承権第二位だが、でも―――、

「―――」

(俺が、アイナきみを、皇位に就けてやる―――)


 さーっ、っと。そのときだ。目前に、周りに、俺の周りを、白いガスような気体が取り囲む。

「っ、?」

(霧?)

 白い。霞のような煙霧が。

(高山だからか?)

 梅雨時でも、標高の高い場所には普通に出るような霧だ。

「ちょっ、ちょっと待て―――っ」

 あれよあれよという間に、俺の視界は深い濃霧に鎖される。


 すっかりと俺の視界を奪い征く手を覆い、目の前の白亜の神殿を白く隠すほどの濃霧だ。俺は濃霧に包まれてしまったんだ。

「くそ、っつ」

 俺は軽く舌打ち。

 こんなときに霧なんて出なくてもいいのにっつ。ツイてないな、俺。白亜の雷基理神殿が、霧に覆われて白く塗り潰されるかのように、隠れてしまう。俺の目標が、濃霧に隠れてしまったんだ。


(っつ。霧が晴れるまで待てねぇぞ。早く、雷基理を取りに行って、アネモネを助けて、それからアイナ達に加勢しないといけないのに!! もちろんサーニャと親父さんとのことも気になるし・・・!!)

 目標は、雷基理神殿への、この俺の目測は見誤っていないはず!! 濃霧が出ても、このまま、尾根伝いにこの参道を歩いて神殿に向かってしまおう。

「行こう―――」

 っと、俺はこの不快な、ジメジメと肌に貼り付くような濃霧の中、脚を踏み出したんだ―――。


『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第三十ノ巻」』―――完。

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