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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第四ノ巻
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第三十七話 彼女の矜持

第三十七話 彼女の矜持


「―――ッ」

「っ!!」

 うおっこえぇえっ。アターシャの目つきめちゃくちゃこわいんですが、なにか。その目つきだけで飛ぶ鳥がぼとぼとと落ちてきそう、もしくは川の魚がショックでぷかぁって白いお腹見せて浮かんできそう・・・。あ、えっとアターシャが(にら)んでいるのは俺じゃないよ?グランディフェルだよ。

 アイナの『私がクロノスとの一対一の勝負を続けられるように、周囲を全力で支援してください』の意味は、あっちでそわそわしてる魁斗か、このグランディフェルという騎士を念頭に置いたものだったと思う。クロノスと一対一の勝負をしている間に彼ら魁斗やグランディフェルの邪魔が入らないようにさ。俺の見た感じじゃ、グランディフェルはどっしりと構えていてクロノスには加勢しないと思う。むしろ俺達がアイナに加勢しないように見張っているように見えるんだよなぁ・・・。

 一方の魁斗はクロノスに参戦しそうかも・・・、ううん、今は手近のグランディフェルのことだ。

「―――ッ」

 グランディフェル・・・こいつ()るつもりか・・・?俺達と。まずいな、きっとグランディフェルもかなりの実力者だぞ?

 俺とアターシャがグランディフェルに取り掛かったとしたら、魁斗の奴の邪魔が入るよ、絶対―――・・・。

 あいつ魁斗は、―――生ける屍達に対して手榴弾や火炎放射器を使っていたよな、っつくそ。たぶんいろんな暗器のようなものをまだ隠し持っているに違いないよなぁ。

 俺がちらりとクロノスとグランディフェルの後ろにいる魁斗に視線を向ければ、魁斗の奴は気が気ではないようなそわそわとした表情で、アイナとクロノスを見つめていた。アイナをその異能で調教して言うことを聞かすとのたまった魁斗―――、アターシャは殺すと言った魁斗―――、自分達の目的のためならば、あの街の虐殺を『大事の前の小事』と言い切った魁斗―――。あいつ魁斗は俺とアターシャがグランディフェルと戦っているときに絶対に手を出すに決まってる!! 自分の目的のためならあいつは手段を選ばない、そんな奴だってことが、再会して解ったんだ、俺は!!

「っつ」

 そして俺がそんな魁斗と視線が合ったとき、魁斗の奴はバツが悪そうな顔になった。お前達のやり方が気に食わなかった俺はお前達を拒否しただけでさ。そんなバツが悪そうな顔になっても、そんなの知らねぇよッ。―――俺はただお前達のやり方も生き方も気に食わねぇだけだ。

 ッツ!!

「ッ!!」

 だからかな、急によそよそしくなった魁斗と視線が合って、何か確固たる理由は解らないんだけど、魁斗のそういうところにイラッとした俺は、反射的に睨んでしまった。

「―――」

「―――っつ」

 でも、俺の厳しい視線を受けた魁斗が弱々しい視線になることはなかった。俺が魁斗を直接説得してクロノスに退いてもらえるか、どうか。

 それは、その魁斗の目つきはきっと自分達が『正義』で『正しい』と思っているからに違いない。俺は一度舌打ちをして鞘付木刀を片手に一歩進み出たところで―――

「貴公―――」

 そこへ、グランディフェルがその白銀の鎧をガチャリとさせてアターシャから俺へと向き直ったんだ。一歩、二歩・・・と。

 グランディフェルこいつっほんとに俺達と戦るつもりか?

「コツルギ殿も」

「なんだよ、グランディフェル―――ッ!!」

 グランディフェルはその鎧に身を包んだ大きな身体を完全に俺へと向けて、魁斗のもとへと向かおうとしていた俺の眼の前に立ちはだかったんだ。

「ツキヤマ殿も、コツルギ殿も、よく観るのだ―――」

 え?戦わないの、そういうことじゃない?グランディフェル? ほっ。ならちょっと安心。それでなにを見ろって?

「ん?」

「―――アイナ様とクロノスの戦いを」

 アイナとクロノスの戦い、だと?

「ッ」

 ギンッキンッガッという陳腐(ちんぷ)な擬音じゃ表し切れない剣戟の響き―――今もアイナはクロノスと文字通りの真剣勝負をしている。そんなさなかに、そんな悠長な。


「・・・」

「―――」

 アイナとクロノスは互いに無言で―――あれ?アイナ? 彼女の様子が変だな?

「??」

 俺はわけも解らず、目をしぱしぱとさせた。さっきからなんか眼に違和感を覚えていたのもあるけど、そうじゃなくて俺の見間違いかも、みたいな感じで眼には直接触れず、目を閉じて手の甲で目蓋をごしごし―――目蓋をもう一回開いてアイナとクロノスの様子を。

「!!」

 アイナのやつ、うすく笑った? ううん、口元ににやりとした不敵な笑みに浮かべたんだ。その間のアイナは刀の動きを止めてクロノスに斬りかからないんだ。で、一方のクロノスもニヤっと口角をかっこよく吊り上げた。クロノスだってアイナに斬りかからない。

「そっか・・・」

 解った。クロノスは本気じゃないんだ。そして、アイナも。

『・・・いいだろう、アイナ=イニーフィナ。お前の実力をこの俺が測ってやろう・・・!!』

 それはさっきクロノスがアイナに言ったこと。あれは本当のことだったんだ―――。つまりクロノスはアイナを本気で殺そうと斬りかかっているんじゃなくて。

「―――」

 今までの俺は『そう』と解るまで、そのアイナとクロノスの戦いをはらはらとしながら見つめていた。だって俺は真剣を用いた死合(しあい)を見るなんてことは初めてのことだったんだ。敗北が『死』に直結するような死合―――この世界では常識的なことかもしれないけれど、現代の日本で育った俺にとっては非日常的なことで、だから俺はクロノスの真意に気づかなかったんだ。アイナはそんなクロノスと刃を交えるうちに、クロノスの真意に気が付いたってことか。


「血筋か―――。なるほど、アイナ=イニーフィナ。お前の戦い方はチェスター=イニーフィネによく似ている」

 あ・・・、アイナってば不満そうに眉間に皺を寄せた・・・。

「私の戦い方がチェスターによく似ている? (はなは)だしく不愉快ですね。私はクロノス貴方のその言葉を聞いて甚だしく不快に感じます。どこをどう見れば、そのようなことが言えるのですか?」


「―――」

 うわっ、アイナってば、不愉快と不快の二回もクロノスに冷たく言い放ったぞ。やっぱり自分の身内を手に掛けた張本人のチェスターのことは大嫌いなんだな。きっとこれはアイナには禁句だ、俺もうっかり発言には気をつけよ。


「そうか、お前は気づいていないようだな。だが、そっくりだぞ?お前とチェスターの戦い方は、な―――」

 にやり。クロノスは口角に笑みを浮かべ・・・、おいやめてくれ、言うなってクロノス。

「っ・・・~~~」

 うわ、アイナってば、また眉間に皺を寄せて―――例えば『苦虫を噛み潰したよう』っていうことわざがあるだろ?そんな感じに、ものすごぉく嫌そうな顔になったよ? そんなアイナはふと俺と視線が合って―――

「ケ、ケンタ―――そ、そのっこれはっ(あせあせっ)」

「は、ははっ・・・アイナ」

 そういう顔になることもときたまあるから別に俺はアイナのことを嫌いになってないって。

「あんなへんな顔を見られ・・・っ!!」

 でも、アイナは俺の顔を見て、すぐに俺がさっきのアイナの顔を見ていたことに気づいたみたいだ。


「アイナ=イニーフィナ。お前は初手(しょて)から今まで一切異能を使ってはいなかった。もし、お前が初手から異能を使っていたとしたら、俺もそれ相応の力で臨むつもりだった」

 アイナはだんまりだけど、クロノスからは視線を外していない。

「―――」


 クロノスはすすっと太刀を下し―――。え?なんで? 中段に構えていた太刀の柄から左手も除け、クロノスは右手だけで太刀をだらりと下したんだ。

「なぜだ?なぜ、お前は異能を使わなかったのだ? なにか、自身に矜持(きょうじ)でもあるのか?アイナ=イニーフィナ」

「クロノス・・・貴方に私の矜持などを言う必要は―――」

「あ、それ言われてみれば―――」

 俺も知りたいかも。アイナが空間系の異能を使っていたらもっと有利に事を運べたかもしれないし、それにアターシャの申し出を・・・冷たくはなかったけど、なんかこう・・・拒否するようなそんな表情が顔に出ていたし・・・あのとき。


///


『アターシャ。貴女は、私がクロノスとの一対一の真剣勝負を続けられるように、周囲を全力で支援してください、お願いします』

『ケンタ、アターシャ。私のことを心配してくれてありがとうございます。でも、ううん私は剣士として―――』


///


「―――っ」

 どうしたんだろ?ちらりとアイナが俺を見る。なにか―――。俺はアイナに近づき―――

「ケンタ貴方は?」

「うん、――――」

 ちょっと、知りたいかも。

「・・・クロノスに言われたからというわけではありませんが・・・、ケンタ貴方が知りたいというのなら・・・聞いてくれますか、ケンタ?私の矜持を」

「うん、いいよ。聞かせてくれ、アイナ」

 こくっ。アイナは静かに肯いたんだ。

「・・・―――私の師匠貴方の祖父ゲンゾウ殿に、『剣士』として戦うというその心構えです。師匠曰く、異能を駆使して―――異能に頼るのは悪いことではないが、頼り過ぎると、敵に、己に、足元を掬われると、そうゲンゾウ師匠は常日頃おっしゃっています」

「祖父ちゃん・・・」

 刀に厳しい祖父ちゃんが言いそうなことだよな・・・。

「ゲンゾウ師匠は、たとえば・・・自身の異能の通じない、効かない相手との戦闘時、頼れるのは自身の胆力や剣技であると、そういつも・・・」

「そっか、あの人の言いそうなことだな」

 俺は子どもの頃、あの人祖父ちゃんの下で修練を積んできた。それは小剱流の剣技だけじゃなくてさ、強敵を前にしてめげない心やくじけない、諦めない、ということも祖父ちゃんに教えられた、つもりだ。アイナの言う祖父ちゃんに矛盾はなかった。昔も今も変わっていないんだな、俺の祖父ちゃん・・・。

「アイナ、ありがとう」

 安心できた。祖父ちゃんはなにも変わってない、あのときの子どもの頃のなつかしいあのときのままだってことに。

「いいえ、ケンタ」


 キンっカチっ。鍔、切羽、はばきと鞘の鯉口が重なる音―――。なんの音だ? 見なくても音で分かるよ―――。

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