第三百六十八話 大地の剱魔法
そして、これが、この強者が―――日下修孝こと『先見のクロノス』。
「―――、日下修孝・・・これが、『日之国三強の一角』、の強さか・・・、っ」
アイナから聞いた『日之国三強の一角』。日下修孝の日之国での渾名『先見のクロノス』彼奴の強さの、これがその所以か。
なんだよっ日下修孝!!『虚霧ノ郷』とかいう自分の『郷』に籠りやがって!! そこの“自分の土俵”に敵対する相手を上がらせて、一方的に日下修孝は敵対者を殲滅するってことだ!!
第三百六十八話 大地の剱魔法
「『秘刀、霧雨水燕―――番い燕、背水斬疾』」
静かな口上。
日下修孝が、自身の霧雨を使った剣術を繰り出すときのもの。
ひゅおおおお―――、
ほら。耳を澄ませば、神経を全方位に集中させ、日下修孝の『霧雨』の、この水のような氣を読み、その流れを読めば―――、
「ッ」
―――、解るだろ? 水氣の斬撃が、俺の背後から迫ってきているじゃねぇか。
空気を切り裂く、ひゅおおおお―――、っという、まるで、さめざめと涙を流す女性の悲しいすすり泣く涙声のような斬疾の音。
そして、日下修孝の日下流霧雨抜刀術の、次の手。
“秘刀―――霧雨水燕、斬次遥”
俺の『先眼』の未来視において、俺の命を奪った左右袈裟懸け重ね斬りの猛剣。これは、恐ろしいほどの威力でとどめを刺してくる大技。
いや今は、二の手の斬次遥のことを、あれやこれやと想像するよりも、俺の背後に隠れくる、迫りくる『背水斬疾』の水氣の斬撃対策だ!!
つまり、
「っ」
前ばかりを見ていて、つまり眼前から飛来する『前』の水氣の斬撃にばかり気を取られていれば、
背後より、死角から隠れ飛来してくる『後』の斬撃の餌食になる仕組みだ、日下修孝の『霧雨抜刀術秘刀―――番い燕、背水斬疾』という技は。
アネモネのあの、魔礫兵の魔力の込められた巌の腕を切り落とした日下修孝の日下流霧雨抜刀術の剣技『背水斬疾』。
『秘刀―――番い燕、背水斬疾』
空気を切り裂き、
しゃああああ―――、
眼前より飛来する一つ目の水氣の斬撃。
ひゅおおおお―――、
女の人が涙を流しすすり泣く悲しい声のような音を立てて、背後より迫りくる二つ目の水氣の斬撃。
背後から、死角より俺を斬り裂く水氣の一太刀。あんなもん―――ッツ
(ッツ。もう二度と喰らうかよっ日下修孝ッ!!)
ぎゅっ、っと、俺は『大地の剱』の柄を握るこの右手に、手に力を籠めた―――。
俺は、そして、日下修孝を陽動させる、日下修孝に深読みをさせるという効果も期待し―――、
「ははっ♪来いよっ日下修孝ッ お前の水燕なんてなっ俺がぶっ潰してやるよッ!!」
―――、高らかに意志の籠った声で彼奴の名を呼び、さらに右手に持つ『大地の剱』を斜に構えた。
あくまで、眼前から飛来してくる『番燕』の一つ目の斬撃を、『大地の剱』で打ち払うとする無力な俺、実力が伴っておらず大言壮語ばかり吐く俺自身の姿を、俺はわざと演じたんだ。
先ほどより深く、より濃く、水氣の密度が増した深い霧。その所為で『虚霧ノ郷』の内に籠る日下修孝の姿は視え難く、もはや俺の“この選眼”ですら、日下修孝の姿を視認することは困難になっている。
だが、俺はあくまで愚か者を演じつつ、
「お前の姿なんて丸見えだぜっ♪」
(っつ、バカらしい嫌になる、自分のこのおちゃらけた姿は)
俺の方からは、深い霧の中、幽世と化した『虚霧ノ郷』の内に居る日下修孝の姿は視得ずとも、きっと彼奴日下修孝のほうからでは、俺の姿は見えているのだろうし、な。
愚か者、お調子者を演じて日下修孝を油断させ、俺の真の目的を、俺の手法を、俺の次の手を、日下修孝には読ますことはさせない。
「いくぜっ日下修孝、喰らいやがれっ!!」
俺はお調子者を演じ・・・。
(、、、・・・、、―――、・・・、、―――)
その一方で、口の中で、もごもごもご、、、・・・、と、『大地の剱魔法』のその祝詞を詠唱えた。
っ、と俺は、日下修孝に聴こえてしまわないように、注意を払い。俺の行動を、言動の真意を一切外には漏らさず。
ミントちゃんことアネモネ師匠。俺に、『大地の魔法』を、『大地の剱』を媒介に行使する『大地の剱魔法』を伝授してくれた人。その人に教わったことを、今ここで活かして為す!!
(アネモネ師匠、、、俺は必ず貴女を助け出します・・・!!)
一方で俺は演じる、“日下修孝にとって『取るに足らない』存在”であろうということを。彼奴日下修孝に、そのように思わせつつ―――。
(我が名は『普遍く視透す剱王』。我、小剱健太の真名の下に我自身が命じる―――魔法剣『大地の剱』よ、我とアネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンとの盟約に応じ、我らが力に応え―――、)
もごもごもご、、、っと俺は口の中で小さく『大地の剱魔法』の魔法詠唱を行なう。
さっ、っと、魔法剣『大地の剱』の反転。
柄頭が天を、
鋩を地に。
ぐるんっ、っと―――。
「っ」
俺は右手に握る『大地の剱』を、その手首のスナップを活かして半回転させた。今までの鋩は前を向いて、向けていたが、
今やそれを反転。
日下修孝のほうに向けていた『大地の剱』の鋩が、神雷の嶽の大地を、地面を向く。
そして、真下を向いた『大地の剱』の柄を握る右手の親指のすぐ側に柄頭がくる、といった具合だ。
おりゃ、、、っと、素早く拳を反転。順手で『大地の剱』の柄を握った。
俺は、柄に左手も添え―――、
「ッツ」
ざす―――ッ、、、っと、『大地の剱』の、その三角錐に鋭角のその鋭い鋩を勢いよく地面に刺し落とし、俺は神雷の台地の、その聖なる雷の嶽の大地に衝き立てた。
(―――、力の息吹を地物に吹き込みたまえッ―――『大地の剱魔兵』っ!!)
その行動とほぼ同じ刻に、俺の、俺に拠る『大地の剱魔法』の詠唱を終え、『大地の剱』を媒介に、『大地の剱魔法』を行使!!
彼奴日下修孝のそれが『水燕』であるなら、差し詰め俺の『大地の剱』より、名を与えらえるなら―――、
そうだな、、、アネモネミント師匠の『大地の魔法』の『大地の守護者達Tiara ve Gardion』にあやかって、『大地の剱魔兵』というべきか。
神雷の嶽の地面に衝きたてた、いや、聖なる神雷の神殿が立つ聖なる嶽のその大地を鞘に見立てて、神雷の嶽の地面を、“大地の剱”の“鞘”にした、というほうが正確な表現だ、と俺は思う。
パァッ―――
っと、旭日光に。『大地の剱』の鎺そして、そこから続く剱身に黄金色に輝くマナが迸る!!
俺の氣。
アネモネのマナ。
それら『俺達の力』は、『大地の剱』の内で溶け合い融合し、この神雷の台地のその最高峰に至る神雷の嶽の荒涼たる大地に流れ込む。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ―――、、、
―――小刻みに振れる大地。来る。来たる。訪れる。
ついに、ついに、ついに来たる!!『大地の剱魔法』のその神髄が。
来たッツ!!
「ッツ」
その瞬間。マナ光を旭日に輝かせ、大地に刺さった大地の剱のその剱身の周囲に、
ビキッ―――
―――、っと大地に罅が入る。
ビシッ、ビシッ、バシッ―――
―――、『大地の剱』の、鎬から二筋。
―――、『大地の剱』の、刃より二筋。
ビシ―――、ビシッ、ビキキキ―――っと、『大地の剱』を中心に、罅の走る神雷の嶽の大地。
キュア―――ッツ
魔法剣『大地の剱』を“納めた”神雷の嶽の大地。『大地の剱』の周囲に生じた罅より漏れ出でる『大地の剱氣』の烈しい黄金の輝き。
ボゴっ、ボゴっ、
ボンッ、ボンッ、
っとその直後、二つの地点の地面が、土飛沫を上げて噴き上がる。
ビシ―――ッ、
バンッバキンッバゴンッツ、
っと、罅が走り爆ぜる神雷の嶽の大地。
まるで爆発のような土煙と砂埃を上げて爆ぜる大地。烈しく出でる大地の剱氣。
ゴゴゴゴゴゴ―――
大地の剱氣の烈しい黄金色のマナ光。
その輝きの中より、現れ出でる―――、
“―――”
現われ出でる―――、俺がその『大地の剱魔法』にて行使し、この世に顕現させた魔礫の剱兵。
俺とアネモネの『大地の剱』より、力の息吹を、そのマナを、その魔力を、地物に吹き込んだその地物の産物だ。
“―――”
物は言わぬが、俺の意志を反映し、思い通りに動く、動いてくれる大地の魔法の地物達―――。