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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
367/460

第三百六十七話 日下流霧雨抜刀術。秘刀―――霧雨水燕、斬次遥

「―――、『番い燕、背水斬疾』」

 日下修孝は、“秘刀、霧雨水燕。つがいつばめ、―――”と、言ったんだ。

 その言葉が、まるで風に乗って

「?」

 俺の耳まで届いた、それとほぼ同じ


 ざしゅ―――ッ

 パパパパパ・・・ッ


 後ろ?背後?背中で鋭い痛み? 遅れて、

 紅い血飛沫が勢いよく飛んだ。きっと、その、紅い血飛沫は、背中を斬られた俺の血だ。



第三百六十七話 日下流霧雨抜刀術。秘刀―――霧雨水燕、斬次遥


「・・・っ、」

 ガクン―――っ、、、っと、俺は膝が折れた。

 背中が痛い。あれ?なんで?どうして、だ・・・?

(俺は、いつの間に、、、日下修孝に、斬られた・・・、んだ・・・? よく、分からない、、、)


 最初は、何が俺自身に起きたのか、よく分からなかった、理解していなかった。

「、、、―――・・・、っつ」

 じわり、、、っと、俺の着ている皇衣の中で、濡れた液体の感覚。

 べちょり、、、とした汗や水との濡れ方とは違う液体の感覚とその感触。


 汗よりも、やや粘性の高い液体に塗れる感触。そして、鉄のような金属に指で触れたときのような臭い。

 その粘性のある液体の色は、紅色。俺の皇衣を朱に染める紅色の体液。俺の血だ。俺の背中より、どくどく、、、っと鼓動に合わせて流れる俺の血。


 どくんどくんどくん、、、っ、っと、自身の鼓動がはっきりと感じ取れる。膝が折れ、そのままの身体を、中腰の姿勢で、ややくの字に曲げた体勢で、俺は。


 まさか、な・・・。こんなにもあっさりと勝負がつくなんて。右手には、まだ辛うじて残る握力で持てる『大地の剱』。

 氣を帯びたその砂に、俺の血が吸われていく、、、。真っ赤に染まりゆく砂。

「、、、」

 すっ、っと、俺は『大地の剱』を持っていないほうの、左手を、頸の前から後ろへ、俺の右側、、、右の頸元から、その右肩口。そして、腕を捻って背中側へと左手を回す。


「・・・・・・」

 ぬろ、、、っ、っと。触れば解る。切り裂かれ、血に塗れた皇衣。自身の血で朱に染まる俺。皇衣に飛び散った『霧雨水燕』の水。


 皇衣のその下、俺の肩の皮膚は、肌は、ぱっくり、ざっくりと、日下修孝の『霧雨』の剣技にて斬り裂かれていた。


 明らかに深手だ。『大地の剱』を持つ右手の、そして右腕はもはや鈍い感覚になりつつある。未だにこうしてまだ、右手は『大地の剱』を握ることができているのが、不思議なくらいだ。


「・・・はぁ、、、はぁ、はぁ―――、、、」

 息が荒くなる。

 ドクドクドクドク、、、鼓動に合わせて強弱を繰り返す出血。


 深い俺の右肩口の肉に刻まれた深手の傷。

(あれ? どうしたんだ俺? 脚に力が入らねぇ、、、ははっ)

 あれ?こんなところに深い溝なんて、、、裂傷なんて、なんで俺は、こんな深手を負ったんだ?背後から斬られたようだったけど・・・。



「『日下流霧雨抜刀術』秘刀―――霧雨水燕、斬次遥』



 日下修孝の、自身の抜刀術の技の名が、俺の耳に聴こえたのが、

「・・・っつ、、、」

 俺の最期だった。


 斬―――、

 右肩先から胸、左脇腹へと抜ける、先ずは一太刀。


 斬―――。

 左肩先から胸、右脇腹へと抜ける、二つ目の太刀。


 合わせて二斬。

 その刻は刹那。

 日下修孝の『霧雨水燕、斬次遥』。俺の胸に、二つの太刀が交差する烈しい水氣の二斬。

 両肩から袈裟掛けに斬られて、俺は四分割。

「・・・がッ、、、かは・・・っつ」

 ぷしゃぁああああああぁぁぁ―――ッツ。

 己の紅色の血飛沫を見たが最期。そこで俺の意志は、意識は途絶え、、、るんだ。



///


(っつ・・・!!)

 ハッとして俺は、改めて『この両眼』を見開いた。


 日下修孝の『霧雨水燕』の動きはかなり速く、ぎりぎりの『選眼』発動だったが、何とか俺はその刹那の時間に『先眼』を発動させることができた。


 それで、その『先眼』で視得た僅かばかり先の未来視の光景が“俺のあれ”だった。

「ッッツ・・・!!」

 これは、俺の『選眼』の一つ『先眼』で視得た僅かばかり先の、俺自身の姿と未来の光景だったというわけだ。

 魁斗との戦いときに開眼した俺の最初の『選眼』の一つの異能。俺は予めこの『先眼』を行使していたというわけだ。

(くそ。。。こんなにも強いのかっ、日下修孝は!! こんなにも鋭いのかっ、日下修孝が使う日下流霧雨抜刀術は・・・ッ!!)

「ッツ・・・!!」

 こんなにも、俺の攻撃が通じない奴と戦うのは初めてだ・・・!! どうする?



「『秘刀、霧雨水燕』―――、」



 日下修孝の落ち着いたそれでいて、強さと静けさを漂わせる彼奴の業の口上を聞こえた。

 さっき『先眼』で視得た僅かばかり先の未来の光景がくるぞ!!

「ッ!!」

 日下修孝ッ!!あいつの斬撃が、あの結場というべき『虚霧ノ郷』の内から俺目掛けて斬りにくるッ。

 日下修孝が、自身の飛ぶ水氣の斬撃を俺に放つんだ。


 ボッ、っと、霧雨の『虚霧ノ郷』を、まるでドライアイスの煙に満ちた部屋の内側から、勢いよく飛び出してくるかのように、三日月の形状をした翔ぶ燕のような水氣の斬撃が飛び出してくる。

「っつ、、、っ」

 俺は軽く舌打ち。


 この光景は、俺がさっき、この『先眼』で視た光景と寸分違わない・・・!!

 その数は、水燕の斬撃の数は一斬。燕にも似た三日月型の水氣の斬撃は、真っ直ぐ俺目掛けて―――、


「ッツ」

 さっき視得た俺の未来の光景。日下修孝ッお前の思い通りになんてさせるかよッツ!!


 ぎゅっ、っと、俺は『大地の剱』の柄を握るこの右手に、手に力を籠め―――、た。


「・・・」

 待てよ・・・。そうだ、さっき“未来”の中で俺は、

 この、『大地の剱』で、日下修孝の『水燕』を打ち払ったが、そうするのではなくて、



 俺は大地の剱を揮い。その斬道に添って砂氣の斬撃が、砂氣の一太刀の一閃が、さっきの未来視の中で―――、


“そらッツ小剱流『月閃』”

 シャンッ・・・!!


 ―――、『先眼』の、

 ”もしもの未来の俺は、“日下修孝の『水燕』と、寸分違わず同じ刻でぶつかり合わせ、相殺させていた”、が、

 “今の自分はそう行なう”のではなく。


 もし、それを行なえば、背後から二斬目の『番い燕、背水斬疾』に斬られて、俺が『先眼』で視た俺自身の未来に繋がる。


 さっきと同じような対策に乗り出すと、“先ほど”の二の枚だ。

「くそ、、、っ」

(だったら、、、)

 『そう』するしかないか・・・、俺にとって不本意なことだが。

 と、ぽつり・・・、っと俺は一人呟く。


(なんて無茶苦茶な奴なんだよ、お前は―――、そのせいで俺は・・・っつ)


 日下修孝の『虚霧ノ郷』。それは一種の結界だ、結場、幽世や隠れ郷、もしくは籠の郷のような。


 こちら側(外側にいる俺)からの攻撃は一切通らず当たらず、向こう(術者日下修孝)からの攻撃だけは、幽世の外に立つこっち(俺)には通る。


 無茶苦茶な奴だな、お前は―――、日下修孝。


(なんつぅ戦りにくさ・・・。しかも、こいつ自身の剣術日下流も極めていて、がちで斬り合っても速いし固いし鋭いし、つまり強いからめちゃくちゃめんどくせぇー奴)


 俺は口の中で舌打ち。 

「っつ」

 『魔餓尽基』に獲り込まれたアネモネ。

 『黯黒魔女ロベリア』に攫われたアイナとアターシャ・・・。

(彼女達のことが気にかかり心配で、そのせいで頭がいっぱいで、こっちは、ほんとにもう時間がねぇってのに!!)

「くそっ・・・!!」

 俺には時間がなくて、時間が惜しくて、急いでいるってのに!! なんだよこいつ日下修孝の奴っ!!


 確かに塚本さんには、日下修孝を生け捕りにして引き渡すっていう約束はしたものの、本当にこいつの、こんなにも面倒くさくて強い日下修孝にかかずらっている時間なんて、本当にないんだよ、俺は!!


 そして、これが、この強者が―――日下修孝こと『先見のクロノス』。

「―――、日下修孝・・・これが、『日之国三強の一角』、の強さか・・・、っ」

 アイナから聞いた『日之国三強の一角』。日下修孝の日之国での渾名『先見のクロノス』彼奴の強さの、これがその所以か。


 なんだよっ日下修孝!!『虚霧ノ郷』とかいう自分の『郷』に籠りやがって!! そこの“自分の土俵”に敵対する相手を上がらせて、一方的に日下修孝は敵対者を殲滅するってことだ!!

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