第三百六十二話 日下流霧雨抜刀術、秘刀―――霧雨水燕
「・・・」
時間はねぇんだ、日下修孝―――。お前の斬撃が、その力貯めが、お前も、俺の祖父ちゃんと同じで相当の使い手。こいつは抜刀術を極め尽くしてやがる。
俺はこの『眼』で、お前の水氣の中まで見透せるんだぜ? 氣を高め、精神を、神経を極限まで高め、集中して、この俺を、この気配を、動きを読んで、こいつは俺に向かって、その霧雨から放つ水氣の斬撃を放つ絶好の好機を視てやがる、、、。
「 」
力みに日下修孝はその両腕を、両肩を、上半身をふるふると揮わせて。
第三百六十二話 日下流霧雨抜刀術、秘刀―――霧雨水燕
このまま捨て身のように、あいつの『虚霧ノ郷』とかいう、あの濃霧の中に特攻するのは、きっと自殺行為だ。
「っつ」
あいつの霧雨のあの濃霧の中に突っ込んで、この『大地の剱』で斬り込みに行っても、きっと視得ない位置から、あの長大な霧雨の水刃の餌食になるだけだ。
俺の胴は生き別れ。
なら、いいよな?もう?日下修孝。俺だって見せてやる。そっちがその気なら、こっちもお前と同じように遠方からの斬撃飛ばしに徹底してやる。
『大地の剱』の、その土石刃の斬撃で、お前のその濃霧の隠れ蓑を消し飛ばし、お前も砂嵐で吹き飛ばしてやる!!
「―――この『大地の剱』は、魔法の砂礫でできている」
さらさらさら―――
俺の手から、『大地の剱』のその柄を握る右手の指の隙間から、さらさらと、氣を纏う砂が、氣を帯びた砂がこぼれる。
それは、手の平からこぼれ落ちる砂のように、砂丘の戴で握り持ち上げ、梳くように流れる流砂のように―――、
サラサラサラ―――、、、
俺の持つ『大地の剱』が、まるで俺の意志を反映するように―――。その直刀のような外観の剱身に黄金色の砂氣が舞い出でて、刃を流砂のように伝う。
ミント―――、いやアネモネ。俺は必ずお前を助けるからな!!
///
「ッツ」
ダンッ、っと俺は一歩『日下修孝石人形』に踏み込む。
『ッ!!』
俺は両手で柄を握り締め、天へと掲げるは黄金の魔力に輝く真正なる『大地の剱』。
「終わりだッ『日下修孝石人形』―――ッ」
俺は全身全霊に力と氣を籠めて振り下ろすんだ真正『大地の剱』を。その黄金色の土属性の魔力に纏い、帯び、真の力が解放されたその魔法剣『大地の剱』を『日下修孝石人形』の頭上より斬り下ろす!!
「小剱殲式一刀殲―――」
///
アネモネが以前、『日下修孝石人形』を使って、俺を鍛えてくれた。それを思い起こし―――、
「ッツ」
アネモネの前で誓った“誓いの一振り”を思いだせッ俺!!
「そうだ―――、俺は」
あのとき―――、宮殿の裏の森の中で、アネモネに。彼女の前に誓ったんだ。
///
「―――」
誓いの一振り、一斬。俺は静かに、だが、この心に、身体に滾るような闘志を、闘氣を奮い立たせ、昂らせ、、、
ズズズ、―――ズぅ・・・っと、、、『大地の剱』を取り巻いて纏うように、剱身に氣を帯びた細かい砂塵が浮かび上がる。
『大地の剱』が剱芯になり、砂氣は剱身を覆う。鋭く太く長大な『大地の剱』だ。砂氣を纏いし真なる力が解放された『大地の剱』。土石魔法を帯びた真なる魔法剣『大地の剱』。
チャ―――っと、真なる『大地の剱』を、肩に担ぐように、振り被るのように構える。
あの街で、あのような非道なことをした奴ら。お前らも魁斗のように俺が引導をわたしてやるっ!!
「逃れられないぞ―――」
もちろんそいつらは、俺が逃すつもりもない奴らは『不死身のラルグス』、『屍術師ロベリア』だ。ついでに『流転のクルシュ』も。
めいいっぱいの『力』を籠めて―――、昨日よりももっと強く、鋭く、激しく―――!! ギィイイイッ、、、っと『大地の剱』が俺の氣の高まりに応じて振るえる―――!!
この『大地の剱』を振り被り、是やッ、っ
「『大地の剱』―――ッツ」
斬―――ッッツ
俺は空に向かって。真なる力が解放され、砂氣を帯びた『大地の剱』を振り下ろす・・・
///
―――
あのとき、アネモネに宣誓したことを、アネモネに見せた『それを』今ここで思い出せ!!
鋭く、鋭敏、鋭利、先鋭。
俺は。喰え、『大地の剱』。俺の氣を。
「―――」
この氣を高め、魔法剣『大地の剱』に、己の氣を喰わせ、
(ハぁぁぁぁぁ――――――、、、っ)
静かに、向こう、霧に煙る『虚霧ノ郷』に潜む日下修孝には悟られぬように、冷めて静かに、全身全霊めいいっぱいの俺の中の、自身の『氣』を籠めて、念を籠めるかのように―――、
あのときよりもっと強く、鋭く、激しく―――!!
(きた―――ッツ)
すると、俺の氣を糧に『大地の剱』は興され励起し、砂氣に覆われ、纏われる。
『大地の剱』の直刀の剣身が剱芯になり、砂氣は剱身を覆う。鋭く太く長大な、まるで今までの『大地の剱』とは別物に成る。
大剣に成る。『大地の剱』は、先ほどまでの直刀ではなく、剣身の幅はその倍以上に、長さも倍以上に・・・ッ!!
黄金色の大地のマナの輝きを放ち、それまでとは、まるで別物の『大地の剱』だ。その剱身の太さも、長さも、大きさも、鋩の鋭さも、―――そのマナの輝きの度合いも、だ。
この状態の『大地の剱』こそ、真の魔法剣。
真の力を解放せし魔法剣『大地の剱』。
「―――」
チャ―――、っと、俺は、大剣のように早変わりした『大地の剱』をまるで肩に担ぐように構え―――、これで斬り降ろすことで、いつでも俺は砂氣の斬撃を放てる。
眼を眇めて視れば、虚霧の中―――彼奴日下修孝はいる、その水氣を迸る霧雨を、抜刀術の構えにて、それで俺を向き、その殺気も俺へと向けて。
「ッツ」
日下修孝バカな奴だお前は。
魔法を封じられたアネモネを助けて逃げることができたのに。バカなお前は、『イデアル』に固執してそれをしなかった。
ラルグスと張り合うことが、ラルグスの凶行を止めることを最善だと思い込んだんだ―――。
だが、日下修孝。俺は違う。俺はアネモネを“完璧に”助ける!!
(征くぞ、日下修孝ッ)
ザッ、っと俺は、この両手で柄を握る『大地の剱』を頭上高く掲げ、小剱最強の剱技でお前に応えてやるよッ!! ―――、っ!?
「小剱殲式―――、っ!?」
なにっ!?
今まさに、俺はこの『大地の剱』を振り被って、『一刀殲』の氣の斬撃を、霧煙る『虚霧ノ郷』の内にいる日下修孝に向けて放とうしたときだ。
彼奴日下修孝のほうが、一手早かった。
「日下流霧雨抜刀術、秘刀―――『霧雨水燕』」
キュオ―――、、、
瞬―――
日下修孝とその周囲を覆う霧雨の霧を、その『虚霧ノ郷』を、その内より切り裂くように鋭い斬撃が見舞われる―――。
その鋭い水氣の斬撃が、外へと、つまり俺に向かって飛んでくる!!
「ッツ」
水氣の斬撃だ、、、ッツ。 くっ、、、疾いっ避けられ、ねぇ・・・っ
ならば、防御しかねぇ―――ッツ!!
俺は咄嗟に手首を返して、『大地の剱』をひっくり返して、その鋩をこの神雷の大地のほうに向けた。
「『魔岩牆』―――ッツ!!」
斬られるッ、っと思って、咄嗟に俺は、『大地の剱』の、剱魔法を行使―――!!
俺は自身の目の前に、六角形の大地の魔法の石板の防御魔法である『魔岩牆』を展開した。
斬―――。
シュバン―――ッ、
と鋭く、鋭利に迸った三日月型の、日下修孝の日下流霧雨抜刀術の水氣の飛ぶ斬撃。
シュバン―――ッバチンッ、っと、日下修孝が撃ってきた『水燕』それが、俺の『魔岩牆』に着斬。
日下修孝の霧雨抜刀術の、“秘刀―――霧雨水燕”と、あいつは言ったか。それの、たった一つの斬撃で・・・!!
「ッツ!?」
ま、まさか―――、俺の、、大地の剱魔法の防御魔法『魔岩牆』を―――、一刀両断に、切り裂くなんて、、、。
『魔岩牆』と当たって相殺したから良かったものの―――っ。
ズゾゾゾゾ―――、っと
嫌な、汗が、俺の背中を伝った。
「、、、魔岩牆、が―――っ、!?」
その六角形の魔岩の牆壁が、岩楯が―――切り裂かれた、・・・だと!?
俺の渾身の氣を籠めて行使し、展開させた魔岩の楯だぞ!?その大地の防御魔法を切り裂いた?いや、霧雨水燕は、俺の防御魔法を、切り割った、というのが正しい、と思う。
ミントちゃん、、、いや『大地の魔女アネモネの特訓』―――、アネモネが俺につけてくれた修練の、アネモネの魔礫兵のあの暴虐というべき凶悪な魔礫弾の猛攻連射にも耐えた俺の大地の剱魔法『魔岩牆』を、、、こいつの斬撃が切り裂いたっ!?
つまり、俺のより、こいつ日下修孝の『霧雨』の水氣の斬撃のほうが、俺の『魔岩牆』よりも固いだと!?
日下修孝の霧雨の水氣の刃『霧雨水燕』は、俺の『魔岩牆』に傷をつけて、半分以上もそれ切り割く、、、だと・・・っ!?
「、、、っつ」
く、日下修孝、、、この男只者じゃない!! やっぱり一筋縄じゃ全然いかねぇ、、、っつ。
(いったいこいつは、どんだけの修羅場を、死線を越えてきたんだろう・・・)
そう言えば、―――前にあの廃砦で日下修孝を一目見た、アイナが言っていたっけ、クロノス、、、今となって判っているそいつの名は、この男の本名は日下修孝。俺の目の前の、その濃霧の中に潜んでいるその男。
アイナとアターシャは、日下修孝は日之国三強の一人、剣士『先見のクロノス』である、と―――。
俺はあのときのアイナとのやり取りを思いだし―――、