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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
360/460

第三百六十話 日之国三強の一角『先見の剣士』、出撃す

「日下流霧雨抜刀術―――、」

 日下修孝の低い声。だが、格好の良いいわゆるイケメンボイスで。


 ハッと・・・!!

「ッツ」

 その声に改めてハッとして俺は。先ほど俺は、この『先眼』で、僅かな未来を視たその光景と全く同じだ。


第三百六十話 日之国三強の一角『先見の剣士』、出撃す


“「日下流霧雨抜刀術―――、」”


 日下修孝のその言葉は、きっと日下修孝自身の流派を繰り出す口上。俺は、サンドレッタとグランディフェル双方から視線を切り、意識を眼前の日下修孝に向けたんだ。

「・・・っ!!」


「―――ッ」

 キッ、っと、俺を真っ直ぐと見る日下修孝のその鋭いまるで猛禽類のような眼。その黒い瞳。こいつはもう俺を斬るという覚悟を持ってんだな、っと俺は思った。


 もわぁ―――、っと、濛々と日下修孝の『霧雨』より濛々と立ち昇る水氣。

 日下修孝は、その状態の『霧雨』を、その長大なる太刀を淀みなく、途中引っかけることもなく、俺を真正面に見詰めて白刃に煌めく『霧雨』を抜き放つ・・・!!

「日下流霧雨抜刀術―――、『水刃』」


 斬。


 日下修孝の、裾の長い暗色の羽織りの上着がはためく。

「・・・」

 一緒だ。あのときの出来事を俺は思い出したんだ、そう廃砦で初めて出会ったときの日下修孝の服装と。


 俺はしっかりと、この目で、日下修孝の持つ日之太刀『霧雨』を視るのはこれで二度目だ。

 一度目は、あの廃砦で、魁斗と一緒に俺の目の前に現れたときに、日下修孝は、自身の得物を俺に見せてくれた。


 二度目が今。


 こいつ日下修孝と戦っているまさに今だ。『霧雨』の刃に、そのオタマジャクシのような形をした『蛙子丁子』のその刃文に、日下修孝自身の氣を喰った『霧雨』の『水氣』が興り迸って―――、刃になって俺へと飛来。飛翔する水氣の斬撃が飛んでくる。


 三日月型の、本当に何かを斬る、切断するのに特化した『日下流霧雨抜刀術水刃』。


「―――ッツ」

 これが、日下修孝の持つ日之太刀『霧雨』の力か。


 日下修孝の氣を糧に、『霧雨』は能力を発露する。いわば、『霧雨』も俺やアルスランが持つ『魔法剣』と同じ類の代物。


 俺が女神フィーネに見せられた『念話』の中で、こいつ日下修孝は、アネモネの魔礫兵のその巖の腕を霧雨で切り落としていたが、基本はこれと変わらない。

 あのときの日下修孝は、『霧雨』のその刀身に、刃に、ものうちに、鋩に、凡そ全てに『水氣』を通わせて、『霧雨』に己の氣を喰わせて、その水氣の威力を以ってアネモネの魔礫兵を切り裂いたんだ。


 この『水刃』は、それを飛ぶ斬撃と化したものだ。魁斗の『翔黒黒刃』とも基本同じ、つまりは氣の斬撃―――。


 こんな真っ直ぐにしか飛んでこないような斬撃でも、その速さは―――、

「―――くっ・・・!!(疾ぇ・・・ッ)」

 タンっ、っと、俺は、脚を踏み締め、身体ごと右に跳ぶ!!


 間一髪。先ほど読んだ『この眼』のおかげで、俺は事無きを得た。

 その先読みした上で、俺は上半身を右に反らすことで、日下修孝の『水刃』を避けた、というわけだ。


「むっ・・・!!」

 日下修孝の顔に僅かに焦りの色。

「おかしいか?日下修孝、俺があんたの『水刃』を避けたことが」

 日下修孝に言った事と、内心は別。真逆だ。

 この『選眼』の異能の一つ『先眼』で、上手く日下修孝の『水刃』を避けられたことは僥倖だった。



 キン―――、っと日下修孝は、『霧雨』を、本当に淀みのない優雅な所作でその鞘に納刀―――。

「っ、ほう『先眼』を遣い熟すようになっただけで、大層な口を聞くようになったな、小剱。お前のその言葉意気はよし。だが、、、俺とて日下流剣術の免許皆伝。お前は己自身が大言壮語の身の程知らずであることを思い知るだろう」


 日下流剣術の免許皆伝・・・、そういえば。

「そういえば、日下修孝―――、」

 俺が野添さんから聞いた話では、近角信吾さんは、『日下流剣術十王對四面免許皆伝』の剣の腕前らしい。

 いま日下修孝が言った『日下流剣術の免許皆伝』、、、近角信吾さんのそれとはどう違うんだろう?

「―――、野添さん、、、野添碓水はあんたを訪ねてきたか?」

 俺の、祖父ちゃんの庵を訪ねてきた野添さん。俺のアドバイスどおりに近角信吾さんに会えて、野添さんは、こいつ日下修孝を捜し出すことはできたのだろうか?

 だから、俺はふとその疑問が頭の中を過って目の前のこいつ日下修孝に訊いてみたんだ。


 ぴくり、っと日下修孝はその眼差しを、やや眉間に皺を寄せた。

「、っ、、さあな、小剱―――、」

 日下修孝は、言葉少なに、、、。


 だが、俺は目の前の日下修孝のその様子を見て、

「そうか」

 野添さんが、見事日下修孝を捜し出すことができたことを確信した。


 日下修孝は、今俺の目の前にいる『先見のクロノス』の異名を持つ日下修孝は、自分を訪ねてきた野添さんに何を語ったのか?俺は―――、


「―――、だが一つ解ったことがある小剱」

 、、、。その口を完全に閉じることはなかった。


 俺は日下修孝を見ている。

「え?」


「結城魁斗を失うことになったあのときもそうだった・・・。大地の魔女アネモネが『理想』に反旗を翻す切っ掛けになったのも、お前が、お前と言う人間が、この『五世界』に現れた所為だ、小剱」


 俺の所為だと?

「はぁ?」

 何言ってんだこいつ?


「俺は解ったのだ、『転移者』は大敵となる可能性を秘めた忌むべき存在であることが。小剱お前は、俺にとって面倒くさく鬱陶しいことばかりを呼び寄せ招く、厄病神のような存在だ・・・!! だがっ、『疫病神』よ―――ッ」

 ダンッ、っと、地面を蹴って日下修孝は俺に跳びかかる!!


(いきなりッ斬りに!! こいつ、ッツ!!)

「ッ!!」


「小剱―――ッ」

 ブンッ、っと、

 湊川の戦で決死の戦いを敢行した鎌倉時代末期の武将楠正成の、その武将の銅像がその腰に帯びているような大太刀。日下修孝は、自身のそのような大太刀『霧雨』を振り回し、ぶん回し―――、



 ヒュン―――、っと、俺に、本当に俺の鼻先に、顔に、銀色の弧を描く太刀の斬撃が、

「おっとッ・・・!!」

 俺は背を反らして『霧雨』の斬撃を躱し―――、


 タッ、タタッ・・・!!

 っと、地面をステップ、幾度かこの石だらけの足場の悪い地面を蹴って、日下修孝の霧雨の間合いから退いた。


「俺が疫病神だと・・・? 知るか・・・!!」

 俺が厄病神だと?そんなこいつの自分勝手な思いを、妄想を、本人である俺に言われても知るか、そんなこと!!

 こいつ日下修孝、俺のことを厄病神呼ばわりしやがって・・・!!


「むん・・・ッ」

 続いて日下修孝の『霧雨』の返す刃―――!!


 “それ”は知ってんだよ、俺は!!お前の手癖だ、日下修孝!!

「!!」

 よ、っと俺は、鼻先三寸。

 目と鼻の間を日下修孝の『霧雨』の白銀に輝く鋭角の鋩が、真横に通り過ぎていった。

 俺は一文字に薙ぎ払われた『霧雨』の斬撃を避け。その、三手目。俺は必ず、斬り返す!!


 日下修孝の三の手―――。俺はこいつの裏の手のかく!!

「―――ッツ」

 日下修孝は必ず次も。返す刀で、相手を斬り伏せる手を繰り出す!!こいつの常套だ。


 俺はお前のな、その手口を、アネモネの『日下修孝石人形』で、どれだけお前の戦い方を学んだことか・・・!!


 俺はお前の三度に亘る手は喰わねぇ・・・っ


 ざっ―――、っと俺は左脚を引き、右脚は半歩前にし、地を踏ん張る!!

 左手を『大地の剱』の鞘に、

 右手は『大地の剱』の柄に、


 俺は小剱流剱術抜刀式の構えを瞬時に取る。日下修孝の返す刀の刃を、その斬撃を受けるためだ。

「俺がお前にとって厄病神だと?知らねぇ―――なッ、日下修孝ッツ・・・!!」


 ギンッ―――

 交錯する刃―――


 俺の直刀のような『大地の剱』の刃。

 日下修孝の長大で湾曲した反りの『霧雨』のものうち。



「なに・・・、ッ!?」

 日下修孝は驚いたように両眼を見開いた。そして、その眼で俺を見詰め。


 だが、それは俺も同じだ。俺だって別の意味で意外のことが解った。

 重い・・・っ!!この剣圧!!

「ッツ!!」

 日下修孝の奴、こいつの腕・・・想像以上の剣圧だ、、、っつ


 俺は日下修孝の返す刀の刃をこの右手に握る大地の剱で受け止めた。だが、俺の想像よりも、俺が想像していたアネモネの日下修孝石人形で特訓した手応えよりも、今の日下修孝の方がかなり重い!!『霧雨』を受け止めたときに、この手に、腕に、剱身へと至るこの剣圧が。



ビリビリビリ―――ッ


 大地の剱と霧雨が、その鋼色の刃が。

 俺の剱氣と、日下修孝の剱氣が。

 俺の『大地の剱』の大地の氣。日下修孝の『霧雨』の水の氣。


「「―――ッツ・・・!!」」

 それら反目する俺達の意志が、剣を通じてぶつかり合う・・・!!

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