第三百五十八話 俺は言う。俺の、俺が心の中で思考えていた“企て”を
そうさ、あいつに、、、アルスランにチェスターは―――。
「チェスターは、『バルディアの剣獅子』、、、アルスランに敗れ、討ち取られた。もう、あなたの主君はいない。だから、グランディフェルあんたが、『イデアル』に従うことも、『チェスター』に従うことも、もう必要ない。しなくてもいい。グランディフェルもうあなたは自由だ」
「なっ、なにをバカな・・・っ!!ケンタ殿下ッ、チェスター殿下が御隠れになられたなど―――!!」
「いや、チェスターは死んだ。オテュラン家のアルスランに敗れ、討ち取られた。チェスターはもう、この世にはいない―――、」
俺はグランディフェルの目の前で、軽く首を左右横に振った。
第三百五十八話 俺は言う。俺の、俺が心の中で思考えていた“企て”を
「なにをバカなことを言われるのだケンタ殿下、、、チェスター殿下が討ち取られたと!?!バルディアの獅子に―――・・・。 チェスター殿下はもうこの世にはいない?ケンタ殿下っ言っていいことと悪いことが―――」
グランディフェルあんたの言葉を切っても、塞いでも俺は言う!!
「―――、グランディフェル。前あんた俺に言ったよな、あの廃砦で、―――、」
「―――あの、廃砦で・・・、ですか?ケンタ殿下」
静かにグランディフェルは、思い起こすように―――、いや、きっとグランディフェルはきっと俺の言わんとしていることを想像し、彼は解っているはずだ。
廃砦にいた魁斗と日下修孝から早く俺は逃げ出したい一心で、、、そして、俺はそんなとき林の中でグランディフェルに会った。
あのときのことは、今でもちゃんと鮮明に憶えているさ、グランディフェルが自信満々に俺に語ってきたこと、その内容を。
俺はあのとき俺に言ってきたグランディフェルのその言葉を、そっくりそのまま本人に返してやる。
あんたが俺に言ったことは―――、
「あぁ、そうだグランディフェル―――、
『殿下が是と思われることは俺にとっての『是』であり、非と思われることがあれば、俺にとっての『非』なのだ』
『殿下に忠勤する俺の心と意志は『殿下』と共に在る。その『殿下』は今や『イデアル』にその身を置く。ならば俺が『殿下』のために『イデアル』に力を尽くすのは道理であろう?違うかね『転移者』の少年よ』
『殿下より俺に下賜された御言葉は絶対であり、道理なのだ。若かりし頃、『殿下』に近衛騎士として拝命された俺の心と身体は既に『殿下のもの』だ。『殿下』は俺にとっては太陽であり、何を以ても、何を措いても俺は近衛騎士として『殿下』のために殉じなければならないのだッ』
―――、ってグランディフェルあんたは俺に、そう言ったよな」
とにかく・・・っ
父娘で斬り合いをさせ、殺し合わせるなんて・・・っ『イデアル』の導師とチェスターの奴は、そんなくそくらえなことを言いやがったッ。そんな・・・残酷な事っつ!! サーニャとグランディフェルを互いに殺し合わせるようなことをやめさせる・・・っ!!
そして、あわよくば、グランディフェルを俺達の味方に引き入れることができれば・・・っ!!
それが、俺の、俺が心の中で思考えていた“企て”。
「、、、う、うむケンタ殿下・・・」
ゆっくり、と。グランディフェルは、その白銀の兜の頭を上下にさせて肯き、、、。
俺も感情的にならないように、しないと・・・っ。感情的になったら、この企てがご破算になってしまうおそれだってある、“焦っては事を仕損じる”。あくまで冷静に沈着に、言葉を選んで・・・!!
「じゃあグランディフェル翻ってこうは考えられないだろうか。貴方の仕えるべき主チェスター殿下は、バルディアの獅子アルスランに敗れ、討ち取られ、、、死んだ。もう、この世にはチェスター殿下はいない。ということは、だ。グランディフェル貴方はもう“自由の身”になったということだ。チェスター殿下のために『イデアル』にその身を置く必要もないし―――、」
「ま、待ってくれケンタ殿下っ。チェスター殿下が御隠れになったことを前提にして、話さないでくれっ その根拠は? なぜ、俺にそのことを、、、あ、いや、なぜケンタ殿下は、俺にチェスター殿下が御隠れに成ったと断言できる?・・・っ」
「・・・」
なるほど、グランディフェルの言うことは一理ある。どうして、俺がそんなチェスターのことを。なぜチェスターの動向のことを知っているのか、ということか。
だが、俺は知っている、女神フィーネからの念話のようなもので、アルスランに斬り掛かるチェスター。アルスランとチェスターの激闘のその様。そして、或る戦いのその帰結、アルスランの逆転勝利と、チェスターの最期を、女神フィーネに精神感応のような念話のような映像で見せられた。
「グランディフェルあんたの疑問はごもっともだ。だが、俺は女神フィーネからの精神感応で、その出来事の映像を見せられたんだ、アイナも同じく」
「、、、―――」
半信半疑。それを思わせるような、グランディフェルのその碧眼の揺れ方。
一から初めから―――、俺が女神フィーネより見せられた一部始終を、語ってやるグランディフェルに。なんで、現場にいなかった俺がそんなことを知っているのか?事実を言い当てれば、グランディフェルはもっと動揺するかもしれない。
「―――、『イデアルの理想の行使』の一つ、『バルディアの聖女』を誘拐するために、バルディア侯都ウィンニルガルドに潜伏中だったあんたらは、バルディアの獅子アルスラン勢の急襲を受けた。火炎の魔女の火炎魔法の攻撃により、チェスター、グランディフェル、執行官のあんたら三人は潜伏中だった廃屋から焼け出された。そこへ、ちょうど、導師からの緊急招集がかかり・・・、だが、チェスターは、それに従わず―――、仕方なくあんたと執行官だけが、虹色のマナ結晶『転移の晶』だったか? それを使ってネオポリスにあるイデアルの根拠地に戻った、はずだよな?なぁ?グランディフェル」
「・・・っつ」
どうしてそれを、その事を・・・っ、っと、いった表情のグランディフェル。
「いや、違うか。そもそもが、前提が違っていたんだ」
俺の言っていることになんら誤りはなく、その証拠にグランディフェルは、何も反論しなかったんだ。
「チェスターは会合に参加しなかったんじゃなく―――、本当は、『導師』からの指示により、バルディア大侯国に留まったんだよ。あんたら『イデアル』の会合が終盤に差し掛かった頃だ。ちょうど、アネモネの、『俺達』の報告が終わり、次の議題ラルグスとあんたの『バルディアの獅子』の報告、それも終わった頃だ。何か、、、導師の奴が『最期の議題』と言っただろう?」
「っっつ、、、ヶ、ケンタ殿下、それは―――」
だが、ざりっ、っと、半歩その脚を出す者がいた。
「グランディフェル。動揺などは一切ないはずだ。何故ならば、小剱が言っていることは、全てお前を、そして俺を浮足立たせるためのブラフだからだ。小剱の口を吐く言葉は全て憶測、俺達を欺き浮足立たせるための、偽りの虚言だ」
その半歩、グランディフェルに向かって脚を出した者は、日下修孝だ。
黙れよ、日下修孝。
「―――」
ちらり、っと、俺は、その意志の籠った視線で日下修孝を見た。まだだ、日下修孝と事を構えるのは、時期尚早だ。まずは、グランディフェルを、寝返させる、、、ところまではいかなくても、サーニャと戦うことを消極的にさせるところまで、だ。
そして、すぐに俺はグランディフェルに視線を戻す―――、
「『落伍者アネモネ捕縛』―――。グランディフェルあんたは、導師に俺達への内通者とされていて、あんたが知らされていなかった作戦だ。その間にチェスターは、『バルディアの聖女』の誘拐・略取、、、はっ、、、イデアル風に言えば『理想の徒への勧奨』だったか?少女を攫おうとしやがって、ふざけんなよ・・・!!」
―――、日下修孝、、、お前も同罪だ。日下修孝を一瞥。相変わらず日下修孝はその敵意ある鋭い視線で、喋る俺を睨んでいた。
「アネモネをその封殺剣を用いて捕らえるために、アルスランとの戦いをほっぽり出して戻ってきたチェスターは、グランディフェルあんたに『理想なる禊』をやって来いと言い残して、その異能『空間管掌』を行使してバルディアの獅子のところへ戻ったんだ、もう一度、アルスランと戦うために」
「。。。」
だんまり。グランディフェルも、
「・・・ッ」
日下修孝も、その視線こそ鋭く俺を睨んでいるが、こいつもだんまり。