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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
356/460

第三百五十六話 父娘で殺し合えというのか

 ざりっ、ざッ―――、

 二歩っ、三歩ッ―――、数歩―――。


 その者は、俺の前で一礼。彼は右手を自身の胸に当て、俺に頭を下げた。イニーフィネ皇国の近衛騎士団長の白銀の鎧に身を包む者。

「お久しゅう御座います、ケンタ殿下」

「あんたは・・・グランディフェル、、、っつ」

 ハッとして、

 ちらり、っと。俺はすぐ、俺のすぐ脇に立っていた者を見る。その者とは、サーニャ。グランディフェルはサーニャの父親。

 数年振りか十数年ぶりかの父娘との再会。


第三百五十六話 父娘で殺し合えというのか


「・・・っつ、、、」

 この場にグランディフェルが現れた、、、ということは。『イデアル』は、つまり、やっぱり―――。


 父と娘をぶつけ合い、―――と。父と娘で戦わせ、互いに斬り合え、ということ、だ・・・、イデアルの導師の奴・・・っなんて残酷で、惨いことを・・・っつ!!


 女神フィーネが、その念話で。その精神感応で俺に伝えてきたその様子。グランディフェルに、サーニャを説得して仲間に加えるか、説得に応じない場合はその手で討ち取れ、と。

 親子で殺し合え、と、、、。なんて無慈悲で冷酷な奴らだ・・・!!


 サーニャの、息を呑む声なき声。

「、、、―――っ」

 サーニャは父親を一目見て驚愕の境地に。その、自身がまだ子ども頃に蒸発し、皇国から出奔した父親と対面し、驚きにその碧色の両目を見開いていた。



 ぽつり、、、っと。

 グランディフェルは、その口を開き、

「、、、我が娘サンドレッタよ。アイナ様の、近衛騎士になったとは聞いてはいたが、、、―――」

 じわ、、、っと。

 グランディフェルのその二つの碧眼に、透明の涙が漏れる。

「大きくなったぁ、サンドレッタよ、、、。若い頃の妻にそっくりだ、そなたは」

 俺も初めて見る、グランディフェルの慈愛にも似たそれに満ちるその“父親”として表情。



 ひょっとして―――、

「っつ」

 ―――、いけるんじゃないのか?これ。うんったぶん、いや、きっと俺はいけると思う!!

 俺は、このグランディフェルの娘サンドレッタを想うこの表情(かお)とその言葉を見聞きして、俺が腹の中で温めていた“企て”を為す決心が着いたんだよ。



「ち、父よ―――、、、どうして・・・、そんな、、っつ」

 ぽつり、、、っと、俺の傍らに佇むサーニャは小さく呟いた。

 だが、俺が見る限り、そのサーニャの言葉は父であるグランディフェルには届いていないようで。


 ざっ

 一歩

「我が娘サンドレッタよ、俺は『イデアル』である前に―――、」

 グランディフェルは、語りかけながら踏み出した。もちろん、サーニャに近づくためだ。


「、、、―――」

 一方のサーニャは、動かない。いや、俺の目には、サーニャは、半ば動揺して“動けない”ように見えた。サーニャの表情、それは、その碧の両眼に力を籠めて見開き、そして、その口元は一文字にしている。


 そんな娘サーニャを見詰める中、グランディフェルは、言葉を紡いでいく―――。

「―――、お前の父親。そして、俺がチェスター殿下の第一の臣下イニーフィネ皇国近衛騎士団団長グランディフェル=アードゥルであることは知っていよう」


「ッツ」

 ぎゅ、、、っと、サーニャは己の唇を食んだ。そして、その碧眼をやや細めて厳しくさせ眼前の父親グランディフェルを見詰める。

 もう、サーニャは動揺を抑えて、“この現実”を認めたのかもしれない。


「我が娘サンドレッタよ。先ほど殿下より俺に貴き命が下ったのだ。チェスター殿下より賜った、殿下が俺に下賜された御言葉は絶対であり、道理だ」


「―――・・・」


「尊きチェスター=イニーフィネ皇子殿下より俺に下賜された命とは、我が娘サンドレッタよ。確かにアイナ様はお優しいお方だ。俺もアイナ様の大いなる御慈悲を受けて救われた。だが、実のところアイナ様はその心に深き闇を、黯靄(あんあい)たる悪しき野望を、嗜虐的な心で、その大きな野心を心の内に隠し持っているそうだ」


「―――ッ・・・く、口を、、、黙って・・・ください、、、父よ」

 ぽつり。

 ぷるぷる、、、とサーニャのやつその拳を、震わせて。



「っつ」

 やべぇっ、サーニャのやつ爆発しそうだ!!もちろん自分の父親に対してだ。

 まさか、俺の“為すべき事”が、“その企て”が・・・!! “それ”ができなくなりそうになったときは、遠慮なく、父娘の間に割って入らせてもらう・・・っつ!!



「アイナ様は恐らく、失われし七基の超兵器を全てその手中に収める気だ。その七基を以ってこの五世界に君臨し、恐怖に拠る統治を執行(おこ)なわれるのであろう。サンドレッタよ、そのような悪辣な黒き野心を持つアイナ様とは袂を別ち、俺が、この父が忠誠を誓う偉大なチェスター殿下の元に馳せ参じてほしい。チェスター殿下は、弱きを助け強きを挫く方。臣下にそして臣民には決してその剣を向けることはなく、真にイニーフィネ皇国の行く末を憂い、我らが皇国、強きイニーフィネ皇国の復興に日夜邁進する尊き偉大なお方。我が娘サンドレッタよ、アイナ様とは袂を別ち、お前にも是非ともチェスター=イニーフィネ皇子殿下の下に、この父と共に馳せ参じてほしい」



 プツン・・・ッ

 くわッ

 サーニャは、その湖のように美しい碧眼を見開いた。

「ッツ黙れと言っている!! 父よ、かつて私の父であった者よッ、かつて私が尊敬をしてやまなかった者よッ!! そのような者であった貴方でも、我が主君アイナ様を侮辱するのは、この私が赦しませんッツ」


「っつ」

 サーニャがついに親父さんに対してキレた!!キレてしまった・・・っ!!



 びくっ!?

「サ、サンドレッタよ・・・?」



「・・・」

 グランディフェルでも、いくらグランディフェルのような勇猛な近衛騎士団長でも、怒った娘の剣幕にはたじろいでいるようで、とにかく俺の目にはそう映ったんだ。


 でも、サーニャは―――、サーニャの気持ちを俺は理解できるんだ。実際に俺が体験したわけじゃないけれど。

 アイナが皇立施療院からサーニャを外に連れ出してから以降、、、アイナとサーニャのその関係を、間近で見てきた俺。


 サーニャは。自分の親父さんそこにいるグランディフェルだが、その親父さんが仕えるチェスターが『イデアル』と結んで反乱を起こした。それを、皇国では過去に起きた惨劇『大いなる悲しみ』と呼称しているんだが。


 アイナの父であり、チェスター自身の兄であるルストロ殿下を謀殺したチェスター皇子。チェスター皇子、異能団団長エシャール卿、騎士団長グランディフェル、宮廷殺しの主犯のこの三名。


 サーニャは父親グランディフェルに連座して極刑に処されるところを、アイナとアイナの母アスミナさんが機転を利かしたおかげで、その地位の解任にだけに留まった。

 アイナの保護下とはいえ、だが、事実上の施療院への幽閉―――。

「っ」

 そんなアイナは、ずっとサーニャの無実放免に動いてきていて、やっとこの前それが認められたんだよ。そして、正式にサーニャは施療院への幽閉を解かれ、アイナの近衛騎士に返り咲いた。


 きっと―――。自身の無罪放免ために動いてくれていたサーニャの、主君アイナへの忠誠心と信仰は相当に、めちゃくちゃに高い決まっている・・・っ。



「かつて私の父であった者よ!! 父よ、近衛騎士団長グランディフェルよっ、アイナ様は決してそのような仄暗い野心を隠し持つ悪辣な暴君ではないッ!!」


「っつ」

 押し黙ったのはグランディフェル。先ほどは、サーニャを説得しようと饒舌だったのにな。


「父よ、、、宮廷内で起きたチェスター皇子の謀り『大いなる悲しみ』以降、母が、私が、―――かつて貴方が愛した者が、その母に降りかかった不幸を、悲しみを、辛苦を、罪悪感を、皇国を出奔した貴方が、それを想像したことはあるだろうかっ? 私達母娘には『イデアル』と、『謀反人』という咎が付いてまわった。どこに行くにも、父よ貴方の所為で、母も私も『謀反人』『逆賊』と言う言葉を投げかけられたのだ・・・ッツ」


「うっ・・・、っ、うぐ、、、それは、サンドレッタ・・・、、、す、すまなかった・・・、お前の母つまり、我が妻にも、、、く、苦労をかけてしまったようだ」

 しょぼん、、、っと、その肩を落とすグランディフェル。


 父グランディフェルのその言葉に、サーニャの眉間に皺が寄る。サーニャは眉を顰め、

「“我が妻”?」

 “はい?”と、言葉尻のイントネーションをワザと?大きく変えて、自分の父に疑問を投げかけたサーニャ。その彼女の表情も、その声色も憤りの色が見て取れる。


「うむ、、、あいつには苦労を掛けてしまったと、この父はそう思っている。サンドレッタよ、母にすまない、と、この父の言葉を伝えておいてほしい―――、、、」


 それは、

「―――」

 サーニャの冷たい褪めた眼差し。その視線は、その碧の眼は、チェスター皇子に附いてイデアルに入信した父親グランディフェルを、まるで蔑むもののよう。

 俺だって、もし自分の親父が、怪しげな宗教団体や結社に入信して、家庭を顧みない、家族を犠牲にしたら、たぶんきっと今のサーニャのような気持ちになると思う―――。

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