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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
354/460

第三百五十四話 大地の剱『魔砂の抱擁』

「日下流霧雨抜刀術―――、」

 その口上に呼応して鞘走るかのように―――、


 ―――、日下修孝は自身の流派の抜刀術の構えをとる。



 斬られる・・・ッツ!! 水氣の斬撃が来る・・・ッ!!

「ッ、試す者ッ上昇だ。空へっ空高くへ逃げろ・・・ッ!!」

 思いの丈を叫ぶかのように俺は、大声を張り上げた。


第三百五十四話 大地の剱『魔砂の抱擁』


 彼奴日下修孝の―――、

 キッ、っとした

「―――ッ」

 ―――、強い意志の籠った眼、その眼光鋭い双眸。その山犬のように鋭い眼差しは、俺を、試す者を斬る、という強い意志が籠った両眼。



 日下修孝・・・っつ

「・・・っつ」

 僅かな、ほんの僅かな、その刹那。太刀を構える、その太刀を今まさに抜かんとする日下修孝と、俺は今まさに視が合っているんだ。


 天雷山のその頂。天雷の嶽に鎮座する白亜の、女神フィーネの神殿。その門扉の前に、日下修孝は―――、空の俺達を、そのまるで山犬のような鋭い眼で、その視線で俺達をその眼に捉え。


 日下修孝は、厳かに、冷たく静かに。湯煙のような水氣に漲る日之太刀霧雨を、空を翔る燕を狙うかのように斜め上に、試す者に乗る俺達を斬り払うために、長大な日之太刀『霧雨』を抜き放つ。

「日下流霧雨抜刀術―――、」

「―――、濛氣、潏濬(けっしゅん)瀑泉濤瀾(ばくせんとうらん)


 斬。


 白銀に輝く水氣の白刃が弧を描くように迸る。



 あの『霧雨』の斬道―――。

「、う、、、く・・・ッ―――」

 確実に斬られた、はずだ。

 俺のこの眼に、日下修孝が抜いた霧雨の長大な銀色に輝く刃が、真っ直ぐに俺達を射るように、まるでその長大な太刀の刀身が延びるようにッ・・・だがそうではなくて。


 日下修孝の、その日之太刀『霧雨』の銀の弧を描く綺麗な、見惚れるほど優雅で、綺麗で、その動きの斬道に添って―――、



 バシャアァァアァァァッ―――


 ―――、大水。バケツをひっくり返して眼前にぶちまけたような―――否。違う、もっともっと多い水量。波濤、鉄砲水、瀑布―――・・・。


「ぐ・・・ッ!!」

 日下修孝が霧雨のその抜刀にて、その太刀筋に添って大量の水がスプラッシュする。まるで海嘯のように、俺達を襲う。


 一瞬にして、視界全てが水に覆われた。

 お、溺れ、、、ッツ。

 ごぼごぼごぼ―――、、、

「・・・、、、!!」

 い、息が、、、できない。

 咄嗟の事に、目をつぶり開けてはいられなかった。

 だが、俺の口に入った霧雨の水は、海の水のようにしょっぱいことはなく、真水。



「―――、、、ッツ」

 霧雨の高圧水流に抗うこともできず、俺達は後方へと流され、試す者ごと下からの爆発的な勢いの爆泉に圧されて、試す者は羽搏くこともできずに、宙を舞うように飛ばされており、その背に乗っている俺も、サーニャも、羽坂さんも一之瀬さんも一緒に、試す者と一蓮托生。


(やべぇ―――ッ水の流れに身体が持っていかれる・・・ッ)

 俺は左手で試す者のその後ろ向きに生えた角をただ掴んでいるだけ。右手に抜身の『大地の剱』が重い!! 水の抵抗か!!

 ずるっずり―――っ

(手が・・・っ)

 ダ、ダメだ。左手が、角から―――、外れる・・・!!

 つるんっ

「ッ!!」

 おわった、、、ッ


 水流に呑まれて俺は、左手が、試す者の、角から、、、滑らせたんだ。


「―――」

 空を見上げるその光景が、とても、緩慢に見えて。見上げたその空を前に、俺は大量の水に巻かれて落ちてゆく、地面に。



 俺という人ひとりの重みがなくなったおかげか、試す者は、なんとかスプラッシュしてきた水塊から脱出。

“くるるっ―――!!”

 その青黒い巨体を、空中で姿勢を起こし、その皮膜の翼を広々と伸ばした。


 ま・・・、いいか、、、。

「・・・征け、空高く」

 俺は試す者の雄姿を見届け、、、俺だけが落ちても、ま、いいか、と思えた。



「ケンタ殿ッツ!!」

 サーニャ。

「健太―――ッ!!」

 羽坂さん。

「小剱殿下・・・!!」

 一之瀬さん。


 未だに試す者の背に乗る彼女ら三人は、水に圧され流されて、地に落ちてゆく俺を、まるで車窓から下を見るように、見下ろしていて。


 そして、背中から地面に落ちゆく俺―――。

(あぁ、そうか、俺は落ちてゆくんだ。、、、なんとか、なんとか大地の剱魔法で・・・!! 地面に叩きつけられて、命を落としてしまうことは回避しないと・・・っつ!!)

 だらんと、右手に持った大地の剱。きゅっ、っと、俺は脇を締め、、、

 そのときだ―――。


 ごり―――、っ、っと。

「!!」

 胸ポケットでなにかが。皇衣の胸ポケットの中になにかがあるな、と。


 そうだ!!思い出した。俺は返さないと、それはもう、今しか、ない。

(奈留に羽坂さんに“アレ”を返さないと・・・!!)

 ぐっ、っと。


 俺は空いた手を、胸の内ポケットに、その皇衣の隙間から胸ポケットへ差し込んだ。

 ぎゅッ、っと、目的の物を握り締める。全身が、皇衣がずぶ濡れになるほどの水量だが、たぶんこれは大丈夫のはずだ。

 落ちていく俺。上に、徐々に小さくなっていく三人と、試す者の姿―――。早くしないと、完全に距離が空いてしまう!!届かなくなる―――!!

「奈留・・・ッ」

 俺は叫んだ。

「健太!?」

 羽坂さんはちょっと意外そうな顔。それがとても印象的。

「受け取れッ元々はお父さん信吾さんの氣導銃ッ 奈留きみに返す!!」

 ブンッ―――、っと。

「お、お父さん、の・・・っ」

「しっかりと受け取れ!!」

 俺は握った手の左腕を揮い、氣導銃『日下零零参號』を、羽坂さんに向かって、上空の羽坂さんへと投げ渡した。

 一瞬、驚いた表情になった羽坂さんは、でも、すぐにその表情を引き締めて―――、

「っ、、、ッ」

 ぱしっ、

 っと、羽坂さんは俺の投げた彼女の父親信吾さんの氣導銃をしっかりとその両手で受け取った。

「ひゃ・・・!!」

 おととと・・・っ!!

「奈留さん・・・!!」

 氣導銃を受け取った拍子に、身体の体勢を崩しそうになった羽坂さんを一之瀬さんが、その繋げたザイルを引っ張ってバランスを取る。


「・・・」

 そうか、そのときのカラビナとザイル、ね。

「ケンタ殿・・・っ!!」

 バッ、っと、俺の名を呼んだのと、ほぼ同時。サーニャは、試す者の背よりその身を躍らせた。

「ちょっおいっ!! サーニャっきみまで―――」

「ケンタ殿異論はありますまい!! 私は姫様とアターシャ殿より、ケンタ殿貴方のことを頼まれておりまする!!」


 ふぅ、、、“呆れ”もしくは“諦め”のほうの俺の“ふぅ”のため息だ。たぶんここで俺が異論を言ってもなぁ、サーニャのやつは。。。

「。。。(ふぅ)、、、解ったサーニャ」

 サーニャはたぶん俺の言い分を聞かないだろうし、それにもうサーニャは試す者の背から飛び降りてるんだし、、、。そうだ、腹を括れ、俺。

「ハっ、ケンタ殿!!」


 あと一つ、言うことがある。すぅ―――、っと俺は息を吸いこんだ。

「試す者ッ、俺達のことはいい!! 二人を奈留と春歌のことを頼んだぞッ!!」

“くるる・・・っ”

 俺の言葉を、意志を解しているようで、試す者は、“くるる・・・っ”っと、強く一啼き。その青黒い鱗の巨体を翻して羽搏き、空を登っていく。


「・・・」

 空高く行けば、さすがの日下修孝でも手出しはできないだろう。


 あとは―――っ、どう無事に、俺が、、、いやサーニャも含めて俺達が地面に着地するか、できるか、だっ!!

 地面に叩きつけられる前に、ここは、アネモネとの最初の特訓のときに会得した大地の魔法で決める!!

「大地の剱ッ『魔砂の抱擁』!!」

 きらきらきら―――、

 さらさらさら―――、

 っと、まるで大地の剱より光の砂が零れるようなそんな場景。大地の剱の刀身を犠牲にして、氣/マナを精製しているわけではない。


 ぶわっ―――、爆発的に魔砂の量が増大する!!

「ッツ」

 いけッ!! もちろん大地の剱魔法『魔砂の抱擁』を行使させたのは、俺が落ちていく背中側と落ちる地面!!

 背中や肩、後頭部から地面に叩きつけられても、巨大な布団のように、この柔らかくふかふかな『魔砂の抱擁』が俺とサーニャを包んで衝撃から守ってくれる!!


「―――っ」

 ドウっ、バシャアッツっと、俺は地面に背中から特に肩胛骨辺りから一気に地面に落ち、、、クレーターを造る隕石のように、俺とサーニャは高速で地面に激突。

 だが、俺が直前に行使した『魔砂の抱擁』によって、俺達は事無きを得た。

「ふぅ、、、―――・・・、」

 俺が着地した地点は、その行使後、マナを失いただの厚い砂地と化した魔砂。ぎゅっ、っと、俺は左手に力を籠めてその場に立ち上がった。

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