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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第三十ノ巻
352/460

第三百五十二話 黯黒魔女が為すべきことは

 その声の主は明らかに。その声はロベリアと同じ声。ロベリアの声に気づいて僅かの後、周りのことに気を回す余裕が生まれ、俺は周囲を見回す。

「どこだ―――」

 どこだ。どこにいる。こんな空中。試す者の背に乗って、空を征く俺達の周りは空中で、そこには、ロベリアがその足で立てるような地面なんかない、はずだ―――。


第三百五十二話 黯黒魔女が為すべきことは


 だというのにロベリアの声、その嘲るようなロベリアの声色。無論、俺の幻聴などではなく、アイナやその他の皆も聴こえたようだ。だから、決して俺の気のせいや幻聴などではなく、―――。


「ケンタ殿・・・っ!!」

「ケンタっこれは―――」

「健太。私達、追いつかれた・・・!!」


「ッツ!?」

 サーニャ、アイナ、羽坂さんのその声にハッとして、俺はロベリアの居場所を捜すのを中断。意識を、羽坂さんが言った、追いつかれた、の彼女の言葉を想起して、今度は周りに、試す者のその周囲に意識を向けた。


 ロベリアが、その黯黒攻撃魔法『黯輪三重(Trentet)黑黭葬(Kuroir)』を行使し、放ったとき、その飛翔時に見えていた黯輪の彗星のような尾はすっかりと消え、今度は試す者に付きまとうように、周囲にたゆとう黯い漆黒の球体。

 まるで、空を飛ぶ航空機に付きまとう銀球UFOのように。


 その闇黒天体のような黯輪の大きさはバスケットボールほどの大きさで、その数は放たれたときよりも少ない。撃ち落とした数を差し引いて十数個ほどだ。


 サーニャは、いつでも斬れる、と聖剣パラサングを斜に構え、アイナは落ち着き払っているように俺には見え、羽坂さんはいつの間にか、その手に黒い銃を持っていた。

 羽坂さんの銃、彼女が持つ銃。

(っつ)

 そうか、銃。俺は思い出したんだ、重要な事を。幸いにしてちゃんと皇衣の内ポケットの中に、ここに持って来てある。


“畏妃っ忌死尸屍屎っ♪あんたさえ来なければ、私のかわいいかわいい魁斗(カイト)消失()えることなんてなかったのにぃ―――”


 また聴こえた、ロベリアの声。その声はほんとうに恨めしそうなもので。

「!!」

 あんたさえ来なければ?魁斗が消えることがなかっただと? それは俺の事を言ったのか?俺に言ったのか?ロベリアは。 俺が魁斗をこの『選眼』で、日本に転がし送ったからか。


 ロベリアのその声は憾みの籠った色を醸し出したもの。それにしてもロベリアはどうやって、どのような方法で、俺達に聴こえるような声を。

 俺達にどうやって語りかけてきているんだ?


「あれはっ!!」

 と、そのときだ!!



 ずぅ―――、っと、『黯輪』の漆黒の表面、そこに顔が形づくられて。


 試す者を取り囲む『黯輪』。その表面。まるで黒い天体のようなその球の表面に、


 ずずずぅ―――っと。


 黯輪の球体のその表面に、顔が、まるで霊異のようにロベリアのその、やや半笑いの恨めしそうな顔が浮かび上がる。



“ひひっ♪ 私は、魁斗をやったあんたを赦さない。ひひっきゃははははははッ♪ 地上へ冥府へと堕落ち、、、―――”


 ぐむぐむぐむ―――っ


 俺の目の前で、黯輪の一つはその姿を変え、まるで棒か槍のような形状になり―――、その先が俺を向く。

 大地の剱をすぐに抜いて、黯輪ならぬ“黯槍”を迎え撃ち、切り返すべく、

「来る・・・ッ!!」

 俺は、その柄に手を掛ける。

 来るなら来い!!ロベリア・・・っ切り返してやるからよ!!


 ヒュンっ―――、っと、黯槍は。

「ッツ」

 来たッツ!!


 ところが―――。

「え・・・?」

 アイナの呆気に取られたような声。その声だけが俺の耳に深く印象に残った。


 しゅるしゅるしゅる、ぐむぐむぐむ―――、


 黒い棒状へと成り、その姿に変えた黯輪は、俺ではなく、俺を見向きもせず、すぐ後ろにいたアイナへと跳びついて素早く絡みつく。それは蛇のように、はたまたつる植物のように、アイナに螺旋状に絡みつき。


「くッ・・・!!」

 アイナの悔しそうなその声と表情ののち―――、

「アイナ―――ッツ!!」

 俺はすぐ後ろのアイナに、慌てて、その大地の剱を持っていないほうの左手を伸ばすもの―――、


 ずりずり―――、どさっ、っと、

 棒状に変化した黯輪はアイナを攫う。


 空中にて、宙ぶらりんになったアイナに、蔓状に絡みついた黯輪。その黯輪に、きゅきゅきゅきゅ―――っ、っと、周りの複数の黯輪は寄って行き集まり、

「ケンタぁあああああぁぁぁぁ・・・ッツ!!」

 ずりずりずり―――、っとアイナを、試す者の背より宙へと引き摺り下ろす。



“きゃははははははっ♪ ばかねぇっばかねぇっばかでちゅねぇっ♪ ケンタきゅんじゃなくてぇー、アイナちゃんでしたぁーっ♪きゃははははははっ♪ アイナちゃんげっとだぜぇーっ 畏妃っきししししっきゃははははははっ♪”


“いひっきししししっ♪ 私の黯黒魔法で、アイナちゃんを(けが)して黭黷闇堕(くらやみお)ち皇女に黯染めしてあげるわよんっ♪きゃははははははっ♪”


 闇堕ち皇女に穢すだと!?

 まさかロベリアも、魁斗と同じように、『黒印』みたいなことが、その黯黒魔法でできるのか!? アイナに黯黒魔法を掛けて・・・、意思はそのままに身体の自由だけを奪って、行動させることが―――。

 プチンッ

「ふざんけんなッ!! ロベリアッツ!!」



“畏妃っ忌死尸屍屎っ♪きゃははははははっ♪ そのキレた顔ちょー受けるんだけどぉケンタきゅんっ♪きゃははははははっ♪”


「ヶ、ケンタ・・・―――」

 俺の指を求めるかのように動いて足掻くアイナの右手指―――、

「くっ・・・アイナッ」

 俺は手を伸ばすものの―――、アイナの手を、その指を絡めることはできず、俺の左手は空を搔く。


「ま、待てッロベリア・・・!!」

 ツィー、っフゥ―――、っと、アイナが、空中へ、黯輪に絡め取られたアイナは、この場から空へと連れ去られていく・・・。



 タンッ、っと。そのとき

「アイナ様・・・!!」

 ひとり空へとその身を躍らせる人。


「アターシャ殿・・・!!」

 サーニャがその人の名を呼ぶ。

 ちらり、と。アターシャは、聖剣パラサングを持つサーニャを一瞥。

「ケンタさまを頼みましたよ、サンドレッタ」

 と、彼女アターシャは、そう言い遺して、すぐにその視線を、黯輪により攫われようとしているアイナへ。


 タッ、、、っと、その給仕服とお揃いの靴は、試す者の硬い青黒い鱗を蹴り、アイナの元へ。

「アイナ様、、、―――」

 空中で、アターシャは必死に右手を伸ばし―――、

「ね、従姉、、、さん―――」

 ぎゅっ

「アイナ様・・・っ」

 っと、アターシャの手が、アイナのその伸ばされた手を、その細い指を掴んだのが見えたのが、最後―――。


「アイナぁあぁああああああッ―――」

 俺の叫び声も虚しく。アイナ、、、とアターシャは、ロベリアに、その黑い黯輪に絡め取られ、連れ去られていく。


 蔦のように二人に絡みついた黯輪は、あの、さっきまで俺達が相手をしていた魔餓尽基がその根を張る場所に、そこにいるラルグスとロベリアのほうへと連れ去られていく。


 徐々に小さくなっていく。黯に絡み憑かれたアイナとアターシャは遠くに。徐々に距離が離れていく―――。


「くっ、試す者ッ方向転換だ・・・っ」

 アイナとアターシャが攫われたら、やられたら意味がない。俺は特に、意識を失ったアネモネに手を掛けようとしていたあのラルグスを一番危険視しているんだよっ!!

「今すぐアイナ達を取り返すッ!! さっきの場所まで―――、、、ッ」

 戻れっ、試す者ッ!!



 キラリ―――、視界の端に映る光。それはきっと“危ない”氣の輝き。


「ケンタ殿!!彼奴(ラルグス)め、なにかこちらを攻撃してきます・・・!!」

 俺にもそれが見えた。

「あぁっサーニャ!!」

 俺はその氣の輝きが視界の真ん中付近に来るように、そちらに視線を移した。



「今度こそ外さねぇ・・・!! 俺様が撃ち落としてやるぜ・・・ッ!!Et mitterent illud!!―――、」

 ラルグスの頭上に光る氣が棒状に集束していく。ラルグスは、まるで技を放つのときのポージングを、つまり自身の右手の人差し指と中指を、自分の額に当てる。

「―――、喰らいやがれッ、俺様の必殺『氣槍(サイコ・ハスタ) Psӯcho hasta』っ!!」


 ヒュン―――ッ、

 氣槍が―――ッ、


「―――ッツ!!」

 飛んでくる、まるで攻撃ドローンか地対空ミサイルのように。そっちに連れ去られていくアイナとアターシャとは反対の動きでそれは、ラルグスの氣槍は、ロベリアの黯輪に捕まって攫われていくアイナとアターシャの位置と、位置的に交差し、―――


 ―――、ラルグスのミサイルのような氣の投槍は、ぐんぐんと俺達に迫って来る。輝けるアニムスの光の尾を引き、ラルグスの地対空ミサイルのような氣槍は―――。


 かなり疾い・・・ッツ!!


 明らかに残った俺達目がけて放たれたアニムスの投槍は、試す者を射殺すような発射軌道をもって―――。

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