第三百五十一話 ―――、畏妃っ♪忌死尸屍屎っきゃははははははッツ♪ 『黯輪三重黑黭葬Trentet Kuroir』
「・・・」
・・・。やれやれだ。ロベリアとラルグスは相変わらず罵り合っている、、、いやひょっとして、喧嘩するほど仲がいい、っていうことなのかもな、ロベリアとラルグスは。
第三百五十一話 ―――、畏妃っ♪忌死尸屍屎っきゃははははははッツ♪ 『黯輪三重黑黭葬Trentet Kuroir』
あいつらの仲のことなんかどうでもいい。
「―――征こう」
俺は、視線を前へと、その先へと戻した。
「試す者。目指すは、神雷の神殿だ」
“くるる”
俺の言葉が解っているのか、試す者は、くるる、と小さく啼いた。
試す者は、大地に根を下ろした魔餓尽基を、その傍にいるロベリアとラルグスの射程に入らないように、大きく迂回しながら旋回するように、神雷の嶽を飛翔―――。
白亜の女神フィーネの雷基理守護の聖なる結界神殿の、その手前の神雷の嶽の凡そ八合目といった場所だろうか。その女神フィーネの神域。
スイーっと、旋回迂回するようにして飛翔する試す者の飛行ルートより、神雷の台地の頂、その嶽に鎮座する神雷の神殿に至るその参道を、俺は眼下に収め―――、
「―――っ」
視線を眼前にやれば、参道はそこまで登ってくると、天雷の嶽の尾根に沿って直登に変わるのだ。
その尾根の角度に沿って試す者は、ばさばさっ、っと、尾根に激突しないように羽搏き上昇しつつ、尾根の参道に沿ってその上空を飛翔する。
突然の、
「姫様ッ!!ケンタ殿ッ!!」
サーニャの声。その声色はひどく慌てた様子だ。
「アイナっ、健太・・・下っ。あいつっあの黒い魔女が・・・ッ」
羽坂さんもサーニャと同じくアイナを、それと、俺の名も、叫んだ。
黒い魔女?ロベリアのことか。
「アイナ様・・・っ」
アイナの第一の従者たるアターシャは、もちろんアイナを。
やっぱりッ
「ッ・・・!!」
俺はみんなに呼ばれて、もちろん視線を返すように送る先は。そこにいる者達は。
眼下より―――、俺達を、空を飛翔している試す者を含めた俺達を、じぃーっ、っと、ねちっとした視線で観ているのは、屍術師ロベリアだ。
にたぁ、、、っと、そのロベリアの口角が、まるで三日月ようになり、
「畏妃っ♪忌死尸屍屎っ♪逃、が、さ、な、い♪ ―――マナよ、カイセラ家との主従に応じ、我がイル・シオーネたる国主カイセラ家の血筋に、その血に応え―――『黮闇』を成せ―――、」
なんらかの黯黒魔法を行使すべく屍術師ロベリアは、魔法詠唱―――。
ぎゅ―――、っと、その大鎌『朱月鎌』の細長い柄を握り締め、赤熱化したような色合いの『それ』を擡げ、屍術師闇黒魔女ロベリアは―――。
じわりじゅくり、、、っと。
ロベリアのその大鎌『朱月鎌』を握り締める結んだ右手から、墨汁のような状態のその黯いマナが結ばれた右手より滲み出る。
ぐるりん、っと、その黯に染まる朱月鎌を一振り。
ロベリアは、自身の朱月鎌を空中で一回転させるように弧を描き、マナで空を斬る。すると―――、
明滅する冥色の魔法陣。円と、多角形が組み合わさった円形の魔法陣が、冥色に明滅を繰り返す。
「畏妃っ♪忌死尸屍屎っきゃははははははッツ♪」
ロベリアの、畏怖さえも感じるその高笑い。
ロベリアの黯黒魔法のその黑い気配。気持ちが悪くなり、吐き気を催し、胃から戻したくなるほどの、黩れ。
ロベリアの黯黒魔法の黑いマナに中毒り、インフルエンザに罹ったときと同じような、肌が、節々が痛くなるような寒気。
痛寒い。
「、、う、ッ、―――・・・」
まるで、あの世からこの世に、悪鬼や幽鬼、屍鬼が這い出でてくるかのような嫌悪感。
やばい―――、本当にこの背筋に走る冷たく怖じ気する感覚は、この悪寒はやばい。
ふしゅっ―――
ひゅぅ、、、どろどろどろぉ―――
黯い冥色を放つ円形の魔法陣。その円の範囲から暗闇よりももっとずっと禍々しい『黮闇』が、やがてそれは集まり体を成す。
黮闇は集まり、纏まってまるで人魂状に、黯い黭闇を灯した黯黒マナ弾へと変化し―――、、、
「―――、畏妃っ♪忌死尸屍屎っきゃははははははッツ♪ 『黯輪三重黑黭葬』・・・!!」
オアァぁぁぁ―――
地より放たれた砲弾のように、地対空ミサイルのように、『黯輪三重黑黭葬』は、曳光弾ではなく曳闇弾のように―――、
、、、―――それら無数の黒い弾は、ロベリアが詠唱した『黯輪三重黑黭葬』は、俺達を射、墜落させ地に叩きつけるために地より放たれた。
闇黒彗星のように黑い尾を引くその漆黒の球体の数は、先ほどあいつが行使・撃ってきた『黯輪黑黭葬』の五つの弾と違って、今度は、一、二、三、、、―――その数は、ぱっと見では読めないほど多い。
やばいッ、、、。俺は歯噛みした。
「くッ・・・、、、」
その一つひとつが、魁斗の『黒輪』と同程度の威力だとしたら、、、っつ、あの魁斗の黒輪一つでも、廃砦を木端微塵にするほどの威力だったんだぞ。
屍術師ロベリアは、魁斗の師匠のようなもんだろ?たぶん。あの黯黒マナ弾『黯輪』の威力は、魁斗の『黒輪』よりも破壊力がでかいと思え・・・っ!!
「来るぞ―――ッ」
思わず俺は皆に叫んだ。もちろん、その対象の中には試す者も入っている。
渦巻く黯黒マナの黭闇の球体・黯輪を、屍術師ロベリアは、試す者青黒い竜に、そして俺達に向かって放ったんだ―――、射落とす地対空ミサイルのように。
このまま何もせず、ただ指をくわえて黯輪の餌食になるというのなら、俺は行動することを選ぶ!!
打って出るしかねぇ・・・!!
「くっ!!」
ざっ、っと、俺は立つ。試す者のその青黒い竜の背に、その青い煌びやかな鱗の上に立つ。皇衣とセットになったその堅い靴で、俺はその足で、試す者の青黒い鱗の背中を踏み締めた。
「―――ッ」
オア―――ッ
というほどの、黒い群れが迫る!!
そう、この視線の先には、ロベリア黯輪の珠の群れ―――。やるしか、迎え撃つしかねぇ・・・ッ!!
サッ、っと、俺は大地の剱に、この手をかけ―――、
「私も参りますっケンタ殿・・・っ」
「サーニャ・・・!!」
俺が、この左手を鞘に、右手を柄に掛けたときだ、黄金の聖騎士サンドレッタが立ち上がったんだ。
ドウ―――ッツ
サーニャは、聖剣パラサングを抜いたが早いか、黄金色の氣の斬撃を、黯輪の一つにぶち当て迎撃。黄金色の氣の斬撃で、ロベリアの黯輪一つを相殺させて対消滅。
ドウッ、ドウッ―――
斬ッ、斬ッ―――
サーニャは、その大振りの氣の斬撃で黯輪を迎撃、続けて二つの黯輪を対消滅もしくは叩き落とす。
頼もしいなぁ。―――だが、俺だって―――、
「っ」
サーニャに負けてられねぇ―――、俺は、ぐっ、っと、アネモネの大地の剱のその柄を握り締め―――、
チリチリチリ―――ッ。
「俺も―――、っ!?」
熱気っ!?。
ハっ、っと、俺は。灼け付く空気。真夏の焚火ような熱気。緋色をした氣の光熱の波動。その氣配を後ろから、背中で感じ取った。
「っ・・・!!」
この氣の感覚は、肌が灼けつくようなこの熱氣の感覚は。この氣の感覚は、津嘉山三兄妹のものとしか、考えられない・・・。
その三人の中で、この場にいるのは。
「アイナ様、私も出ます―――、」
その氣はアターシャ、、、日之国の名前は火蓮。彼女のものしか考えられない。彼女は僅かに緋色の氣を醸し出すように、ゆらゆらと陽炎のような氣を身体より放つ。
「はい、従姉さん。ですが、あまり、そのご無理をなさらないでください―――、っ!?」
ハッとするアイナ。
ヒュン―――、っと、だが、多勢に無勢。俺達はあっという間にロベリアの数多の黯輪の群団に追いつかれ―――、
“畏妃っ忌死尸屍屎っ♪”
「!!」
声。すぐ近くで女の声。その口調、声色は―――、
「ッ!?」
「っ!!」
「アイナ様、この声は・・・っ」
「えぇ、従姉さん」
俺以外の、アイナも、サーニャも、アターシャも、もちろん羽坂さんも一之瀬さんも、黑い魔女のその嘲るような笑い声に気づいた、ようだった。
その声の主は明らかに。その声はロベリアと同じ声。ロベリアの声に気づいて僅かの後、周りのことに気を回す余裕が生まれ、俺は周囲を見回す。
「どこだ―――」
どこだ。どこにいる。こんな空中。試す者の背に乗って、空を征く俺達の周りは空中で、そこには、ロベリアがその足で立てるような地面なんかない、はずだ―――。