第三百五十話 ―――、いひっきししししっきゃははははははッツ♪ 『黯輪黑黭葬』
ロベリアの足元、血だまりならぬ黯だまり状の黯黒の闇黒の黑いマナより、湧き上がった魂ようで瘴気のような黑いマナは、俺の、俺達の眼下で徐々にその姿を球体へと変え、黯魂が纏まっていき渦巻くような球体になっていく。
ロベリアのそれは、魁斗の『黒輪』と全く同じであり、その表面はまるで写真で見た木星の大気をモノクロにしてさらに黒くしたようなものに似ていた。
黑い黯輪の中で、黒い魂のようなマナが不規則にゆらゆらと揺れながら、マナが自転するように回転している。
「ッツ」
っつ、あの黯輪!!大きくなっていくぞ・・・ッ
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『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十九ノ巻」』―――完。
第三百五十話 ―――、いひっきししししっきゃははははははッツ♪ 『黯輪黑黭葬』
黯輪は、ロベリアの魔法行使のその間合いというべき『黮闇』のその内で成り。
「―――畏妃っ忌死尸屍屎っ♪っ♪マナよ、カイセラ家との主従に応じ、我がイル・シオーネたる国主カイセラ家の血筋に、その血に応え―――『黮闇』を成せ―――、」
渦巻く漆黯の球体。その正体は黯輪だ。それを、試す者青黒い竜に向かって行使すべく屍術師黯黒魔女ロベリアは、魔法詠唱―――。
俺は、―――、
「―――っつ」
―――、その『黯輪』の、その破壊力の大きさと威力を知っている。魁斗と戦ったときに、この『選眼』の一つ『末来視』で、かつて―――、
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ドウッ、とその直後―――、『黒輪』は後方で大爆発を熾し―――、そ、そんなッ・・・―――!! う、うそだろっ嘘だといってくれよッ!!
アイナッ!! アターシャッ!! そこにいるはずのアイナやアターシャ、それにクロノスもグランディフェルまで跡形もなくその漆黒の爆風で消し飛ばし―――・・・
『え・・・っ』
視界が一瞬だけ、まるでピンボケのようにぶれて―――俺・・・いったいどうしたんだろう・・・。なにを見ていたんだ? ひょっとして幻でも見ていた・・・のか?
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―――、視得たんだよっつ
「来る・・・っ!!」
ぎゅ―――、っと、俺の眼下にて、神雷の台地の地面にて、その大鎌『朱月鎌』の細長い柄を握り締め、屍術師黯黒魔女ロベリアは―――
「―――、いひっきししししっきゃははははははッツ♪ 『黯輪黑黭葬』っ♪」
ぐるりん―――っ、
っと空中に円を描くように、そのマナで朱に染まった大鎌で空を、自身の闇黒のマナに満ちた空間を刈り取るような仕草で、手首を返して大鎌『朱月鎌』を一度転がし回す。
まるで、その大鎌の刈り取る刃で、誰かの首を刎ねその生命をも刈り取るかのような大鎌の、その刃の動きだ。試す者に乗り、先を急がんとする俺達の背後で、ロベリアは魔法詠唱に沿い合わせてその大鎌『朱月鎌』を揮ったんだ。
「あいつ、、、魔導書は持ってないよな?」
ロベリアがその自身の魔導書を持っているような様子はない。でも、その大鎌『朱月鎌』が、たとえば俺の『大地の剱』と同じような、魔法を行使するための媒体であり、魔法行使の必須アイテムなのだろうか。
その直後―――、
オアァぁぁぁ―――
「畏妃っ忌死尸屍屎っ♪きゃははははははっ♪」
ロベリアの黯黒魔法により行使された五つの黯輪が、まるでどす黒い煤煙を球体にしたかのような、ロベリアのどす黯いマナ弾『黯輪黑黭葬』は、ロベリアの手を離れ―――、
あの様子に俺は見憶えがある、またもや、だ。魁斗の『天王黒呪』―――『黒輪・・・十指連弾』に。その一個一個の黯輪の大きさは、ロベリアのそれのほうが、倍以上の大きさ、直径だが。
「ロベリアの闇魔法、あいつに魁斗の技にそっくりだぞ・・・!!」
思わず俺は叫んでしまった。
―――、試す者の背に乗って見下ろせば、その場から去ろうとしていた試す者に、いや俺達の背を追うように、追いかけるように、『黯輪黑黭葬』の五つの黯輪が、まるでミサイルか攻撃ドローンのように、俺達に迫って来ていた。
「避けられるかッ!? 試す者―――!?」
タンタンっ、っと、先頭に座す俺は、その試す者の青黒い鱗に覆われた頸筋を軽くたたく。
“―――”
くるる―――、っと。
「ッツ」
確かに鳴いた、一度、くるる、っと試す者は鳴いたんだ。
“避けられる”と。
解る!! 試す者が俺達に伝えたい意志が!!
「みんなッちゃんと掴まれ・・・!!」
手綱とかが試す者に着いていればいいんだが、残念ながらそれはない。
ぶわッ、っと試す者は、首を持ち上げ急上昇。
凄いGだっ!! まるで飛行機に乗ったときに感じるその加速度と同じ、いやもっとかもしれない!!
「ッ」
ぐ―――ッ、、、
「く・・・っ」
アイナの苦悶の声。
「アイナ様ッ」
「姫様ッ」
もちろん従者の二人アターシャとサーニャはその声から、主たるアイナの事を気にかけていて、
「奈留さん・・・!!」
「うんっ春歌・・・っ」
一之瀬さんと羽坂さんの切迫した声がすれど、俺もその二人の姿までも、後ろを振り返ってこの目で様子を確認する余裕はなかった。
急上昇に急旋回と試す者は、二度大きくその飛行体勢を変え―――、慣性の法則に従い乗員たる俺達にも強力な加速度的な重力が襲う。
だが、試す者の舞うような飛翔のおかげで俺達に黯輪が直撃することはない、と思う。
ぶわ―――っ
ぐお、、、っ
と、二つの『黯輪』が、試す者の真下と、左斜め下を、まるで漆黒のミサイルのように、どす黒い煤煙のような漆黒のマナの尾を引きながら通過していったから。
その黯輪が、俺達が乗る試す者とニアミスして通っていったときには、気圧されるぐらいの威力とその悪寒。それらを肌と心で感じた。
でも、
「まだだ―――ッ」
通りすぎていった、回避できた黯輪は二つ。あと三つも残っている。どこだ、下か上か、左か右か。どこから襲来する?
ッツ、後ろからの追尾の闇黒魔法、『黯輪黑黭葬』の残り三つをこの俺の魔礫牆で防ぐか?
がくん―――ッツ
「おわ・・・ッツ」
ふわっ―――、っと身体が浮く感覚。
急失速―――っ、落ちている!?
「試す者!?」
いや、大丈夫だ。試す者を改めて確認しても、どこかをロベリアのあの黯黒魔法『黯輪』で撃たれたわけではなさそうだ。
試す者は、きゅっ、っと、その皮膜の翼を折り畳んでおり、その所為で失速―――。高度を急に下げたようだ。
「ッツ」
ギュオ―――
マジか!!
「ッツ」
上空を見上げれば、今まで試す者が飛翔していたところを、二つの黯輪が射抜くように、どす黒い煤煙のような闇跡を遺して、黯黒魔法の二つの球い黯輪が、空の彼方へと飛んでいった。
バサ―――、っと、試す者は、危機が去ったのち、その皮膜の翼を再び広げ、
“くるるる―――”
クン―――、っと、飛行姿勢を取り戻した試す者は再び、空高くへと上昇する。
あと一つ・・・!!
「どこだ・・・!!」
最後の黯輪はどこにある!!どこから俺達目掛けて飛んでくる?!
ロベリアはその黯黒魔法で、五つの黯輪を俺達に行使したはず・・・だっ!!
すると―――、
「っ!!」
サーニャは素早く立ち上がると、
「せや・・・!!」
その直後、サーニャは抜身の聖剣パラサングを振るい―――、
ドウ―――ッツ
サーニャの、黄金色に輝く彼女の氣の斬撃が、後方で、試す者のそのすらっとした尻尾の向こうで、サーニャの黄金色の輝く三日月型の斬撃が、最後のロベリアの闇黒魔法の黯輪を迎撃。
相殺、撃墜した。
「やりましたっ姫様・・・!!」
「えぇ、サーニャ。よくやってくれました」
アイナはサーニャに労いの言葉を掛けた。
一方で、
「あいつらを―――、」
―――、今は野放しに、か。俺は、ぽつり、っと呟いた。
―――、ロベリアとラルグス。イデアルの十二傳道師の二人をこのまま出し抜くことができればいいんだが。その上で、さっさと『雷基理』を取りに行く!!
俺は、眼下の、遠くになりつつ、小さくなりつつ奴らロベリアとラルグスを、この選眼で視れば。
「っつ、ちょこまかと・・・!!」
ロベリアは舌打ちして、悔しそうにして俺達を見上げていたんだ。
「あーあ、逃げられたぜ・・・。ロベリアてめぇが、しゃしゃり出てきて余計なことを言ったせいだぜ?だから、あいつらを逃がしたんだ。俺なら氣刃投射でやれたはずなのによぉっ、とろとろしてたお前の所為だぜ。。。ったく、よおぅっ」
おふぅ、、、っと、ラルグスは呆れたようなその態度でロベリアに悪態を吐き、彼女を詰った。
カチン、っ。
「、っ・・・。ラルグスあんたのほうこそっ。さっきの、初めのあんたの氣刃投射が、ぜ~んぶ弾かれたのは忘れたのかしら?いひっきししししっ♪」
「あ、あれはちょっと油断しただけだ・・・っ」
「ま、なんでもいいからラルグス。あんたも手伝いなっ!! その氣刃投射でもなんでもいいから・・・、奴らを撃ち落としなさいなっ!!」
「っつ、そんなカリカリすんなよ、ロベリア。厚化粧が剥がれ―――」
「あ゛ぁん?なんだって?ラルグス。あんたから先に真っ黯にしてやってもいいんだけど」
「いひっきしししし―――、ってか?ロベリア。お前のその笑いいつも見て思ってたことなんだけどよ、この俺様が思うに―――、」
「・・・」
・・・。やれやれだ。ロベリアとラルグスは相変わらず罵り合っている、、、いやひょっとして、喧嘩するほど仲がいい、っていうことなのかもな、ロベリアとラルグスは。