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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第四ノ巻
35/460

第三十五話 日之国三強の一角―――

第三十五話 日之国三強の一角―――


 ゆらっとその長い日之太刀を腰に差した男はゆっくりと俺達がいるほうへ一歩また一歩と静かに歩みを進め―――

「っつ」

 やっぱりここにやって来たのはクロノスか・・・!! クロノスは特段なんの感情も顔に表さず淡々とした態度で、ゆっくりと歩いてきた。

「魁斗、グランディフェル」

「クロノス義兄さんっ!!」

 クロノスを一目見てうれしそうにするな、魁斗。

「久しいな、クロノスよ」

 クロノスという剣士の登場に魁斗は喜びに色めき立ち、グランディフェルはその口角をにやっと吊り上げた。

「クロノス義兄さんも健太を説得するのを手伝ってよっ―――健太はきっと僕達のことを誤解してて―――」

「もうよせ、魁斗。俺は話を聞いていて、小剱 健太は俺達の同志ではないことがはっきりと解った」

 無表情だ、クロノスの奴は。ふぅ・・・でも良かったぜ。俺としてはクロノスが魁斗に同調しなくてほんとよかった。クロノスまで俺のことを『絶対に仲間にしたい』と言い出したら、ほんとにどうしようかと・・・。ふぅ・・・っと俺は安堵に胸を撫で下ろす。

「ク、クロノス義兄さん・・・。でも僕は健太を・・・」

 でも魁斗のほうは、クロノスの言葉を聞いて俺が見て解るほどに、魁斗はがっくりと肩を落としたんだ。魁斗お前の仲間には、俺はならないからな、絶対。

「下がっていろ、魁斗。お前は手出しをするな。俺がやる」

 知らない人が見たらぜったいかっこいいよな、クロノスの奴。顔は厳しめだけど、かっこいいし、声もいいし―――クロノスって言っていることはかっこいいけど、やろうとしていることは最悪だ。つまり魁斗の代わりに俺達を殺すつもりなんだ、その日之太刀を抜いて。だって魁斗も言っていただろ、クロノスはすぐに人を斬る奴だって。

「・・・クロノス義兄さん・・・うん」

 クロノスは数歩進み出て、魁斗の立ち位置を追い越した。

「―――」

 クロノスは無言で口元と一文字に閉め、その眼光は、まるで空から急降下してくる猛禽(もうきん)のように鋭かった。

「アイナ様、あの日之太刀を持つ男は―――・・・!!」

 珍しい。あの冷静なアターシャが動揺してる? アターシャの声には驚きの色が混じっていたんだ。その表情にも―――

「えぇ・・・アターシャ。まさかあんな者までこの場いるとは・・・」

 それに明らかにアイナの声も一緒だ・・・、驚いてる。ひょっとして二人は―――

「二人ともクロノスを知ってるのか?」

 俺は目の前に佇む剣士クロノスから目を離さずに二人に問いかけたんだ。もし、クロノスから目を離してしまってそのまま斬られでもしたら、ほんと洒落にならないから。だってあいつクロノスって辻斬りなんだよな?魁斗が言うには。

「は、はい、ケンタ。あのクロノスという者はこの五世界では知る人ぞ知る日之国の中でも最も強いと云われている一人です」

「ケンタ様、あの者は日之国三強の一人―――剣士『先見(せんけん)のクロノス』と呼ばれている者です」

「最も強い一人ッ!?」

 ―――う、うそだろ・・・!?

「ケンタ様これを―――」

 え?アターシャってば、なんだろう・・・? アターシャはその給仕服の中からどこからともなく取り出したタブレットのような通信端末を、はいっという具合で、その液晶画面を俺が見えるように向けた。

「えっとそれは?」

 ひょい、っと俺はそのアターシャから給仕服から取り出したタブレットの液晶画面を見た。

「ケンタ様、この端末は日之国の警備局の幹部隊員が用いる通信機と同型のものでございます」

「え?」

 日之国の警備局・・・?幹部隊員?が用いる通信機って・・・俺から見れば日本では普通の、普通にあるタブレットとよく似てる・・・。

「・・・!!」

 すると―――、そこに写真付きでクロノスという男の簡易プロフィールと犯罪歴なるものが記されていた。あ、れ?クロノスの写真が若い?あれって学校の制服を着ていないか?うん、そうだ、そうだよ。このクロノスのいくつかの写真はどれも若くて、しかも、学生証に使う写真と、在学中に撮られた写真ばっかり・・・たぶん。

「・・・」

 しかも、クロノスの名は偽名ということまで。本名のほうはいたって普通で―――日本人つまりこの世界では日之民と同じものだ。

 そして、特記事項に『先見のクロノス』『北西戦争の生き残り』『重犯罪者』『日之国三強の一人』の文言―――

 廃砦で初めて会ったときのクロノス。―――あのときクロノスの剣氣のようなものを感じて・・・俺はすでに解っていたことだけど。

 俺は顔上げて、アターシャが右手に持つタブレットから視線を外して今度は交互にアイナとアターシャの顔に視線を送る。

「日之国三強・・・って、言うぐらいだから・・・めちゃくちゃ強いんだよな、あいつ!?」

「はいケンタ。私の知っている限り、日之国政府は過去幾度かクロノスの元に日之国軍特殊暗殺部隊や刺客を送り込み、また手練れの賞金稼ぎなども差し向けましたが、誰一人として生きて帰ってきた者はいません。いずれの部隊もクロノス一人の前に全滅しています」

 ってアイナが・・・。

「そッそんなに―――!!」

 そ、そんなにッ!?あいつが!!すっげー無表情のままだけど・・・。俺は思わずクロノスを見てしまったんだ。

「―――」

 軍の部隊を全滅させるほどそこまで強いのか・・・!!


「―――」

 クロノスはアイナのそんな話が聞こえているはずだ。でも、クロノスは口を一文字に閉ざし、表情も全く変えなかった。

「・・・ぐ、軍の暗殺部隊が全滅!? も、もしそれがほんとなら、クロノスってとんでもない化け物じゃねぇか・・・!!」

 そのアイナが言う話も確かに誇張の事実もあるかもしれないけど、確かにクロノスは相当の実力者ってことだけは解る。俺は廃砦でクロノスと少し話しただけでこいつの強さが解ったんだ。そのクロノス自身の剣氣のような気迫に中てられたこと、クロノス自身が持つ『霧雨』という銘の日之太刀―――。

「―――・・・」

 でも、なによりも軍の暗殺部隊を全滅させるぐらい強いなんて・・・、クロノスの奴―――・・・化け物だ。

「えぇ、そのような者が日之国にはあと二名おり―――」

 え!!ほんとかよ、アイナッ!!

「ッ!?」

 あと二人もいるのかっ!? いったい誰と誰なんだよ!?そんな奴って・・・!!

「―――日之国政府上層部の中には『三強』の強を狂うと書いて『日之国三狂』という者さえいます」

 そ、そんな冷静に、アイナ。

「―――ッ!!」

 く、狂うってなんだよ!!クロノスを入れてそんな軍の部隊を単身で壊滅させるような、そんな規格外が三人もいるってのか!? どうなってんだよ、この五世界―――。

「そ、そんな『三強』一人がクロノス・・・―――」

 ゴゴゴゴゴゴ・・・っと、そんな奴らの一人が今俺の目の前に―――いる。

「アイナ様、ここは一旦退きましょう」

 すぅっとアターシャはそのタブレットを畳んで?給仕服の懐の中に仕舞いつつ―――

「アターシャ。この千載一遇(せんざいいちぐう)の好機を逃せば、チェスターに繋がる紐を手繰り寄せることはできなくなります。このような好機が次も私の前に訪れるかどうか分かりません」

「し、しかしアイナ様!! 『炎騎士グランディフェル』だけならともかく、あの『先見のクロノス』までいては、そう簡単に事は進まないかと存じあげますっ」

 アターシャめちゃくちゃ焦ってるな。

 昨日見ていた限り、アターシャがここまでアイナに食い下がるようなことなんてなかったのに。アターシャは常にアイナの傍らにて必要なことしか口を動かさなかったのに、今回の、今の必死のアターシャの姿を俺は初めて見た。

「アターシャ」

「アイナ様、このアターシャ御無礼を承知で申し上げます。私達がこの状況で下手を打てば、こちらが全滅ということもあり得ます。それにあの『ユーキ=カイト』という者、彼の異能を見た者は未だにおらず、彼の底が知れません。未知なる異能にてケンタさまを奪取されるやもしれません」

 魁斗がそんなに?まるでめちゃくちゃ強いみたいに? それに俺を奪うって・・・いや、うんあり得るな。今の魁斗を見れば。なんなんだよ、あの執着心は!?って思うぐらいにさぁ。いい加減さっさと俺のことを諦めてくれよ、なぁ魁斗。

「俺が奪われる?」

「はい、ケンタ様。貴方は『転移者』。『転移者』のその未覚醒の能力は強大で、また無限の可能性が秘められています。おそらく彼ら『イデアル』はそこに目を付けたのでしょう。ケンタさまが『イデアル』に奪われれば、我々を以てしても、ケンタ様を奪回することは非常に難しくなることでしょう」

 強大で無限の可能性? そんな異能の力が俺に備わっているなんて考えられないんだけどな、ははっ。

「まじか・・・てか、俺は『イデアル』と一緒に行きたくないぞ。アイナ、ここは俺もアターシャに一票入れるわ」

「―――・・・」

 思案顔のアイナに、アターシャはさらに口を開く。

「アイナ様、私達の意見にどうか御一考を」

 アターシャは両手をお腹の上で交差させ、すぅっと綺麗な動作で腰を追った。

「そう・・・ですね。ケンタが危ないと解った以上、アターシャ貴女の進言を受け入れ、ここは一旦退きましょう」

 ほっと安心したのかな、アターシャ。強張っていたアターシャの顔が力の抜けたのように見えたんだ。

「この私めの進言にお耳を傾け、またお聞き届けてくれましたこと、このアターシャ大変うれしく思います。有難う御座います、アイナ様」

 アターシャが、給仕服のお腹の上で両手を重ね、その括れた腰を折ったそのとき、それは起こったんだ。

(いな)ッ!!」

 おわっでっかい声だなっ!! また『否ッ』かよ、グランディフェル・・・。

「「「!!」」」

 いきなりの野太く重厚な男の大声―――その声の主は鎧男改めグランディフェルだ。ほら、あいつらだって、同じ仲間のはずのクロノスや魁斗でさえもぴくっと身体を震わせて内心あいつらもびっくりしたんじゃないか?

 そんな感じのアツい大きな叫び声のような声だったんだよ、グランディフェルの声は。グランディフェルはずいっと一歩身を乗り出し―――篤く語りだす。

「従者たる者ッ、主君を(そそのか)し、主君の心変わりを促してはならないッ!! 我ら従者にとって主君の命令とは絶対なのだッ!! 我ら従者は主君に対し疑念を持つことこそ『悪』なのだッ!! 違うかね?ツキヤマ殿」

 つきやま殿?いったい誰のことだ・・・?

「??」

 『つきやま』って明らか日本人・・・えっとううん、この五世界では日之民だよな? 月山?それとも築山? いったい誰に向かってグランディフェルは『つきやま殿』って言ったんだろ?

 それともグランディフェルは見えない人が見えるような人なのかな?ううん、んなわけないだろ。きっとアターシャのことだって。

 だってグランディフェルは明らかにアターシャを見ているんだもん、その視線は。でも、アターシャはそのグランディフェルの視線を受けてさ―――、あれ?アターシャなにも言い返さないの?

「―――」

 アターシャは何か言いたげな目つきでグランディフェルをちらりと見たんだ。ひょっとしてアターシャもグランディフェルを知っているのかもな・・・?

 喋りかけないで。無視。眼中にない。他人だ。退屈な人。そんな感じのアターシャなんだよなぁ。

「私は、アイナ=イニーフィナの名の下でグランディフェル貴方に言いましょう」

 今度はアイナ?なんだろグランディフェルになにか言いたいことでもあるのかな? その、威厳のある口調は。ちょっとかっこいいと思ったじゃないか、俺。

「アイナ様?」

 うん、アターシャだってきっと俺と同じだ。アターシャもアイナを見たぞ?

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