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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十九ノ巻
348/460

第三百四十八話 黒、黑、黯―――。静かに黮闇たる黑が世界に滲み出る

 それよりも―――、

「なっ、なんだと―――!!」

 ロベリアの言葉で引っかかったことがある。同類の兵器でしか、七基の超兵器は壊せない?だと!!


第三百四十八話 黒、黑、黯―――。静かに黮闇たる黑が世界に滲み出る


「どうすりゅー?このままじゃぁ、きみのケンタきゅんの愛しのアネモネちゃんが、干乾びて死んじゃうよぉー♪ うわぁーん俺のアネモネちゃんが、アイナじゃなくて俺の本命のアネモネちゃんが、死んじゃうー♪助けてぇーロベリアちゃぁん!! いひっきしししし―――きゃははははっ♪ ほんとはぁ―――、ケンタきゅんは、アイナちゃんじゃなくてぇーアネモネちゃんのことが本命なのにぃ♪アネモネちゃんのほうを愛しているのにぃ♪ いひっ、きししししっ♪きゃはははははっ♪」

 けたけたけたけたっ


 あのやろう、、、っつ

 確かにアネモネだって、俺にとっては大切な人だけど、アイナを“想う”それとは少し違う。


「―――っつ」

 待て、抑えろ、、、俺っ

 ロベリアへの怒りで感情的になるなよ。助けられる者も助けられないぞ。


 だけど―――、


「(ギリ―――)ッ」

 アイナは。


 びくぅ―――ッツ

 ひぃ・・・ッツ

「ッツ」

 俺の背後で、すぐ後ろから聴こえた、ギリッ、っという歯軋り。

 こわくて後ろのアイナを振り向けないぜ、、、。きっと、アイナの怒りの歯噛みだ。


 そんなロベリア。今度はその琥珀色の眼の視線を俺からアイナに向ける。

「ねぇねぇ♪アイナちゃんはぁ、なんで“最愛の導具ケンタきゅん”に、七基の古代兵器の壊し方を、ちゃぁんと、教えなかったのかなぁ? いひっきししししっ♪ 結局アイナちゃんはぁ~、ケンタきゅんのことを、ただの導具程度にしか見てないってことねー。きゃはははははっ♪ バカねぇ♪バカねぇっ♪バカでちゅねぇ憐れなアイナちゃんとケンタきゅんっ♪ ケンタきゅんはぁ、すっかりと、愛しのアイナちゃぁんを信じきっちゃてるぅー♪ バカねぇ♪バカねぇっ♪バカでちゅねぇ、いひっきしししし―――っきゃははははははっ♪」



「―――」

 ロベリア、お前は―――。



「ねぇねぇケンタきゅん♪ アイナちゃんは、きみのことを単なる都合のいい導具としてしか見ていないのにぃ―――、いひっきししししっきゃははははははっ♪」



 すぅ―――っ、っと俺は大きく息を吸い。

「それがどうしたっ。ロベリアお前は俺達をナメすぎだ・・・!!」


「ほえ?」


「俺とアイナは、そんな“瑣末な事”は、もうすっかりと乗り越えているんだよッロベリア―――ッツ!!」

 きっとそれは、アイナとサーニャだって。


「あ゛ぁ?てめ、なんだって?」

 今までの、俺をバカにしたような口調は鳴りを潜め。ロベリアの顔から、すっ、っと、明るい表情が抜け落ちた。


「“その血が”泣くぞ、ロベリア」

 俺が何も知らないとでも思っているのか?お前は。


 ロベリアの顔。その顔に緊張と驚きと焦りの色に染まる。

「―――ッツ」


 俺は、ロベリアが、初めて動揺しているところを見たというわけだ。


 一方で、俺の脳裏に、あのときの俺を鍛えてくれたときの、あの人のそのときの情景が浮かび上がる―――、


///


『実はケンタさまに討ち取ってほしい者がいるのです』

『はい、ケンタさま♪ 私が遺恨に思っているその者達の名は『屍術師ロベリア』と『不死身のラルグス』―――、、、』


///


 ―――、だから俺は、ミントいやアネモネから聞いて全部知ってんだよ、ロベリア―――。


「ロベリア。俺はお前の所業。成したこと、それを全て知識()っている」

 俺は依頼主であるミント、、、いやアネモネより、そのターゲットであるお前の、ロベリアに関する全ての情報は受け取っている、に決まっているだろう?


 ちり、ちりちりちり―――、俺は『大地の剱』に満ちる氣を高めて。


 お前が『七基の古代兵器は、同類の兵器でしか壊せないのよ』と、七基の超兵器は、同じ七基の超兵器でしか壊せないというのなら―――、“それ”しかないよな。

 きっと、“それでしか壊せない”ということに関しては、事実だろうし。


 このまま魔餓尽基を壊そうとして、手を(こまね)いている間に、もし―――、考えたくはないことだけれども、もし、アネモネがその魔力を吸い尽されて、先に力尽きてしまえば、、、元の子もない。


 だったら―――、“それ”しかないよな?

「―――」

 俺は、眼下を、そこの魔餓尽基を、ロベリアを、睨み付けたまま、俺自身の考えを悟られないようにその姿勢のまま、やや身体を反らし屈めた。


 神雷の台地の大地に、俺のその眼下―――。

 常人の視力では豆粒程度の大きさにしか見えない奴ら。あいつらも、俺のこの『選眼』のように視得るなんらかの“力”か“導具”があるかもしれない。


 だから俺は、ラルグスとロベリアには見えないように、俺は試す者の影に入るようにしたんだ。


 アイナやアターシャ、俺が展開させていた魔礫牆の足場より戻ってきたサーニャ、それと一之瀬さんや羽坂さんには、その彼女達の耳には聴こえるように。

 そして、一番の功労者になるであろう“彼女”の、その青黒い鱗が、少し薄くなって部位に、顔を寄せ―――、つまり、“彼女”とは青黒い竜“試す者”、その鱗の耳元で、

「先に神雷神殿のほうに行ってくれ。そこで、俺が雷基理を抜いて魔餓尽基をぶっ壊す・・・!!」


 だが、アイナのその冷静な藍玉の、目は口程に物を言う、の視線が俺を見る。

「ケンタ。それはあの賊二名を野放しにしたまま危険を顧みず、先ずあの大地の魔女を真っ先に―――、」

 助けるということですか、と?彼女アイナは俺に。


 その、俺には解る、アイナはやや妬いているというか、少し一言、、、というか。きっと、それは、俺が思うアイナの魅力的なところのひとつ。

「すまん、アイナ。俺はアネモネを助けたいんだ。その代わり大地の魔女アネモネには、アイナの宮廷魔法使いになってもらうから」

「・・・、」

 ・・・一瞬、きょとんと、その藍玉のような眼をさせ、

「ふっ、ケンタ貴方らしいですね―――、」

 と、アイナはかわいく吹き出してその笑みをこぼした。

「―――、いいでしょう、貴方の意志に、私は従います。その代わり―――」

 すっ、っと、立ち上がったアイナは俺の耳元に、顔を、黒髪も寄せて、そのみずみずしい血色のよい唇を動かし―――、

「そろそろ、皇帝である祖父に、ですね、・・・―――、」

 ―――、俺に、俺だけに聴こえるように、その愛の言葉を囁き、囁いた。

「、、、っ///―――、解った。ありがとう、アイナ」

「ふふ、えぇ、よしなに」


 短くて、でも俺達にとってはとても重要な話を終え、

 俺はアイナから視線を切って、前へと戻す。


 雷都。かつての古き大イニーフィネ帝国の聖地の一つ。その遠き青き空、雲る鉛色の雷雲、紫電、その雷鳴轟く神雷の頂。

 聖なる神域、そこに佇む白亜の天雷岩の石造りの神雷の殿―――。俺が目指すべき場所。


 ぺし、っと、俺は軽く試す者のその青黒い鱗の頸筋を撫でるような合図で、俺の意志を伝える。

「―――征くぞ、試す者」



「いひっひひひひっきししししっキャハハハハハ―――ッツ いい、いいわっ凄くいいわッ貴方その意志の籠った何かを企む眼、その剱氣―――。コツルギ=ケンタ貴方は私の麾下の、屍揮官にぴったりね―――いひっきししししっきゃはははははは・・・♪」


 でも―――、っと屍術師ロベリアは。


「私から逃げられると思っているの?コツルギ=ケンタ―――いひっきししししっ♪。 ―――、」


 ぴた―――。


 ロベリアは、その気色悪い笑みを止めた。真面目で、おふざけのようなものを感じさせない無表情のその顔は、まるで嵐の前の静けさ。


 漣波紋一つとして起こらぬ鏡のような湖の様。

 風が止み凪いだ海の様。

 そして、そこに石を投じるかのように、静かにロベリアは、その血色のいい唇を、その口を開く―――。

「畏妃っ忌死尸屍屎っ♪ 我ロベリア=カイセラ・ディ・イルシオーネの真名の下に、魔法王国を総べる我がイルシオンの血脈が、その血が闇たる黯黒魔法でこの世に呪いを為そう―――、」


 じわ。

 黒、黑、黯―――。


 じゅく。

 静かに黮闇たる黑が―――、


 じゅくり。

 ―――、この世界に滲み出る。


 冷たく、

  黯き、


 静かに、

  點みが、


 拡がり、

  黷し、


 この世に、冥界の悪鬼が、幽鬼が、屍鬼が、屍喰鬼が、地の底より、黮闇から、這い出て、この世を毀し尽くし、跋扈する、前兆のような―――、月隠(つごも)り。

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