第三百四十八話 黒、黑、黯―――。静かに黮闇たる黑が世界に滲み出る
それよりも―――、
「なっ、なんだと―――!!」
ロベリアの言葉で引っかかったことがある。同類の兵器でしか、七基の超兵器は壊せない?だと!!
第三百四十八話 黒、黑、黯―――。静かに黮闇たる黑が世界に滲み出る
「どうすりゅー?このままじゃぁ、きみのケンタきゅんの愛しのアネモネちゃんが、干乾びて死んじゃうよぉー♪ うわぁーん俺のアネモネちゃんが、アイナじゃなくて俺の本命のアネモネちゃんが、死んじゃうー♪助けてぇーロベリアちゃぁん!! いひっきしししし―――きゃははははっ♪ ほんとはぁ―――、ケンタきゅんは、アイナちゃんじゃなくてぇーアネモネちゃんのことが本命なのにぃ♪アネモネちゃんのほうを愛しているのにぃ♪ いひっ、きししししっ♪きゃはははははっ♪」
けたけたけたけたっ
あのやろう、、、っつ
確かにアネモネだって、俺にとっては大切な人だけど、アイナを“想う”それとは少し違う。
「―――っつ」
待て、抑えろ、、、俺っ
ロベリアへの怒りで感情的になるなよ。助けられる者も助けられないぞ。
だけど―――、
「(ギリ―――)ッ」
アイナは。
びくぅ―――ッツ
ひぃ・・・ッツ
「ッツ」
俺の背後で、すぐ後ろから聴こえた、ギリッ、っという歯軋り。
こわくて後ろのアイナを振り向けないぜ、、、。きっと、アイナの怒りの歯噛みだ。
そんなロベリア。今度はその琥珀色の眼の視線を俺からアイナに向ける。
「ねぇねぇ♪アイナちゃんはぁ、なんで“最愛の導具ケンタきゅん”に、七基の古代兵器の壊し方を、ちゃぁんと、教えなかったのかなぁ? いひっきししししっ♪ 結局アイナちゃんはぁ~、ケンタきゅんのことを、ただの導具程度にしか見てないってことねー。きゃはははははっ♪ バカねぇ♪バカねぇっ♪バカでちゅねぇ憐れなアイナちゃんとケンタきゅんっ♪ ケンタきゅんはぁ、すっかりと、愛しのアイナちゃぁんを信じきっちゃてるぅー♪ バカねぇ♪バカねぇっ♪バカでちゅねぇ、いひっきしししし―――っきゃははははははっ♪」
「―――」
ロベリア、お前は―――。
「ねぇねぇケンタきゅん♪ アイナちゃんは、きみのことを単なる都合のいい導具としてしか見ていないのにぃ―――、いひっきししししっきゃははははははっ♪」
すぅ―――っ、っと俺は大きく息を吸い。
「それがどうしたっ。ロベリアお前は俺達をナメすぎだ・・・!!」
「ほえ?」
「俺とアイナは、そんな“瑣末な事”は、もうすっかりと乗り越えているんだよッロベリア―――ッツ!!」
きっとそれは、アイナとサーニャだって。
「あ゛ぁ?てめ、なんだって?」
今までの、俺をバカにしたような口調は鳴りを潜め。ロベリアの顔から、すっ、っと、明るい表情が抜け落ちた。
「“その血が”泣くぞ、ロベリア」
俺が何も知らないとでも思っているのか?お前は。
ロベリアの顔。その顔に緊張と驚きと焦りの色に染まる。
「―――ッツ」
俺は、ロベリアが、初めて動揺しているところを見たというわけだ。
一方で、俺の脳裏に、あのときの俺を鍛えてくれたときの、あの人のそのときの情景が浮かび上がる―――、
///
『実はケンタさまに討ち取ってほしい者がいるのです』
『はい、ケンタさま♪ 私が遺恨に思っているその者達の名は『屍術師ロベリア』と『不死身のラルグス』―――、、、』
///
―――、だから俺は、ミントいやアネモネから聞いて全部知ってんだよ、ロベリア―――。
「ロベリア。俺はお前の所業。成したこと、それを全て知識っている」
俺は依頼主であるミント、、、いやアネモネより、そのターゲットであるお前の、ロベリアに関する全ての情報は受け取っている、に決まっているだろう?
ちり、ちりちりちり―――、俺は『大地の剱』に満ちる氣を高めて。
お前が『七基の古代兵器は、同類の兵器でしか壊せないのよ』と、七基の超兵器は、同じ七基の超兵器でしか壊せないというのなら―――、“それ”しかないよな。
きっと、“それでしか壊せない”ということに関しては、事実だろうし。
このまま魔餓尽基を壊そうとして、手を拱いている間に、もし―――、考えたくはないことだけれども、もし、アネモネがその魔力を吸い尽されて、先に力尽きてしまえば、、、元の子もない。
だったら―――、“それ”しかないよな?
「―――」
俺は、眼下を、そこの魔餓尽基を、ロベリアを、睨み付けたまま、俺自身の考えを悟られないようにその姿勢のまま、やや身体を反らし屈めた。
神雷の台地の大地に、俺のその眼下―――。
常人の視力では豆粒程度の大きさにしか見えない奴ら。あいつらも、俺のこの『選眼』のように視得るなんらかの“力”か“導具”があるかもしれない。
だから俺は、ラルグスとロベリアには見えないように、俺は試す者の影に入るようにしたんだ。
アイナやアターシャ、俺が展開させていた魔礫牆の足場より戻ってきたサーニャ、それと一之瀬さんや羽坂さんには、その彼女達の耳には聴こえるように。
そして、一番の功労者になるであろう“彼女”の、その青黒い鱗が、少し薄くなって部位に、顔を寄せ―――、つまり、“彼女”とは青黒い竜“試す者”、その鱗の耳元で、
「先に神雷神殿のほうに行ってくれ。そこで、俺が雷基理を抜いて魔餓尽基をぶっ壊す・・・!!」
だが、アイナのその冷静な藍玉の、目は口程に物を言う、の視線が俺を見る。
「ケンタ。それはあの賊二名を野放しにしたまま危険を顧みず、先ずあの大地の魔女を真っ先に―――、」
助けるということですか、と?彼女アイナは俺に。
その、俺には解る、アイナはやや妬いているというか、少し一言、、、というか。きっと、それは、俺が思うアイナの魅力的なところのひとつ。
「すまん、アイナ。俺はアネモネを助けたいんだ。その代わり大地の魔女アネモネには、アイナの宮廷魔法使いになってもらうから」
「・・・、」
・・・一瞬、きょとんと、その藍玉のような眼をさせ、
「ふっ、ケンタ貴方らしいですね―――、」
と、アイナはかわいく吹き出してその笑みをこぼした。
「―――、いいでしょう、貴方の意志に、私は従います。その代わり―――」
すっ、っと、立ち上がったアイナは俺の耳元に、顔を、黒髪も寄せて、そのみずみずしい血色のよい唇を動かし―――、
「そろそろ、皇帝である祖父に、ですね、・・・―――、」
―――、俺に、俺だけに聴こえるように、その愛の言葉を囁き、囁いた。
「、、、っ///―――、解った。ありがとう、アイナ」
「ふふ、えぇ、よしなに」
短くて、でも俺達にとってはとても重要な話を終え、
俺はアイナから視線を切って、前へと戻す。
雷都。かつての古き大イニーフィネ帝国の聖地の一つ。その遠き青き空、雲る鉛色の雷雲、紫電、その雷鳴轟く神雷の頂。
聖なる神域、そこに佇む白亜の天雷岩の石造りの神雷の殿―――。俺が目指すべき場所。
ぺし、っと、俺は軽く試す者のその青黒い鱗の頸筋を撫でるような合図で、俺の意志を伝える。
「―――征くぞ、試す者」
「いひっひひひひっきししししっキャハハハハハ―――ッツ いい、いいわっ凄くいいわッ貴方その意志の籠った何かを企む眼、その剱氣―――。コツルギ=ケンタ貴方は私の麾下の、屍揮官にぴったりね―――いひっきししししっきゃはははははは・・・♪」
でも―――、っと屍術師ロベリアは。
「私から逃げられると思っているの?コツルギ=ケンタ―――いひっきししししっ♪。 ―――、」
ぴた―――。
ロベリアは、その気色悪い笑みを止めた。真面目で、おふざけのようなものを感じさせない無表情のその顔は、まるで嵐の前の静けさ。
漣波紋一つとして起こらぬ鏡のような湖の様。
風が止み凪いだ海の様。
そして、そこに石を投じるかのように、静かにロベリアは、その血色のいい唇を、その口を開く―――。
「畏妃っ忌死尸屍屎っ♪ 我ロベリア=カイセラ・ディ・イルシオーネの真名の下に、魔法王国を総べる我がイルシオンの血脈が、その血が闇たる黯黒魔法でこの世に呪いを為そう―――、」
じわ。
黒、黑、黯―――。
じゅく。
静かに黮闇たる黑が―――、
じゅくり。
―――、この世界に滲み出る。
冷たく、
黯き、
静かに、
點みが、
拡がり、
黷し、
この世に、冥界の悪鬼が、幽鬼が、屍鬼が、屍喰鬼が、地の底より、黮闇から、這い出て、この世を毀し尽くし、跋扈する、前兆のような―――、月隠り。