第三百四十六話 聖剣パラサングが撓う―――、『皇剣の輝鞭Claidheamh Cynffon』
その碧眼の双眸をキリリと締め、黄金色の氣に輝くかの聖騎士は力強く凛々しく眼下を睥睨する。眼下の魔餓尽基を、そして、魔餓尽基に捕り込まれて、その顔しか現していない大地の魔女を。
「―――・・・っ」
俺はあんなにも、キリリとした目つきのサーニャを、サンドレッタ=カルナスという女性を見たことがない―――。
第三百四十六話 聖剣パラサングが撓う―――、『皇剣の輝鞭』Claidheamh Cynffon
アイナの自宮や津嘉山邸の道場で、何度もサンドレッタと手合せをしたが、俺の稽古の相手になってもらっていたが、そのどのときも、サーニャはこんなにも厳しい顔はしていなかった。
稽古を付けてくれた後のサーニャは空腹で、その頬を嬉しそうにほたほたとさせて、ご飯をたくさん食べるし。
だが、今のサンドレッタに魅入られてしまう、俺は。アイナとはまた違った美しさ。後頭部で髪をだんごようにしてその周りをシニヨンに結うた金髪。
結われていないサーニャのまるで金糸のような前髪が、サーニャ自身の氣圧にざわめき逆立つ―――。
「姫様より賜りし、我が『聖剣パラサング』―――」
その銀の手甲の左手は、鞘を握り、銀の手甲の右手は、鞘より滑り取るかの如く、サーニャは、『“はかるもの”聖剣パラサング』を、ゆるりと抜く。
シュラーっ、剣身と鞘が擦れる音を立てて、その一振りの聖剣が鞘より抜け出でる。その名は『はかるもの』。
イニーフィネ皇国の聖剣パラサングだ。
聖騎士サンドレッタの、聖剣パラサングのその握った手を守るための柄は、剣身に沿う角度にて、やや前へ湾曲するような形の棒柄。
その柄頭は丸い白銀に輝く金属が埋め込まれている。聖剣パラサングのその柄を、白銀の鎧に身を包んだサーニャの、白銀の籠手が掴めば―――、
剣身に沿う角度にて、やや前へ湾曲するような形の棒柄のその先。長大な聖剣パラサングは、真っ直ぐ前へと伸びる剣身を持ち、棒柄の辺りからやや先細りながら、その鋩へと向かう。
日本刀で鎬に当たる部分は、その剣身の長さ三分の二ほど“平ら”になるように鍛えられており、その平らの部分には、皇国文字でなにかの言葉が刻まれ彫られている。
また聖剣パラサングの鋩は、鋭利な形状と角度で尖るわけではなく、やや丸みを帯びたまま、丸みを残したまま、真っ直ぐに前へとその鋩は丸みを得乍ら尖る形状だ。
「・・・そう―――、」
―――、あれが、サンドレッタの、皇女アイナが近衛騎士サンドレッタに下賜した聖剣パラサングだ。
サーニャの持つ聖剣パラサングは、ケルトの民が古来より用いてきた両手持ちの柄が備わっている“Two-handed Highland sword”と言われる『クレイモア』と、そっくりの形状をしている。
「聖剣パラサング・・・ッ」
サーニャの凛としていて、だが力強い声が響く。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ―――
この聖地雷都の神殿の上空。
空に満ち、黄金の氣の光で照らし、あまねく支配するは、サーニャを中心にして拡がる彼女の金色の闘氣の氣圧だ。
天雷山のその聖なる頂。雷基理を祀る神殿の上空一帯が、サーニャの黄金色の氣の輝きで満ちてしまう。
「はぁぁあ゛ああああああッ・・・!!」
サーニャは大口を開け、その叫び声。
ゴアッ―――、っと、サーニャの黄金色の闘氣が、さらに跳ね上がり、爆発的に増幅し、―――
サッ―――、っと。
サーニャはその両手で握った聖剣パラサングを、神雷の頂の上空にて、俺のまるで城壁のような魔礫牆の上に立ち、その鋩を真上に、空に向けて掲げる。
ま、まじか―――、
「―――、すげぇ、、、」
あんなの、サーニャとの手合わせのときには見たことがなかったぞ!! 見せてくれなかったぞ、サーニャは。あの氣圧―――。あの黄金色に輝く氣の濃い密度。
ということは、このイデアルとの戦いで、サーニャは出し惜しみせずに、本気で『魔餓尽基』に挑むというわけか。
ギュオォオオオオ――――ッ
すると、頭上高く、空高くに拡がっていたサーニャ自身の、黄金に輝く氣は渦巻いて、まるで下降気流のように、サーニャが空に向かって掲げた聖剣パラサングに、漏斗型に渦の形状を保ったまま降り注いでいく。
竜巻が空から、鉛色の雲から漏斗のように、漏斗雲が地上に降りてくるように―――、
いまや空から、金色の氣から漏斗のように、螺旋状に聖剣に吸い込まるように―――、
「姫様より賜りし、我が『聖剣パラサング』―――」
「これが、、、本気のサーニャ―――」
聖剣パラサングから凄まじいまでの闘氣が溢れ、黄金色に、渦巻くように光輝いているぞっ、あの聖剣パラサング!!
勿論、サーニャ自身も黄金色の自身の氣を纏っている
「えぇ、ケンタ。あの姿こそが、サーニャ、聖騎士サンドレッタの真の力の姿です」
アイナが俺に言った。
「・・・っつ」
なんていう濃密な闘氣だよ。
っつ、これが、聖騎士サンドレッタの真の姿!!真の力、、、っ!!
「哈―――ッツ」
ゴア―――ッツ
サーニャは纏った自身の黄金色に輝く氣を勢いよく放出。聖剣パラサングに、漏斗状に巻き込む聖剣に、渦巻く黄金の氣をさらに増大させ、相俟って更なる飛躍を。
サーニャ自身も、聖剣パラサングにも、黄金の渦巻く氣が飛躍的に増大し、氣の密度をさらに増せ、光り輝いた瞬間。
グッ、っと、サーニャは両脚両腕その二つの手。聖剣パラサングの柄を握る両つの手にぐッ、っと力を籠めた。
「『聖剣パラサング』が撓う―――、『皇剣の輝鞭』Claidheamh Cynffon・・・ッツ」
サーニャが、聖剣パラサングを振り下ろす、したその瞬間―――。
俺は、内心で信じられないと思うほどの斬撃を見たんだ。
魔礫牆という城壁の上に立ち、聖剣パラサングを構える聖騎士サンドレッタ。
「―――・・・っつ」
『聖剣パラサング』が撓う―――、『皇剣の輝鞭』Claidheamh Cynffon』だって?! 俺はそんな技も、業も今まで、サーニャから聞いてはいないし、手合せを俺がお願いしたときも、『皇剣の輝鞭』なんて、知らない・・・っつ
「―――ッツ・・・!!」
黄金色に輝く氣の渦は、竜巻のように渦巻く氣の斬撃だ。竜巻のように渦巻いて、なおかつ黄金色に輝く氣を放つ聖剣の尾鞭。
密度が濃く錬られた闘氣の斬撃。
ただの“斬撃”じゃない、この選眼で視れば解る。竜巻のように渦巻くサーニャの黄金の氣は、素早くドリルのように回転し、切削工具のように対象部を削り斬りながら、両断しよう。
今や―――、
ドウ―――ッツ
―――、サーニャの渦巻く黄金の氣の斬撃『皇剣の輝鞭』は放たれた。
聖剣パラサングから放ったサーニャの剣技『皇剣の輝鞭』が撓って、眼下の神雷の頂に根を下ろす魔餓尽基を打ち据える、ために。
サーニャの渦巻く黄金の氣の斬撃『皇剣の輝鞭』は、瞬く間に、まるで巨大な輝く黄金色の鞭のように撓って魔餓尽基へと着斬、その異形なる褐色の体表へと至る。
竜巻が、その真横からぶち当たるかのような波打つ斬撃は、鞭のような動きで。黄金色に輝くサーニャの剣技『皇剣の輝鞭』は、魔餓尽基へと、到達―――。
「やれるか・・・っ」
ひょっとしたらこの威力の、サーニャの黄金の氣の斬撃『皇剣の輝鞭』なら、魔餓尽基を、その白いバリアごと切り刻むことができるかもしれない・・・っ
そして、アネモネを救い出すことも・・・!! 待ってろよっアネモネ・・・!!
だがやはり。突如として、そのとき―――、
ブゥゥン、、、キュア・・・―――ッツ
―――、魔餓尽基を中心に同心円状に、ドーム状の白く輝く光の薄い膜のようなものが現れた。
「っつ」
俺の、『魔礫牆廻輪尖射』を全て弾き返したあのバリア、、、魔餓尽基に施された防御機構の障壁だ。
ガガガガガガガガガガ―――ッツ
サーニャの『皇剣の輝鞭』が、魔餓尽のドーム状に展開された『障壁』に烈しく着斬。
ドリルかグラインダーのように、回転する『皇剣の輝鞭』は、魔餓尽基の白く輝く光の薄い膜を削り取るような斬撃だ。
「もし、―――」
削り取ることができなかったとしても、その斬撃の威力は、魔餓尽基を圧しきれるかもしれないな・・・!!
だが、そんな俺の期待は、淡いものだった。
「うそ、だろ・・・?」
キュゥゥゥゥン―――、、、・・・。
魔餓尽基は、なにか機械が、機能が起動するかのような音を発して―――。