第三百四十一話 我が名は『普遍く視透す剱王』
すっくと―――、っ、俺はその場に立ち上がり―――、立つ。
「サーニャ。俺がやる。やらしてくれ」
それは、宣言だ。皆に示した俺の宣言。俺以外は、みんな女の子女性だから、俺にもすこしはかっこいいところを見させてくれ、という気持ちもある。
俺は試す者の背の上に立つ、その固い青黒い鱗の背中の上に。
「ケンタ殿、・・・はい、、、」
サーニャは、やや陰ったその表情で肯いた。
「、」
すまん、サーニャには、きみの出番を奪ってしまって。
「ヶ、ケンタ・・・?」
一方、目を見開いて驚くのはアイナ。
「ケンタさまには勝算があるのでしょう、アイナ様」
アターシャと言えば、ほとんど感情の変化をその表情には浮かべていない。
第三百四十一話 我が名は『普遍く視透す剱王』
「っ」
でも、アターシャの目と目が俺と合ったんだ。
そして―――、
「―――」
一之瀬さんは、俺になにも語らず、その一文字にした口は、無言を語っている。
視線が合ったときも、一之瀬さんは、なにも俺に言わなかったんだ。俺が今から何をするのか、それを一之瀬さんは観ようとしているんだと思う。
一方の―――、
「健太、がんば」
―――、羽坂さんは、相変わらずマイペースかな?
俺は冷静に肯く。いやううん、俺は冷静さを装っているだけかもしれないな。心の中では焦っているさ。
「あぁ、奈留。―――」
俺は、羽坂さんから視線を切り前を向いて、、、いいや眼下のラルグスに視線を向けた。
ラルグスの『氣武化』。ラルグスが自身の“力の扉”を解放して放出した無数の氣の珠は、ふわふわとしたその運動と摂動を止め、その形状をやわやわと変えていく。
ふわふわとした球状の氣は凝縮するかのように、そして武器の形状を獲得し、それは鋭く尖り、そして、すぅっ、っと、その淡く光る氣の珠は鋩へとその姿を“武器”へと変えていく。
「ぬん・・・ッ」
ラルグスは両の拳をぐっ、と握り締めて、心身ともに気合を入れて力めば、―――さらにそれは加速し、“珠”から“角”へ―――、そして“鋭”へと変化する。
それは、剣の鋩、鑓の穂先、あるいは鏃のような鋩―――。たぶん、きっとラルグスが頭の中で描いた“武器”の鋩のイメージそのものなんだろう、“それは”。
「さぁ、奴らを撃ち落とせッJace illud!!」
ラルグスが俺達を見止めて叫んだ。
様々な種類の武器の鋩刃を模すように氣で形成された淡く光る『それ』の鋭く尖った先が、くくっ、っと、上空を向き―――、
「来る・・・!!」
彼奴ラルグスの氣刃の群れが・・・!!
―――、空を飛翔する試す者に、いやラルグスの氣刃の鋩は俺達を向く。
あの、幾百の『氣武化』の氣刃が全て俺目掛けて飛んでくる―――。いや、ラルグスが俺達を射殺すために、試す者ごと俺達に目掛けて氣刃を投射するんだ。
ラルグスが自信たっぷりに、
「敗者は勝者の糧と成れっ『氣刃投射』ッ!!Victos facti cibum victoribus.”Psӯcho ballista”!!」
そんなラルグスは、攻撃することを躊躇うこともなく俺達に、闘氣で成るあの氣刃の群れを俺達に今まさに射放つ・・・!!
「・・・っ」
魁斗の『黯黒氣刃投射』のときもそうだったか。
このまま、もし、俺が何もしなければ、自身を攻撃してくる敵機ミサイルを迎撃するように、あのラルグスの氣刃を防がなければ、俺達も試す者も、ラルグスの『氣刃投射』で、きっとズタズタに斬り裂かれて貫かれるんだ。
痛いどころでは済まされない、死ぬかもしれないな。きっと、試す者も墜落するだろう。
俺は眼前を、眼下に。地面に佇み構え、地対空ミサイルのように『氣刃』を撃ってきた者を、その煌めく氣刃の群れを眇め―――、
「ラルグス、、、」
おそらく、ラルグスの輝く氣刃の群れ『氣刃投射』の飛来まで数秒もない。
俺は、一つ。肺腑より息を吐く。
「ふぅ、、、」
それは、自分自身の気概を自覚するもの。俺が俺であるために、祖父ちゃんを、俺がその剱聖を受け継ぐための自分自身への首肯。諾い。
転じて、今から自分がラルグスに向けて行なうとしていることに対する覚悟。
俺は『雷都』に至ったときもう既に、腹を括ったんだ。
俺は―――、敵であろうとも、たとえお尋ね者であろうとも、他人という存在を傷つけるという覚悟を。
「っつ」
ぐっ、っと。右脚を半歩前へ。
さっ、っと。左手は、ひんやり大地の剱の、大地の魔法の陶器の鞘に。
すっ、っと。右手は、大地の剱の、俺が握り慣れたそのサーメットの柄に。
もう覚悟は決まっている。俺はこの魔法剱技で、仲間を護りきり、そして敵は討ちのめす、と・・・!!
「―――」
平常心だ。いつものように。俺は、この『大地の剱』を揮えばそれでいいんだ。
唯一つ俺が想うのは、
ミントちゃん、、、いやアネモネのおかげで俺は、階段を一段一段上がるのではなくて、まるで、一段、いや数段をすっ飛ばして飛び級のように強くなれた。
「っ・・・!!」
俺は、アネモネを助けるっ。救いたい・・・っつ!!
そのためには先ずラルグスをだまらせなければ!! ラルグスが俺達目がけて投射した氣刃を全て完璧に、完全に、ラルグスの侵攻から金甌無欠に防ぎ切るッ!!
「『大地の剱』ッ」
俺は叫ぶ。その柄を右手で強く握り、左手で、その特殊なマナが通った陶器の鞘を握り締める。念じる、念じる、俺は強く想う。
想像し、強く想って念じて氣を高めれば、白い鞘に蔦が絡まるかのように刻まれ描かれた黄土色の唐草模様が、俺の氣に呼応してアネモネの魔力が励起し、『大地の剱』が黄金色に輝く。
かちん―――、刀でいうところの切羽とはばきを抜いて越え、、、すぅ―――っと俺は、鞘の内よりアネモネの黄金色の輝きを放つ『大地の剱』を鞘より解き放つ。
きらり、と光を反射する緻密なアモルファス合金のような『大地の剱』の、鋼色の剱身。
日本刀と違って反りがない直刀のような『大地の剱』。だが、その剣身の幅は、日本刀の刀身よりも太い。
しゃ―――、っといつものような抜刀式ではなく、ゆるりと抜く。したがって、『大地の剱』の鎬と陶器の鞘が擦れる軽快な音はない。
俺は『大地の剱』より最速の抜き手で弧を描く斬撃を繰り出すのではなく―――、正眼の構えで『大地の剱』を持ち掲げる。
「・・・ふぅ―――っ」
落ち着け俺。
神経を集中させて氣を高め、全身全霊に氣を巡らし漲らせ。氣を、両手に握り持つ『大地の剱』まで行き渡らせる。
大地の剱に、俺の氣が馴染み滲み渡れば、
スゥっ、っと『大地の剱』が黄金色の淡い輝きを得る。その淡い輝きは、俺の氣と『大地の剱』の精製者であるミントの魔力の輝きだ。
俺が氣を『大地の剱』に送り込むことで、剱身に眠るミントの魔力が覚醒こされ、俺の氣を糧に増幅した輝きだ。
魔力がきた!! その瞬間だ―――、
「っ!!」
―――ズぅ・・・っと、、、『大地の剱』を取り巻いて纏うように、剱身に氣を帯びた細かい砂塵が浮かび上がる!!
まるで『大地の剱』の剣身が剱芯になり、砂氣は剱身を覆う。鋭く太く長大な、まるで今までの『大地の剱』とは別物に成る。
黄金色のマナの輝きを放ち、それまでとはまるで別物の『大地の剱』だ。その剱身の太さも、長さも、大きさも、鋩の鋭さも、―――そのマナの輝きも、だ。
この状態の『大地の剱』こそ、真の魔法剣。真の力を解放せし魔法剣『大地の剱』。
「準備は万全―――」
俺は即座に正眼の構えを崩す。その崩した構えとは、順手の右手の手首をやや前へと捻って先へ、覚醒させた『大地の剱』の長大な鋩をより前へ、俺の眼前の、何もない空間へと向けるものだ。
そして、もう一方の左手で、右手の手首を握る。
もう俺の頭の中では、思い描いた“もの”が完璧に存在している。あとは、それを大地の剱魔法で為すだけだ。
ズア、、、ッ、っと、『大地の剱』から巻き起こるとんでもない砂氣。黄金色に輝く砂氣は、試す者より前へと向かい、俺が想い描いて行使させるその目の前の空間へと至っていく。
すぅ―――、っと、俺は息を吸い。
「―――。我が名は『普遍く視透す剱王』。我、小剱健太の真名の下に我自身が命じる―――魔法剣『大地の剱』よ、我とアネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンとの盟約に応じ、我らが力に応え、決して何者も透さぬ堅固な魔礫となれ―――『魔礫牆』」
セラミック板同士を、もしくはドミノ板などの硬い板を、積み重ね合わせたときに発する―――、
『カカカカカカカ―――ッ』
―――っと、いう乾いた音。それは、陶器である瀬戸物の板を、重ね合わせたときの音の感じ方にも近い。
俺が大地の剱魔法で行使した“それ”は、完璧に、どんな攻撃も透さぬ魔礫の牆壁。
六角形の一枚岩の『魔岩牆』を土石魔法で、砂氣の剱魔法の行使空間内に幾百と顕現させ、それを、カカカカカッ、っと、上下左右縦横ハニカム構造にて、重ね合わせた城壁のような大地の剱魔法の、魔礫の牆壁―――。