第三百三十九話 失われし七基の超兵器
その異形なる物体は、、、大きい十数メートルもある大きな機人のようにも見えてしまう―――。
褐色の金属光沢のような部分と、褐色のセラミックのような少しさらさらしたような表面の光沢の部分も在る、機械的な物体なのに。
褐色の異形の物体の姿形は、上に飛び出したのっぽの形態でもなく、ぺしゃんこに潰れたような板のような形状でもない。ただただどっしりとした『立方体』に近い外観だ。
その大きさは、土を掘り、古くなった建造物を壊すときに用いる重機よりも、さらに数倍大きい。
少し“人っぽく”見える。その見た目は。ひょっとして、“人”を模して創造されたのかもしれない、
第三百三十九話 失われし七基の超兵器
その褐色の異形の物体には、人間のような両腕は備わってはおらず、腕に相当する腕部は認められるものの、たぶん、褐色の体表の中に“対象”を抱き込みながら、内部で癒着しているのだと、俺は直感的に、そう思ったんだ。
明確な理由はない、その褐色の異形なる物体を観て、そう感じたんだ。
「・・・」
それと、この褐色の異形には、人間のそれに相当する両足もない。ただ、三点の菱形の角でその褐色の異形は、この嶽の頂の大地に刺さっている。地に根を下ろしている、と言えば伝わりやすいか。
どうやって、どのような方法で、この大きな褐色の異形なる物体を、『イデアル』がこの天雷山にまで持ってきたのかは、俺には判らない。
正直な感想を言えば、褐色の異形なる物体を観ていたら、その“異形”は気持ち悪い、と思えるだけだ。
どう見ても、“こいつ”は、金属やセラミックで構成された機械のように視得るというのに、褐色の表面のところどころに。人間に相当する、両肩、頸に、そのセラミックのような外観の青、黄、赤のまるで宝石のような宝玉のように視得る色とりどりの球体が埋め込まれていて、一見すると機械的だ。
だが、転じてその褐色の異形の、人に相当する腹の部分は、“肉色”だ。生肉のまるで、店で売っている牛肉や豚肉の生肉のように肉々しい赤だ。
その“肉”の部分を、そこを観ていると、俺はどうしても、この褐色の異形は生き物みたいに見えてしまう。
「で、“顔”もあるんだよな・・・」
そう、褐色の異形なる物体の、まるで胸の上部に埋め込んだかのようにある頭部。
楕円形の、金属色のそこに、まるで埋め込まれた頭部のような“人”のそれに当てはまるような目、鼻、口がちゃんと備わっている。
「顔、ですか?ケンタ」
俺は、アイナに訊き返され、
「あぁ。ほら、だって、あの異形―――、あれ、どう見ても“頭部”だよな」
・・・。アイナは俺の視立てに、その藍玉のような視線を、再びあの異形に送る。
そして、アイナは、ぺしぺし、っと手の平の触覚で、試す者にその意志を伝え、試す者を滞空させる。
「・・・。おそらく、あの褐色の機械的な物体は、『魔餓尽基』でしょう、、、昔、数年前に私が『皇国創建記』を暗記したときに掲載されていた挿絵と、“アレ”はよく似ています・・・」
じぃ・・・、っと凝視したアイナは呟いた。
なッ―――、なんだと。あの異形が、あの視線の先の褐色の不気味な物体が、あの失われた七基の超兵器の一基―――、、、
「まっ、魔餓尽基・・・だ、と―――?」
あれが、、、あの褐色の異形なる物体が、『魔餓尽基』―――だ、と・・・?
「はい、えぇ、きっとケンタ。―――悪辣な『彼ら』は、言語道断なことを、なぜあのようなことを平然で行なうのでしょうか。失われし、古代の超兵器を使役するなど、、、愚かしく・・・―――。っつ」
ギリ・・・っ、とアイナは。
「!!」
怒っている、アイナは。アイナの、その白い歯が、彼女の怒りの感情で、噛み合わし、軋る、歯の音が俺の耳には聴こえたんだ。
そして―――ッツ
俺はというと、
グッ―――、っと、俺は歯を食い縛り、
ぎゅッ―――、っと、両の拳を、血が出そうなほど、
俺は、二つの拳を握り締めた。
あの褐色の異形、いや、アイナが言った『魔餓尽基』。あの、あいつ『魔餓尽基』の、生肉色の腹の部分。そこには―――
「―――・・・ッツ」
俺の見知った人の、
話もした人の、
修業も付けてくれた人の、
俺に魔法剣『大地の剱』を与えてくれた人の、
一緒に俺を魔導具屋に誘ってくれた人の、
その彼女の頭部だけが見える。
幸いにして、首だけを斬り取られているのではなく、
この『選眼』で視得たところによれば、きっと、ミントのいやアネモネのその頭以外の全身は、『魔餓尽基』の胎内に取り込まれているんだろう・・・っつ。
つまり、アネモネを取り込んだ『魔餓尽基』が、アネモネ自身のマナを、彼女の魔力を吸収していて・・・ッ
試す者に乗ったまま、その視線の先を見れば、円形の仄暗い冥色に明滅する魔法陣が、『魔餓尽基』を中心に描かれていて、そこに朱色の禍々しい光を不気味に放つ大鎌を掲げる女の術者が一人。
そして、幾人かの、その他の奴らの人影のような姿も見える。『魔餓尽基』を取り囲む円形の気持ち悪い負の波動を、負の陰氣を放つ魔法陣の、その陣形の外に立っている幾人か。きっとイデアルの十二傳道師のうちの誰かだ。
そいつらは『イデアル』の実行部隊理想の行使者である『十二傳道師』達―――。その幾人かが立っているのが、上空より視得る。
堅そうな軍靴を履き錦色の外套を、背中に羽織った人物や、
暗赤色の禍々しく明滅する身の丈ほどはある大きな鎌を持った人物も。
その大鎌を持った人物は紺色系の暗色の魔法衣に身を包んだ若い女性だ。ウィッチが被るようなとんがり帽子も目深に被っている。
俺の視立てでは、その紺色の魔女は誰かということに目星はついている。その者の見かけは、その紺の暗色系の魔法衣に身を包み、西洋風の大鎌を持つ若く見える女性―――
―――長いから今は便宜上“鎌女”にしよう、
「・・・」
そこに佇む鎌女の容貌は、少なくとも鎌女の年齢は若く見える。その暗色の魔法衣を着た人物は、まるで少女のような形をしている。
「あいつは・・・」
そうだ、あいつの、あの鎌女の姿に見覚えがある・・・、俺には見覚えがある!!女神フィーネからの“念話”のような映像でも見たが、その念話ときとは違う。
そう、俺はあの少女ようなの容貌をした鎌女。そいつに俺は見覚えがあるんだ。
あの、、、こっちの世界に転移したときの、あの生ける屍の徘徊するあの街で、、、魁斗に会ったとき、会う少し前、俺が、生ける屍から逃げ回っていたときに、あの生ける屍の徘徊する街にあった一際高い尖塔―――。
俺の脳裡にその光景はまざまざと蘇る。
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その尖塔の見張り台のようなところに一人の女の子?みたいな人物がいた。少なくとも俺の目にはそう見えたというわけだ。その女の子というか女性の背中側には、まるで担いでいるように思える一振りの大きな鎌のようなものが、俺の目には見えた。
「あれは・・・?」
遠目だから、その大きな鎌のようなものの詳細は俺の目に見えない。でも、それは鎖鎌のような鎌じゃなくて、形状から言えばむしろヨーロッパ風の大鎌に見える。まるで三日月のような反りと形状をした大鎌だ。大鎌の意匠などは遠すぎて見えないものの、夕陽を反射しているのか、その大鎌の刃先が赤く光っている。
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「・・・っつ」
そして、魁斗の先導でトンネルを通って逃げた先、廃砦であいつは―――。あのバカ魁斗は、俺が聞いているのを知らずに、クロノス、、、いや日下修孝と愉しそうにへらへらと喋っていて。
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「まぁまぁ、クロノス義兄さん」
「だが、『導師』より与えられた引き継ぎの任を放っておいて勝手に帰るなどあってはならないことだ、違うか魁斗よ?」
「ロベリア義姉さんのこと大目に見てあげてよ、クロノス義兄さん。『屍術』の魔法ってほんとにマナをごっそりと喰うってロベリア義姉さん前に言ってたよ? ラルグス義兄さんに殺してもらった、あんなにも多くの街の死人を屍兵に変えるなんて、並大抵のマナ量じゃできないことなんだ。きっとロベリア義姉さんじゃないとできないことだってば・・・ははっ。だからこの作戦の一番の功労者はロベリア義姉さんだよっ」
「―――なるほど」
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鎌女の正体はその名は、屍術師ロベリア―――、
と、もう一人きっとあの錦色の外套を羽織っている人物が不死身のラルグス―――、
あの街でお前達はいったいどれだけの罪のない人々を殺めたんだ!! そして、あの街の住人を皆、その屍術で生ける屍に変えた・・・ッツ
俺は絶対に赦さんっお前らをッロベリア、ラルグス―――ッツ!!