第三百三十八話 神雷の頂に根を下ろすモノは―――、
「―――、つまりあれかアイナ。『ここ』は、『世界統一化現象時代』よりも前にあったという『古き大イニーフィネ帝国』時代の―――、」
俺は、試す者の背に乗ったまま、眼下の、この景色を再び、今度は、過去に想いに馳せて眼下を見下ろした。
第三百三十八話 神雷の頂に根を下ろすモノは―――、
「―――、今では古代文明の遺跡だが、、、。かつては栄えた都だったんだな?」
「はい、ケンタその通りです」
俺が遺跡と言いかけ、アイナにやっぱり街と言い直したのは、この眼下に見える景色が、古代遺跡の石柱や石積みだけを遺しているような廃墟ではなく、本当に人がまだ住めるような状態を保っている“街”に見えたからだ。
イニーフィネ皇国の古代都市。古き大イニーフィネ帝政時代に『五つの叡智の力』を駆使し、魔法科学やアニムス工学によって築かれた『雷都』。
俺が、試す者の背に、その頸元に掴まって上空からこの場景を、その様を観た感じ、まだこの古代都市『雷都』は、“生きている”。
ひょっとして、、、いやおそらく。その地脈よりこんこんと溢れ出る女神フィーネの氣。その地こそ聖地。ほら前に、アイナやあいつ魁斗だって言っていただろう?
聖地という場所は、この惑星イニーフィネつまり女神フィーネの、氣脈が湧き出るところを祀ったものだって。
世界統一化現象時代に、この街、雷都から人が消え、いなくなって、、、いやなんらかの原因で滅んだのかもしれない。俺にはそこまでのことは分からないけれども。
だけど、雷都はそのまま時が止まったかのように、女神フィーネの結界の中で、街だけはまだ。女神フィーネの無尽蔵な雷氣をエネルギー源にしているのだと思う。
「、、、・・・」
この『神雷の台地』として、外界から隔絶された後も、古き大イニーフィネ時代に整えられた機構を維持し続けているんだと、俺はそう思う。
きっと、この街、雷都にはかつての、古き大イニーフィネ時代には多くの人々が暮らし、生活を営んでいたんだろう、
「―――」
女神フィーネの聖なる雷氣をエネルギー源にして。
電気・ガス・水道のように、雷氣を街のライフラインに用いて、雷都を維持していたに違いない。
だって、肌に感じる空気、鼻から吸い込んだ空気は、暑くもなく寒くもない。ちょうどいい気持ちいい気温。
ひょっとしてそれらが、生命維持装置のようなシステムのようなもののおかげで、その環境が、今でも保たれているのかもしれない。
「・・・、、、」
「―――」
ちらり、っと。俺は、アイナを観れば、彼女は藍玉のような眼をやや伏せ、物憂げな、寂しいような、そんな面持ちで眼下の、人が消えた『雷都』を見下ろし、見詰めていたんだ。
試す者青黒い竜は、『雷都』上空を越え、その向こうの森林地帯の上空へ向かう。雷氣を帯びて鬱蒼とした深緑色の森は、でも、暗い恐い森には俺には見えなかった。
雷都の外に拡がる神雷の台地の森は、どこか神々しく、俺達を歓迎して出迎えてくれるのならば、俺は嬉しい。
試す者は、森の上を飛翔し、その向こうへ―――。
白い残雪冠るその雷氣漲る気貴い嶽へと、その神雷の頂へと、試す者は飛翔する。
「なんか、、、パリパリする。今の私は、調子いい・・・っ」
ふんすっ、っと、羽坂さんは。
「えぇ、ナル。貴女は、女神フィーネ様の聖なる雷の御力と、相性がいいのでしょう」
「ん、私もそう思ってた、アイナ」
びりびりっ―――。
俺にも解る。羽坂さんとアイナの喋っているその内容が。
「・・・っ」
解る・・・っ。肌に感じるこの感覚。
稲光が走り、雷鳴が轟く雷雲の真下にいるときのような、身の毛が立つ感覚。まるで、神々しい雷氣の、女神フィーネのその氣配が、眼前の高い嶽から溢れているよう―――。
間違いない、女神フィーネの雷氣漲るあそこが、あの白い雪を冠る嶽の頂が、聖域たる神雷の台地の中で、最も女神フィーネに近い神域だろう。
「ですが、・・・ケンタ―――、」
アイナは、前方の雪を残し、頂にそれを冠る頂を見詰めながら、
「ん?アイナ?」
アイナを見れば、彼女は口を一文字に縛っている。その表情は、
「―――、なにやら邪なる氣配を感じませんか」
「邪なる気配?」
俺は、アイナに問い返すように答えた。
邪なる気配とは、どのような気配だろう? 言葉通りの意味では、邪悪な悪いものの気配を感じる、という意味だが。
「はい。女神フィーネ様の聖なる頂より、怒濤のように感じる女神フィーネ様の聖なる御力に雑じって、邪な悪の気配を感じます。それに―――、女神フィーネ様のこの聖なる雷の御力も、、、なんか妙です。やはり、『彼らが』―――、」
アイナが言いかけた、そのときだった。
ピカッ、っと、一際大きな雷光のような輝きが、真の、神雷の台地の最高峰たる天雷山の嶽の頂より、上空へと、まるでビームのように放たれる。
「ッツ・・・!!」
俺も、アイナも、そして、この試す者の背に乗る皆。アターシャも、サーニャも、一之瀬さんも羽坂さんも、その女神フィーネの雷氣の輝き極まる強い雷光を目撃した。
ぐんぐん、と。試す者青黒い竜は、神雷の台地の絶壁に添って上昇したのとは違う動きで猛禽類のように。
バサっバサっ、っと、大きく二度羽搏く。すいー、すいー、っと、中距離を飛翔し、また再びバサっバサっ、っと、大きく二度羽搏いて。
神雷の台地の上に至り、その大地の上空に至れば試す者は、今度は滑空するように、雷都の上空を飛行している、していた。
雷都の上空を越え、真の天雷山のその聖なる頂へと、地下深く雷基が眠るその聖なる頂へと、試す者が近づいていくにつれ、その全貌が明らかになっていく。
ピカ、ピカ、ピカっ、っと、まるで胎動するかのように、神雷の頂全体が発光する。雷の光による発光現象。
「―――っつ」
おかしい。明らかに異常だ。女神フィーネの聖地ならば、氣脈のように、優しく柔らかく微かに湧く、あの女神さまの聖なる氣を、感じるはずだ。だが、これは、まるで、強制的に、この女神フィーネの惑星から、氣を吸い出している?
「愚かな、、、」
ぽつり、っと、アイナの呟いた声が、すぐ後ろから聴こえた。
「―――、っつ」
俺は、アイナのその、怒りが混じったような強い声色に、その声に驚き、思わず後ろを振り返った。
「やはり。ケンタ『彼ら』は、大地の魔女より、私達に己らの内情が筒抜けになっていることを知っており、『魔吸の壺』を用いる方法は採らずに―――、」
観てください、と、アイナは。
すると、ちょうどのタイミングで、試す者青黒い竜は、神雷の台地の聖なる神域。その白亜の神殿が建てられた嶽の頂きがはっきりと見える距離にまで至る。
「―――、なっ、なん、だと・・・!!」
目視では、目の前にたぶん数キロ先。
初めて見たとき、視得たときには、俺は自身の目を疑った、疑ってしまったんだ。白亜の女神フィーネの雷基理守護の聖なる結界神殿の、その手前に。
その距離は、神雷の嶽の凡そ八合目といった場所だろうか。
褐色の、異形なる物体が、そこにはあった。
女神フィーネの神域。神雷の台地の頂に鎮座する神雷の神殿。その参道の前に、褐色の、異形なる物体が、まるでそこに根を張り、地に根を下ろす。
褐色の異形なる物体は、まるで大きな機械のようで、
「・・・でも、なん、だろう。なんでだろう―――、、、」
なんか、、、人のような―――、気がする、、、というか、感じるというか。
俺には、そいつは、生きているような、、、生きている物みたいに、なんとなく―――、“生き物”に視得て、感じて・・・。
その異形なる物体は、、、大きい十数メートルもある大きな機人のようにも見えてしまう―――。
褐色の金属光沢のような部分と、褐色のセラミックのような少しさらさらしたような表面の光沢の部分も在る、機械的な物体なのに。
褐色の異形の物体の姿形は、上に飛び出したのっぽの形態でもなく、ぺしゃんこに潰れたような板のような形状でもない。ただただどっしりとした『立方体』に近い外観だ。
その大きさは、土を掘り、古くなった建造物を壊すときに用いる重機よりも、さらに数倍大きい。
少し“人っぽく”見える。その見た目は。ひょっとして、“人”を模して創造されたのかもしれない、