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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十八ノ巻
332/460

第三百三十二話 再戦

「む―――っ!!」


 僅かに生じた空間の異変、歪みに気が付いたアルスランは、顔を上げた。


第三百三十二話 再戦


「兄さん―――?」


 アルスランは、空間に生じた異変を“チェスターの禍”の予兆であることを察し―――、

「イェルハよ、ユウェリアとアンジェリカの傍から離れるでないぞ。賊がここに戻ってくる・・・!!」

 ―――、最愛の義妹イェルハを護るべく立ち上がる。


「っつ・・・!!」

 一方のイェルハは、アルスランのその言葉に、顔を、表情を硬くした。

「さ、こっちに来なさいイェルハ」

 ユウェリアは、イェルハを招き寄せると、アンジェリカもそれに追随。二人は、つまりユウェリアとアンジェリカは、イェルハをチェスターから護衛できる態勢を整える。


 その間にも―――


 みわみわみわ―――、

 さわさわさわっ―――、


 っと、まるで石を水面に投じ、生じる波のように、空間が揺れる。しだいに、、、まるで凪いだ静かな湖のその水面が、漣立つかのように、その揺れ幅はすぐに大きくなる。


 ざわざわざわ―――っ


 空間の揺らぎ、空間の歪みが最大規模に成ったとき―――、


 ―――、その、ネオポリスを僅かに切り取り設えられたイデアルの会合の場と、このオルビスにあるノルディニア王国との長大な空間を超越えて一人の男がその姿を現す。


 白装束のその男、

「待たせたな、アルスラン・・・っ」

 チェスター=イニーフィネは、自身の『空間管掌』を行使し、先ほど導師やグランディフェルと話していたあの『イデアルの会合の場』が設えているネオポリスのとある場所から一瞬で、空間を超越して戻ってきたのだ。


「さぁ、続きだ・・・っ!!」

 ザリっ、っと、一歩。足を踏み締めてチェスターは、周りを見回してアルスランを見つけると、愉しみにその顔を綻ばせた。



「―――、貴公・・・」

 ぽつり、っとアルスランは呟いた。チェスターは傷も癒さず、この場に戻ってきたのだ。その白い皇衣は、アルスランがその身に刻んだ『劫炎の剱』による刀創による出血で、血の紅に染まったままだ。



 チェスター=イニーフィネは、自身の傷など全くもって意に介せず、、、。アルスランの雄姿に逸るその姿を見止めると―――、

「俺は戻ってきたぞっアルスランッ・・・!! さぁっ続きだ、続きといこうっ!!俺達は互いに、とことん最期まで闘り合おうアルスランっ・・・ハハハハッ!!」

 チェスターは、互いに生命を削り合え、燃やすことができるアルスランとの闘いへの喜悦にその感情が高まり、ついに頤を解くのだ。


「いいだろう、今度こそ貴公と決着をつけようぞ・・・!!」

 だが、大切な者達を護る側であるアルスランは、激情に流されるのをよしとせず、冷静に努め―――、その腰に帯びた『劫炎の剱』の柄に手を掛けた。

 アルスランの強い意志を感じさせるその黒い眼の眼差し。彼のその双眸には、自身の征く道を、『自身の正義』を貫徹するという強固な意志が宿っている。


「ハハハハッツ―――そうでなくてはなッアルスランッツ!!」

 アルスランが、自分の言葉に応えてくれて、自身のその得物『劫炎の剱』の柄に手を掛けたのを、手を掛けてくれたのを見てチェスターは、とても心が嬉しくなり、喜びに打ち震えた。


 ぐっ―――、っと、チェスターは、柄頭に青緑色の宝玉が嵌め籠められている己の『封殺剣』の柄を、その右手で握り締めた。

 スゥ―――、っと、チェスターは、鞘からまるで、滑らせるかのようにその銀色に輝く剣身を、ややもったいぶるかのように、抜いていく。


「さぁ―――、斬り合おう・・・アルスラン。俺達は互いに自身の生命を輝かせ―――、闘い合おう」



 チェスターが抜けば、『封殺剣』の『封殺』という特殊効果を封じていた、鐺に嵌め籠められていた橙赤色の宝玉と、柄頭に嵌め籠められていた青緑色の宝玉とを結ぶ“縛め”は解かれ、封殺剣は、その真の威力『白き禍』の力を解き放たれ、行使されるのだ。


 キン―――


 ―――っ、女神の静かなる寂しさ。


 すると辺りに、周囲に、施療院の敷地内全ての範囲に“静寂”が(もたら)されるのだ―――。


 “それ”は、全ての『叡智の力』、即ち『異能』『魔法』『氣』、さらにそれらを組み合わせた『魔法科学力』『超科学力』の停止、封印、封緘、封殺―――。



「―――っ」

 自身の氣が封殺される。氣をうまく練ることができなくなる。氣を行使することができなくなる。―――というその、妙な違和感を覚えるが、アルスランはもはや、その感情を顔に出すことはせず、鋼色に輝くその『劫炎の剱』を、湾曲したその刀身を抜き放つ。

「、、、闘いこそが、己の生きる道とする貴公よ。では、急に姿を消し、今までどこに行っていたのだ、貴公は。まさかと思うが、逃げた、というのではあるまいな?」

 アルスランは、疑問に思っていたことをチェスターに訊いた。


「逃げたのではない。ふんっ、くそくらえな、くだらん野暮用だ」

 だが、チェスターはアルスランの質問には答えず鼻で笑った。


「・・・そうか」

 アルスランは興味を失して、それ以上のことは訊かず、、、チャ―――、っと、その右手にした『劫炎の剱』を、改めて持ち直す。


「あんなくだらないこともよりも―――、ハハハハっ―――、」

 ぐぐ、っと『封殺剣』の柄を握り締め、チェスターは現れるより否や、イデアルの会合の場より戻ってくるや否や―――、

「―――、俺はお前と―――ッ」

 ダンッ、っと、施療院の石床を蹴り、そしてアルスランの元へと、闘いに逸る嬉々とした表情とその感情。

 ダダダダッ、っと、凄まじい勢いで走り、アルスランへと『封殺剣』をその手に持ち駆けてゆく。


「ッ(来る―――ッ)!!」

 アルスランは、チェスターの闘いに逸るその姿を、視界に入れその動向を見据えており、力を封じられた『劫炎の剱』で、チェスターの『封殺剣』を迎え撃つのだ。


「―――、俺はお前と闘うために戻ってきたのだっ・・・アルスランッ!!」

 チェスターは、大剣に分類されるであろう封殺剣を易々と、掲げて揮う―――。アルスランへと真っ直ぐに、我先にと向かっていくその様は、防御や回避は考えていないというような特攻である。


 凄まじい特攻のような荒々しいその動きに、剱術の動きや所作などは微塵もなく、ただチェスターは、力任せに大剣『封殺剣』を振り回す我流の荒々しい剣技にて―――、

「うぁおおおおおおぁあぁああッ―――!!」

 まるでチェスターの剣捌きそれは、例えば、森に生える草木を、大鉈で縦横無尽に思い切り薙ぎ払い、伐る様に近い。まるで、アルスランは樹木であり、薪にするために大鉈で叩き斬りにいくかのような雑な動きである。


 だが、それは、チェスター=イニーフィネにとっては、“攻撃こそ最大の防御”であり、小細工は使わず、己の初撃の斬撃にこそ最大火力で、敵アルスランに斬りかかることこそ、此度の闘いにおいての唯一無二の最高の愉しみであったのだ。

 駆ける己の剣の間合いまでアルスランに至ったところで、より一層ますます、チェスターは、その両手柄に順手で、なお左手も添える。


 チェスターの封殺剣は、アルスランの持つ刀剣の形状した『劫炎の剱』とは違い、両手持ちの大剣である。

「―――、喰らいやがれッ・・・アルスランッツ・・・!!」

 ズア―――ッ、っと、チェスター=イニーフィネは、その手にした『封殺剣』を跳ね上げた。


 おそらく、そう―――大剣に近いような封殺剣を跳ね上げたその攻撃行動は、その理由は、アルスランの頭上より、兜割りの斬撃を見舞うためである。

 振り下ろすその『封殺剣』で、アルスランを頭上より彼を叩き斬り、肉を斬り、骨を割るような、重厚な『封殺剣』を振り落とす重い斬撃となるであろう。



 対するアルスランは、極めて冷静であり、

「―――ッ」

 チェスターのように己の烈しい感情は、その顔には出していない。だが、アルスランのその心は、面とは正反対だった。

 ここで、チェスター=イニーフィネを斬り殺し、その生を終わらせる。既にアルスランは、天神(テングリ)にその心に誓って、勝利を捧げる、と。


 チャ―――、

「オレは貴公を斬る。貴公は返り討ちに遭うだろう」

 アルスランは、その刀剣力を封じられた『劫炎の剱』を、やや斜に構えた。

 その(Kabza)を持ち握り締める手は右手。

 反対の、左手のその手指は、柄を握り締める右手に上から重ね合わせて柄を握り締める―――。

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