第三百二十三話 ふふ、っ♪その子達が私のかわいい『大地の守護者達Tiara ve Gardion』でっす♪くすくす・・・っ♪
石床は、コンクリート製の壁は、その振動は、最大の揺れとなり、ついに大地の魔女アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンにより、大地の魔法は行使される。彼女アネモネの力の息吹が、そのマナが、その魔力が、地物に吹き込まれたのである。
魔法王国五賢者の一角大地の魔女アネモネの地属性のマナによる『窯業の原料と成りうるもの』に起きた異変、変質。
大地の魔法による魔法生物化―――『大地の守護者達』。
第三百二十三話 ふふ、っ♪その子達が私のかわいい『大地の守護者達Tiara ve Gardion』でっす♪くすくす・・・っ♪
ボゴっ、ボゴっ、ボゴンッ、っと―――。
キュアッ―――、っと旭日の光条。三か所ほどの石材の床の地面が、アネモネの大地のマナの光を伴って、旭日の光条に噴き上がり、
かたや一方では―――、
バキっ、バコンっ、バゴンッ、っと―――。
ピカァ―――、
っと―――、壁や柱の罅に添って、アネモネの大地属性のマナの黄金の光が走ったかと思うと、その直後、地下に設えられた会合の場を、崩壊から辛うじて保てるだけの幾つかの鉄筋コンクリート製の柱だけを残して、文字通り固い土石原料から作られたコンクリート製の柱が爆ぜる。
ゴゴゴゴゴゴ―――
ボゴっ、ボゴっ、ボゴンッ、っと、
石材の床の噴き上がりは集まって、盛り上がり、、、もごもごと、塊と成りて、ぐぐぐっ、っと、集まった土石が、手指のように、むぐむぐと伸び、育ち、徐々にヒドラのような土石の多頭ワームに成ってゆく。
終にそれは成り、
『―――』
白い石材からできた多頭ワームの長い胴体が、その触手の頭が左右にゆらゆらと、まるで海水の波に揺れるイソギンチャクの触手のように揺らめく。
まるで、間合いに入った対象物をいつでもマナの通った石材の胴体で薙ぎ、粉砕できるぞ、と言っているかのように、ゆらゆらと蠢く。その触手の胴体の数は七つ。
そして、石材の床ではなく、もう一つの、コンクリート製の柱と壁は。
バキっ、バコンっ、ボンッ、バゴンッツ、と―――。
壁や柱にマナ光の罅が走り、爆ぜたコンクリート製のの柱のその中心から、人型の『石人形』が、ぬぅっ、っと、現れる。
それは、爆ぜたコンクリート製の柱の数と同じ五体。
その姿かたちは、頭部はちゃんとあるものの、その表情は窺えず、人のそれと違って目鼻口はただ窪んでいるだけの石人形である。よって、その“地物”には歯や目玉は備わっていない。
石人形達の上半身は、その上半身は下半身よりも大きく、膨らんだ石の胸板であり、両腕は野太く、その両手は、まるで騎士の手甲のような外観と質感である。
下半身は、上半身と違って肥大化しておらず、だが足はしっかりとこの石床を踏み締めており、その総重量足るや石床を踏み抜かんとするほどのもの。
うぅ、、、っと、一人憤りにアネモネを睨むように見詰める女性がいる。その女性は、総司令官アリサである。
アリサは、その所業に我慢堪らず、張本人たるアネモネに対して口を開く。
「や、止めなさいっアネモネ!! この部屋は地下室なんですのっ崩壊したら、皆ただでは済みませんわっ!! 貴女っみんな潰れてしまいますのよっつ・・・!?」
この地下に設えられたイデアルの会合の場の変容に、総司令官アリサは堪らずアネモネに問いかけた。
「ふふっくすくす・・・♪ いえいえ♪いいではありませんか♪アリサさん、みんな潰れちゃいましょうっ♪・・・ふふっ」
だが、アネモネはその余裕の笑みを零すばかりで、総司令官アリサの言葉に耳を傾けることはしなかった。
「―――、あ、貴女ね・・・っつ」
機人であるにも関わらず、その『総司令官アリサ』のその感情は豊かであり、アリサは不服の表情をその顔に現した。
「ふふ、っ♪その子達が私のかわいい『大地の守護者達Tiara ve Gardion』でっす♪くすくす・・・っ♪」
アネモネの不敵な笑み。
彼女アネモネが、不敵な笑みをこぼせば、それを合図とばかりに―――、
ダ、ダダン・・・ッ―――っと
ズズズ―――、っと。
っと、主たる大地の魔女アネモネを守護するように、彼女自身がその大地の魔法で創造せし魔法生物。
それは、土石の魔人兵が五体。そして、土石の七頭の頸を持つ地虫が一体。
合わせて六体の魔法生物。六体の大地の魔法の産物が『イデアル』の理想の行使者達の前に立ちはだかったのである。
対する『イデアル』の理想の行使者は、
『流転のクルシュことクルシュ=イニーフィナ』
『屍術師ロベリア』
『(中世中央ユーラシア風の男)』
『日下修孝こと先見のクロノス』
『執行官』
『総司令官アリサ』
『不死身のラルグス』
『炎騎士グランディフェル』
そして、
『監視官サナ』と『導師』と『特務官No.702』である。
「こうなったら―――私にだって考えがありませんわ、アネモネ。。。っつ」
もう謝っても許してあげませんわ―――、っとアリサは、そのような雰囲気を前面に出す。
タンッ、っと、一歩、総司令官アリサは、力強くだが身軽さも兼ね備えたその一歩を踏み出し、、、。
だが、アリサの目の間に、まるで聳える大岩のように立ちはだかるは、アネモネがその大地の魔法により息吹を与えた地物土石の魔人兵『石人形』と『七頭地虫』である。
「へぇ―――、どのような御自身のお考えですか?アリサさん♪ ふふ、くすくす♪」
大地の魔法による生ける地物の背後には、不敵な笑みを絶やさないアネモネがおり、アネモネは総司令官アリサに、地物越しに訊いたのだ。
「『解放』ですわ、『機人』の。 ほんとうは私、、、あまり人前では、はしたないことは、したくないのですけれど・・・」
「、・・・っつ。―――」
アネモネは、アリサのその言葉『機人の解放』に、一瞬、目を見開きその表情を驚いたものとしたが、すぐに元の表情の読めない、不敵な笑みのものに戻した。
「アネモネ。私は、貴女とは違い、私自身が尊敬し、敬忠し、崇拝し、崇敬し、心酔するあの大きく偉大で崇高な『理想』を掲げる偉大な導師様の為に、アネモネ貴女を止めて見せますわ・・・!!」
「私を止める?えぇ、アリサさんっやってみてくださいなっ。ふふっ貴女にそれができるものなら・・・くすくすっ♪」
ゴゴゴゴゴゴ―――、っと。アネモネが、その魔力で、土石魔法で、その大地の魔法で生み出し、地物達六体が、動く。臨戦態勢を取る。
動くは、臨戦態勢を取るのは、石人形改め、魔礫兵五体と七頭地虫が一体。その魔礫兵の大きさは、ゆうに身の丈八尺を越え、会合の場の天井にも届くというほどである。かたや、七頭地虫は、その下半身は、石床の地面に埋まったままであるにも関わらず、上半身だけで、まるで道路を割り掬う重機のような重厚感とその大きさである。
「言いましたわね、アネモネ」
「「―――」」
総司令官アリサの、その様子。アネモネの挑戦的な笑みとその売り言葉。双方の売り言葉に買い言葉の言動を観て、
「、、、」
日下修孝は、無言でその左手を、腰の得物日之太刀『霧雨』の柄に―――、
「クロノス・・・っ!!」
「、―――っ」
日下修孝の抜刀の所作へと移るその手の動きが止まる。日下修孝は、総司令官アリサの、自身の名を呼ぶ言葉に、耳を傾けたのだ。
「手出しは無用ですわっクロノス。アネモネは―――」
アリサは、日下修孝以外の、イデアルの構成員達にも、その目線を送り、
「―――、私が止めて見せますわ」
同志の皆にも言って、自身の考えを聞かせた。
「ふふ、くすくす・・・っ♪」
アリサの買い言葉にも相変わらず、アネモネは、そのかわいらしい笑みを絶やさず。
「アネモネ。一度本気の貴女と闘ってみたかったのですわ、私は」
「へぇ、そうなんですね、アリサさん♪」
「っ・・・導師様」
ぽつり。
ちらり、と。総司令官アリサは、振り返り、背後の『特務官No.702』に護られる導師を一瞥。
だが、すぐにその振り返った首を元に戻したアリサは、アネモネを見据えた。
「私が敬愛する導師様、私の活躍を見ていてください。今回もきっと貴方様のお役に立ちますわ。私は貴方をお慕いしておりますの、―――導師様―――っ///。 ―――」
真正面を向くアリサは眼を細め。その視線は、目の前の、地物達を自身の前面に配置しているアネモネを見据えたままである。
「―――興奮物質脳内へ転送・・・感情抑制機解除確認・・・完了。加速装置解放・・・『殺機状態』へ移行」
キュウン―――、っと。アリサに、その容貌に、その顔に『変貌』が訪れる。
彼女アリサの眼が、その翠色の綺麗な宝石のような眼が、まるで魚が死んだような虹彩のない燻んだ光沢のない瞳に変わった。
さらにアリサが喋ったときにも、強張ったかのようにピクリともその表情を動かさなくなったのだ。
「―――正常完了。―――『解放』します。―――、キリング・アリサちゃん行っくわよぉおおおおっ―――ッ!!」
総司令官アリサの、奇声にも似た咆哮による宣言。感情を現すその表情も元に戻り、いや、以前よりも、ずっと―――。