第三百二十二話 魔法王国五賢者の一柱大地の魔女
バッっと、アネモネは、その左手に持った自身の地属性の魔導書を天井高く掲げる。すると、アネモネの、攻撃魔法を行使する、という気持ち、その意志の強まりがきっかけとなり、彼女自身の魔力が急速に高まっていく・・・!!
それは黄金色に見え、光り輝くアネモネの魔力は強く眩しく、希望に満ちるそのような熱く激しい輝き。『イデアル』の構成員が集うこの会合の場は、アネモネの大地属性の眩しい黄金の光に包まれ―――、
第三百二十二話 魔法王国五賢者の一柱大地の魔女
ぱぁ―――ッ、っと魔導書より、明るい黄金色の光が溢れ・・・っ。アネモネのアニムス、すなわち彼女の解放する魔力が急速に高まっていく。
それをこの場に集う『イデアル』の者達、特にアネモネの近くにいる『十二傳道師』達は、肌でその力強いマナ(アニムス)の感覚で感じ取り、そして、その大地の魔女アネモネの魔力に気圧され、威圧される。
「な、なんだとっ!! この俺様が―――、ぐおっ、ぐおぉぉおおお・・・っ」
ラルグスは、その左右の腕を交差させ防御。眼前に翳すもアネモネのマナの勢いに、ずずず―――、っと、圧され、
「く・・・っ」
日下修孝は、ダンッ、っと、その場で足を踏ん張り堪えるが、そのマナの眩しい輝きに目を細めて、やや顔をそむける。
「、これが―――、っ」
中世中央ユーラシア風のいでたちと容貌の男も、その切れ長の眼を閉じ、その眩しさに腕を、開いた手を眼前に翳す。
また、ネオポリス勢といえば、
「「「―――」」」
特務官も総司令官も、そして、執行官も、その電脳や、電脳化された脳による意思で、自身らの眼の網膜に減光フィルターと減アニマシールドを掛けるのだ。
―――、アネモネの全身全霊の、土石魔法のマナの高まりに応え、彼女の黄金色に輝くマナは、
キュイィイィ―――ッ、っと、集束していく。
「ふふ、くすくす・・・っ♪」
彼女アネモネは余裕の笑みをこぼし、ただのやせ我慢かもしれないが、彼女自身のマナは、左手に持って掲げた魔導書に、光と共に集束する。
満を持す。
ついに、魔法王国五賢者の一柱大地の魔女アネモネによる土石魔法、、、いや地属性のレギーナ家総代アネモネによる大地の魔法の、その行使と発動である。
ゴゴゴゴゴゴ―――、
縦揺れの突き上げるような、まるで地鳴りのような細かい大地の振動―――。
異変。
地の蠕動。それが、『イデアル』の会合の場の床、石材の床、窯業により精整された床に地鳴りの如く、響く。
机の上に置かれた、針崎統司の端末は、ガタガタと、縦揺れに上下に細かく揺れる。
アネモネは、ついに己の魔法行使の刻は満ち足り、と、その口を開く―――。
「この我、アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンの真名の下に、我自身が命じる―――」
バッ、っと。
「ッ―――」
「ッツ」
「ッ!!」
床の、足の着く地面の細かいゴゴゴゴゴゴ―――、という振動や、すぐ真下である地下の異音と異変、蠕動を、素早く察知した『十二傳道師』の幾人かは、自身の席の椅子の近くから跳ねる様に跳び、その場から退き、アネモネと自身の距離を取る。
その者達というのは、魔法王国五賢者『大地の魔女アネモネ』の、すぐ右隣の座主日下修孝や、その右隣の中世中央ユーラシア風のいでたちとその衣装を着た黒髪の男、またアネモネのすぐの左隣の座主である『執行官』である。
重量級機人である『執行官』は、ダンッ、っと大きな音を立てて、後方へと跳びすさぶっ。そのときに、ビシっ―――、っと、彼が飛び退いた場所の床には、罅が入っている。
「うっひゃああぁぁっ・・・!!」
ラルグスは尻餅をつき、、、それでも、あわあわあわわわわ・・・、と、一足先に跳びすさった『執行官』のところまで這う這うの体で、逃げていく。
アネモネの魔法詠唱は続き、ついにその地属性の土石魔法は行使されるのだ―――。
「―――マナよ、レギーナ家との盟約に応じ、その血筋と我が力に応え、力の息吹を地物に吹き込みたまえッ―――」
ぐらぐらぐらぐら―――っ
会合の場は、酔いどれのように揺らめき、震え、蠕動し、まるで天地がひっくり返った様に。地下に設えられた『イデアル』の会合の場は、すでに導師の手を離れ、土石魔法師否―――魔法王国五賢者大地の魔女アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンによる大地の魔法の独壇場。
「くっ―――!!」
中世中央ユーラシア風のいでたちの男は、その両手を頭の上に置き、罅に入った天井より落ちてくる石材の破片から身を守りながら地面に伏せる。
「ひょわああぁぁあ―――っ!! とっ、特務官っ俺を助けろ!! その『楯』の中に俺も入れ・・・っ!! ひえぇええぇええッ、天井がッ、足元がッ!! うぁあああっ!!」
ラルグスは、落盤事故と成りかねない会合の場で逃げ惑い錯乱状態となる。
「っつ・・・!!クルシュッ来いこっちだ!!」
「ほう、修孝よ。儂を抱くと申すか?いやはや―――」
「喋るな舌を噛むぞ、クルシュ」
「・・・っ///」
日下修孝は、クルシュの、ほんの紅潮させたその表情の変化には全く気付かず、クルシュをその胸に優しく抱く―――。
「日下流霧雨抜刀術―――水楯」
そして、日下修孝は、自身の腰に携えた日之太刀『霧雨』に手を回す。そして、『霧雨』に秘められ刻まれし、異能の力を解放して水楯とし、クルシュのその小さな手を引き―――、
「み、修孝―――、っ///」
その霊体を流転させ、累代を重ねたクルシュは、ぽつり、っと、まるで、本当に恋を自覚した少女のように呟いた。
その小さな呟きは、日下修孝に聴こえることはなく。
―――、水楯を行使させた自身の懐の中に、日下修孝はクルシュを抱き、大切に仕舞うかのように彼女を庇い護るのだ。
「導師よ」
「どっ導師様・・・っ!!」
執行官と総司令官アリサは、人を遥かに凌駕したその速力で、イデアルの頭目たる導師の傍らに素早く駆け寄り、特務官No.702同様に、対魔法シールドを展開する。
「いひっひひひひっきゃはははははっ!! これが『五賢者』の魔法の威力ってやつっ!? ヒヒっひひひひひッどれだけ規格外かと思えばっ♪きゃはははははっ♪あはははははっっ♪!!」
屍術師ロベリアは、その喜悦を含む言葉とは裏腹に、ちゃっかりと、既に対異能・対魔法防御機構を作動させていた特務官No.702のその、『シールド』の傘下・庇護下に潜り込んでいた。
大地の魔女アネモネの、その地属性の大地の魔法の威容をしっかりとその眼に焼き付けているのだ、ロベリアは。
ぐらぐらぐらぐら・・・―――。
誰もが、魔法王国五賢者の一角アネモネの強大な大地の魔法の威力に翻弄されてゆく、、、。
だが、未だに、アネモネは、自身の大地の魔法を行使させていないのだ・・・!! 今は、その前段階『魔法詠唱』である。
光り輝く大地の魔法、その土石魔法を行使するべく輝く黄金のマナの輝き。浮かび上がるは円形の魔法陣。
そして、終に―――、
「この我、アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンの真名の下に、我自身が命じる―――」
「―――マナよ、レギーナ家との盟約に応じ、その血筋と我が力に応え、力の息吹を地物に吹き込みたまえッ―――」
「―――『大地の守護者達』」
―――、アネモネによる大地の魔法を行使する詠唱の終焉。つまり、魔法行使の最終段階を迎え、
ピシ―――、ビシッ、ビキキキ―――っと、罅の走る石の床。罅より漏れ出でる土石のマナの烈しい黄金の輝き。
バキッ、ボコッ―――バゴンッ、っと、割れる石床。
土煙を上げて爆ぜるコンクリート壁。
その断面より溢れ出すアネモネのマナの黄金の輝き。
ビシ―――ッ、バンッバキンッバゴンッツ、っと、飛び散る石材の破片。
大地の魔女アネモネのマナを浴び、マナ結晶と化したコンクリートの壁。それは魔石の破片と成りて飛び散る。
ガシャンッ、っと、さらにガラス器や、会合の場におけるガラス製品をも巻き込み、アネモネの大地魔法が、地属性の彼女のマナが、『窯業の原料と成りうる』全ての『土石の大地より採れたる産物』を自らの隷下にし、それを操っていく・・・!!
「ふふ、くすくすっ―――♪」
アネモネは、余裕のかわいい笑みを浮かべれば、彼女と、それ以外の人物達『三頭』と『十二傳道師』達との、その間。距離にして本当に目と鼻の先、数メートルばかりの感覚が開いたその中間地点―――。
石床は、コンクリート製の壁は、その振動は、最大の揺れとなり、ついに大地の魔女アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンにより、大地の魔法は行使される。彼女アネモネの力の息吹が、そのマナが、その魔力が、地物に吹き込まれたのである。
魔法王国五賢者の一角大地の魔女アネモネの地属性のマナによる『窯業の原料と成りうるもの』に起きた異変、変質。
大地の魔法による魔法生物化―――『大地の守護者達Tiara ve Gardion』―――。