第三百二十一話 最期の議題
ついでに言うならば、同志針崎統司も、いつの間にかこの場にリモート参加に復帰している。
各々の『十二傳道師』を一周させた視線を戻し、導師は。
「―――、神の神業の代理人であり、神の如くの思考と理念と志を併せ持つ我々五世界の権衡者たる『イデアル』。その『理想の行使者』達よ『十二傳道師』達よ。哀しいかな、最後、、、最期の議題と征こう―――」
導師のその言葉―――。
導師は、ほぼ真正面の席に座る座主を見つめ、
「―――、、、っ」
その『“彼女”』こそが、導師の言った『最期の議題』である。
第三百二十一話 最期の議題
導師に優しい眼差しで見詰められて、きょとん、っと―――、する者こそ、『その“彼女”』。
「?」
―――導師の、その意味深長な、じぃ、っと、自身を見詰めてくるその優しい視線を、受けて“彼女”は、わけが分からず顔をきょとん、とさせたのだ。
『その“彼女”』―――、導師が見詰める真正面に座す“彼女”こそ“アネモネ”その人である。
導師は、屈託のない笑みを零し、、、。
「・・・っ」
導師は、自身のほぼ真正面に座す“落伍者”『大地の魔女アネモネ』を見つめて、にこり、とその笑みをこぼした、というわけである。
「『十二傳道師』の皆よ。哀しいかな、では、最期の議題を始めよう―――」
ハッと、
「ッツ・・・!!」
土石魔法師いや、魔法王国五賢者の一柱『大地の魔女』アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンは、導師が思っている事、その考えを悟る・・・!!
自身の『正体』は、既に導師にバレている、のだと。自分自身は、私はこの刻まで“泳がされていた”のだ、と。
アネモネの、内通、裏切り行為の発覚に際して―――。
先ずは、その彼女アネモネから見て、左前方の、導師から見れば特務官No.702の側からの、座主の動きから見てみよう―――。
チャ―――、っと氣導銃『日下零零零号』を構える者。
「儂は悲しいぞ、、、アネモネよ・・・」
『流転のクルシュ』ことクルシュ=イニーフィナは、その席に座ったままの姿勢で、アネモネを褪めた眼で見つめる。
懐に隠し持っていた氣導銃を右手に持ち構えて、細い人差し指を引鉄に掛けつつ、その黒い銃口をアネモネに向ける。
じぃ。っと、その探るような目つきの者。
「―――」
『探究者』こと針崎統司は、机上に置かれた端末画面のその向こうから、此度の事の成り行きを見つめている。“さて、どうなるのなら”というような視線である。
ズア・・・。っと、仄暗い闇黒の負の陰氣を膨れ上がらせる者。
「いひっきししししっ♪ひひひひひっ♪」
『屍術師』のロベリアは、仄暗い衣装に身を包み、その頭の上には、鍔の広い暗色の三角帽を被っている。
彼女ロベリアは、狂気の喜悦に満ち溢れ、自身の魔力において造り出した空間の、その中に右腕を突っ込む。
そうして、その彼女自身の得物の『鎌』の柄を掴み取れば、ロベリア自身の身の丈以上の大きな一振りの大鎌が現れる。
その大鎌は、朱く鈍いマナの光、―――その彩は月蝕時の赤銅色の禍月の様、炉の赤熱化した鋼の様、もしくは、熔岩のような赤熱―――、が点っている。『屍術師ロベリア』の、その鎌、、、それは『朱月鎌』という名なのだが、その形状は、西洋風の鎌であり、鎌の刃は三日月型をしている。
ザッ、っと立ち上がり、射―――、っと、静かに弓矢を構える者。
「―――アルスランと内通する“地の魔女め”」
中世中央ユーラシア風の衣装を身に着ける若い男は、まるで、草原に棲まうオオカミのような鋭い目つきで、袈裟懸けにした矢筒から矢を掴むや否や、左手にて弓の弦を握り、右手は糸に矢を番える。彼が狙う獲物は無論―――、その鋭い銀色の鏃の鋩が向くのは、左斜め前に座るアネモネである。
ザ、っと静かに立ち上がり、すっ―――、っと、その腰に帯びた日之太刀を抜く者。
「残念だ、アネモネよ。俺は、お前のことは嫌いではなかった。だが、、、裏切り者には罰を。さぁ、『理想』への礎と成れアネモネよ」
『先見のクロノス』こと日下修孝は、アネモネから見てすぐ右隣の座主である。彼日下修孝は淀みのない流れるような剣術の所作で、その腰に差している日之太刀『霧雨』を抜き放った。
長大で白銀に輝くその白刃は、その鋭い鋩は、『獅子身中の虫』と日下修孝自身が、思っている者であるアネモネを向く。
その日之太刀『霧雨』の長い刀身の先に至る鋭い鋩は、すぐ横の座主であるアネモネに、今にも届きそうである。
我らが大地の魔女アネモネ。この最期の議題の当事者である。
「ッ。―――・・・」
周りの『十二傳道師』に、敵意を向けられたアネモネは自身の反攻に備えて、その得意とする大地の魔法土石魔法を、その口内で呟き、詠唱するのだ―――。
ザッ。ぬぅ―――、っと、立ち上がる黒鋼の巨躯を持つ者。
「―――」
『執行官』は、アネモネから見てすぐ左隣の座主である。彼『執行官』は無言で、ゆらっ、っと、その巨体で立ち上がり、その体躯で、その黒金の鋼の鳩胸で、まるでアネモネを威圧しているかのようだ。
その執行官の体格と比べれば、アネモネの体格は、その半分の大きさもない。黒烏と雀の大きさほどの違いがある。
ザっ。キュィイイイ―――。っと、攻撃性を伴ったアニムスを光り輝かせる者。
「・・・アネモネ貴女がまさか、『落伍者』になるなんて、、、」
『総司令官』のアリサは、未だに信じられない、というような様ではあるが、その右腕を前に向け、アネモネに向けて構え、その右手の手の平が、攻撃力を伴うアニムスの光に輝く。
まるで、アリサが掲げた掌から氣功波やエネルギー弾でも撃つかのような仕草である。
ザ。シャーーーっ、っと、金属が擦れる音を伴いながら、その腰に帯びたルメリアの直剣を抜く者。
「あーあ。お前、、、救えねぇよ・・・、けっ」
月之国に在るルメリア帝国『最高軍司令官』のラルグス=オヴァティオスは、シャーーーっ、っと、その腰にぶら下げ帯剣していた『直剣』を抜く。
ラルグスは、その『直剣』の鋭い銀色に輝くその鋩を、アネモネにちらつかせるように見せながら、悪態を吐くのだ。
・・・? 一人事態が上手く呑み込めず、狼狽する者。
「ど、導師よ、皆よ。 、、、こ、これは・・・いったい、彼女が一体なにをしたというのだ―――・・・?」
発言中であり、その席から立ち、導師に『理想の行使』のその報告の顛末を話していた『炎騎士』グランディフェル。彼だけが、この事態についてくることができず、また、この状況を呑みこめていない。
『イデアル』の敵方である、『アイナ=イニーフィナの一団』に身内がいる彼グランディフェルだけは、此度の『最期の議題』を、伝えられていなかったのだ。
おろおろという態度には現れていないが、グランディフェルは動揺し、導師や周りの同志、その言動を探るように、見回す。
だが、動揺しているグランディフェルに、周りの『十二傳道師』の誰も何人たりとも何も答えず―――。
次の席は、血封されていて無期限久闊中の『紅のエシャール』と、その次の席は、今現在アルスランと死闘を演じているチェスター=イニーフィネである。
すっ、っと。一歩脚を前へと踏み出す者。
「導師。下がってください」
『特務官No.702』は、アネモネの魔法の反撃に備えて、護衛者のように『導師』の前へと一歩進み出る。
グランディフェルを覗く誰もが、アネモネに対して臨戦態勢。
アネモネ彼女の敵は、この場に集う『イデアル』の十二名。『導師』、『監視官サナ』、『特務官No.702』の三頭たる三名と。
その実行部隊たる十二傳道師―――、『流転のクルシュ』、『探究者針崎統司』(彼はリモート参加だが)、『屍術師ロベリア』、『中世中央ユーラシア風の衣装の男』、『先見のクロノス日下修孝』―――、
そして、彼女アネモネの敵は自身を挟んで、左側に、
―――『執行官』、『総司令官アリサ』、『不死身のラルグス』、『炎騎士グランディフェル』(彼はまだうまく状況が呑み込めておらず、自身のその得物は腰に差したままだ)、
という、彼女アネモネの敵は実質七名である。
アネモネは、
「―――っつ」
反抗し、自身が逃れる時間を稼ぐべく―――、
バッっと、アネモネは、その左手に持った自身の地属性の魔導書を天井高く掲げる。すると、アネモネの、攻撃魔法を行使する、という気持ち、その意志の強まりがきっかけとなり、彼女自身の魔力が急速に高まっていく・・・!!
それは黄金色に見え、光り輝くアネモネの魔力は強く眩しく、希望に満ちるそのような熱く激しい輝き。『イデアル』の構成員が集うこの会合の場は、アネモネの大地属性の眩しい黄金の光に包まれ―――、