第三十二話 互いに名前を呼び合うという事の真相
第三十二話 互いに名前を呼び合うという事の真相
だって、なんかアイナがまだなにか喋りたそうな顔をしていたからだ―――。
「ケンタと私は運命共同体、すなわち互いに親しみを込めて名前を呼び捨てで呼び合う間柄です。そのような仲の親しい関係は―――」
「―――うん?」
?? アイナの『運命共同体』発言にはちょっと驚いたよ? でも『運命共同体』と『呼び捨てで呼び合うこと』って関係あるか?
俺達の呼び捨ての間柄をなにか特別そうにしゃべってアイナのやつ? 別にそんな、親しい相手とか彼氏彼女だったら、下の名前で呼び合うことは普通のことなのに・・・?
「―――いえ」
あれ?アイナ・・・?話すのをやめた?
「やはり、初めから順を追って説明しましょう。―――」
ニイっ・・・。そこでアイナは僅か数秒間だけ目を閉じてその目をふたたび開けば、そのアイナの顔に、その口元にわずかなニイッとした笑みをこぼし、彼女の自恃といったものが見て取れた。アイナはそんなに自信に満ちたような笑みをこぼしてさ。
「♪」
アイナかっこいいかも、なんて思っちゃうじゃねぇかよ、俺♪
そうして一息入れたアイナは、またふたたび透き通るような凛とした声色で語りだす―――
「彼ケンタは、私の『貴方のことをケンタと呼び捨てで呼んでもよろしいですか』、との要求に二つ返事でそれを了承してくれました。さらに、私はケンタより『俺はきみをアイナと呼称する』との宣言を受け、私はそれを大いに喜びその『宣言』を快諾しました。私の家柄イニーフィネ家にとって互いに下の名前で親しく呼び合うという関係は、契りを交わした婚約者同士、もしくは家族親族間に限られます。つまり、私とケンタ、ケンタと私は名実共に『婚約者』という間柄になったのですっ」
っ!!な、なんだってぇえええっ!!
「っ!?!!?!」
ふ、ふえっ!?そうなの!?そいつは初耳だ!! 互いの下の名前を呼び捨てで呼び合うっていうか、呼び合っただけで婚約者同士になるだってぇ!? そんなこと知らねぇし、聞いたこともないぞ!? それって風習なのか?違うよな? 日本だってそんな風習があるなんて聞いたことないぜ!?
カルチャーショック・・・―――さすがは日本とはううん、地球とは違う異世界だぜ・・・。
「・・・」
俺に対して好き好きオーラ全開で接してくれるアイナのことを俺は決して嫌いじゃなく、その・・・俺もす、好きというか、アイナへの気持ちは認めて、俺はアイナを愛おしく思っているけれど、でも、まさか、そんなお互いが認め合い下の名前で呼び合うだけで、婚約者になるっていう習慣?風習?がアイナの家にはあるのか・・・って、そういえばアイナってば・・・あのとき―――
そう俺は唐突に思い当たる節があったことを思い出したんだ。
//////
『あっあのっ貴方ことを疑ってすみませんでしたっケンタ―――っ!!・・・っと、その前に貴方のことを私は『ケンタ』と呼ばせてもらってもよろしいでしょうかっ』
『・・・』
なるほど、アイナの思惟が解った気がする。この彼女アイナと俺は互いに刀同士でいい勝負をした仲だ。
『あ、あの・・・ケ、ケンタ・・・?』
おずおずと、俺が怒っていると、アイナはそう思い込んでいるのか、おっかなびっくりといった様子でアイナは顔を上げた。
『あ、うん。それは別にいいけどさ? じゃ、その代わり俺もきみのことをアイナって呼んでもいいか?』
日本じゃ親しい人、親しくなった人、よきライバル同士、友人同士・・・などなど、親しい人とはお互いに下の名前で呼び合うことは別に不思議なことじゃないもんな。
『っつ・・・―――///』
//////
「―――・・・」
あのとき『アイナ』と俺が彼女の名前を呼んだだけで、アイナはめちゃくちゃ頬をかーっと紅らめて、はにかみながら激しく動揺していた。
かわいいかったなぁっアイナ♪
―――って?あ、うん、ごめん。つい耽ってて・・・えっと―――
「・・・・・・・・・」
あのときの俺の印象ではアイナは上流階級の出身なのかなぁって、しかも、お付の人アターシャもアイナの傍にいたし。
日本でも上流階級にはいろいろなノーブルな習慣や礼儀も多いと聞いたことはある。けど―――ただ、こっちのイニーフィネという異世界の上流社会では、呼び捨てで下の名前を呼び合うだけで、そんな婚約者同士になるなんていう驚きの風習があったなんて・・・。
「ん~、、、」
えっと、でも俺のほうからそんな・・・、もう一回、脳内動画を再生してみよ。
//////
『あ、あの・・・ケ、ケンタ・・・?』
おずおずと、俺が怒っていると、アイナはそう思い込んでいるのか、おっかなびっくりといった様子でアイナは顔を上げた。
『あ、うん。それは別にいいけどさ? じゃ、その代わり俺もきみのことをアイナって呼んでもいいか?』
日本じゃ親しい人、親しくなった人、よきライバル同士、友人同士・・・などなど、親しい人とはお互いに下の名前で呼び合うことは別に不思議なことじゃないもんな。
『っつ・・・―――///』
『??』
あ、あれ?『アイナ』って下の名前で彼女を呼んだだけで、なんでこんなにもアイナは頬を紅らめながら、はにかむような表情になったんだろう・・・? 少なくとも、今のアイナの表情はさっきまでの猜疑心をむき出しにしていた表情とはまるで正反対の部類に入るものだ。
僅かに視線を逸らし、頬を紅らめ恥じらうそのアイナの姿。照れくさそうな笑みを浮かべるそのアイナの姿を見て、俺は好感を持て、むしろアイナをちょっとかわいいと思ってしまった。
『アイナ?」
『あのっ、そのっ―――っ///」
ほら、またアイナのやつ照れ笑いになった。俺ってば、なんか変なことでも言ったかな?
『アイナ?どうしたんだ?」
『っあ、い、いえ―――っ・・・そのケンタっ」
『アイナ?」
『っ。そ、それではケンタっ私と一緒に来てくださいますねっ?」
『え?」
なにがどう、俺に来てくれ、とつながるのか、よくわからん。
『ケンタ貴方に紹介したい方々いるのですっ」
はい?紹介したい方々って・・・誰だろう? 俺がそれらの人物を考えているときだ、アイナは右手を差し出してきていきなり俺の右手を取ったんだ。
『え、あっちょっ・・・!!」
//////
えっと・・・、ふぇっ―――やっぱり俺のほうからアイナって言ってるじゃねぇかぁっ!!
「―――・・・」
つまりそれはアイナの常識からすれば、アイナから見たら、俺にこ・く・は・く『愛の告白』をされたということになるっ!!
そうっあのとき俺のほうからアイナに『愛の求婚』をしたということになるんだよっ―――・・・!!
『あっあのっ貴方ことを疑ってすみませんでしたっケンタ―――っ!!・・・っと、その前に貴方のことを私は『ケンタ』と呼ばせてもらってもよろしいでしょうかっ』
あのときの俺は、自惚れだから考えないようにしていたけど、アイナは、アイナって俺のこと脈ありなのかもなぁ、とは感じていたんだ。
アイナはふつうに俺のことをケンタって呼んだから―――そしたら呼ばれたほうも呼んできた相手の下の名前で呼ぶのは普通のことだよな? 親しい間柄になったんだからさぁ。
『あ、うん。それは別にいいけどさ? じゃ、その代わり俺もきみのことをアイナって呼んでもいいか?』
そして俺は普通に、彼女の下の名前『アイナ』って呼ぶと、本人に言った。すなわちこの世界のイニーフィネ家のアイナにとって、これは俺と両想いになった、ということだったんだ。
「―――」
俺はようやっとその考えに至り、あのときのアイナの言動が理解できた。『貴方に紹介したい方々います』っていうあのときのアイナの言葉。ひょっとすると俺を自分の身内にでも紹介するつもりだったのかもしれない、アイナのやつ―――。
///
「・・・・・・」
記す。取りあえず俺は記したくなった―――、
こんな出会い方だったけど、俺はアイナを好きになり、お付き合いすることになったんだよ。こんな小剱流剣術以外の取り柄のない平凡な俺をこんなにも慕ってくれる女の子はアイナぐらいだってば―――。もちろん今だって俺とアイナの仲は冷めたりなんかしていない、ちょっと記すのは恥ずかしいけど・・・今もその、ますます好き合ってるぜ―――、
///
「・・・」
一応の納得まで行き着いた俺は、ふたたび意識をアイナに戻した。
「それに私は常々、私の刀の師であるコツルギ=ゲンゾウ殿から自身の孫であるケンタのことを数多く聞かされていたのです―――」
へ? 祖父ちゃんが? その話の途中でアイナは魁斗から視線を外し、俺と視線が合った。
「俺のこと?」
そういえば、アイナのやつ―――
『貴方のことをよく私に話して聞かせてくれたのは、私の刀の師匠であり、ケンタのお祖父さまであるコツルギ=ゲンゾウ殿です』
―――って言ってたっけ。
「はい、ケンタ。私の師匠コツルギ=ゲンゾウ殿は、成長したケンタ貴方が、この世界イニーフィネにやって来るだろうと、常々おっしゃっていました」
「え?」
なんで・・・そんな確信めいたことを祖父ちゃんは・・・アイナに話したんだ?
「私は師匠から貴方の話を毎日のように聞いており、希望は薄いものの私はケンタに会ってみたいとも思っておりました―――」
へぇ・・・。
「話って?どんな?」
祖父ちゃんってアイナに俺のことをなんて言ったのかな? ちょっと知りたいかな。