第三百十九話 己の『正義』
ダンッ、っと、チェスターは施療院の石床を蹴り、アルスランに突撃たる特攻。その『封殺剣』を、両手で持って掲げながらの突撃である。
「そら・・・ァッツ!!」
チェスターは、重々しい『封殺剣』を大きく振りかぶる・・・!!
「ッツ」
かたや、アルスランは、その幅広の大剣たる『封殺剣』の重々しい叩き落とすような斬撃を、自身の力の封じられただの刀剣となった『劫炎の剱』で受けようとせず、大きく跳び後ろへ回避―――。
その直後―――、チェスターの『封殺剣』の重い斬撃が迸るように繰り出され・・・―――!!
第三百十九話 己の『正義』
アルスランは、チェスターの斬撃を紙一重で躱し、
ギャリンッツ―――、
っと。空を切った『封殺剣』のその鋩が、施療院の石床に激しく、まるで斧のような動きで、当たりぶつかり、石床を割って損傷させた。
そのようなチェスターの『封殺剣』の重々しい斬撃を直で、まともに貰えば、一瞬で致命傷となろうや。
そして今度は、チェスターが攻撃を終えて、隙ができたその隙―――、その隙をアルスランがみすみす逃すということは有り得ず。
「―――・・・ッツ」
タンッ、
っと、軽やかに、まるで舞うようにアルスランは、その『劫炎の剱』を手にして、その斬撃をチェスターに見舞おう、と。
ダンッ。
アルスランは、下段に振り下ろされ、ともすればまるで石床に刺さっているようにも見えるその『封殺剣』の鋩の辺りの鎬を踏みつけた・・・!!
ガンッ、っと、『封殺剣』は、その刃は石床にぶち当たる。
「ッ!?」
チェスターは、想定外の出来事に、それを行なったアルスランを見上げるように見て驚く。
「そこだっチェスター・・・ッ!!」
アルスランは、『劫炎の剱』を振り上げ、ちょうどチェスターの、アルスランから正面を見て、頸の右からその正中線の奥深く、チェスターの心臓を断ち斬るような剣筋の斬撃である。
「く・・・っ!!」
チェスター自身から見れば、自分の左肩口左鎖骨の辺りから、アルスランの『劫炎の剱』の、その白銀に煌めく鋼の刃が身に入り、己の心臓を、大動脈を断ち切り、臓腑も纏めて肉を斬り、その右側の腰骨を割り斬って止まるような、そのようなアルスランの殺意の籠る斬撃である。
「終わりだッチェスター・・・!!」
アルスランはそれを頭の中で描いて、右手にした『劫炎の剱』を勢いよく袈裟懸けに斬り降ろした。
「俺は終わらんぞッアルスラン!!」
ぐんっ、っと。チェスターは、己の『封殺剣』を手元に引き―――、アルスランの斬撃から退避するべく、アルスランに鎬を踏まれた『封殺剣』を引いた。
「くっ、そ・・・!!」
アルスランは、足元が揺らぎその表情を苦しく歪めたが、敵であるチェスターに向かって振り下ろした『劫炎の剱』を止めようとはしない。
「、っ、ここが貴公の終焉だ・・・、チェスターよッ!!」
たとえ足場が悪かろうが、その足場とした彼奴の『封殺剣』が取り払われようと、ここでこのチェスターを討ち、この者の生きる時間を永遠に止めてやろうと、そのはっきりとした意志を示すのだ。
「―――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、、、はっ・・・ははははッ―――」
チェスターは喜悦に打ち震え、
「く、、、」
アルスランは悔しそうにしたその表情で、
互いがその生命の輝きを散らすその瞬間であったが、アルスランとチェスター双方は、立っていた。
「ハハハハッこれだっこれこそが戦い!!」
どくどく、、、―――。
チェスターは心底愉しそうに、その顔で笑う。その左肩先から胸にかけて、アルスランの剱による創傷が刻まれているのにも関わらず、だ。
「っ、浅かったか・・・!!」
アルスランは、その表情をやや不満げにさせて、だがなおも、その狼のような鋭い眼光でチェスターを敵視する。そのアルスランの左肩口は、紅の色が滲んでいる。先ほどのチェスターの『封殺剣』による創傷からの出血である。
「アルスランよっこれこそが戦いだッ。戦いの本来あるべき姿だッ!! 一方が一方を蹂躙するものではなく、これこそが戦いだ!! 全力で死力を尽くして互いにぶつかり合う!!俺達は今まで培ってきた経験と共に、生き長らえていた生命をも輝かせ、散らせ合うッ!!“闘い”というのは、本来そうあるべきものだ!! 闘いこそが正義ッ、どちらの『正義』が正しいか、それをお互いが心征くまで己の生命を輝かせ問い合う!! アルスランよ、闘いこそが正義だッお前もそう思うよな?なぁっアルスラン・・・ッ!!」
どくどくどく―――、彼の者が興奮すればするほど血は流れ、その白い皇衣を朱に染めていく。
「―――、“どちらの『正義』が正しいか”、か。―――」
確かに一理あるかもしれぬ、とアルスランは。
「くくっそうだっアルスラン。―――お前も、強固な己の意志と正義を掲げ、相容れぬ者との闘いに勝利し、屈服させ、ここまで歩んで来たのだろう?」
チェスターの心底愉しそうなその口調の言葉に、
「―――、・・・」
アルスランは黙した。その沈黙は、アルスランの肯定であった。
「くくっハハハハッ―――、俺も同じだ、アルスラン!! 俺も己の強き意志と『正義』を掲げ、今まで歩んできた。そして、今はそんな俺達の、俺の『正義』とお前の『正義』がぶつかり合っている!! ただそれだけの事だ・・・ッ!!」
チェスターは、子どもの頃より、皇室内にていつも優秀な兄ルストロと較べられてきた。兄ルストロと弟チェスター。
二人は、容姿こそ似ているが、ルストロは優しく思慮深く、頭がキレその回転は速く、そして、他人を穿って見ないその性格から、皇族や家臣、そして、国民から慕われていた。
かたやチェスターは、物おじせず言いたいことは遠慮なく言う性格。自身に厳しく他人にも厳しく明らかに“武官”の才が認められていた。
ときは、和平へと向かう時代。先々代のイニーフィネ皇帝が、その排他的で、他のエアリスや魔法王国への敵対的な施策の責を問われ、現皇帝とルストロ皇太子の前に失脚。
チェスター皇子一派と『イデアル』による『大いなる悲しみ』と『北西戦争』が起きたが、今の四方世界への和平的で協調路線を運営する政権へと、それは繋がっている。
きっとチェスター=イニーフィネは、剣に生き剣に死すであろう。
「くくっ、フハハハハっ さぁ、アルスラン続きといこう―――」
チェスターはその手負いのその身体で、『封殺剣』をアルスランに向かって構えた。
「あぁ、チェスターよ。オレが、貴公を討ち取ってやろう」
アルスランも、その白銀に輝く鋼色の『劫炎の剱』を、右手に持って構えた。
「アルスラン、俺達は心征くまで―――」
―――、と、愉しそうなチェスターが、そこまで言いかけたときだ。
「―――、っ、こんなときに、―――だと!? 、、、くそ・・・、だが、仕方ない、か」
チェスターは、その抜身の『封殺剣』を、鞘に納刀にした。
カチッ、っと、はばきの音。すると、再び、剣の柄と鞘に嵌め籠められた『白き禍』を、封殺する機構が働くのだ。
驚きに目を見開くアルスラン。
「!!」
『叡智の力』を『封殺』する『封殺剣』の『力』が、消失し、アルスランのその氣も、その『劫炎の剱』の魔法も復活。
「貴公よっ、チェスター=イニーフィネよッ!! いったい、どういう―――。・・・!!」
それと、もう一つアルスランが、驚いたように目を見開いたのには訳があった。
「、っ、。アルスランよ、今回は水を差されたが、必ず続きだ。お前とこの続きをするべく、俺の『正義』を帰結するべく、俺は、必ず、、、ここへ帰ってくる―――」
そうして、自身の異能『空間管掌』を発動させた、チェスター自身により、その彼自身の声は、掻き消えたのである。
―――ANOTHER VIEW バルディア大侯国の都ウィンニルガルドの風景―――END.
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つらつら、つらつら―――、・・・、、、。っと俺は筆を取り、書き進めていく。
「・・・」
俺は小さく息を吐き―――。俺達の行動の裏で行なわれていた『イデアル』の謀。ちょうど、俺達が天雷山へ行こうと、決断し、アイナが、日之国国家警備局に接触した頃からの事だ。
イデアルは、月之国にあるノルディニア王国のバルディア大侯国と事を構え、、、。
「―――、」
俺の脳裡に、思い浮かぶのは・・・、あの、狼のような鋭い眼光にて黒髪の男。月之国では『バルディアの獅子』もしくは『剣獅子』と呼ばれていた男オテュラン家のアルスラン。あの者のことだ。
「・・・っ」
アルスランあいつは、
―――、それを俺は記されねばならない。
次巻『二十八ノ巻』も、俺達の行動の裏で、同時に行なわれてきた事を、その当事者の視点でもなく、第三者の視点で物語を綴っていこうと思う―――。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十七ノ巻」』―――完。