第三百四話 『剣獅子』と呼ばれていた男に、話は移ろぐ。
「―――、此度の、そなたらに任せた『理想の行使』である『バルディアの獅子の暗殺』。理想に仇なす『バルディアの獅子アルスラン』を討ち取り、彼奴を、この五世界から抹殺することは為せたであろうか? そのことを導師たるこの私に、その報告をお願いしたい」
導師の問いに対して。
「・・・」
自分達の成果を期待しているであろう導師のその自分自身に対しての問いかけ、グランディフェルは、なぜ導師の同郷である『執行官』に、尋ねなかったのだろうか、と、心に思う。
第三百四話 『剣獅子』と呼ばれていた男に、話は移ろぐ。
「、、、導師よ、結論から先に述べます、理想なる企ては未だに成就しておらず、、、」
「おぉ、、、なんたることだ―――、この『五世界』が『理想の姿』に至るまでなんという険しい道であることか」
「・・・導師よ。ラルグス同志が率いるルメリア帝国の精強なる軍団は、ノルディニア王国との国境沿いに駐屯し、ノルディニア王国王下騎士団及び戦士団を、国境地帯に誘い出すことに成功した、ということは先のラルグス同志が述べたとおりです。理想を行使するに当たり、その戦線の前線に至った『理想の行使者』である俺達は、チェスター殿下も俺も執行官同志も偽名を使って、傭兵としてノルディニア王国軍に潜入し、その件の者である『バルディアの獅子』ことアルスランの居場所を探り当たってみたのだが、その者『バルディアの獅子』は、どこにも見当たらず。すまない、導師よ。きっと、俺達の捜しようが足りなかったのだ・・・っ」
グランディフェルは、申し訳なさそうなその表情で、視線を落とし―――、
だが、導師は、それに憤慨することはなく、あくまで冷静に、
「ふむ、、、続けたまえ、同志グランディフェルよ」
導師の返した言葉に、グランディフェルは顔を上げ、その口を再び開く―――。
「はっ、導師。陽動して誘い出したノルディニア王国軍の、その中のどの部隊を捜しても、導師が仰る意中の者『バルディアの獅子』は、どこにも見当たらなかったのだ。方々手を尽くしても、その標的の者である『バルディアの獅子』は見つからず、仕方なく『理想の行使』の決定権を持つ決定権者チェスター殿下の判断で、俺達は、手の者をノルディニア王国軍の中に残し、俺達三人、チェスター殿下、執行官同志と俺は、『バルディアの獅子アルスラン』の根拠地であるバルディア大侯国の都ウィンニルガルドへと向かい―――」
「待ちたまえ、同志グランディフェルよ」
ぴしゃり。と、導師は。
「、はっ、導師」
「同志ラルグスの素晴らしい理想の行使であったが、ルメリア帝国軍団が駐屯するその前線。その国境の向こう側ノルディニア側に布陣するノルディニア王国軍バルディア部隊のその中に、彼奴アルスランはおらず、結局我々『イデアル』は、件の彼奴『理想への叛者』アルスランを、前線に誘い出すことができなかった、と?」
「いえ、導師よ。俺は、そこまでは言っておりません。買収した者や、俺達の手の者をノルディニア王国軍の中に残してあります。なにか情報を掴めば、すぐにでも、繋ぎの者から俺の下へと、その情報は伝えられることでしょう」
「・・・なるほど。して、同志グランディフェルよ。理想への叛者『バルディアの獅子アルスラン』を求めて、バルディア大侯国の都ウィンニルガルドへ向かったそなたらの『理想の行使』はどうなったのかね? その理想の行使の進捗状況を導師たる私に聞かせてほしい」
「はっ。導師よ―――」
炎騎士グランディフェルは、はきはきした受け答えで―――、
「はっ。導師よ。任務遂行の進捗状況ですが、チェスター殿下と『執行官』、そして俺の三人は、うまくバルディア大侯国侯都ウィンニルガルドに潜入することに成功。さっそく俺達は、『理想の行使』である『バルディアの獅子の暗殺』と『バルディアの聖女の誘拐』―――、いや勧誘に向けて行動を開始し―――、しかし、なぜか俺達の『理想の行使』は、バルディア側向こうに筒抜けだったのだ」
導師は、その表情を曇らせ、その視線をやや、グランディフェルからその下へと視線を落とす・・・。
「ほう?それはまた・・・」
「はい、導師。俺と執行官同志は、決定権者チェスター殿下の手筈通り、俺と執行官は、バルディア侯都ウィンニルガルドの城下町で騒ぎを起こし、その隙にチェスター殿下が城内に潜入。殿下がアルスランを討ち取った後、『バルディアの聖女』の奪取。という流れであったのだが、、、。導師よ、俺達が潜伏した貧民街の、つまり俺達はその、うち捨てられた小さな廃屋に潜伏したのだが、どうしてかその俺達の情報が、バルディア側に漏れたようで・・・、俺達はバルディア軍、、、それも精鋭部隊と思しき者達に、反対に急襲されたのだ」
導師は、グランディフェルのその驚愕の内容に、はぁ・・・、と息を呑む。
「―――っ」
普段は能面のように表情が動かない導師の表情が僅かに崩れたのだ。
「く、―――っ、同志チェスター同志は、導師たる私の帰投召喚に応じず―――、『バルディアの聖女』をその手中に収めた、という報せもない。同志グランディフェルよ、同志チェスターの動向を私に教えてほしい」
その導師の言葉を聞き、またその行動をを見て、グランディフェルの言葉も止まる。
「、っ―――、導師よっ、で、殿下からの・・・、報せもない、と。・・・ま、まさか―――、」
「志半ばで理想への叛者『バルディアの獅子』に、ということには。あの同志チェスター皇子に限っては、それはあるまい、同志グランディフェルよ」
「、っ!! はっ、導師よ・・・!!」
「っ、、、ど、動揺することなく、続けたまえ。同志グランディフェルよ」
明らかに導師は、動揺していよう。
「はっ、導師―――」
そうして、グランディフェルは己の言葉を発すために、当地での自身の体験を語るべく、その口を開くのだ―――。
―――ANOTHER VIEW バルディア大侯国の都ウィンニルガルドの風景―――
オルビス。
イニーフィネの民が『古の世界』と呼びし五世界の一つの世界。
日之民が自分達の『文化水準』と比較し、『月之国』と呼びし五世界の一つの世界。
そこは中世とも言うべき昔日の者達の世界。惑星イニーフィネにある大陸。そこに広がる『五世界』のうちの一つの『世界』である。『五世界』のうち、最も精強なる世界。
オルビス。日之民が『月之国』と呼ぶ古の世界。当地の人々は、『氣』を操り、屈強なる肉体と精神に裏打ちされて戦闘力に長けているが故―――、『五世界』の人々のうち、最も精強なる人々が住まう世界。
オルビスの民の彼彼女らは、『外の世界』にあまり関心を持たず、『月之国』だけ完結する世界。未だに、統一国家や統一政権はなく、中世のような価値観が支配的である。
そして、人類が辿った過去、歩んできた歴史、有史である『中世』。そこと同じく、諸勢力が群雄割拠、離合集散し、弱肉強食が支配する『中世世界』。
そこが、オルビス。
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つらつら、つらつら―――、・・・、、、。っと俺は筆を取り、書き進めていく。
「・・・」
俺は小さく息を吐き―――。俺達の行動の裏で行なわれていた謀。ちょうど、俺達が天雷山へ行こうと、決断し、アイナが、日之国国家警備局に接触した頃からの事だ。
「確か、、、女神さまが伝えてきた御神託ってあの頃の出来事だったんだよな」
女神フィーネが、俺の脳内に見せてきた『自身の記憶』と、呼んでいいのか―――、そのような、、、異能として分類すれば、『認識共有』もしくは『視覚共有』に近かったかもしれない。女神フィーネが、俺に見せてきた『映像』というか『場景』は、パッパッと切り替わったんだよ。
傍らのアイナは、
「ケンタ。次は、、、」
アイナは、やや、視線を落とす。その藍玉のような綺麗な眼は、興味深そうに大きく見開いたものではなく、どちらかと言えば、深く考え込むようなその眼の仕草だ。
深窓の令嬢のように、藍玉のような眼は、遠くを思い、その思いを馳せているかのよう。
そして―――、俺は。アイナの生き甲斐を、アイナの生きる道が鎖されたことを―――、
「あぁ、うん、―――、」
俺の脳裡に、思い浮かぶのは・・・、あの、狼のような鋭い眼光にて黒髪の男。月之国では『バルディアの獅子』もしくは『剣獅子』と、呼ばれていた男オテュラン家のアルスランに、話は移ろぐ。
―――、それを俺は記されねばならない。
次巻『二十七ノ巻』も、俺達の行動の裏で、同時に行なわれてきた事を、その当事者の視点でもなく、第三者の視点で物語を綴っていこうと思う―――。
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十六ノ巻」』―――完。