第三百一話 新たなる『理想の行使』へ―――
、、、っ、っと、アネモネ。
「、、、それは、愛じゃないような、既に・・・」
「いいのいいのぉ~固いこと言いっこなしぃアネモネぇ~いひっきしししっきゃはははははっ♪」
「―――、、、」
日下修孝は自身の周りで繰り広げられるイデアルの構成員の女性達の会話を聞き、言動で知り―――、
第三百一話 新たなる『理想の行使』へ―――
「っつ。なぜ、ここの女どもは、こうも恋話が好きなのだ? そのようなことよりも、もっと、この五世界のために、為せねばならぬ『理想』があるというのに」
独り呟く日下修孝だった。
「っったく。クロノスの言うとおりだぜ・・・けっ、―――」
日下修孝の呟きにも似たその言葉に反応したのはラルグスである。
彼ラルグスは、白い目で、その退屈そうなその視線で、恋話に盛り上がるこの『イデアル』所属の『十二伝道師』の女性達を見た。
「愛だの、恋だの―――んなもんは、俺らには関係ねぇーよな?な、クロノス」
ラルグスは、同意を求め、日下修孝に言ったのだ。
「・・・あぁ、ラルグス。俺達『イデアル』は、五つの異なる世界の平和共存を図る者だ。俺達『イデアル』は崇高な神の如く精神で『五世界』という枠組みを護る防人。俺達『イデアル』は五つの異世界の権衡者だ。愛や恋などといった副次的産物などに現を抜かしている場合ではない」
「そうじゃねぇよ、クロノス」
はぁ、やれやれっ。っと、ラルグスは日下修孝に対して肩を竦めた。
「違う、だと・・・いったいどういうことだ、ラルグス」
日下修孝の、その狼のように鋭い眼光が、さらに鋭くなってラルグスを見詰める。
一方のラルグスは、その鋭い日下修孝の眼光を受けても、全く怯まず。
「愛や恋だ、なんざはっきり言ってルメリア帝国最高軍司令官である俺にはどうでもいい、時間の無駄だめんどくせぇ。気に入った女がいれば、富と名声で手に入れ、それでも俺に靡かねぇ女がいたら、そいつを力づくで、有無を言わさず奪い取り、俺に従属させていくっ!!これがルメリア帝国最高軍司令官である俺のやり方―――、俺の、『女の愛し方』だ」
「―――」
クロノスこと日下修孝は、ラルグスの意にどう思ったのであろうか? その心は、意中は彼日下修孝にしか解り得ない。
そしてラルグスは、恋話に盛り上がる女性達に向き直る。ラルグスは、その自身の左手を自身に眼前に翳し。
「さぁ、お前達っ。お前達が望むなら、全員俺の『伴侶』にしてやってもいいぞっ。それだけの付加価値がお前達にはあると、俺はそう思っているぜ!! なぁに心配すんな。俺は、俺の女には苦労はさせねぇぜ」
そう自信満々に、皆の前で言い放ち宣言したラルグスに―――、
アリサは、クルシュは、アネモネは、ロベリアは―――。
果たして彼女達は、ラルグスのこの、大胆不敵とも取れる言葉にどのように反応し、どう答えるのであろうか。
「はぁ?貴方の女?お断りですわ。女をまるで道具のように、、、最低ですわね、女の敵ですわラルグス。私に近づかないでくださいまし」
ラルグスに―――、心底嫌悪と軽蔑の視線を向ける『総司令官』アリサ。
「中々に『いい性格』をしているのう、ラルグス坊よ。お前さんの故郷は知らんが、今はもう、そのような時代ではないのじゃ。それに、くくっ、気づいておったか? 既にもう、とっくの昔に、そなたはここに集う女子に嫌われとるぞ?」
ラルグスに―――、皮肉と、くつくつ、とした笑みを向けるクルシュ。
「最低なラルグスさん、、、私に近寄らないでもらえますか? ふふっ、安心してくださいな♪ 誰も、『貴方の女』になりたいと思っている方なんてこの場にはいませんわ、ふふっくすくす♪」
ラルグスに―――、アネモネは口調こそ穏やかだが、その目は、顔は全くもって笑ってはいない。
「キモーっラルくず、ちょーキモーっつ。私のことまで、そういう視で見ていると思ったら、ラルグスちょーくずキモいんだしぃ―――、一回死ねば?」
ラルグスに―――、ロベリアは白い目を向ける。
だが、ラルグスは彼女達の、自分に対する批判や批評を全く意に介さず。
「さぁっ力なき民よ!! ルメリア帝国最高軍司令官たる俺を恐怖しろッ畏怖しろッ崇拝しろッ!! 男も女も老いも若いも、俺の、いや全てルメリア帝国の従属民だッ!!ルメリア帝国が、月之国を統一し、平和に統治するっ。『敗者は勝者の糧となれVictus pascere possunt,et qui vincit』ふはははははっ!! ははははははッ―――ッ!!」
「「「「―――・・・」」」」
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今までは、俗にいう懇親会のような親睦会の時間だったのである。三名と十二名の者達が、互いの意見や意思を交換し、前回から今までの任務の成果を報告・談笑する時間であったのだ。
「はいはい、『十二傳道師』の皆さん。皆さんの仲がよろしいことは良きことですが、静粛に。導師の御言葉がありますよ」
発言を行なった者は、上座の三名のうち、導師の、導師から見て右隣の座主である監視官サナである。
「うむ。理想を体現し、民への無償の愛ある奉仕者にして栄光ある理想の体現者三頭の『監視官サナ』よ、『特務官No.702』よ。そして、私が遣わす『理想の行使者』である五世界の民への無償の愛ある奉仕者にして、我らが精強なる『理想を齎す十二傳道師』よ。理想を体現した導師たるこの私の言葉に耳を傾けよ」
導師のその力ある、まるで腹の底まで響いてくる静かで固い声に、ここに集う者達に静寂と導師への注目、清聴が訪れる。
「神の如くの精神と思考を持ちたる我々『五世界の権衡者たるイデアル』は、崇高な精神で『五世界』という枠組みを護る防人。五つの異世界が同居するこの惑星の『五世界』に―――、争いがなく、平和と安寧、発展的で理想的な『五世界』を造り、齎すための権衡者。この惑星に在る五つの異世界が迎合・戦争することはあってはならず、この惑星に、平和と共存共栄を齎し、『理想を成すために我々はある』。」
導師は毎度行われる定例会見のような、演説を『十二傳道師』の面々の前にて執り行うのだ。
その次に導師が仰々しく語ろうとする事柄は、なぜ此度十二人会の面々全員が、ネオポリスを僅かに切り取った場所にある『イデアル』の根拠地に集められたのか、その理由と事由である。
「我々『イデアル』の崇高なる理想を体現し、行使する『十二傳道師』よ。事態は火急を擁する。私は同志『土石魔法師アネモネ』の重大な報告を受け、ようやく新たなる『理想の行使』への踏ん切りが着いたのだ―――、」
「―――、その黯靄たる悪しき嗜虐的な心を内に隠し持つイニーフィネ皇国皇女アイナ=イニーフィナは、祝福の転移者たる無垢の小剱健太氏を騙し、誘い惑わし、狂わせ、誑かし、その同氏が持つ強大な力を、自らの自己中心的な欲望のために利用しようとしている。そのような悪辣言語道断な皇女は、さらに、古の、古き大イニーフィネ帝国が創造せし、失われた七基の超兵器を、自らはさもその所有権を持つ、と言わんばかりに、アイナ=イニーフィナは、無垢なる小剱健太氏を唆して『雷基』を我が物にしようとまでしている―――、」
「―――、『雷基』を、イニーフィネ皇国の皇女アイナに手に入れられれば、最期。この五世界は一気に力の均衡が崩れ、無秩序状態となるであろう。この五世界は再び『世界統一化現象時代』と同じような動乱状態となり、この秩序があり、理想を体現しつつある、今のこの五世界は混沌に帰すであろう。さすがに、このような事態を、『五世界の権衡者』たる我々イデアルは、それを看過することはできない。『雷基』は、崇高なる神の如くの思考と理念を併せ持つ、我々『五世界の権衡者たるイデアル』でしか、扱い持ち得ないのだ。ならず者の賊徒の集団であるアイナ=イニーフィナの一団が、どうして失われし七基の超兵器『雷基』を持ち得扱えようか―――、」
「―――、『五世界』に平和と共存共栄を齎し、安定たらしめる秩序をもたらす我ら『理想の行使者イデアル』は、早急に小剱健太氏を、その不幸なる境遇から救い出し、我らの手で保護する。そして、小剱健太氏の『祝福の転移者の力』を以って鍵となる『雷基理』と『雷基』は、我ら『イデアル』が回収し、管掌する。そのために、我々は全力を持って『理想を行使』せねばならぬ―――、」
「―――、我々『五世界の権衡者』たるイデアルは、一刻も早く、転移者小剱健太氏を、己が黒き野心の支配欲に燃えるイニーフィネ皇国皇女アイナ=イニーフィナの手より保護し、『雷基』をこの手中に収め、管掌しなければならない。それに当たって同志『不死身のラルグス』よ―――」
導師はラルグスに問うのだ―――。