第三百話 様々な愛
アネモネは、日下修孝の恋話に興味津々であり―――、
「で、クルシュさま。幼い日のクロノスさんが、貴女さまに告げた好きな人というのは、いったい誰だったんですか?」
―――、アネモネは、よりもっと、日下修孝の情報を集めんがために、あわよくば手熟練れの剣士である日下修孝を牽制できるかもしれない、というその考えを、心の内に隠し、アネモネはクルシュに問う。
第三百話 様々な愛
「ふむ、気になるのかのう?アネモネは」
「はいっクルシュさま♪ 私恋話だいすきなんですっ♪ ふふっくすくす♪」
「儂もじゃ。儂も、人の恋路の、者共の惚れた腫れた、の話は好きじゃ♪ 悠久の輪廻を繰り返し生きてきた儂は、多くの者共の、様々な恋話を見てきたのじゃ。数多の者共の、恋情も恋慕も悲恋も恋愛も、愛憎も、のう。いわば、人間どらまじゃっ♪ その者共の人生を狂わし誑かす魔性の事象じゃっ『恋』というものはのう♪ ずばり、じゃっ―――修孝坊の惚れたとった者というのはのう―――」
「は、はい♪クルシュさま・・・っ♪」
☆彡♪ キラキラっ♪
今から日下修孝の初恋の人の名前が聞ける、知ることができる、と。目をキラキラさせ、アネモネは。
一方の日下修孝は、最後の抵抗。がたっ、っと、その自身の席を立つ。
「やめろ―――クルシュ・・・!! このマウント取りの、ロリBBAがっ!! 人の秘密を口外するなど、恥を知れッこのロリBBAめがッ!!」
日下修孝のその言葉―――『ロリBBA』―――。
名指しされ、クルシュは自身から見て左の、怒って焦って、慌てて席を立った日下修孝を睥睨する。
「『ばばぁ』じゃと?この儂のことを? ほう―――、修孝坊よ、儂に対する口の聞き方に気を付けよ・・・っ。今すぐ、この場にお主の初恋とやらの者を連れてきてもよいのじゃぞ?」
ゴ―――っ、っと。クルシュの、怒りに満ちた氣が膨れ上がる。
さしもの日下修孝こと『先見のクロノス』も、そのクルシュ=イニーフィナの怒氣に、まるで呑まれかのように―――、
「・・・うっ、、、く―――」
―――、たじろぐ、日下修孝。
「ほれほれ、修孝坊よ、儂に申し開きしてみよ。人にものを頼むときの言葉遣いと真摯な態度じゃ、それを儂に示せよ。修孝坊が、儂にそれを示せば、先のお主の、儂に対する失礼極まる発言『ばばぁ』と、お主の初恋の者の名前の口外、その二つを赦してやらんでもないがのう、、、儂は。くくっ」
くっ、、、―――。
「・・・っ、、、―――、や、やめてください・・・。俺の初恋の人の名前を、こ、この場で、颯希のことは、誰にも言わないでください、、、ク、クルシュ、、、さん」
バッ、っと席を立つ日下修孝。
直立不動の日下修孝はクルシュに向かって、頭を下げ、直角に腰を折る。だが、日下修孝本人は、自身の発言を気づいていない。
「あー、そなた―――」
「あ、あの、、、ク、クルシュ・・・さん?」
そろぉ、、、っ、っと、上目遣いで、まるでクルシュにお伺いを立てるような、態度の日下修孝である。
日下修孝は気づいていない。皆の前で、彼日下修孝の、初恋にして幼馴染の者の名前を口走って、言ってしまったことに。
颯希―――、それは、九十歩 颯希のことである。小剱愿造の回想の夜話に登場した女性である。
その彼女は、『灰の子』の構成員であり、今は、第六感社に潜入している女性。この『イデアル』と敵対関係にある『灰の子』の三条悠や近角信吾、塚本勝勇の仲間である九十歩颯希という女性である。
当時、日下修孝、三条悠そして、九十歩颯希は年齢も近く、お互いが幼馴染ということもあって、『廃都市計画』が起きる前は、とても仲良しだったのだ。
―――。
己の行動を鑑み、自身の日下修孝への態度も発言にも、非があった、と少しばかり反省のクルシュ。
「あー、いや、もうなんでもないわ。うむ、もうよい日下修孝よ、水に流せ。すまぬ、儂ももう水に流そう。儂も、おふざけが過ぎたわい。じゃがの、儂のこの身体は、ばばぁ、ではないぞ、修孝。儂のこの今の身体は、ぴちぴちのぎゃる、じゃ、修孝よ。以後間違えでないぞ、修孝よ」
「・・・(ぴちぴちのぎゃる、、、って・・・)あ、はい。すみませんでした・・・、クルシュ、さん」
一方、日下修孝とクルシュのやり取りを、側で静かに、発言を控えて聞いていた―――、
「、、、(颯希)」
―――、アネモネは、静かにその言葉『颯希』という人物の名を心の中で反芻。彼女アネモネの土石魔法による通信魔法が、密かに彼女アネモネの協力者に飛んでいくのだった。
そして、もう一人。自身の気持ちを、想いを、皆に、そして、その対象者に聞いてほしい人物が一人いた。
「実はクルシュ、アネモネ。私が心より愛しているお方はこの場におりましてよ。そのお方は導師様ですわ♪」
その者は、『総司令官』アリサである。
「導師様・・・っ私は貴方様をお慕いしておりますわ・・・っ」
アリサは、バッ、っと、立ち上がって己の脳に刻まれた愛を叫ぶ。
「おぉ、知っておるわ、アリサよ」
クルシュも、
「はい、私もです。アリサさん」
アネモネも、
二人はアリサに振られ、そのように彼女に答えたのだ。アリサが導師のことを『愛している』ということは、『十二傳道師』達の周知の事実でもある。
「ふふん♪ 貴女方が導師様への『愛』を知り得ないということは、とても残念なことですわっ♪ しかし、私は、ふふんっ♪この身体のメンテナンス調製も、導師様に行なってもらっているんですの、私っ♪」
だが、そこに異を唱え、挙手する人物が一人。
その者は、女性であり、いや『女性型』と言ったほうがいいかもしれない。
「『総司令官』。私は貴女に以前も伝えましたが、自身の調製も調整も、自らの手で行なったほうがよいと、特務官たる私はそう考えています。導師は忙しい身であります、導師にばかり頼り、任せるのではなく、自身でも、自分の身体を診ておいたほうがよいかと、ネオポリスの『特務官』としての私はそう思考します」
その発言の、総司令官に異を唱える発言を行なった者は、『イデアル』の三頭の一人にして、導師のすぐ左の座主である。No.702特務官その人である。
ムキぃ―――っ。
アリサは、特務官の発言がお気に召さない、とばかりに眼光鋭く特務官を睨むのだ。
「あ、貴女ねっ『特務官No.702』ッ!! 貴女は導師様の深遠なる御知識と愛を否定するつもりっ!?」
「そうではありません、総司令官、私は。ですが、私は『愛』を否定はしません―――」
「いいえっ特務官!! 貴女ひょっとして、私から導師様を奪うおつもりっ!! 貴女には、あの稲村敦司とかいう人間がいるでしょうっ!?」
「まさか、アリサ。アツシは私の、『そのような人間』ではありません。アツシには、リラやミサキという彼に相応しい人間が、その傍にいますから」
「あらあら当然そうでしょう。フンっ貴女は私達『イデアル』。ネオポリス軍の総司令官たる私が、貴女のことをなにも知らないとでも思っているのかしら?」
総司令官アリサにきつい態度で、まるで罵るように言われた特務官は、その紫色の水晶のような彩の目を閉じる。
「―――」
「特務官No.702貴女は正体を隠して、精々、奴らの中で、稲村敦司に『愛』を演じていなさいな。その間に、私は導師様と―――、、、(うっとり)」
この恋愛話は、今度は屍術師ロベリアにまで及ぼし、、、現に及ぼしていた。ロベリアは、にやにや、と怪しい笑みを浮かべその口を開く。
「いひっきししししっ♪ 私は強い男が好きなんだしぃ♪」
「ロベリアさんその心はっ♪?」
アネモネは、まるで煽るかのように、ロベリアの心情をくすぐり、彼女の返答を聞き出そうとする。
「いひっきししししっきゃはははははっ♪ だってアネモネぇ。強い男はぁ『屍術』で『屍兵化』してもぉ強いんだもんっ♪ 敵に突撃腐敗ガス爆発炎上玉砕っって感じぃ♪♪ いひっ、ひひひひっ、これこそ私の『愛』ぃっ♪」
、、、っ、っと、アネモネ。
「、、、それは、愛じゃないような、既に・・・」
「いいのいいのぉ~固いこと言いっこなしぃアネモネぇ~いひっきしししっきゃはははははっ♪」
「―――、、、」
日下修孝は自身の周りで繰り広げられるイデアルの構成員の女性達の会話を聞き、言動で知り―――、