第三十話 現れる幼馴染
第三十話 現れる幼馴染
「この場でグランディフェルを生け捕りにできればいいのですが・・・」
「っ!?」
アイナってばっ!!こんな白銀に輝く甲冑を身に着けた大男グランディフェルを生け捕りにっ!? 見てる感じだと、このグランディフェル―――(白銀の鎧を身に着け、腰には幅広で長大で、意匠の凝った洋剣)―――めちゃくちゃ強そうだけど―――!? そんな奴を生け捕りになんてできるのっ!? めちゃくちゃな戦闘になりそうなんですけどっ!?
思案顔のアイナは俺を見ながらその、グランディフェルを生け捕りにしたい、とぽつりとこぼした。
「生け捕りにってアイナ・・・本気か!?」
「えぇ、ケンタ―――」
「・・・」
そんなさも当然のようにあっさりとアイナ・・・。あぁ、解った。解ってしまったんだ、俺。今の力を籠めた藍玉のようなアイナの眼を見て、俺はアイナの本気が解ってしまったんだ。
「ここでグランディフェルを止めなければ、あの街で起きたことがまた起こるやもしれません。私は私人としても公人としても、『イデアル』によるあの惨劇を止めることができなかったかった己の無力さを悔いています・・・っつ。私は・・・亡くなった臣民にどう顔向け・・・すれば、いいのか、、、わかりません・・・」
アイナそんなに悔しそうにして。唇をかむほどそんなに・・・。ほんとに止めることができなくてつらかったんだな。公人ってアイナは言ったけど、アイナの身分や立場っていったい・・・。まぁ、アイナもまだ教えてくれないし、今は俺のほうからも訊く必要はないか。いずれ落ち着いたら・・・。今はそれよりも―――
「アイナ・・・」
俺はアイナの言うあの街での惨劇を『見た』、動き出した生ける屍達を『経験した』、彼らに襲われ『体験した』。その真相は、俺が魁斗とクロノスの会話を立ち聞きしたかぎりでは、街の住人達を殺した後に、魁斗の仲間が街の住人達を生ける屍に変えた。それが本当のことだとすれば、そんなことは許される所業じゃない。
「ケンタ貴方の力を私に貸してくれませんか?」
力の籠められたそんな眼を向けられなくてもさ、俺はもう・・・―――アイナ。そっかアイナはこんな女の子なんだ。てっきり俺はアイナという女の子はもっとこう・・・一人で、独りでも自分の『仇討』のほうを優先させるのか―――、と。
「―――」
俺はもう、この自分のアイナを想う気持ちを認めてる。俺はアイナの想いを受け止めると決めた。だから俺はアイナに付き合おう。―――アイナという女の子は自分の思いに信念を持ち、その目的に向かって突き進むような女の子だ。そんな女の子に俺は惹かれてしまった。
アイナとお付き合いするなら徹底的にやり通せ。
「ふっ・・・」
思わず『そのとき』を思い出してさ、ついつい笑みが。『そのとき』っていうのは、もちろん俺がアイナへの想いを自覚したときだよ?
うん、アイナって基本はしっかりとしてそうなんだけど、空回りするときもありそうだ。ほら、アイナとの最初の出会いでアイナってば、いきなり刀を抜いて俺のことを『イデアル』ですかって訊いてきたしさ。そのときはめちゃくちゃビビったけど、今の俺は、なんか空回りしてたそのときのアイナを思い出して、なんかかわいいなんて・・・っ///。わぁっ俺なにこんなときにのろけてんだよっ。
そっか、俺は―――。俺はまた一つ自分の気持ちを自覚した。
「ケンタ?」
俺を見て、その顔をきょとんとさせたアイナがちょっとかわいい。
「いや、うん考え事さ。そのアイナの捕まえるって意見に俺はまぁ賛成だけど、でもどうやってグランディフェルを生け捕りにするんだ?明らかに一筋縄ではいかないよな?」
まぁでも生け捕りなり、拘束しますって言うほうが、『グランディフェルを斬り殺します!!』って言うよりはよっぽどいいけど・・・。でもアイナとアターシャそして俺の三人がかりでも、ほんとにこんなにも強そうなグランディフェルを制圧するなんてできるのかな?
さっきの俺の問いにアイナは真面目な顔をして俺にその藍玉のような眼の視線を向けた。
「その方法はやはり数かと思います。数で圧し切ろうかと。こちらはケンタと私、そしてアターシャの三名、あちらはグランディフェルの一人です」
やっぱりその力押しの方法になるよな・・・。アイナの中じゃ俺もその頭数に入ってて俺のことを頼りに思ってくれているんだ・・・。
「・・・」
アイナは自分の意志を俺に告げた。俺は、これを言えば、アイナの作戦は台無しになってしまうかもしれないけれど、アイナに言わなければならないと思った。この場にいる『イデアル』は目の前に立つこのグランディフェル一人ではないということを。
「あのさ、アイナ実はここには―――」
事実俺は、この場にはあと魁斗とクロノスっていうやばい奴らもいるんだ、と言おうとしたまさにそのときだったんだ―――
「中々、戻って来ないから僕心配したよ、健太」
ビクッ!!
「ッ」
この声は!!あいつだ、魁斗だ・・・!! 思わずビクッとしてしまったじゃねぇか・・・俺としたことが・・・。あいつは幼馴染だったはずなのにさ。
突然聞こえた若い男の声・・・この声はクロノスじゃなくて、ううん、この楽しそうな声の主は魁斗だ。心配したよって―――お前は俺をどうするつもりだよ?なぁ、魁斗。
グランディフェルだけでも今ややこしいのに、こんなときに来んなよ、魁斗。お前が来たら余計にややこしくなるんだって。
アイナとグランディフェルが喋っている間に、魁斗がここにやって来たということだ。
「・・・」
もしかして―――魁斗の奴、内心で俺のことを、俺がお前から逃げたがっていることを気づいているんじゃぁ―――、だから俺はゆっくりとぎこちなく魁斗がいると思われる、声がしたほうに振り向いたんだ。
やっぱり魁斗、声の主はお前だよなぁ・・・。しかも、なんでだよ。そんな楽しそうなことがあったみたいに笑うなよ・・・。
「魁斗―――」
はぁ・・・空気も読め、お前。やばそうなお前らはグランディフェルを連れてさっさと俺達の前から帰ってくれよ、なぁ頼むよ、魁斗。俺は思わず小さくため息を吐いた。
「ははっ健太♪」
そんな魁斗は俺の気持ちも汲んでくれず、俺に人懐っこい笑みを浮かべていた。今はそんな魁斗になにか返事をする気分じゃなくなっていた。だってそうだろう?あの街の出来事の黒幕だぜ?
童心に返ったようなまぶしい笑顔で俺に笑いかけやがって魁斗のやつ・・・。
「・・・っつ」
そのまぶしい笑顔の、・・・ほんとにこんな人の好い魁斗が本当に、あの街でのあんな惨劇の首魁をはたして務めたんだろうか? 確かに俺は魁斗とクロノスの会話を立ち聞きしてしまったというのに、それでも俺は―――魁斗が、仲間と徒党を組んであの街であったような、あんな酷い事をやったなんて俺にはまだ信じられなかった。
「あれれ?グラン義兄さんもいる。なんだ健太、グラン義兄さんと一緒にいたのか。じゃあ、グラン義兄から聞いたよね?僕達の素晴らしい『理想』と『偉業』を、さ」
理想と偉業?
「??」
グラン義兄さんってのはグランディフェルのことだよな。じゃあ理想?と偉業?っていったいなんのことだ? なにを指して魁斗のやつは理想と偉業と言ったんだ?
「―――」
―――、あれか?まさか、な。そのときふと俺の頭に浮かんだこと、それは―――でももし、魁斗が―――街の住民達を殺め、生ける屍達に変えた―――それを『理想と偉業』と言っているのなら、すまん、俺には魁斗の言っていることが全く理解できないし、『理解』したくもない。
「『偉業』? あのさ、魁斗―――」
よし、やってみるか・・・。内容をぼかしてどっちにも取れる言い方で魁斗本人に訊いてみよ。『理想と偉業』それを魁斗から聞いた俺は、少し魁斗本人にカマをかけてみたくなった・・・というか、あの街で起こった事実の確認がしたくなったんだ。
「―――まさか、やっぱりあの街で起きたことは魁斗お前達が『やってくれた』ことだったのか?」
俺はそのとき魁斗が俺の問いかけに答えてくれそうに、『お前達が仕組んだ事だったのか?』とか『お前達の行為だったのか?』と責めるように聞こえるようには言わなかった。
「うん。実はね、そうなんだ。健太には怖い思いをさせてしまったかも? ははっでも、さすがは『屍術士ロベリア』義姉さんだよね、屍体の演出が凝ってるなぁって、ははっ。まるでお化け屋敷みたいなスリルがあったよね♪ ね?ケンタっ」
「・・・ッツ」
な、何言ってたんだこいつ? ほんとに楽しそうにへらへらと―――・・・いったいなにがそんなに楽しいんだ?なぁ魁斗? ―――理解、できないよ、俺には。