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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十六ノ巻
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第二百九十九話 剣士、愛とはなんぞや、と

 一方でアネモネは、

「はい、、、。もう、ケンタさまは・・・、はぁ~」

 そして、極めつけに、最後に大きな溜息を吐いたのだ。


第二百九十九話 剣士、愛とはなんぞや、と


「はぁ、、、もうっ、ケンタさまは・・・。 だから♪、今のケンタさまは剱術より、アイナさま一択って感じです、、、。薬草ひろいに森に入っても、そこで私がケンタさまの真後ろで、給仕服から薬草ひろいの服に着替えていても、ケンタさまは、私の着替えを覗き見る絶好の機会だと言うのに、私なんか眼中にないって感じです、、、アイナ、アイナ、アイナーって、周囲はおのろけばかり聞かされて、ふふっくすくす、、、。はぁ、私ってそんなに魅力がないんですかね・・・しょぼーん」

 しょぼん、っと、アネモネは。


 勿論、小剱健太のことを気にかけ、彼のことを意識しているアネモネは、日下修孝を油断させるためで、その行為だ。

 だから、アネモネは日下修孝こと『先見のクロノス』に、そのような戯言を吹き込んだのである。


「あの小剱が、、、おのろけ、ばかり、だと―――、いったい剱術は、、、剱士を、なにがどうして、そうなったというのだ・・・」

 まさか剱士を辞めたのか?バカな、、、っと言うように日下修孝は、、、視線を自身の手元に。


「クロノスさん、、、あぁ、もうケンタさまは、よよよよ。はぁ~、みんな、カノジョができればあんな、ケンタさまみたいに、万年お花畑と言いましょうか、気持ちが常春にいるかのように、そのようなものになるんですかねー」

 そういうものなんですかぁ? と、アネモネは口には出さないが、そのようなニュアンスを含んだ視線で、小剱健太と同性である日下修孝を見る。

「知らんな。少なくとも俺は、小剱とは違う」


 我らがミント、いや魔法王国イルシオンの『五賢者』の一角アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオンは、全くの物怖じはなく―――、日下修孝こと『先見のクロノス』に、話しかけることをやめることはしない。


 表情を、その顔を興味深そうにし、アネモネはそのいたずらっぽい魅惑的笑みを浮かべ、日下修孝に。

「ふふっ♪クロノスさんは、カノジョさんとか、その・・・、一生の伴侶さんは、いたりしないのですかぁ?ふふ、くすくすっ♪」

「知らんな。そのような者は俺にはいない」

 だが、きっぱり。


 日下修孝は、そう話を締めくくろうと、そのような話を終わらせたいのだ。日下修孝は、そういう気持ちもあってか、鋭い視線で、すぐ左隣に座るアネモネを、改めて一瞥する。

 日下修孝は暗に、『アネモネよ、俺にくだらない事はもう訊くな』と、でも、そう思っているのであろう。


 だが、アネモネは、日下修孝の心情の変化に気づいている。しかし、全くのどこ吹く風の如くの表情で、そのかわいい口を開くのだ。

「えーっそうなんですか!?クロノスさん。クロノスさんってかっこいいのにっ?! ほんとにいないんですかぁ?カノジョさん好きな人?」


 仕方なく―――、

「ふん・・・っ、好きな者などをつくっても、自身の足枷となるだけだ、違うか?アネモネよ」

 ―――、日下修孝は、ぶっきらぼうにアネモネの問いに答えた。

「ぶーっ、確かにそうですけどー」

「そういうわけで俺には―――」

「じゃじゃあ、昔とか、カノジョさんとか、好きな人はいなかったんですかぁ?クロノスさん」

「、、、。いいだろう」

 アネモネの質問に、はぁ、、、っと、日下修孝は、やれやれ、と言ったばかりに軽く溜息。

「いいだろう? 私に教えてくれるんですか?好きな人。やたっクロノスさんっ♪ ふふっくすくすっ♪」

「違うアネモネ。『別に』いいだろう、と俺は言ったのだ。『俺のことは、もう放っておけ』と言う意味だ」

「ぶーっ、ケチです、クロノスさんケチですっ」

「ふん・・・っ」

 日下修孝は、アネモネから目を逸らしてそっぽ向いた。だが、しかし、日下修孝こと『先見のクロノス』の、その視線の先、前方の席にはクルシュがいる。



「そういえばクロノスよ。お主、お前さんが、まだ(わらわ)の頃の話じゃ。昔儂に言わんかったかのぉ?」

 日下修孝が不遜な顔をしてそっぽ向いた先にいた(クルシュ)は、いやらしく、ニヤッとその口角を擡げ、その表情で日下修孝に話しかけたのだ。

 そう、そのような日下修孝に声を掛けたのは、その主は、日下修孝から見て、右前方、一時の方向の一番前の座主である。

 その座主は参謀であるクルシュ=イニーフィナその人だ。


「、、、言うな、クルシュ」

「ほほう・・・、『お、俺だって好きな女ぐらいいるさ』と、のう?かかかかっ、お主がまだかわゆい(わらわ)のときじゃ♪ 儂の問いに、お主はそのように言うたではないか。かかかっ、あのお主の言葉は嘘じゃったのかのう?」

 その、愉しそうにからかうクルシュの声を聞いて、日下修孝の顔が苦々しく歪む。

「・・・やめろ、クルシュ」

 クルシュと長い付き合いになる日下修孝は、クルシュの次の手を、既に予測しているようだ。なまじっか、自身の幼い頃をよく知っている者には、自分が成長しても対処しにくいと聞く。

 いわゆる『ほんとあなたには敵わないですよ』と、言った具合だ。


 そういうような人物に限って、成長した自分のことを『いつまでも子ども扱い』するものだ。


「かかかかっ♪ あれからすこぶる成長したとはいえ、お主はまだまだ、(うい)のぅ初のうかわゆいのう、修孝(たか)坊よぉ。儂がそなたに会った(おおた)ときと、なにひとつ変わっとらんのう。久しぶりに、こうして十二人、皆が会った(おおた)というに。ちとは成長したかと、儂は思うておったというのに。のう、修孝坊よ。儂から見れば、修孝坊よ。お主は父の儀紹坊(つぐぼう)とご母堂殿に手を引かれていた童のときと、なんら変わっとらんわ、今でものう―――かっかっかっ♪」

 心底満足そうに、頬を綻ばせたクルシュは大きく高笑い。


 日下修孝は、苛立たしく舌打ち。

「っつ、―――」

 チャキ―――、っと、そうして日下修孝は―――、

(ころ)す」

 ―――、その左手で『霧雨』の柄を握り締め、握り締め拳とした左手の親指の、その親指の間接を、指弾を放つときと同じ動作で、鯉口よりその銀色のはばきを見せる。鯉口を切ったのだ、日下修孝は。


 クルシュは、日下修孝の、クルシュ自身を、自分自身を斬殺しようと、しようかという動作を見たのだ。

「ほっほう―――、」

 だが、クルシュは、日下修孝に怯えることも、怯むこともなく、むしろ日下修孝のその自身を殺そうとする行動を、まるで感心したかのように。

 むしろ、クルシュは、そのような感心している自分自身の表情と言動を、反対に日下修孝に見せつける。

「―――、その名刀『霧雨』で、儂を『殺』してくれるのかのう? お主が儂を『斬殺してくれた』暁には、そなたの初恋の相手の姿で儂は、修孝坊の、お主の前に現れてみせようぞ、くく、くくくっ―――かかかかかっ♪」

 くつくつ、後半は高らかに妖しく笑うクルシュ。まるで妖女のそれである。


 キン―――、日下修孝は、くそ・・・っ、と小さく絞り出すような一言。その直後、『霧雨』を鞘に納刀する。

「―――ッツ」

 日下修孝の、その顔は苦々しく、感情を、悔しさを圧し殺したそのような、唇を一文字に噛み締め、眉間にも皺を寄せ、そして、鼻をぴくぴく、と。そのような、日下修孝の苦渋に満ちた顔である。



 アネモネは、日下修孝の恋話に興味津々であり―――、

「で、クルシュさま。幼い日のクロノスさんが、貴女さまに告げた好きな人というのは、いったい誰だったんですか?」

 ―――、アネモネは、よりもっと、日下修孝の情報を集めんがために、あわよくば手熟練()れの剣士である日下修孝を牽制できるかもしれない、というその考えを、心の内に隠し、アネモネはクルシュに問う―――。

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