第二百九十七話 『転轉基』、『煉獄基』、『封殺基』、『魔餓尽基』、、、そして―――
アリサは当代の『導師』の陶酔者でもある。アリサは導師を『愛』しているのである。『イデアル』の構成員は、個々様々な思惑を持っているものの集まりである。
『導師』に心から陶酔している者。また、己の目的を達成する近道として『イデアル』を利用している者。そして、『イデアル』の理念と、己の理念とが合致がするがゆえ、同組織に迎合している者。
様々いる者達の、その中で、『総司令官』アリサ彼女は、『導師』を『愛』している者である。
第二百九十七話 『転轉基』、『煉獄基』、『封殺基』、『魔餓尽基』、、、そして―――
「同志アリサよ」
「はっはい・・・、導師様っ///」
「古き大イニーフィネ帝国が創造せし七基の超兵器の一基『雷基』。その強大な、いや、この惑星をも滅ぼすことができるとされる強大すぎる力を有する古代の超兵器が、この大地に放置されている、ということがどれだけ危険なことか、それは理解できているね?同志アリサよ」
やや、焦り顔のアリサは―――、
「は、はいっもちろんですわ、導師様・・・っ」
だが、狼狽えるほどの、動揺ではない。
導師はアリサを、彼女のその眼を見詰めながら、まるで諭すかのような優しいその顔で―――、
「『五世界』の力の均衡の差配者であり、権衡者である我々は、『五世界』の、五つの世界が平和・共存・発展していくために、我々は全世界に、愛のある奉仕しなくてはならない、ということは解るね?同志アリサ」
「は、はいっ、導師様・・・っ」
「うむ。―――、かつて『世界統一化現象』などという百害あって一利なし、という戦乱の時代が続いた。それは七基の超兵器を、各世界勢力が我が物にせんとしたがための側面もあったのだ。と、いうことは、それらのような諍いや争いを、この五世界から全て無くすために、我々十五名の、崇高なる神の如くの思考を共有する『イデアル』が、持てる崇高なる思考で、それら『七基』を全て回収し、管理しなければならない、ということになる。それも解るね?同志アリサ」
それが、導師の、『十二傳道師』の、いや『イデアル』の崇高な理念と思想である。
「はい、導師様・・・っ!!」
「五世界の権衡者たる我々『イデアル』は、それら七基の超兵器を全て、崇高なる神の如くの思考を共有する我々の手で管掌管理することも、目標であり、それが達成されれば、平和・共存・発展という、我々が古来より提唱し続けている『五世界』の『理想』が、より行使しやすくなる」
「―――」
今や総司令官アリサだけではなく、ここに集う殆どの者が、互いの諍いや牽制を一時止めて、導師のその『理想』の訓話を、固唾を呑んで聞き入っていたのだ。
「我々『五世界の権衡者たるイデアル』は、争いのないこの五世界を構築するために、皆が家族のように誰もが笑い合える明るい『理想的な未来』を創造するために、この『五世界』を平和・共存・発展させ、この五世界の思考を、それら安寧秩序あるものに統一し、『理想を礎とした五世界黄金楽土』を創ること、それこそが、我々の理念。『理想を成す為に我々はある』―――、」
「―――、いま現在我々『イデアル』が、管掌する七基の超兵器は、『転轉基』、『煉獄基』、『封殺基』、そして、先日のことだ。この私の前に居並ぶ、きみ達精強なる十二名の『理想を体現する十二傳道師』の素晴らしいこの五世界への愛ある奉仕の精神により、ならず者集団である『九翼』の者達を、死して回心させ、その『九翼』より、回収した『魔餓尽基』。その一基を加えての、我々が崇高なる原理と思考で管掌する『七基の超兵器』の数は、これで合計四基となった。―――、」
導師は、『十二傳道師』の者達に、自身の説話を続け、その声の声量に大きなものはないが、深くまるで腹の底まで響いてくるような、固く底知れぬ声色である。
「―――、そして、次に『五世界の権衡者』たる我々『イデアル』が、管理・管掌せねばならぬ七基の超兵器は『雷基』である。そう『雷基』だ―――、」
すっ、っと、皆の居並ぶ前で導師は、その双つの眼を閉じ、言葉を詰まらせる―――、
だが、そのすぐのことだ。―――カッと、導師はその両目を見開き、その双眸を、皆々十二名に向けていく。
「―――、議題の発表の際においても少し触れたが、先刻―――、同志『土石魔法師アネモネ』より、導師たる私に、大変重大な報告が齎された―――」
十二傳道師達や、監視官サナ、特務官No.702は、導師の言葉を清聴する。そのような、静寂の中―――、
導師が静かに、だが、熱い言葉を続け、
「―――、我ら『五世界の権衡者』にとって大変残念で悲しいことに、深く、天雷山脈の奥深く、マントル層にも届きそうな、その地中に永遠の眠りに就いている『雷基』を、わざわざ掘り起こそうとし、その『鍵』となる聖遺物『雷基理』を、古き大イニーフィネ帝国の聖地の一つ、かつて『雷都』が置かれた地より、奪い盗もうとしている悪辣言語道断な、無法集団の賊徒がいる。その賊徒の数は四名―――、」
『―――』
会合の場の、その議場は、ざわざわ、とせず、どよめきもせず、この場に居並ぶ『十二人会』。導師が言う『十二傳道師』の構成員達は、導師の語った『奪おうとしている者達』のことを、既に知っているのだ。
此度の、集いし彼彼女らの目的は、『雷基』の議題が半分。もう半分は―――。
導師の、訓話にも似た説話は続く。
「―――、古の、古き大イニーフィネ帝国の技術者達が創造せし『七基の超兵器』の一基『雷基』。それは、この『惑星の氣』を導力源に、任意の空間座標に惑星級の雷撃を打ち込み対象を滅ぼす超兵器。撃ち込まれれば、人間を含め全ての生物は死に絶え、たとえ機人であろうとも、火花と火を噴きながら死に絶えるであろう。そのようなものが、天雷山脈の地中深くに埋没しているのだ―――、」
「―――、それが四名の賊徒どもに奪われようとしている中―――、そのような危険な『雷基』を、放置しておいては、この惑星イニーフィネ五世界に住まう者達にとっては、災厄にしかなり得ない。万が一そのイニーフィネ皇国の賊徒によって、『雷基』が奪われたとしよう、そうすれば、どうなるか―――、」
「―――、神の如くの崇高なる思考を持った我々以外の誰が『雷基』を扱えるというのかね。俗物なる者達には扱えぬシロモノ、それが『雷基』である。解ってくれるね、同志『総司令官アリサ』よ、私がなぜ、『雷基』管掌のために、多量のマナ結晶を精製した同志ロベリアに、導師たる私が褒賞を与えたのかが」
「ど、導師様っ、そ、それは・・・っ、、、はい・・・」
アリサは苦渋の顔に、
ロベリアは得意気に。
「ふふん・・・♪」
「我々は、その悪辣言語道断な無法集団である彼奴ら賊徒の企みを、阻止し、『雷基』の『鍵』となる『雷基理』を、我らがこの手中に収め、誰にも奪われることのなきように、我々『イデアル』が、この事象に干渉し、『雷基理』も『雷基』も、我々『イデアル』が管掌せねばならぬ」
導師は、その視線を、ロベリアに移す―――。
「決定権者同志ロベリアよ」
「ひひっ、導師っ♪」
「此度の、『理想の行使』においての『五世界の防人即ち、理想の行使者』の、人選だが、同志ロベリアよ、きみの好きな者を、この作戦に見合うと思う者を連れていくといい」
導師は、『屍術師ロベリア』を信頼しているからこその、この発言である。
「ひひ、きしししっ―――、ほんとにっいいの導師?」
「うむ、同志ロベリアよ、決定権者ロベリアよ。導師たるこの私による決定である。決定権はそなたに付与された」
びくびくっ―――、ロベリアは歓喜に身体を震わせ、そして、その目を、その眼差しを蕩けさせ―――、
「あぁんっ♡ 愛してるぅー導師ぃ♪ やったーっ♪わーいっ♪ いひっきししししっ♪ひひひひひっ♪」
導師のこの発言に、自身は『決定権者』なのだ、という自負が、ロベリアの身に沁みたのだ。彼女ロベリアは、その身体を震わせ、熱っぽくくねらせ、破顔一笑、嬉しく、歓喜する。
ロベリアは、心が熱くなり、導師のために何か事を成し遂げたい、導師にしてあげたい、という気分になった。
だが、導師は。
「但し、この導師たる私から一つ条件がある」
「ひひっ―――。条件・・・?」
きょとん、っと、したその表情になったロベリアは、導師を改めて見た。ロベリアは、導師から条件を提示される、とは思っていなかった、のかもしれない。
「此度の、天雷山での『理想の行使』の防人。その防人のことである五世界の権衡者の人選に、同志『総司令官アリサ』を加えてやってほしい」
きょとんっ、っと。
「ほへ?導師?」
ぱぁっ、っと。一方で、導師に直接名指しされ、喜ぶ者がいる。
「どっ、導師さまっ・・・!? ほ、ほんとうですのっ!?導師様っ♪」
その者であるアリサは、目を歓喜に輝かせた―――。