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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十六ノ巻
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第二百九十三話 躍る理想の行使者。『最高軍司令官』→『炎騎士』→『紅の』→『―――』

「っつ、アニサキスだか針崎(ハリサキウス)だか―――、知らねぇがな。寄生虫にだけは、なってほしくないものだぜ」

 ラルグスは肩を竦め、新入りの、クルシュの言う『針崎統司』なる者に悪態を吐くのだった。


第二百九十三話 躍る理想の行使者。『最高軍司令官』→『炎騎士』→『紅の』→『―――』


「―――」

 そして、そんな悪態を吐く彼『不死身のラルグス』の、その左横の席の座主の大男は、黙して何も語らず、だが、その力強い眼差しは、導師を見詰めている。

 導師を信じているのか信じていないのかではなく、この『イデアル』という秘密結社に属しているが故に、彼はその一員として導師を見つめているのだ。


 その大男の彼は、白銀に輝く鎧に身を固め、その銀の兜は、自身の前の机の上に置いてある。その大男彼の名は、元・イニーフィネ皇国近衛騎士団団長『炎騎士グランディフェル』グランディフェル=アードゥルである。

 この彼こそが、サンドレッタ=カルナスの実の父親である。父も娘も、髪の毛の色は金髪。目は碧眼で、父グランディフェルと娘サンドレッタの容貌は似ている。そして、その性格も。


 彼『炎騎士グランディフェル』の、すぐ左隣と、もう一つ向こうの左の席は空席である。グランディフェルのすぐ左隣の席の座主は久闊(きゅうかつ)し、『休止符』となっている。

 その座主の者の名は、元・イニーフィネ皇国近衛異能団団長エシャール・ヌン=ハイマリュン『紅のエシャール』その人である。彼エシャール卿は、死していない者が故に、その席を次の『十二傳道師』に成った者が襲うことはできず、彼エシャール卿の席はまだ埋まらないのだ。


 その、エシャール卿のすぐ左隣の空いた席、『流転のクルシュ』の真向い、『サナ』と呼ばれた女性に一番近い『十二人会』の席―――。

 この最後に紹介した席の座主はこの場には来ていない。その者は、今日の会合は欠席である。



 最後に、この十二名の『コ』の字型の机と席、そこに『蓋』をしたかのような、三頭の席。その囲われた真ん中には、一つの機械が設置されている。その機械は四つ足で、プロジェクターのような機能が備わっている。


 これは、そこ、同地機人の国ネオポリスを僅かばかり切り取って、設えられた秘密の場所。そこに集うのは、十数名の『理想』を追い求める者達であり、その情景である。


 このようにして、この秘密結社『イデアル』の定員十五名のうち、今回の会合の欠席者は三名ではあるが、かの者達の会合は、まったりと進んでいく。



「同志監視官サナよ」

 上座の『三頭』、その真ん中の席の彼『導師』は、自身の右の席に座すサナの、その名を呼ぶ。その女性は、

「はいっ、導師」

 っと、サナは答える。


「同志監視官サナよ。傳道師の皆に、飲み物と摘むものは、行き渡ったかな?」

 導師の言葉に、

「はい、導師♪」

 と、サナは明るくそう答えた。

 そのサナの人間らしく微笑む表情とその様子は、ネオポリスの血の通っていない機人の仕草ではなく、まるで普通の生身の人間がする仕草のようだった。少なくともそう見える。



「―――、・・・、、、」

 ぼりぼり、むしゃむしゃ、ずずず―――、っと、既に飲み物とお茶うけを、貪るように食すものがいる。それは、ラルグスその人である。


「うめぇよな―――、この干し肉。これをもっと出せ、サナ」

 ラルグスは、サナに“干し肉”のおかわりを注文。


 ラルグスが“干し肉”と言ったそのサラミソーセージのような、赤茶色の肉食品が、ラルグスの、毎度定期的に開かれるこの会合の場での、彼ラルグスのお気に入りのお茶うけである。


「、、、」

 一方の、『先見のクロノス』こと、日下修孝は、ラルグスを一瞥。彼日下修孝は、その『サラミソーセージ』のような、赤茶色の干し肉には、一切手を付けず、そのほかの茶菓子、栗饅頭や一口チョコなど、それしか、その手を出さない。


 日下修孝から見て、左斜め前の席に座るグランディフェルは、その口を開く。

「俺も、この『肉』は、あまり・・・。いや、どうも俺もクロノスと同じで、この『肉』に関しては食が進まぬな」

 白銀の甲冑に身を包んだままの、グランディフェルも、日下修孝と同様に、、、その視線を、卓上のお茶うけとして出された赤茶色の、サラミソーセージのような外観の肉食品に、視を落とす。


「そうかのう?儂は結構好きじゃがな、このグミのような食感と、この濃いスモーク味は。―――っ」

 一方の、三頭に一番近い席の、参謀の座主クルシュは、右手の親指と人差し指で、その赤茶色の肉食品を摘むと、ぽいっ、っといった仕草で、その口の中に放り込む。

 ぱくっ、もぐもぐ、むしゃむしゃ、っと、咀嚼しながらクルシュは―――。

「ま、確かに、儂もこの肉の製造方法には、目はつむるが、の」



「同志監視官サナよ、同志ラルグス=オヴァティオスに、“肉”のおかわりを」

「ラルグス同志にですねっ心得ました、導師♪」

 サナは遠隔操作で、ラルグスが座る机の引き出しに、そのサナ自身が放つ脳の、脳波により直接指示を飛ばす。


 カタ―――、と、ラルグスの席の机のその下の引き出しが僅かに鳴る。

「おうっ、確かにいただいたぜっ干し肉!!」

 意気揚々と楽しそうにラルグスは、己の席の引き出しを開け、お茶うけの干し肉を取り出すと、その個包装された手の平に乗る干し肉を―――、

「んぐっ―――♪」

 口の中に入れ、美味しそうに頬張る。

 もぐもぐ、、、ごくんっ。

「これこれっこの味と食感だぜっ♪ そういえば、いつも思っていたんだけどよ、これはなんの肉なんだ?」

 彼ラルグスは、サナに目を合わせ問う。

「ふふふ、秘密♪ということにしておきましょうか、ラルグス同志♪ 話すと、そのお肉の美味しさの秘密がなくなってしまいそうで、ふふ」

 と、サナはラルグスにそのように答え、その綺麗な顔で笑うだけだ。

「ちぇ・・・、ケチなやつめ。まぁいいけどよ♪」


 ラルグスは、口を開き、ふたたび、もぐもぐと赤茶色の、サラミソーセージのような形状と味のその肉食品を咀嚼。

「うめぇ・・・♪」

 もぐもぐ、むしゃむしゃ・・・、ごくんっ。ラルグスは、本当に美味しそうに、もぐもぐ咀嚼、そして、ごくん、と“干し肉”を嚥下した。


「『不死身のラルグス』、私が―――」

 その、サナの代わりというように、今度は『特務官』がその口を開く。

「あぁん?なんだよ、特務官。てめぇにはやらねぇぞ、この干し肉」

 ラルグスは、その視線を特務官へと向ける。

「はい、要りません。それよりもラルグス―――」

 特務官は、ラルグスに何か話したいことでもあるかのように、その形のいいきれいな唇を、その口を開いて、ラルグスに話しかけた。


 一方の、特務官に呼び掛けられたラルグスは、お茶うけに伸ばしたその右手を止めたまま、

「あぁん?」

 と、特務官の言葉に意識を向け、その耳を傾けてみる。


「私が、ラルグス貴方に解説をしましょう―――。その干し肉は、『人造肉』、もしくは『人工肉』という食品です。正式名称は、『食肉用人造蛋白質』と言います。我々ネオポリスには、肉食品の原料は家畜という概念はなく、ネオポリスの全ての人間と機人の食糧は、工場で生産しています。野菜も然りセルロースと他の糖より合成し、それらしく野菜を作ります。そして、特に食肉は、一からバイオタンクの培養液―――、解りやすく説きますと、種々のアミノ酸を含んだ赤茶色の『肉液』の液体の段階から、徐々に『赤身の肉らしく』培養し合成していきます。人間がその舌で『赤身の肉の旨味』また『脂身の肉の旨味』を感じやすいように、石油・石炭・水・窒素・酸素より、複雑な過程を得て有機化学合成された肉食感剤や人工香辛料や人工甘味料による味付けをされて、今貴方が食べた培養肉の干し肉という食品と成るのです。もちろんより肉感のある、ステーキのような肉を食したい者には、そのように血色よく造ったバイオステーキ肉を提供します、ネオポリスでは」


「・・・は?」

 意味わかんねぇぞ?というような表情のラルグスであったが。


 にやにや、、、。その斜向かいに座すロベリアは、ラルグスに対してイヤらしくその口角を、ニヤリと嗜虐的に吊り上げる―――。

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