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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十六ノ巻
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第二百九十二話 躍る理想の行使者。『屍術師』→『月之民の男』→『先見の剣士』→『土石魔法師』→『執行官』→『総司令官』→『最高軍司令官』→

 一方。アネモネに話を振られ、同意を求められたロベリアは―――、

「えぇ、アネモネ」

 ふふんっざまぁみろ、っと言った態度のロベリアは、ラルグスから視線を外し、それ以上は、ラルグスのことを自身より低次元の者と思っているのか、再びラルグスを見ようとはしなかった。

 ロベリアは、ラルグスを恐れていて見なかったのではなく、ラルグスのことなど、自身の眼中にはなく、彼を自身の相手にしていないだけだ。


第二百九十二話 躍る理想の行使者。『屍術師』→『月之民の男』→『先見の剣士』→『土石魔法師』→『執行官』→『総司令官』→『最高軍司令官』→


 その『屍術師ロベリア』の左隣の席には、一人の男が席に就いている。その男は何も発言せず、ただただ黙し、導師及びその左右の副官を見詰めているだけである。

「、、、」

 その男は無表情に近い感情を極力抑えたような表情をしており、またその切れ長の眼の眼光も鋭い。その男の腰には、彼の得物である独特の形状をした刀を差している。


 その男は黒髪黒目。髪の長さは、短くもなく長くもない。ただ、辮髪(べんぱつ)のような、頭の後ろ後頭部の髪型に、二条の辮を垂らしている。この男の姿形は中世中央ユーラシア風の衣装に身を包み、古風な(なり)をしており、この者は明らかに月之国の、草原の民出身者であろう。


 その古風な服装の男の左側で、ちょうど『コ』の字に配された席の角に当たり、そこより先の席は、ちょうど、導師を含めた三頭と向かい合っている。

 その古風な、中世中央ユーラシア風の服を着た男の隣には―――、


 ―――、これまた同じような雰囲気の、長身で、鋭い眼差しをした男の剣士が、その席に就いている。

「―――」

 その剣士の名前は、日下修孝『先見のクロノス』という者である。日下修孝も、やはり、その古風な男と同じような厳しくもあり真面目な表情で、導師を見詰めている。その日下修孝の腰には、見事な名刀日之太刀『霧雨』が備わっている。


 その剣士日下修孝『先見のクロノス』の左隣には、さきほどラルグスとロベリアの(いさか)いをやんわりとした口調で制止した、我らがミントこと、魔法王国五賢者の一人アネモネ=レギーナ・ディ・イルシオン『土石魔法師アネモネ』が、その席に座っている。

「~♪」

 彼女は、にこにこ、とその可愛らしい笑顔を、この場に集う皆に振りまき、それを絶やさない。むしろ、その所為で、アネモネの、本当の心の動き、心情は、見る人が見ても解らないのだ。

 彼女アネモネは、此度の会合の場にて、これから起こることを一切感知できていないのだ。



 そのミントことアネモネの左横には―――、

「―――」

 巨漢がその席に座す。

 巨漢であるためにその彼の、尻の半分ほどしか、その椅子は応えられていない。巨漢の彼の頭には毛が一本も生えておらず、いわゆる坊主頭で、もしくは、俗にいう、つるっぱげである。


 彼の服装は、迷彩服を着こみ、その上には同じ色のベスト。彼の者の胸は筋骨隆々である者をイメージし、一目見れば、その印象を抱く鳩胸。

 上腕は暗い鋼色をしており、明らかに重量級の機人だ。彼は、なにも喋らない。小剱愿造に一刀両断破壊された執行官の二台目である。そして、もちろんのことながら、愿造の実力を鑑みて、それなりにアップデートされている。



 その執行官の左の席には、一人の女性がその席に座っている。女性の容姿は、若すぎることもなく、そして老いてはいない。若くはあるが、年齢を感じさせず、その顔には表情皺やシミなど一つもない。

 その女性は、綺麗な(おとがい)、顎の形。すらりと通った鼻筋。


 形の良い綺麗な眼差しを見れば、彼女は鋭い厳しそうなつり目もでもなく、また垂れたような柔らかい印象を受けるような眼差しでもない。その中間ほどの、絶妙な比率の美しい『両眼』のかたちだ。そして、綺麗な眉の形とその角度。


 そのような美しく端整な顔立ちは、本当に機械のようにシンメトリー左右対称の顔かたち、体型をしており、その彼女の顔は、まるで能面のように美しいのだ。人としての『美しさ』ではなく、『こわいような』造形美なのだ。


 ジィ―――っ、そんな彼女は、ある一点だけを見詰めている。

「―――っ///」


 その女性の髪形はどうであろうか。美しい長い髪を、まるでマフラーのように、その頸元に絡ませている。彼女はそのような髪型である。

 彼女が、ジィっ、っと、熱っぽく見詰めるその先は、自身の目の前に座す、いや、やや右前十三時の方向―――。その方向の席は三頭であり、彼女が熱っぽく見つめているその座主は導師である。


「―――、『総司令官』」

 導師の隣に座す特務官は、そう口を開き言葉を発する。特務官は、この造形美のような美しい顔立ちの『彼女』を『総司令官』と、呼んだのである。


「―――っ///」

 だが、特務官に、役職名で呼びかけられたであろう、『彼女』は黙して、、、いやそのように呼びかけた特務官を、彼女『総司令官』は無視して、なにも反応はしない。


「・・・」

 特務官は無駄なことはしない。特務官、稲村敦司の一団には『No.702(ナッツ)』と呼ばれているこの機人の少女は、それ以上の言葉を『総司令官』に掛けることはなかった。



 その『総司令官』の左横で、『コ』の字に配された席は、角に当たり、そこより先の席は直角に折れるのだ。


 『総司令官』のところで、机は直角に折れ、その隣に座る男は、ラルグスである。


 月之国の大国ルメリア帝国の最高軍司令官(ドゥクス)の地位に就く男ラルグス=オヴァティオスその人である。

 ラルグスはルメリア帝国の精強なる軍団の最高軍司令官に相応しい筋肉型の鎧を着込み、その上から豪華な外套を羽織っているのだ。

 その外套の色は、真紅の錦色だ。


「―――」

 ラルグスは先ほど、諍いのあったロベリアには、もうその視線を合わせることはなく、その彼女の右隣の席を見詰めている。


 彼ラルグスは、それまでその席に、屍術師ロベリアの右隣。彼から見て向かってロベリアの左の、誰も座っていない席を見つめているのだ。


 “今”のそこには、一大のモニター端末が置かれているだけである。

「っつ!!」

 苛立ったようなラルグスの舌打ち。彼は唾棄すべきと顔を顰め、

魁斗(カイトゥス)の、次のやろーは、来てねぇってかっ? 新入りのくせに生意気な態度だな・・・っ」


 そう、小剱健太により倒される前は、参謀の『流転のクルシュ』の左隣の、その席に就いていた者は結城魁斗『黯き天王カイト』だったのだ。


 彼ラルグスは結城魁斗のことを、言葉通りにかわいがっていたのだ、まるで、仲のいい弟分のように、弟や妹というような仲のいい身内に、示す態度で。


 だが、この場に、白装束の上に、上着のような黒フード付きの黒ずくめの衣服を羽織った者は、もはや存在しない。

 彼、結城魁斗『黯き天王カイト』は、小剱健太によってこの五世界より消された存在である。


 日之国と魔法王国イルシオンとの境界に当たる『深き森』の、その森の中で、リラ=デスピナ・ディ・イルシオン、そして、稲村敦司の前に現れた『黒フード』は、『黯き天王カイト』結城魁斗その人であった。


 ラルグスのその苛立った言葉に、この会合の場に集う何人かが反応する。無論全く、反応をしない者もいるにはいる。


 例えば、『流転のクルシュ』から数えて四人目の席に座る中世中央ユーラシア風の装束の者や、その左横の日下修孝『先見のクロノス』も、反応は薄い。


 ただ、

「、、、」

 日下修孝は、己のその鋭い視線を卓上に落とす。結城魁斗のなにを思い、なにを考えているのだろうか、日下修孝は。


「―――っ・・・カイト、、、ば、・・・か、、、」

 また、ロベリアも、まるで物思いにでも耽るかのように、結城魁斗との思い出を思い起こすかのように、寂しく、唇をやや尖らせてその視線を、やや自身の手元に落とす。


 だが、一人。寂しさを極力抑えこみ、『流転のクルシュ』は、その口を開き、

「まぁまぁ、そう言うなてラルグスよ。新入りの彼奴は『研究が忙しいのです』と、この儂に直々に言うてきたのじゃ。彼奴の『研究』は我々の光明となるじゃろうて」

「けッ―――、俺は魁斗が良かったんだよ・・・っ、、、俺は、あいつが・・・!!」

「それにのうラルグスよ。そのほれ、その机の上に端末が置かれとるじゃろ? 彼奴は遠隔操作で、この会合に『りもおと参加』するそうじゃ」

「はい?リモート?」

「月之国のおまえさんには、ちとなじみがないかもしれぬがな、まぁまぁその新入りの、針崎統司(はりさきとうじ)のことを、この儂『流転のクルシュ』の顔を立て、大目に見てやってくれんかの?」

「っつ、アニサキスだか針崎(ハリサキウス)だか―――、知らねぇがな。寄生虫にだけは、なってほしくないものだぜ」

 ラルグスは肩を竦め、新入りの、クルシュの言う『針崎統司』なる者に悪態を吐くのだった―――。

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