第二百八十一話 天雷山の『マナ結晶』
「・・・」
すっ、っと、俺は、地面に落ちているマナ結晶に右手を伸ばし、それを摘まみ、取り上げ、、、―――
第二百八十一話 天雷山の『マナ結晶』
「―――」
触ってみると、天雷山の雷氣のマナ結晶の感触は固い。その表面は、つるつるとしていてまるで水晶を触っているような感触だ。
マナ結晶の色は、やや黄色や紫色に変化しながら、まるで雷色を帯びている。また、色の着いた透明なマナ結晶の内部には、小さな雷、火花スパーク紫電が、絶えず走っている。
そしてときおり、摘まんだ指先で感じる『ぱりっ』っとした、この電気による痺れる感覚。まるで静電気に触れたときのような、この感触と感覚は、やはり、このマナ結晶が、天雷山の雷氣の結晶だからだろうな。
まぁ、俺は、レンカお兄さんとミントちゃんに、散々。俺は二人にマナ結晶について、教えられ、実際にも触れてもみたが、このマナ結晶は、『雷氣』の属性を帯びる天雷山にだけ、産出する雷氣のマナ結晶と思ってもいいだろう。
俺が親指と人差し指で、摘まみ上げたこのマナ結晶の大きさは、小指ほどの大きさほどしかない。
ころころっ、っと。
「―――」
そんな小さな雷氣のマナ結晶を、俺は、手の平の上で転がしてみた。
この眼に視得るそのマナ結晶の色合いは、一定していない。つねに脈動するかのように、紫電色から黄金色に色合いを変えつつ、ときに、パチッ、パチパチッ、っと、静電気のように放電し、雷氣を発する。
「これは―――っ。ケンタ、小さいですけど、これはおそらくマナ結晶なのでは?それも雷氣を帯びた・・・」
「うん、アイナ」
俺は、俺の手の平を覗き込んできたアイナに肯く。
「・・・、、、」
ぎゅっ、っと、このマナ結晶を手の平で握りこんだとしても、感電することなんてないよな?一抹の不安が頭をよぎる。
たぶん、大丈夫のはず―――、俺の右手の手の平の、ちょうど真ん中に、雷氣のマナ結晶を乗せ―――、
ぎゅっ・・・、と、手に力を籠めて天雷山のマナ結晶を握り締める・・・!!
パチッ―――
「おっと・・・っ!!」
一瞬、放電のような、パチッ、っという音がしたが、冬場に脱ぐ上着の静電気と同じぐらいの痛覚だった。
俺は、ぎゅっ、っと結んでいた手を解き―――、
「―――」
ころころころ―――、っと、手の平で、その小指ほどの太さと大きさほどの、天雷山の雷氣のマナ結晶を、手の平の上で転がしても、特には、もう何も感じない。
手で、手の平でマナ結晶を転がしても、それは見た目に変化はなく、俺の手の平の上で、天雷山の、雷氣のマナ結晶は、脈動するかのように、紫電色から黄金色に色合いを変え続けている。
そうだ。アイナにも触らせてあげよう。もちろん、アイナに触らせてあげようと思ったのは、この雷氣を帯びた天雷山のマナ結晶だ。
再び、今度は、きゅっ、っと先ほど握りこんだほどの力は加えず、優しく雷氣のマナ結晶を、手の平で握る。
手首を反転、手の甲を上に、手の平を下に向け―――、
「はい、アイナ」
と、俺は、アイナに手を出して、というニュアンスで答える。
アイナは、条件反射的に、その手を、まるで水を掬うような恰好で、両手を合わせる。
「あ、えっとっ!! ケンタ―――、」
そこに、ころっ、っと、俺の手の平を離れた雷氣のマナ結晶が、アイナの合わせた両手の中に転がる。
六角柱の綺麗な水晶の形をした雷氣を帯びた天雷山のマナ結晶―――。アイナは自身の手に移ったそのマナ結晶を見詰め。
「―――綺麗な、、、まるで宝石のよう・・・」
うっとり、っとアイナさん。
うっ、将来的には俺だって、アイナに宝石か、貴金属の装身具を、例えば、指輪か腕輪か、他にネックレスを贈りたい、と、そう思っているさ。
「、、、」
俺は、アイナの手に移ったマナ結晶に、視線を、意識を、再び遣る。
一定のリズム?それとも不規則なリズムだろうか。
アイナの手の平の上で、紫電色から黄金色に色合いを変えつつ、たまに、チリッ、ジジジッ、、、ピカリ、とまるで帯電し、放電し、雷氣のアニムス(マナ)を発する天雷山の雷氣のマナ結晶―――。
「あの、アイナ。私も・・・、、、」
天雷山のマナ結晶を、触ってもいい、、、。おずおず、と、いった感じの羽坂さん。
アイナは、俺に一瞬目配せ、
「ケンタ」
俺は頷く。
「うん」
俺はそんな独占的じゃないってば。アイナが、俺がアイナに渡したマナ結晶ぐらいを、アイナが又貸しのように、羽坂さんに渡しても、拾ったマナ結晶だ。そのぐらいのことに、俺は、いちいち目くじらを立てないってば。
「えぇ、ナル」
俺の拾った雷氣のマナ結晶が、羽坂さんの手に渡る。
「、、、ありがとうアイナ」
「いえいえ、どういたしまして、ナル」
「すごい・・・!!ゲームの中だけじゃないっ本物のマナ結晶が―――、えへへへ」
「・・・」
なんかいいな。女の子同士が仲良くしているのを見るの。あと、女の子が頑張っているところを見るのも、なんかいい。
「むむむむ、、、私も探してみます―――」
っと、そう、サーニャは、いつの間にか。地面にしゃがんで、じぃっ―――、っとまるで、目を皿のようにして、マナ結晶を探し始めていた。
「なんか、ちりちり・・・?する」
そんな羽坂さん。小指のほどの、俺が見つけた雷氣のマナ結晶を、にぎにぎ、にぎにぎ―――。
ふるふる、ふるふる―――、っと握りながら、軽く握りこぶしの手を振ってみたり、いろいろと調べているみたい。
「、、、それにけっこう固い・・・」
ぎじぎじ、ぎじぎじ、、、っと、爪でマナ結晶を引っ掻く羽坂さん。当然、雷氣のマナ結晶は、爪程度では傷一つ付かない。
いや、実はさ、コツがあってさ。マナ結晶は、固くて柔らかいんだ、妙なところだけどさ。
「―――」
普通にマナ結晶を引っ掻いても傷つかないんだ、羽坂さん。傷、、、というか加工するには、自身の氣を、絶妙に、強弱緩急つけながら、自分の氣を切削工具に籠めながら、マナ結晶を削る―――。
「~~~」
うんうん、思いだしてくるわ、俺。
『ケンタさま。何をしてやがりますか?ミントは、あれほど、添削具に氣を籠めすぎてはダメと言いましたわ?それを、―――、―――、(ねちねち)、マナ結晶は、高価なんですからちゃんと覚えてくださらないと?ケンタさま。くすくすっ』
俺はミントちゃんに散々、ねちねちと、でもかわいく彼女には言われたさ。
おふぅ、、、ミントちゃん。
「っ」
おっ!! アターシャが。
そんなときだ、悪戦苦闘?する羽坂さんに、ゆっくりと近づく人物が。その人物とは、給仕服姿のアターシャだ。
「ハサカさま」
「あう、、、かれんねえさん」
うるうる、、、。
羽坂さんは、アターシャに、まるで甘えるかのように。羽坂さんはいつの間にか、アターシャのことを、かれんねえさん、と呼んでいる、ようになっている。
「えぇ」
そんなアターシャは、にこり、と。
「ハサカさまこれをお使いください」
さっ、っとアターシャが、その給仕服により取り出したるは、彫刻刀の鋩が着いたような、ボールペンほどの長さの物だ。
彫刻刀と言ってもそれは、『三角』でも『丸』でもなく、切る形状の『斜め』の形状の刃だ。
「これは・・・?」
羽坂さんは、初めてそれを見るのかな? アターシャが持っている『それ』。それが、ミントちゃんが言っていた『氣導具』の添削具だ。
アターシャが持っているあれは、ミントが持っていた『氣導具』と同種のものだ。一目見たら判る。用意がいいな、アターシャ。
「っつ」
マナ結晶を、切ったり削ったり、成型・加工するため専用の氣導具。使い方は、彫刻刀となんら変わらないんだけどな。
おっ、アターシャによる勉強会が始まった。すると、一之瀬さんやアイナも自然と、アターシャと羽坂さんの周りに集まる。
「―――、―――」
サーニャだけは、その聖剣パラサングをいつでも抜けるような姿勢で、周囲を警戒するのを忘れない。
サーニャも、マナ結晶を見つけられたのかな?さっきは、『むむむむ、、、―――』って、唸っていたが。