第二百八十話 俺も『探して』みるか。『視る』『視得る』『視付ける』なら、こっちの、俺の専売特許だ。
くる、来る、きっとくる。近づく、近づいていく、俺は、俺達は。
「っつ」
徐々に、近く、強く、濃く。あれと、あのときと、同じ―――、俺が『女神フィーネの聖剣』に触れたときと同じ、感覚のもの。
魁斗の黯黒の氣のように、重くもなく、寒くもなく、気味が悪くもなく、―――むしろ、女神フィーネの聖なる雷氣の波動は、あたたかく、強く、輝いているようで、まるで力を与えられる、かのような浮揚感がある―――。
第二百八十話 俺も『探して』みるか。『視る』『視得る』『視付ける』なら、こっちの、俺の専売特許だ。
「ナル、まだですか?」
アイナの問いかけに、
「、、、たぶん、もうすぐ―――」
羽坂さんはやや曖昧に、でも、ちょっと焦っているのかもしれない。なぜなら、羽坂さんの足取りが速くなる。
見上げれば、切り立った断崖絶壁―――。
「うお・・・っ」
ますます、近づいてくる、大地の上の台地の際、端。そこへと近づいていっているのは、俺達のほうだが、眼前に聳える切り立った崖は、もう目の前だ。
「―――」
すっ、っと。このようなところで羽坂さんの足取りが止まり、それにつられてアターシャ、アイナ、そして俺、一之瀬さんと、殿のサーニャの歩みも止まった。
きょろきょろ、、、。
「たぶん、この辺り、だと思う。不思議な、、、感覚がしたの、私」
羽坂さんは、地面をきょろきょろ。
一歩進んで、腰を折るように屈めて、
「(じぃ、、、)」
っと、地面を見詰める、羽坂さん。
だが、羽坂さんは、自身の探しているお目当てのものが落ちていないと分かると、またそのままの姿勢のまま一歩、進んでまた―――
「(じぃ、、、)」
―――、羽坂さんは、ついにしゃがみ込み、地面を、まるでその視線で舐めるかのように調べ始める。
羽坂さんが、このような場所で探している、探し物・・・。
「・・・・・・」
この辺りの地面は、ごろごろ石や岩が転がっている荒地のような岩場で、杉や檜のような幹回りの太い針葉樹は生えていない。
ただ、岩場の僅かな土のところには、高山植物のような緑色の小さな葉っぱが、ところどころ芽吹いている。
「アイナ様。アニムス強度計で実測したところ、この辺り一帯のアニムス強度は、既に各地の『女神の聖域』と同じぐらいの強度になっております」
「えぇ、従姉さん。私も、そう思います、女神フィーネ様の、雷の御力が強くなってきていますから」
「・・・っ」
ふぅ・・・、っと俺は、、、。なるほど、、、そういうことか。
俺は、アイナとアターシャの話を聞いて、一つの可能性に辿り着く。やっぱり、あの俺が感じた気配の出処か・・・、、、。
たぶんおそらく、羽坂さんは、俺と、いや、アイナも、か。俺達と同じように、女神フィーネの聖なる雷氣の波動を感知できるんだな。
「・・・、、、」
そうだな、、、。じゃあ俺も『探して』みるか。『視る』『視得る』『視付ける』なら、こっちの、俺の専売特許だ。
俺は、『眼』に力を籠め、瞼に氣を籠める要領で、『選眼』を発動させる。見えろ、視えろ、視得ろ―――。
女神フィーネの聖なる雷氣の結晶―――、マナ結晶・・・っ!!
あっちからマナ結晶の氣配を『感じる』。あれか!! あったっあそこか・・・っ
「っ!!」
あったあれだっ!!
それは、女神フィーネの、天雷山の『雷氣』を凝縮した、『マナ結晶』だ。
よしっ俺は見つけたぞっ!!
普通に見ようとしても、決して見えるものではない。『選眼』を発動させると、その氣配が俺には視得て、マナ結晶が物理的に見えない位置に隠れていても、俺には判る、視得るのだ。マナ結晶の視覚化された氣配が、な。
それらのマナ結晶は、石の下に、瑞々しい緑色の苔の下に、やや離れたスギやヒノキのような針葉樹の、とげとげとした葉っぱが折り重なった葉の絨毯や地衣類、苔の絨毯の下の地面に在る―――。
「―――、、、」
こうして、この『選眼』の異能の一つ『透視眼』を発動させれば、この辺り一帯に、それこそ、そこらじゅうに、『雷氣』を帯びた、大小様々な大きさの煌びやかなマナ結晶が、地面に、地中に落ちている。
俺は一度、そのような天雷山の地面から視を切り、
「―――」
すっ、っと、俺は上を見上げ、仰ぎ見、、、仰望し、もちろん俺が空高く見詰める先にあるものは、青い空ではなく、この大地の上に、まるで乗っかるように重なった台地だ。
あそこの台地の上から、この地面に落ちてきたのかな?マナ結晶は。
ひょっとして、、、今この辺りに、まるでばら撒かれたように点在している、雷氣のマナ結晶は、このさらなる上の台地の大地から、ここに何らかの原因で落ちてきたものなのかもしれないな。
「っ」
上の大地、、、すなわちそこは。かの、アイナの親父さんのルストロ殿下と、津嘉山三兄妹の父、正臣さんが至ったという台地のことだ。
そこの台地の大地を、俺はこの『選眼』で仰望、その台地を仰ぎ見ているんだ。
ふっ、っと、俺は『台地』から、視線を、再びこの地面に落とす。
思考を切り替え、俺は―――、
「―――」
―――、ざっ、ざっ、ざっ、っと、俺は確固たる意志で、足を一歩、また一歩、前へと出し、
「・・・・・・、・・・、、、」
地面に転がる石に蹴躓かないように、また足を挫かないように、意識しながら、俺は、目的を持って、十時の方向に。
十時の方向とは、つまり、俺から見て、左斜め前の、あの辺り。スイカか石臼ほどの大きさの、ごろっとした、やや色の濃い風化していそうな石がたくさん転がっていて、もう少し後ろ、大きくてたぶんその石に半分は地面の下かな?その灰色の岩の近く―――、その後ろかな?
「ケンタ・・・?」
そのような俺の様子をアイナに見られてか、後ろから俺は、その当人であるアイナに声を掛けられた。
くるりっ、っと、俺は、振り返り―――、不思議そうに俺を見つめているそのようなアイナの藍玉のような視線と目が合う。
「なぁ、アイナ。たぶん、アレじゃないのかな?羽坂さんが、感じたやつの正体って」
「え?ケンタ」
「・・・」
ひょっとして、アイナは、雷氣のマナ結晶の気配を感じ取っていない?
「健太・・・?」
今度は羽坂さんだ。
俺の話声に、アイナや羽坂さん。いつの間にか、羽坂さんは、俺のことを『健太殿下』から『健太』と呼ぶようになっている。
ま、別にそのことはいいんだ、俺は。俺は、羽坂さんに『俺のことを殿下と呼べ』などと言うつもりは毛頭ない。俺としては、羽坂さんにも、もちろん未だにずっと俺のことを『健太殿下』と呼び続ける一之瀬さんにも、『健太』と呼び捨てで呼んでもらっても、一向にかまわないさ。
そっちのほうが、とても親近感が湧くし、この『パーティー』としても円滑に事が回りそうな気がするからな。
そして、アイナと俺のやり取りを観た、あとの三人、アターシャやサーニャ、一之瀬さんまで、みんな、俺のところにやって来る。
「うん、たぶん。あっちだな。あそこにあるんじゃないか? ―――」
俺は、また一歩、二歩、数歩―――、目的地まで至り、すぐ後ろにアイナがついてきているのを、俺はその雰囲気で感じ取りながら。
「―――よっ、っと」
俺は、灰色の岩の後ろに回り込み、さっさっさっ、っと、針葉樹のとげとげした葉っぱをはらい除けた。
「っ!!」
見つけた、綺麗な結晶だ。マナ結晶見つけた。
やっぱり。この結晶が放つ雷氣のアニムスが視得たとおり、この場にやってきてみれば―――そう、やっぱり正解っ。
この半透明の、綺麗な、まるで水晶のような六角柱のマナ結晶を、俺は見つけたんだ。視ればすぐに解る、これは、この強い『氣』を放つ『もの』。たぶん、、、というか、確信だ、視得た視触で解る。そのマナ結晶の属性は『電氣』もしくは『雷氣』!!
「!!」
この天然のマナ結晶―――。
以前、俺は。かりんさんの魔導具屋『まりもとかりんの小部屋』で、俺はミントちゃんに、マナ結晶について教わった―――。
あの『まりもとかりんの小部屋』のガラス製のショーケースには、綺麗な、まるで水晶のような形をした色とりどりの結晶が、そのショーケースの中に並んでいた。
俺はあのときの記憶、光景を思いだし―――、
『、、、』
赤、青、緑、黄、水色―――。それらの中間色もある。マナ結晶を『この眼』で見詰めているときは、なんか惹きつけられるんだよな、俺。
天雷山のマナ結晶を視るときの、“マナ結晶から放たれる雰囲気”は、かりんさんの魔導具屋で初めて、マナ結晶を視たときと同じ雰囲気、なんら変わらない。
『マナ結晶ですね、ケンタさま』
ってミントちゃん、はあのとき俺に。
『はい、ケンタさま♪ 主に自身の行使した魔法の強化や持続に用いますっ♪』
『なるほどっ!!』
って、俺は。そのときミントちゃんの言葉に納得したっけ。
あとは、
そうさ、レンカお兄さんと、ミントちゃんが、俺につけてくれた秘密の、『魔吸の壺』での特訓のときには―――
『ぼくは健太くんがさらなる剱儀を体得できるよう全力を尽くす、尽くす所存だ―――』
と、アイナの執務室から勝手に拝借した特級のマナ結晶を使った。
「っつ」
あの、アイナ所有の特級のマナ結晶の拝借の件は、たぶん今もまだバレていないはずだ、よ?
「・・・」
すっ、っと、俺は、地面に落ちているマナ結晶に右手を伸ばし、それを摘まみ、取り上げ、、、―――