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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十五ノ巻
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第二百七十八話 彼女の『家』は武官の家

 あれ? 一之瀬さんのそんな興味深そうにした眼差しを、俺は初めて見るよ?

「―――、そうなのですね、健太殿下」

 一之瀬さんは、その目を興味深そうに大きくしている―――。


第二百七十八話 彼女の『家』は武官の家


「うん。ま、『薙刀』と違って『刀』だけどな、俺の家のは」


「・・・刀ですか」

 と、一之瀬さん。


 打ち刀の、神棚にあった『一颯(いぶき)』だ。今、その名刀『一颯』は、祖父ちゃんの庵にある。

「あぁ。名刀『一颯』。今は俺の祖父ちゃんが使っている、のかな」

 今でも、その刀で祖父ちゃんは瞑想を。


「名刀『一颯』? 私は日之国国家警備局境界警備隊隊長として、日之国中の『名刀』をそれなりに知識()っているつもりですが、健太殿下。そのような『一颯』なる名刀の銘など、私は聞いたことがないのですが?」

 言った一之瀬さんの、振り返れば、俺のすぐ後ろを歩く一之瀬さんの、その凛とした声のトーンが、やや落ちた気がする。


 そりゃそうだ。『一颯』は、祖父ちゃんが、こっちの世界イニーフィネに、日本から持って来た小剱の家に伝わる、伝家の宝刀なのだから。

「まぁ、そうなるかな、ははは」

 俺は、言葉を濁して曖昧にし、一之瀬さんには詳細に答えず、語らず、、、。なんか面倒くさいことになりそうだからな。前に祖父ちゃん家に押しかけてきた『日之国国家警備局の定連さん』のときと同じような、国家警備局として、そういう事情聴取めいたことになりそうだから。


「ひょっとして、その『一颯』なる日之刀は、近年になって造られた軍刀や模造刀の類なのでは?健太殿下」


 一之瀬さんが、そう思うのは無理ないか。

「ん~、どうだろ。俺も『一颯』が鍛えられた、はっきりとした由来や年代を、祖父ちゃんに聞かなかったから」

 もっと祖父ちゃんに、『一颯』のことを訊いておけばよかったかな。


 あのときは、祖父ちゃんから聞かされた、日下部市で起こったことのほうが、遥かに衝撃な事で、すっかりと、俺は失念していた。

「、、、」

 すると―――。


 電話を取り出し、立ち止まって、なにやら画面を、指で操作している一之瀬さん。

「なるほど、確かに健太殿下の家にある『一颯』なる名刀は、日之国国家警備局『名刀貸与許可証一覧』にも、その名前はないようですし―――」


 ややうつむき加減で、一之瀬さんは、自身の電話の画面で、その『名刀貸与許可証一覧』なるリストを見ているのかもしれない。


 すっ、っと一之瀬さんの、できた影の顔が上がる。一之瀬さんは、電話を隊服のポケットに仕舞った。

「―――『名刀貸与許可証一覧』の一覧に、その銘が記載されていないということは、その『一颯』なる刀は、『名刀』でも『霊刀』でも、『妖刀』でもない、ただの刀なのかもしれませんよ、健太殿下」


 なるほど、一之瀬さんも、そういう見解か。

 そういえば、―――『名刀貸与の許可証』って、あのとき祖父ちゃんの庵を攻めてきた定連さんも、同じことを言っていたな。


 それにしても、一之瀬さん。リストにないからといって、『一颯』を、そこから外すのはちょっと性急すぎ、だぜ。

 『名刀貸与許可証一覧』か。

「―――」

 その一覧、それ『名刀貸与許可証一覧』に記載されているという名刀の数々。境界警備隊の隊長なら誰でも、知っているものなのかもしれない。


「春歌」

 そんなとき、前方から声が。この声は、二番手を歩く羽坂さんのものだ。


 ちなみに、すぐ前を歩くアイナは、明らかに笑いを堪えるような顔をしている。

 俺が、アイナ自身を見詰めていることが分かると、アイナは―――

「ふふ・・・♪」

 と、意味深に俺に振り向いて、微笑んでくれる。


 羽坂さんには成り行きで『雷切』と『雷基理』のことを、話さざるを得なかったら話したが、彼女羽坂さんは、事情の殆ど知っている。

 俺の『天雷山』を征く真の目的『雷基理の回収』までも。


 一之瀬さんには、まだ『その事』を話していない。いずれは、一之瀬さんにも、話さないといけないことだろうけれど、あのときは、すぐに、一之瀬さんに言うと、諏訪さんへ、その俺達の情報と状況が『筒抜け』になりそうだったから言わなかったんだ。


 翻って、羽坂さんの先ほどの、『春歌』、の呼び声に、俺のすぐ後ろを歩く一之瀬さんは。

「奈留さん?」

「ん、春歌、健太に失礼。まだまだ私達が知らないことは多い。でも、私は知った。健太のお祖父さんが持つ『一颯』なる名刀が、その貸与リストに載っていないのは当たり前。名刀『一颯』をくゆらす剱聖小剱愿造の前に敵は無し。第六感社の空挺部隊を壊滅させ、戦闘ヘリ掃討部隊も全てばらばらにして撃墜。そして、極め付けは、『イデアル十二人会』の一人、ネオポリスの重量級(ヘビーきゅう)機人の『執行官』を、僅か一刀のもとで斬り捨てた凄腕の剣客。そんな剱聖の孫小剱健太殿下に失礼―――ふんすっ」

「は、はぁ?奈留さん?」

 ??っと、いった様子一之瀬さん。


 たぶん、一之瀬さんは、羽坂さんが自慢げに語る話の内容の意味を、よく分かっていないと思う。

 一之瀬さんはおそらく、小説かゲームの中の話を、羽坂さんはしているんだろうと。


 そして、羽坂さんが語った内容に関して一つ違うところがある。だから、俺は―――、

「あ、いや羽坂さん。『第六感社』の空挺部隊を倒したのは、塚本さんだったって、祖父ちゃんは言ってたけど?」

「つかもと? だれ?それ。私しらない」

「、、、」

 おふぅ―――塚本さん。羽坂さんにすっかりときらわれてしまったようです。

 でも実は、塚本さんは、元・イニーフィネ皇国近衛異能団団長のエシャール卿『紅のエシャール』をも、倒しているんだけどな。


 そして、紹介が遅れてしまったが、隊列の六番目であり、殿(しんがり)の座を譲らなかったサーニャと、俺達の隊列は続く。


 天雷山脈の、一つの山塊のなだらかな尾根を、軽快に歩く俺達六人。俺達の征くこの山塊の向こうに、木々の間から、奥の、さらに一つ抜き出て見える、今の山塊より高い山塊が見えてくる。


 天雷樹海の雲霧林帯を抜け、針葉樹林帯に入った今、天雷山、、、天雷山脈は、そういった山塊の集まりのようで、俺達は一山越え、二山、三山と山塊を越えつつ、着実に高度を上げていっている。

 既に、木が生えることのできない切り立った岩場も、ちらはらと見えはじめ、、、ほら、あの俺達の征く手、岩の壁とか。


 うおっ―――マジか。

 声が出ない。物理的に声が出せない、のではなく、感嘆として声が出ないんだ、俺は。

「―――」

 こんな光景、、、日本では見たこともない自然地形だ。


 大地の上に、台の形をした大地が乗っかっているかのような、ものすごい自然地形だ。絶景と言ってもいいのかもしれないな。

 今まで歩いてきた天雷山脈の大地の上に、『台地』が乗っかっている地形だ。そこの突き当りに俺達は至ったというわけだ。

「すごい。まるで壁だな、、、」

 上を見上げれば、仰望すれば、その台地の上に、垂れ込める黒雲。そして、稲光が走るのが視得る。


 なんでまた、しかも、今歩いているこの、秋の冷涼な森林地帯とは、全く違う環境の土地が存在しているんだろう?

「―――・・・」

 不思議だ、不思議すぎるだろ、この『五世界』。


 普通なら針葉樹林帯の、次は、高山地帯だろう?ハイマツや、高山植物が咲き乱れ、ところどころ荒野にも似た亜寒帯林のはずだ。その次の、さらなる高度域は、荒野であり、氷雪に覆われた森林限界のはずだ。

「・・・」

 なのにどうして、これは・・・。


 俺の異能『選眼』の『遠目』で視得る台地の上の上空には―――、黒雲垂れ込め、雷光稲光、、、。まるで、先の雲霧林のような森に覆われ、霧に煙っているんだ?

 きっと、その台地の大地には生き物だっていることだろう。


 ふっ、っと俺の前を歩いていたアイナが立ち止まる。

「、、、」


 今日はここまでか。もう大体解ってきた、アイナが帰投しようと思いだす距離や、風景が。ちょうど今は、これからが難所、というキリのいいところだ。


「従姉さん。今日はこの辺りで帰投します」

「はい。アイナ様」


「っ」

 俺がそんなことを思っていたときだった、アイナがアターシャに、そのように声を掛けたんだ。


「ふぅ・・・」

 っと、一之瀬さんは、そこら中にある岩の袂に、自身が背負って歩いてきた彼女自身の迷彩柄のリュックを置き、自身はその岩の上に腰を掛ける。


 すすっ、っと、サーニャはアイナの傍に近づき。

「姫様」

 サーニャは、アイナの下に侍る。

「えぇ、サーニャ」


「今日はここまで?アイナ」

 やけに気さくにアイナに話しかけるのは、羽坂さんだ。

「えぇ、ナル」

「う~ん、、、なんか―――、」

 羽坂さんは、眼前に聳え立つ台地の大地を、目を(すが)めるように見上げる。


「・・・」

 先日の、俺が夜話のことを羽坂さんに話して以降、羽坂さんとアイナの距離感が、ぐっ、っと近づいた感じだ。そんな感じが、俺はする―――。

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