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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十五ノ巻
276/460

第二百七十六話 ようするに、俺はゲロっちまった、というわけだ

 ともかく俺は―――、

「―――」

 俺は、円卓の縁の身を乗り出した羽坂さんの胸を、なるべく意識しないように。そして、気持ちを切り替え、、、ちゃんと、塚本さんとの交渉の際に、自分で蒔いた種だ、ちゃんと羽坂さんに向き合おう―――。


第二百七十六話 ようするに、俺はゲロっちまった、というわけだ


「なんで、あなたは、私の両親のことを知っているの?ねぇ健太殿下」


「・・・」

 うわぁ・・・、やっぱ、ぐいぐい来るなぁ、羽坂さん。


 きっと羽坂さんの性格は、白黒はっきりとしていて、たとえば、自身の興味のあることには熱中して、あのときの日之国国家警備局として、塚本さんに迎賓館に連れて来られた当初のときのような、自身の興味のないことには、全くの無関心。そういう性格なのかもしれない、羽坂さんは。

「っ、ま、まぁ、、、ちゃんと話すから、ちょっと落ち着こう?な、羽坂さん」

 ね?ね?、っと俺は、まるで羽坂さんをなだめるかのように。


「―――、、、」


 ちょっと不満そうだぞ、羽坂さん、その口元を三角にした顔。

「―――・・・」

 いや別に近角さんのことを、この場で羽坂さんに話しても、別に問題はないんだけど、いや、ほら、あの祖父ちゃんから聞いた夜話の内容。


 特にエシャール卿のことが。エシャール卿は、本当は皇国公式認定の『行方不明』ではなくて、塚本さんが『血封』しました、とこの場で言うのは。

 アイナやアターシャ、サーニャに、ほんとのことを知られてしまうのは、ちょっとまずいよなぁ。いや、ほら祖父孫揃って『意図的に情報を隠していました』って、俺や祖父ちゃんが、そう思われてしまうのは、嫌だ。


「ケンタ、それ。なぜ貴方がナルの両親のことを知っていたのか、私も、それを知りたく思います♪」


 アイナはちょっと楽しそう♪ でも、俺は―――。

 い゛・・・っ、、、マジかっ―――

「っ!!」

 ―――アイナまで、それを。アイナも興味を持ってしまったか―――。

 分かった、仕方がない。話そうか・・・。

 アイナまで巻き込み、ついに観念した俺は、、、ややっ、っと口を開き、、、

「―――えっと」

 ―――いや、待てよ。ということは、愿造祖父ちゃんのことも、羽坂さんに説明しないといけなくなるのか?

 じゃ、ということは、俺や祖父ちゃんが日本、、、いや地球という惑星(ほし)から、ここ『惑星イニーフィネ』にやってきた『転移者』であるということも、羽坂さんに話さないといけなくなるってことか?


「ケンタ?あの?」

「お、おうアイナ。ちょっと待ってな。今、頭の中で整理してるから」


「健太殿下、、、もったいぶりがヤバい」


 じらぁ―――っとした白い目の羽坂さん。


「うぐぐぐ、、、」

 本当に仕方なかったんです、塚本さん。すみません、俺ゲロっちゃいました・・・。


///


「―――と、いうわけだ、俺が羽坂さんの両親の名前を知っていたのは」


「―――っ」

 驚きに目を見開く羽坂さん。絶句。


「なるほど、ケンタは既にお祖父さまであるゲンゾウ師匠より、話を伺っていたということなのですね。ツカモトとの交渉が上手くいったのは、そのような。ゲンゾウ師匠のおかげだったのですね」


 つまり俺には、既に『下地』が。先に情報を知っていた、ということで、塚本さんとの交渉が進んだ、ということ。

「あぁ、アイナ」

 ま、そのようして、俺は、俺がなぜ羽坂さんの両親のことを知っていたのか、

それと、塚本さん相手に、まるでマウントを取るように交渉ができたのか、その大体の事情を、この場にいる面々に話して聞かせたんだ。

 この場にいる面々とは、当事者の羽坂さん以外に、アイナ、アターシャ、そしてサーニャの五人のことだ。


 でも、塚本さんが戦って倒したエシャール卿こと『紅のエシャール』のこと。

 レンカお兄さんの真の目的と、

 ミントこと魔法王国五賢者の一人『土石魔法のアネモネ』の正体、

 その二人の関係のこと。レンカお兄さんとアネモネ(ミント)の二人は同盟関係にあり、ミントは『イデアル十二人会』に潜入している間者ということ。

「っ・・・」

 それだけのことは、俺は伏せて喋らずに、内密に。


 でもそれ以外の事、祖父ちゃんが俺に語ってくれた、あの夜の話のことを。あの『夜話』の大半を、羽坂さんとアイナ達に包み隠さず俺は話して聞かせた。


 ようするに、俺はゲロっちまった、というわけだ。

「―――っつ」

 ほんとすみません、塚本さん・・・っつ。何卒ご容赦ください。


「―――」

 俺の話を聞いていた、サーニャが厳しい顔で、彼女サーニャの、その両つの拳が握り締められていたのが、俺にはとても印象に残った。

 たぶん、サーニャは怒っていたに違いないさ、彼女の父『炎騎士グランディフェル』も、この事に一枚噛んでいるのだから。


「あ、でもそれだけじゃないさ、アイナ」

「それだけではないとは?ケンタ」

「あぁ、あのとき魁斗から、俺が氣導銃『くさか零零参號』を、取り返すことができていなければ、たぶん塚本さんとの交渉は詰んでいたと思う。あのときのあれは、まさに奇跡だったと思う。女神フィーネが俺に微笑んだのかもな」

 ふふ、っとアイナは笑みを零す。

「えぇ、女神フィーネ様は、おそらく、いえ、きっとそうでしょう、ケンタ」


 俺が話していたときには、ただただ驚くばかりの羽坂さんだったが、徐々に落ち着いてきたようで。

「、、、お父さんとお母さんは、今、日下部市に・・・」

 ぎゅっ、っと羽坂さんは、自分の二つの拳を握り占めるかのように、そして、そのわなわなと震える唇を。

「、、、『チェスター皇子』・・・、『イデアル』、、、『流転のクルシュ』『第六感社』『日之国政府』―――『(いにしえ)の超兵器煉獄』『廃都市計画』―――」

 わなわな、と、震える声で、小さく、、、まるで呪詛のように、羽坂さんは俯きながら小さく訥々と呟いた。


 羽坂さんが俯いているせいで、その綺麗な銀髪の前髪が、彼女の眼に掛かり、彼女の表情までは伺い知ることはできない。


「―――、天雷山のことが終わったら、、、私、日下部市に行く・・・!!行って確かめるの、、、お父さん、お母さん―――、、、。私達を引き裂いたのは―――」


 その、わなわなと震える羽坂さんの様子に、俺は。

「、、、」

 羽坂さんの様子を見て、“怖い”ではなく、憎悪に取りつかれていそう、という意味で今の羽坂さんの様子は“危なげ”だ、と思ってしまった。


「ナル」

 アイナが、羽坂さんに声を掛ける。

「―――」

 羽坂さんは、アイナの言葉を聞いているか、どうか分からない。まだ、羽坂さんは俯いたままだ。


 優しく。アイナは優しい口調で羽坂さんに。

「私の父と兄の仇。その仇を討つために、父と兄その二人を殺めた叔父チェスターを追う私が、ナル貴女に諭しても、説得力の欠片もありませんが、憎しみにばかり囚われていては、疲れるだけです。仇を忘れろ、とは、言いませんが、もっと楽しく生きましょう、ね?ナル。それにナル、貴女のお父さんとお母さんは生きているではありませんか。怒るのはいいですが、憎しみに囚われる必要はありませんよ、ナル」

 アイナの優しい、まるで慈愛に満ちた言葉に―――、


 ゆっくりと、羽坂さんは顔を上げる。

「アイナ、皇女殿下・・・、私は、私のお父さんとお母さんは生きている・・・?」

「えぇ、ナル。亡くなってしまった私の父や兄と違い、生きてさえいれば、また必ずどこかで会うことができますから」

「うぅ、、、くしゅ・・・ぐしゅ―――、お父さん、お母さん、、、会いたいよ、私―――」


 すっ、っとアイナは席を立ち、羽坂さんの席の後ろへと回る。

「ナル―――」

 ぎゅっ―――。っと、アイナは、背後より羽坂さんに、その両腕を伸ばし―――、

「アイナ皇女殿下、、、」

「この皆と一緒にいるときは、『アイナ』でかまいませんよ、ナル」

 アイナは、羽坂さんを背中から、まるで包み込むかのように抱きしめたんだ。

「ァ、アイナ―――、、、。実は、私―――お父さんとお母さんの消息を、ほんとは―――、行方不明の真相を、知るために、警備局に入った、の。今回の、天雷山もそう、、、。でも、でも・・・、それを先に言っちゃうと―――、私、アイナと、アイナ達と、天雷山に行けなくなってしまう、、、気がして―――。私、『両親の死』を知るために、アイナを、健太を利用した、ほんと、ごめん、、、なさい」

 羽坂さんは、涙声で。ぎゅっ、っとアイナにしがみつく。


「えぇ、大丈夫ナル。貴女は大丈夫です、ナル。それは至極まともですよ、ナル。私だって、貴女の立場であれば、きっとそうしていたでしょう」

 アイナは優しく、羽坂さんの全てを包み込むように。


「―――」

 俺は思うんだ、アイナって他の人の立場になって、その人と同じようにものを考えられる人。他の人に共感できるタイプの人なんだなって。もちろんアイナ自身が好感を持つ人だけだが。

 俺にはできるかな、そんなこと。たとえば、極論だが、俺は、日下修孝の立場になってあいつの思うことを考えることができるか?

 いや、俺にはできない―――。

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