第二百七十五話 お世話に、なります、、、と、彼女は俺達に
「『愛莉には付き合っているときに話したと思うけど―――勝勇にこれを言うのは初めてかな・・・』って、信吾はちょっと僕に言いよどむように、ね」
「・・・うん」
「あいつは、僕に『ごめん』って。『今までずっと言えなかった。俺―――実は祖母ちゃんがイニーフィネ人なんだよ』って」
「っ!!」
「奈留、それは、僕の、親友の突然の告白だった。もちろん僕はそのとき内心驚いた」
「っ」
「奈留。今のきみと同じように、ね。でも、程度の差こそはあれ、、、。日下は日之国の中で位置的に一番イニーフィネに近い。長い間独立をしていたし―――、僕はイニーフィネ人の血が部分的に流れている人が一定数いる、ということは以前に聞いたことがあったから、僕は、日下出身の信吾の、告白にすぐ納得できた、というわけだ」
「・・・日下出身。お父さんが―――、、、」
第二百七十五話 お世話に、なります、、、と、彼女は俺達に
「『それ』です、アイナ様」
そこで、給仕服姿の赤い髪の彼女アターシャは唐突に口を開いたんだ。
「従姉さん?」
「失礼します、アイナ様。そして、ハサカさま―――」
アターシャは、アイナから視線を切り、その視線は羽坂さんを向く。
「私・・・?」
「はい、ハサカさま」
じぃ―――、っとアターシャは、意味深に、まるで探りを入れるかのように羽坂さんを見詰め、なにも喋らず。
「・・・」
アターシャは、なんで羽坂さんに?なぜ羽坂さんをそのように、じぃっ、っと見つめているんだ?
アターシャは、なにが目的で?
「え、と・・・」
羽坂さんも、このアターシャの、自身を、じぃっ、っと、見詰める行動に、やや当惑しているようだ。
「従姉さん?」
ほら、アイナだって、アターシャの行動に疑問を覚えているよ。
くるり、っ、っと、そんなアターシャは、羽坂さんを凝視するのをやめて、アイナにその視線を戻す。
「アイナ様。やはり、私の思い過ごしや間違いではありません」
「従姉さん。何が間違いではないのですか?」
「、、、アイナ様―――、実は、私はどこかなつかしい気配を、ハサカさまに以前会ったときから、私は感じてはいたのです」
アターシャはは静かに語り出す。
「なつかしい気配ですか?従姉さん」
アイナの会話から、どうやらアイナは、アターシャが感じたその『懐かしい気配』とやらは、感じ取っていないみたいだな。
「はい、アイナ様。ハサカさまに対する私の感情。そのことが無性に気になった私は、兄にその事を訊いてみたのです。すると、兄は―――」
「・・・」
レンカお兄さんに、訊いたのか。あの、レンカお兄さんをいつもへりくだるアターシャが。
「―――、『火蓮お前のその感覚には間違いはない、と僕は思う。『複数の異能の氣配』を感じるということは、その者は、僕達三兄妹と同じ、だ』、と」
「っ。―――?」
複数の異能、、、だとっ。でも、待てよ―――?
じゃあ、レンカお兄さんも、アターシャも、ホノカにも、それが、『複数の異能』を持っているということか?
でもこの『五世界』の法則では、一人につき一つの異能であると、、、俺は聞いたのだが・・・。あ、いや『混濁の徒』は・・・別かっ『内なる異能と外への異能』その二種の異能を持つという、太古に滅びたらしい混血の民。
「っつ」
そして、あの聡明な、深慮遠謀なレンカお兄さんの見解に、間違いがあると思えない。ということは、この羽坂さんは、やっぱりイニーフィネ人の血を引いている。でも、その『複数の異能の気配』とは、いったいどういうことだ?アターシャは、その気配を感じ取れるということだよな。
その解答を求めて、俺がアイナを見れば、
その彼女アイナは、その藍玉のような眼を見開く。
「つまり従姉さん、ここにいるナルは」
「はい、アイナ様。―――ハサカさまは、私や兄、妹のホノカと同じく、イニーフィネの民と日之民、双方に起源を持つ者、、、。『内なる力』と『外への力』を行使でき、かつては『混濁の徒』と蔑称で呼ばれていた者。エシャール卿の手により、私達三人以外滅ぼされた『イニファリス』もしくは『エアーフィン』と呼ばれる者です―――」
///
「お世話に、なります、、、」
後日―――、次の早朝。羽坂さんの行動は早かった。その早さは俺の想像以上で、電光石火まさに昨日の今日という速さだ。
旅行鞄を片手に、銀髪の彼女羽坂奈留という女の子は、俺達の逗留するここ津嘉山の迎賓館に、まるで引っ越し、転がり込んでくるかのような、大荷物でやって来たんだ。
「たぶん、春歌も二、三日中には、ここに来ると思う、、、」
羽坂さんの、付け加えた説明によると、一之瀬さんの家は、格式のある名家だそうで、外出や旅行には、いろいろとした手続きがあり、ここに来れるまでに時間が経かる、らしい。
一之瀬さんはまだ来ず、そんな俺達四人(俺、アイナ、アターシャ、サーニャ)に、羽坂さんを加えての、五人での初めての夕食―――。
「さ、ナル。どうぞ遠慮せずに召し上がれ―――」
の、アイナの言葉に、羽坂さんは、やや緊張した面持ちとその態度で。
「は、はい・・・」
あ、俺もそうだったよな。俺も初めてアイナの自宮、そのルストレア宮殿での食事のときは、がっちがちに緊張したっけ。テーブルマナーなんて俺知らなかったもん。
「っ」
今日の夕食は、羽坂さんの合流を祝して、主な食べ物は和食だった。もちろん羽坂さんの出身が日之国だったからだ。
「・・・、、、っ、―――」
羽坂さんは、こういう食事の席には場馴れしていないようだったが、ちゃんと出されたものは完食していた。
そして、その日の夕食後の団欒時、つまりアイナの御茶会。いわゆるミーティングだ。
その席でのことだった。
「あの、、、健太殿下・・・」
名前を呼ばれて羽坂さんを見れば、羽坂さんは自分に出されたティーカップには、手を付けていない。
「羽坂さん?」
じぃっ、っと、羽坂さんは、神妙な面持ちで俺を見詰め。いつも羽坂さんって、その自分の赤い電話を触っているイメージなんだが。
「教えてほしい、です、私に―――」
羽坂さんは、自身の赤い電話も触らず、弄らずその両手は、円卓の下に。たぶん、自身の膝の上に、手を置いているに違いない。
教えてほしい?俺に?なにを、だろう?
「え?なにを? ミーティングでの、作法?というか、チャイの飲み方かな?羽坂さん」
じとーっ
「、、、」
あっ
「っつ」
羽坂さん。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ俺を、じとーっ、っとした目付きで、それになって俺を見たぞ? まるで、的外れなにを言っているんだろう、と、俺に、そう思っているみたいな?そのような羽坂さんの雰囲気だった。
だが、羽坂さんはすぐにその目つきを真面目なものに戻し―――、
「、、、―――ううん。違う」
―――、やや緊張している態度で、羽坂さんは口を開いたんだ。
「あのとき、『なんで俺が、きみの両親の名前を知っているのか、羽坂さんにはあとでちゃんと話す。でも今はちょっと待ってて』って、健太殿下は私に言った、、、言いました・・・」
あー、あれか。あのときの俺の言葉か。俺が羽坂さんに言った、アレね。
「・・・、あー」
塚本さんを話の席に引きずり出すために、羽坂さんをだしにしたあの一件、あの一言。―――。当時の、あのときの俺に、俺の心には『嘘』はなかったが、取り立てて俺のほうから羽坂さんに、そのときのことを振るということはしなかった。
なんか『めんどくさいことになりそうだ』から、ということでもあったが。
「で、健太殿下。そろそろ私に、教えて、聞かせてほしい、ねぇ、健太殿下」
ぐい、、、っと。羽坂さんは。
俺はといえば、その羽坂さんの威勢にちょい退き気味だ。
「、お、おう・・・」
「さぁ、さぁっ健太殿下・・・。話して、聞かせて、私に」
ぐぐい―――っ、っと。
羽坂さんは、前のめりに、円卓の上に曲げた両腕両肘を置き、身を乗り出すかのような仕草で。
そのおかげ?せいで、円卓の縁に羽坂さんの胸の下がくっつき、そのすぐ上にある双つのふくらみが、円卓の縁の上になる姿勢で・・・―――っ///
「っ///」
―――って羽坂さんって意外と、、、。たぶん、アイナぐらいあるかな? でも、アターシャほどは、ない、かと。たぶん羽坂さんは、着痩せする―――、、、。
ハッとっ!!俺は気づき、そんなことを考えていたが、我に返り。
「ッツ・・・!!」
ち、ち、ち、違う違うっ違うぞっ俺はっ!!ったく、どこを見て何を考えてんだ俺はっ///
「っつ」
やばっこんなことを考えているなんて、アイナや他の、この場は女性だらけで、アターシャやサーニャに、それに羽坂さん本人に知られれば、、、俺の肩身が狭くなるってばっ。
で、でも俺のせいだけじゃないよなっ。 おっおいっ、目のやり場に困るなぁ~、もうっ羽坂さんってば。
ぶんぶんぶんっ、っと、心の中で俺は、首を横、左右に振る。
たぶん羽坂さんは、俺から自分の両親の話を、なんで俺が近角信吾さんや愛莉さんのことを知っているのか、そのことを俺から引き出すことに必死で、自分の様子に気づいていなくて、その自身の行動も、羽坂さん自身は特段意識もしていないんだろうけどさ。
ともかく俺は―――、
「―――」
俺は、円卓の縁の身を乗り出した羽坂さんの胸を、なるべく意識しないように。そして、気持ちを切り替え、、、ちゃんと、塚本さんとの交渉の際に、自分で蒔いた種だ、ちゃんと羽坂さんに向き合おう―――。