第二百七十四話 きみは、―――たぶん、いろいろと知ることになるんだろうね・・・
「塚本特別監察官」
一方の、一之瀬春歌さんは、決意の籠ったその双眸を塚本さんに示し、名を呼んで自身の言葉を切り出したんだ。
対する塚本さんは、
「うん、春歌くん―――」
第二百七十四話 きみは、―――たぶん、いろいろと知ることになるんだろうね・・・
「私は、諸々の手当を欲したわけではなく、自身の武勇を磨くため、私が今まで積み上げた『もの』を試すにはちょうどいい機会があると思い、それに、学友の奈留さんと、同じくするために、護衛官募集に応募したのであります」
「解っているよ、春歌くん」
「はい。塚本特別監察官、その上で一つ、私の後学のためにお伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「いいよ、春歌くん。僕が答えられる範囲内なら、ね」
「以前、諏訪侑那局長に、伺ったことがあります」
「うん、春歌くん」
「塚本特別監察官と諏訪局長は、今の私や奈留さんと同じ齢の頃に、警備局国家警備学校の同期で、今の私達と同じ学生部隊にいた、と聞いたのですが―――」
―――本当でしょうか? 、と一之瀬春歌さんは、塚本さんに。
「うん、そうだね」
「その、塚本特別監察官は、どうだったのですか?」
「どう、とは?春歌くん」
「いえ、今の私達のように、このような大きな、重大な任務はあったのか、もしあったのなら、このような大きな判断をする際の、その状況と言いますか、あまり言葉にはしづらいのですが、、、えと、塚本特別監察官なら、もし、このような、今の私と同じことに直面したなら、塚本特別監察官であれば、どのように答えるのでありましょうか?」
「ふむ、、、―――」
う~ん、っと塚本さんは、一之瀬さんの切実な、一之瀬さんが言葉を選んで言ったであろう、質問を受け、悩む素振りを見せ、塚本さんは両腕を自身の胸の下で組む。
「―――、たぶん学生だった僕なら天雷山には行かないかな。断ると思う」
一之瀬さんは、意外なことを聞いたかのように、、、
「そう、ですか・・・塚本特別監察官」
―――その視線をやや下げる。
「でもね、春歌くん」
塚本さんは、その右手を上げ、自身の顔の前で止める。
「はい、塚本特別監察官」
塚本さんは、上げた右手で、くいっ、っと自身の眼鏡の位置を、押し上げ留める。
「たぶん、僕は結局、こういう未知のことは、侑那が好きそうなことだ。だから、きっと侑那が『行く』と言い出せば、僕は天雷山に行くことになるんだろうってね―――」
「塚本特別監察官、、、」
ほっ、っと一之瀬さんは柔らかい表情になった。一之瀬さんは、安堵したのかもしれない、塚本さんの、その答えに。
すっ、っと塚本さんは、その右手を体側まで下ろし、
「―――、それに、僕の親友。奈留の父親の彼も、たぶん行きたがると思うしね、こんな『楽しいそうなこと』を、くくっ」
塚本さんは、苦笑い。
すぐに一転、塚本さんは真面目な顔になる。
「春歌くん―――、」
「はい、塚本特別監察官」
「―――、ずっと奈留の友達でいてあげてほしい。僕が信吾と、ずっと『親友』であるように」
「? は、はい・・・?」
分からない、というふうに、いまいち飲み込めないという様で、一之瀬さんはやや、戸惑いながら、首を傾げた。
「僕は、春歌くんと奈留が、その程度の些細なことで、志を違えることはないと、そう思っているんだ。奈留もそう思うだろう? 僕と信吾、侑那と愛莉さん。僕達四人はいつまでも、たとえ立場が変わろうとも、ずっと『僕の親友』であり、侑那は、僕の・・・っ/// いや、まぁ、あれだ、奈留。僕達の、かつての『四天王』の絆は不滅ということかな。それを、奈留と春歌くんに伝えたかったんだ、僕は」
たぶん、塚本さんの言った『僕の親友』―――。
「・・・」
近角 信吾さんのことか。たぶんそう。塚本さんは、羽坂さんにその視線を向けた。
羽坂さんは、塚本さんに、彼をその猜疑を帯びた視線で、見つめ返し―――、
「はい?僕達四人? 塚本、寝言は寝て言って。私のお父さんもお母さんも、もう死んでいるんでしょ?なにかの危険な警備局の任務で、でも塚本や侑那は今、元気に生きている」
対する塚本さんは、
「・・・」
羽坂さんの、そんないやみにも取れる質問と、その目線に、塚本さんは苦笑で誤魔化すようにしてなにも答えず―――。
その羽坂さんの、塚本さんに対するいやみのような言葉―――、
「っ」
やっぱり、羽坂さんは、自分の両親のことを知らない―――。近角信吾さんも愛莉さんも、『廃都市計画』を生き残り、日下部市で、今も生きている、ということを。さらに、
「、、、奈留。きみは、―――たぶん、いろいろと知ることになるんだろうね・・・」
「うん?知る? 塚本・・・?」
羽坂さんは、やや訝しげに、塚本さんに訊き返し、、、。
一方の―――、
塚本さんは、ちょっと言いよどむように、、、その視線が揺れる。
「せめて、きみの卒業までは、待ってほしかった、かな―――僕は、奈留」
「?? 塚本?」
当惑気味の羽坂さん。
でも、塚本さんは、意を決したかのように、その口を開く。
「皇国には、『叡智の力』という概念が存在するんだ、それは『氣』『異能』『魔法』『科学』それらを複雑に組み合わせたものだ―――」
羽坂さんに語ったあと、塚本さんは、そうですよね?っと、
アイナや俺に確認の意の視線を送る。
「えぇ、ツカモト。我々イニーフィネの民は、それらを行使でき、さらにそれらを組み合わせて用いる技術力を保有しています」
くるりっ、っと、塚本さんは、再び羽坂さんに居直る。
「つまり、イニーフィネ皇国には、この日之国や日之民には持ちえない『氣導術』や『魔導術』などといった日之国の次世代をも、遥かに凌ぐ高度な技術が、存在しているということだ。それらの機構を組み込んだもの『氣導具』や『魔導具』、さらには『魔法剣』なる、日之国では、ファンタジーとされているものまでもが、イニーフィネ皇国には存在する」
「?? なにいってるの塚本? 、、、分からない」
「奈留」
塚本さんは暖かい目で、やや微笑んで羽坂さんを見詰める。
「ん?」
「きみの父親近角信吾は、そんなイニーフィネ皇国の技術の結晶である『氣導銃』を遣い熟すことができた」
「え・・・?お父さんが?」
「あぁ。なぜならば、信吾にはイニーフィネ人の血が流れているからだ」
「っ・・・!!」
驚愕。驚嘆。羽坂さんの眼が驚きに見開かれる。
そのようなとき―――、
静々と、アターシャが、
「アイナ様気づかれましたか?」
「従姉さん?」
「??」
なんのことだ? アターシャが、一歩、二歩、数歩・・・俺達の後ろから、すっ、っとアイナに近づいてきて、その耳元で、アイナに対して話しかけたんだ。
「アイナ様、実は解ったこと、と言いますか、、私が自身で感じた、感じ取っていたことがあるのです」
「従姉さん?どういうことですか」
「はい、―――しかし、、、」
「従姉さんが言い淀むなんて珍しいですね」
「ここで、それを言ってしまっていいものなのか、と、、、私は」
そんな俺達を後目に、塚本さんと羽坂さんのやり取りが続く―――。
「僕は以前。信吾自身から聞いたことがあるんだ。彼が言っていたことなんだけどね、奈留」
「・・・う、うん」
「奈留きみの父親信吾の出自のことだ」
「・・・お父さんの出自?」
「うん、奈留。彼信吾が、僕に唐突に話してきたんだ、その信吾の話の内容は、そのとき隣に立っていた愛莉さんも、知っているようだったけどね」
「―――お母さんも・・・」
「信吾が言っていたんだ、あのとき―――」
「『愛莉には付き合っているときに話したと思うけど―――勝勇にこれを言うのは初めてかな・・・』って、信吾はちょっと僕に言いよどむように、ね」
「・・・うん」
「あいつは、僕に『ごめん』って。『今までずっと言えなかった。俺―――実は祖母ちゃんがイニーフィネ人なんだよ』って」
「っ!!」
「奈留、それは、僕の、親友の突然の告白だった。もちろん僕はそのとき内心驚いた」
「っ」
「奈留。今のきみと同じように、ね。でも、程度の差こそはあれ、、、。日下は日之国の中で位置的に一番イニーフィネに近い。長い間独立をしていたし―――、僕はイニーフィネ人の血が部分的に流れている人が一定数いる、ということは以前に聞いたことがあったから、僕は、日下出身の信吾の、告白にすぐ納得できた、というわけだ」
「・・・日下出身。お父さんが―――、、、」
///
「―――、、、」
つらつら―――、・・・、、、。っと俺は走らせていた筆を一時止めた。
「ふぅ・・・」
と、俺は小さく息を吐き―――。
俺達。皇国。日之国。日之国国家警備局。灰の子。イデアル。九翼。―――。俺達を含めて、様々な思惑が、交差し、入り乱れてゆく。
「―――」
さて、、、『天雷山編』も、そろそろ架橋。ここから続く俺の物語は―――、
『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷山編-第二十四ノ巻」』―――完。