第二百七十二話 きみは、『真っ直ぐ』な人だ。真っ直ぐすぎて、僕が最もやりにくい『人』だ、ね。おめでとう、きみはいい剱士になれそうだ
「・・・」
たぶん、羽坂さん彼女の表情を俺が見るに、羽坂さんは俺に『自身』=『護衛官』。すなわち羽坂さん(自身)を連れて行く口実を、俺が思いついた、と思ったようだ―――。
第二百七十二話 きみは、『真っ直ぐ』な人だ。真っ直ぐすぎて、僕が最もやりにくい『人』だ、ね。おめでとう、きみはいい剱士になれそうだ
「自分達には、護衛官が必要―――。それは、、、・・・健太くん」
聡明な塚本さんのことだ―――。塚本さんも、俺の意図に気が付いたんだろう。
「はい」
俺は塚本さんに答え―――、
塚本さんは間違いなく、俺が『健太くんは、奈留を連れ出す口実を見つけて、自分に要求してきた』と、そう思っていることだろう。
確かにそれもあるさ。だが、俺は警備局の『真』の、『ちゃんとした』―――すなわち俺達を監視する為に、その力を向けてくる護衛官ではなく、本当にちゃんと俺達を『助けてくれるであろう護衛官』を『戦力として』、俺は考えている。
「くっ・・・、健太くんきみは、『真っ直ぐ』な人だ。真っ直ぐすぎて、僕が最もやりにくい『人』だ、ね。おめでとう、健太くんきみはいい剱士になれそうだ」
いやみか?塚本さん。だが、塚本さんの返す言葉に、いちいち目くじらを立てるようでは、塚本さんの思う壺だ。俺という人間の、底が知れる、と思われてしまうだろう塚本さん、に。
「ありがとうございます塚本さん。それは褒め言葉として受け取っておきます」
だから、俺は当たり障りなく冷静に返答。
「っつ」
内心俺のことを苦々しく思っているであろう塚本さんに、俺は。
「塚本さん。出してくれませんか。日之国国家警備局より、皇女アイナを護衛するための真の、ちゃんとした任務を遂行する『護衛官』を出してください」
すると、塚本さんは、
すっ、っと。ちゃっ、っと塚本さんは、目元に右手の手の平を持っていき、眼鏡を掴むようにして、ずれた眼鏡を押し上げる。
「それは、僕の一存ではできない相談だ。諏訪侑那局長の許可が必要だ。あと、予算、装備費用、護衛官の人件費、、、きっと日之国政府の思惑も絡んでくる、性急な判断は僕にはできない」
そして、塚本さんは、顔を覆うようにした右手の、すっ、っと体側に戻す。
「ううん、塚本。今こそ私が護衛官に志願する・・・ふんすっ」
羽坂さんの息込んだ発言に、
塚本さんは、その視線を流し、一瞥。
「奈留。それは急だね。だが、今ここで、この場では決められない。第三席の僕には、『決定権』という権限は、日之国国家警備局より、与えられていないからね」
ふふん、っと、余裕な感じの塚本さん。
一方、羽坂さんは。
「っ」
明らかに不満そうな顔の羽坂さん。
「なぁ、アイナ―――。」
「ケンタ?」
「―――・・・」
俺は小声で、傍らに座るアイナに、囁く。
「・・・」
すると、アイナはすぐに俺の意図を察してくれて、くれたと思う。
「いえ、その護衛の費用の全ては、この私、皇女アイナ=イニーフィナが持ちましょう、ツカモト」
すぐにアイナは。
「アイナ皇女殿下―――、」
「そもそも、『私の天雷山踏破』は、私からあなた方日之国政府に持ちかけた要求です、よって、日之国より派遣される護衛官を、我々皇国で面倒をみるのは道理。違いませんか?ツカモト」
よしここで、俺も塚本さんを畳みかける!!
「塚本さん、俺からもお願いします。護衛に掛かる費用は、俺達が持つんで、護衛官を―――、羽坂さんを、護衛に忠実した護衛官と見込んで、俺達に羽坂さんを派遣してくれませんか?」
俺の嘆願でも、塚本さんの表情に、変化はない。
「たとえそうであったとしても、この場での僕の独断は無理だ―――」
固い。
「っつ」
この人はとても堅固な要塞のようだ、そのような塚本さんを陥落すには、もう、これしか―――、ない。
「―――最高意思決定機関日之国国家警備局局長。その権限を持つ諏訪侑那局長の許可が必要だ、健太くん―――。健太くんは、解らないかもしれない、でもね―――この世界では、日之国という世界では、順序というものがあり、まずは議会で発案し、」
「・・・」
塚本さんが口を開いている中も、俺は塚本さんを陥落させること、そうするにはどうすればいいのか―――、それを考え巡らし、思考する。
やはりもう最後の『これ』を出すしか、ないな―――。
「塚本さん」
俺は塚本さんの発言中に、その言葉を切るように、俺は塚本さんを呼ぶ。
「―――、、、。なにかな、健太くん」
塚本さんは、俺の呼びかけに、自身の発言を切ってくれて、俺を見る。
これを塚本さんに言ってしまえば。もう後戻りできない、、、かもしれない。
「―――」
天雷山に『イデアル』の奴らが現れる、と、このまま俺は塚本さんに言ってしまっていいのだろうか?言ってしまえば、塚本さんが『直々に僕も行こう』と言い出すかもしれない。俺達の知らない『灰の子』のメンバー、構成員までもが、出張ってくるかもしれない。その人達が、俺の、俺達の、最大の目的である『雷基理』を欲するかもしれない。
それに、、、塚本さんはとても強い人(戦闘力として)って話だけど・・・なんかこわい人だし、、、塚本さんと一緒に、天雷山に行くのは、ちょっと、、、なんだよなぁ。でも―――、
俺の一瞬の迷い。
塚本さんの、疑問。
「健太くん?黙り込んでどうしたのかな? 僕になにか話があって、僕に話しかけたんだろう?」
っ。きっかけ。
それだ、塚本さんが俺に。俺に話しかけたのが。
それで俺の決心はついた。
「―――っ」
やっぱり言う。塚本さんが『同行する』と言っても、反対して押し切り、留めればいいだけだ。
「―――。塚本さん、『戦力』です」
「戦力・・・?」
「さっきも言ったかもしれないですけど、塚本さん。俺達一行に、日之国国家警備局の護衛官を出す、ということは塚本さんにとっても、利があると、俺は思っています」
俺は、『日之国国家警備局』所属の塚本さんではなく、『灰の子』としての、塚本さんに問うているんだ。
「利がある?僕にかい?」
塚本さんは、『分からない』というように、俺にやや首を傾げて見せ―――、
「はい」
塚本さんのその態度は、本心だと思う。演技でそうしているようには、俺の眼には視得ない。
塚本さんが、『演技』でも、『素』でも、俺はどっちでも、構わない。どっちだっていい。もう、俺は塚本さんに、みんなの前、特に、一之瀬さん祖父孫や、羽坂さんの前で、話す覚悟はできているのだから―――。
「塚本さん。塚本さん達と俺達の利害は同じ、はず―――」
「・・・それは―――」
表情を真面目なものに変え、何かを言いかけた塚本さん。
だが、俺は構わずこの口を開く。
「『五世界の権衝者』―――、それを自画自賛し、それを声高に主張する『イデアル』。そして、その戦闘員『イデアル十二人会』の討伐、、、です、塚本さん」
「―――ッツ!!」
驚嘆。驚愕。
俺による秘密の暴露。まさか、皆がいる前で、俺がそこまで踏み込んだ発言はしない、と、そう塚本さんは思っていたのかもしれない。
だが、俺を、俺の決意をなめるなよ、塚本さん。
途端に、塚本さんの表情が、怖いほどに強張る。
なぜなら、この場には、塚本さん以外に、羽坂さんや一之瀬さんがいるから。
俺の『イデアル十二人会』の討伐発言で―――、
「―――ッ」
―――、塚本さんの目の色が、明らかに変わった。
「そして、討伐から至るであろう『イデアル』の殲滅。その俺達の初戦が、数か月前に起きた、あの『廃砦』での戦い」
「―――ッ」
「あのとき、廃砦で、信吾さんの、旧友だったという、『先見のクロノス』こと、日下修孝が言っていました。『俺達『イデアル』とアイナ=イニーフィナのこの一団は、明確な敵対関係となったのだ、魁斗よ。この先、チェスターを追い続けるかれらと俺達『イデアル』は衝突を繰り返すだろう』、っと、塚本さん。日下修孝は、、、日下修孝と近角信吾さんは、同郷で、同じ流派を征く―――、」
「・・・っつ、け、健太くん。待つんだ、それ以上は―――」
焦り。やや必死そうな塚本さんに、俺はそう言われて、『それ以上』のことを言うのは止めておいた。
「・・・」
これ以上の、祖父ちゃんから聞いたあの夜話のことを、この場で引っ張り出して―――、
―――、俺は、塚本さんと、塚本さん率いる『灰の子』と敵対するのではなく、また塚本さんの機嫌を損ねるのが、俺の目的ではないから。
だから、俺はそれとは別に、俺達側の『情報』を、先払いで塚本さんに、提示しよう。
「これより先。天雷山の『雷基理』を狙う『イデアル』は、ある者の手引きで―――」
ミントちゃんことアネモネのことだけど、それは言わない。ミントは、俺の仲間のようなものだから、そこは黙っておく。
「―――その姿を、『雷基理』を手中に収めた俺達の前に、必ずその姿を現します。たぶんその中に、塚本さん『貴方の親友』の―――、」
そこで俺は、敢えて『近角信吾』という名前は、口には出さず―――、羽坂さんを、いたずらに刺激しないためでもある。
「―――既知の間柄だったという、日下修孝は必ずその中にいます―――」
俺は、今の俺なら、彼奴日下修孝こと『先見のクロノス』に敗ける気はしない!!
廃砦で、痛いほど感じた彼奴日下修孝に対する、俺との力量の差即ち『怖れ』も、今の俺は全く感じない―――。