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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十四ノ巻
271/460

第二百七十一話 俺が直々に言う。やっぱ、俺が直々に言いたい。言わせろ

 その僅かな、塚本さんの表情筋のその動き―――、

「・・・」

 ―――、俺のこの『眼』は、誤魔化しきれないぜ、塚本さん―――。


第二百七十一話 俺が直々に言う。やっぱ、俺が直々に言いたい。言わせろ


 きっと、その『ぴくり』、は塚本さんの心の動揺だ。

 と、同時に、俺は。そうか、そういう『それ』か、羽坂さん。塚本さんの俺への一人称での呼び方だ。よく気づいたな、羽坂さん、、、と言うか、ある程度塚本さんと親しい人ならば、気づくか。


 でも、まさか、こんな形で、俺が、奥の手で塚本さんに提示する予定だった『こと』を、羽坂さん自身が、塚本さんに言ってくれるとは思ってもみなかった。俺としては、ありがたい。羽坂さんが、塚本さんに指摘してくれたこと。


 塚本さんの『致命的なミス』。


 羽坂さんは、

「普通なら塚本、『アイナ皇女殿下』と、呼ぶのと同じで、彼のことを『健太殿下』って呼ぶはず。それなのに塚本は、親しげに『健太くん』って呼んでいる。つまり塚本は、初めから健太殿下のことを、健太殿下とは親しかったことになる―――。動揺してない?塚本?」

「僕が動揺?」

 ん?、と塚本さんは、やや首を傾げ、、、―――

「うん。―――『健太くんきみは愿造さんよりも口が達者だね』って、さっき言った。愿造さんって誰?塚本。そんな名前の人、私は聞いたことがない」

「―――」

 だんまり。塚本さんは、不用意なことは、一切発言しない。

 塚本さんは口元を一文字にし、それは黙秘するという意志の表れに俺は見ていて思ったんだ。


 愿造、とは俺の祖父ちゃんのことだ。塚本さんが、灰塵に帰した日下府を彷徨っていた俺の愿造祖父ちゃんを助けてくれた。

「、、、」

 俺から、羽坂さんにその『愿造さん』のことを教えてやってもいいんだが、、、。

 塚本さんは、俺の祖父ちゃんのことを、羽坂さんに言いたくないみたいだし、俺から祖父ちゃんのことを、羽坂さんに教えるのは、、、流れ的には良くないような―――うーん。難しい判断だな、これは。


「じゃあ、塚本。侑那に訊いてみる」

「っつ」

 ぴくり。


 ゆきな?羽坂さんが言ったゆきなって誰だ?

「・・・」

 あっ。それを、羽坂さんより、ゆきなと聞いた塚本さんは軽く動揺した、ように思う。でも、その塚本さんの動揺の動きは、塚本さん自身の『演技』かもしれない。

 塚本さんの動きは、明らかに、誰の目にも分かるような、大きな『動き』だったから。


「・・・」

 羽坂さんは、ふふん、っとまるで『鬼の首を取ったよう』と、その赤い電話を私服の懐より取り出し、ひらひら、っと掌に、まるで塚本さんに見せびらかすかのように、弄ぶかのような手つきだ。

「侑那の番号は、、、確か―――えっと諏訪だから、さ行、の」


 諏訪・・・。

「・・・」

 あぁ、日之国国家警備局局長の諏訪 侑那のことか。かつての、警備局四天王の一人。そして、塚本さんの相棒にして、事実上の恋人。

 羽坂さんって、諏訪局長のことも『侑那』って呼び捨てなんだ。


「奈留」

 塚本さんは羽坂さんの名前を呼ぶ。

「―――なに?塚本」

 ぴたっ、っと。塚本さんに自身の下の名で呼ばれた羽坂さんは、その赤い電話を弄る手の動きを止めた。

「くくっ、侑那は、愿造さんのことは知らないはずだ。だから侑那に電話をしても無、駄、だよ、奈留。まぁ、どうしても聞きたければ、侑那に聞いてみるのも一興かもね」

 案の定、塚本さんは、ほくそ笑む。

「あっそう・・・。じゃあ―――他の人に訊いてみる」

 羽坂さんは、きょろきょろっ、っと俺達を見回し、、、

 っ。羽坂さんと視線が合う。

「―――じゃあ、たとえば彼健太殿下とか?」

「っつ」

 塚本さんの表情が、揺れる。しまった、っと言いたげだ。


「―――っ」

 それよりも、ちょっと待て―――、

 ―――おいおいおい、羽坂さん。俺を、塚本さんと羽坂さんの板挟み状態にするつもりか?


「―――」

 じぃ―――、っと羽坂さんは、その興味深そうな、その大きくした眼で俺を見詰め、、、。


 う・・・っ。

「・・・っ」

 羽坂さんは、俺に訊くつもりだ、俺の祖父ちゃん愿造祖父ちゃんのことを。


「ゲンゾウという人物は、私の師ですよ、ナル」


 だが、そこで―――、

「!!」

 アイナの援護射撃。助かった・・・。

 と、そのときのことだった。アイナが羽坂さんに声を掛けたんだ。

「え?アイナ、、、皇女殿下?」

 羽坂さんも意外そうな表情で、俺から視線を切り、アイナへと、その興味深そうな眼差しを向けた。

「はい。そして、彼ゲンゾウは、私の大切な方の―――」

 アイナは自信に満ち溢れた、まるで誇らしげに―――、その様子で。愿造祖父ちゃんは、俺の祖父であるということを―――、、、っ!!


 アイナのやつっ羽坂さんに、言う、、、教えるつもりだ―――!!

 違う!!

「ッ・・・!!」

 ッ・・・!!アイナのやつ、俺の祖父ちゃんのことを、羽坂さんに言うつもりだっ!! 


 そうなれば、塚本さんの心証を悪くするかもしれない。最悪、入境許可証の取り消しっ。そして、転移者隠匿罪で、塚本さんの立場も危うくなる!!

 言っていただろう、一之瀬さん(春歌)が、『塚本さんはとてもいい上官だって』―――!!

「待ったアイナ・・・っ」

 びくりっ、っとアイナは。

「っ、、、ケンタ・・・」

 俺の言葉が、その口調が、鬼気迫る俺のその声色が、少々強めだったかもしれない。

「ごめん。びっくりさせて、ごめんアイナ」

「い、いえ・・・ケンタ」

「あとで埋め合わせするから」

 声を荒げてごめん、アイナ。

「はい、、、」

「ごめん。俺、声を荒げて、アイナ」

 赦してくれ、アイナ。俺は軽く頭を下げる。赦されるなら、俺は、アイナの一日人間椅子になってもいいさ、、、なんて、な。

「い、いえっケンタ」

 あせあせっ、っと言った感じのアイナ。


 俺が直々に言う。やっぱ、俺が直々に言いたい。言わせろ。

「―――」

 俺の謝罪の言葉で、俺はアイナから許されたと思おう。


 俺は気持ちを切り替え―――、くるり、と、俺は、塚本さん、そして、羽坂さんと順々に向き直り、また最後に塚本さんへ、視線を送った。

「塚本さん。たぶん羽坂さんを止めても、羽坂さんは少々強引な手を使っても、俺達に付いてくる気がします、俺は」

「うん」

 羽坂さんは頷く。

「ほら、塚本さん―――」

「っつ」

 相変わらず、顔を顰め、難しい顔をしている塚本さん。

「ところで、塚本さん。ちょっと話が変わるんですけど、さっき俺が言いかけた俺の話を聞いてもらってもいいですか?」

 『話が変わる』のではなく、むしろ俺がしたいのは、『話を戻す』だ。

「―――、いいよ。どんな話だい、健太くん」

 しばらくの沈黙の後、やや慎重に、塚本さんは口を開いてくれた。

「天雷山を征く俺達には、まだ足りていないものがあるんです」

「、、、それは? 物資かい? それとも―――資金かな?」

 違う。本質からして俺の求めるもの、求めようとしているものは、『それら』とは違う。

「それもありますが、、、塚本さん。話を元に戻すことになるんですが、前言撤回します。やっぱり俺達には、俺達を『真』に護衛してくれる護衛官が必要です」

 そう、これだ。俺は『護衛官』と言ったが、そうではなく、実際には『戦力』だ。

 そして、『戦力』と言った単語から導かれる、繋がる、俺の、思っていること。俺から『灰の子』への、その頭目たる塚本さんへの、俺からの新たなる情報提供―――。その見返り、が、見返りとして、羽坂さんの『護衛』を提示する―――。


 羽坂さんの驚いたような表情。

「っつ、健太、殿下・・・!!」

 そして、珍しく羽坂さんの感情が籠った声。


「・・・」

 たぶん、羽坂さん彼女の表情を俺が見るに、羽坂さんは俺に『自身』=『護衛官』。すなわち羽坂さん(自身)を連れて行く口実を、俺が思いついた、と思ったようだ―――。

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