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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十四ノ巻
268/460

第二百六十八話 だが、俺は『真っ直ぐ』のはずだ。俺という人間は―――

 俺は、顔をアイナの頭に近づけ、、、―――形のいいその耳元で、


第二百六十八話 だが、俺は『真っ直ぐ』のはずだ。俺という人間は―――


「アイナが、俺のことで怒ってくれるのは、とても嬉しいよ。だけど、その言葉は、できれば二人きりのときに。そうだな、、、夜か。アイナきみと二人きりの夜にでも、それを俺に聞かせてくれると嬉しいかな、な?アイナ」

 俺はアイナの耳元で、彼女に情熱的に囁いた。

「、ヶ・・・ケンタ、、、っ///」

「アイナ―――、っつ」

 ぐい、っと、さらに、やや強めに。

 俺はそのアイナの括れた腰に回す、自分の右腕右手に、ぐっ、っと、力を籠め、アイナの肢体を、俺の上半身に押し付ける。

 そう、アイナの、彼女自身の身体の柔らかさを、俺は自身の胸で感じられるほどの距離で、アイナを引き寄せる。まるで、アイナに、今からその口を、その瑞々しく血色のいい、ぷるっ、っとした柔らかい唇に、俺の意に反して『かわいいことばかり言う』その唇に。


 そう、今からアイナのその唇に、俺の独断的な、独りよがりと言われても仕方ないような接吻でもしようかと、いうぐらいの距離だ、今の俺とアイナの距離は。

「そ、その―――、ケンタ・・・っ///」


 だが、今はアイナへの接吻は、俺的にはお預けだ。ここで、この場で、みんなが見ている場では、アイナにはキスしない。

 こんな、

「・・・」

 どんなセクハラだよ、、、って俺。

 でも、俺とアイナは恋人同士だし、セクハラではないと、そう思いたい。それを、俺の、アイナに行なう行為を塚本さんに、見せつけるのが、俺の真の目的か。

「なぁアイナ?二人きりの、そのときに俺に聞かせてくれるよな?」

「は、はい・・・っケンタ・・・っ///」

「『―――』」

 ―――『愛しているよ、アイナ。俺だけの姫様』―――。

 ふぅ―――っと、まるで吹きかけるように。愛しているよ、っと俺は、アイナの耳元で情熱的に、できるだけ情熱的な声色を演じ、その声でアイナに囁く。


「―――っ///」

 くて―――っ///


 アイナの身体が弛緩し、全身から力が抜ける。

「~~~っ///」

 ポーっ、っと上気し、紅潮したその頬。陶酔、恍惚―――そのような、表情で俺を見詰めるその藍玉のような綺麗な瞳。

 今、俺はアイナを完全に、この手中に、腕の中に、胸板に、おさめた、というわけだ。


 ぎゅっ、っと、抱き締め、俺の本心からの愛で、愛を囁く。それだけで、今までの凛としていたアイナは、くて、っと俺の胸の中で、おとなしくなってくれる。


 俺がアイナに行なった、この求愛とも思える行為は、俺がアイナの『付属物』のような存在ではなく、れっきとした『対等な関係』であるということを塚本さんに、見せるものでもある、、、というのは後付けか。


 アイナの傍に侍るアターシャとサーニャは、目を閉じ、視線を逸らし、俺達の人前でのこの求愛とも取れる行為に目をつぶってくれている。


「なるほど―――、健太くん・・・くくっ」

 にやにや。塚本さんはにやにや。


 そのにやにやとした哂い、余裕の哂み。塚本さんのそれを、俺が止めてやりてぇ。だが、俺は真顔で―――、

「つまり、塚本さん。俺達が、いや俺が弱者ではない、ということを証明できれば、いいんですよね」

「そう、だね健太くん」

「解りました―――」

 魁斗。『隙ありッ魁斗―――ッ!!』っと、あのときお前から奪い返したあの氣導銃『くさか零零参號』がこんなときに役に立つなんて、まったく思っていなかったよ、な、魁斗。お前らが二年前に、塚本さん達『灰の子』を急襲したときに、近角信吾さんから、奪ったという氣導銃『くさか零零参號』。

「・・・」

 俺は羽坂さんに一瞬視線を送り見て、それからすぐに塚本さんに視線を戻す。


「塚本さん」

 あれだ、あの話。魁斗から聞いたあの話。

「ん?なにかな、健太くん」

「二年前のことっす。貴方がたは『奴ら』と戦いましたよね」

「―――」

 塚本さんは、口を噤んだままなにも答えない。ここに羽坂さんがいるからだろう。だが、その哂みの消えた、塚本さんのその表情から、そのことに間違いないと判る。

「そのとき、黯い呪いの異能を使うへらへら笑う若い、、、そうっすね、俺と同じぐらいの齢の男はいませんでしたか?」

「、、、いた気がするね・・・」

 塚本さんは、やっと俺の質問に答えてくれた。塚本さんは、自身が魁斗を知っていると、俺の前で認めてくれた。これはどういう心境の変化だろう、塚本さんの。

「そいつは、そいつの名は結城魁斗。俺の、元の世界での幼馴染だったやつです」

「なるほど、その結城という彼も『転移者』ということか。で、それで、どうするのかな、健太くんは」


 俺なりの魁斗の処遇を聞いているのか。

 それとも、そいつ結城魁斗の幼馴染の俺は塚本さん達に、『幼馴染の魁斗には手心を加えてほしい』と、俺が要求するとでも思っているのか。

 俺には塚本さんの心中は分からないし、『心靡眼』も塚本さんに使おうとは思わない。

「昔は、、、いいやつだった俺の幼馴染魁斗も、あいつらの所為で『イデアル』の次期導師と目される『黯き天王カイト』に成っていた。こっちで再会した魁斗は、非道(ひど)い奴に成っていたんで、俺がキレてあいつの黯い異能『天王黒呪』を破り、倒しました。もう結城魁斗は、『黯き天王カイト』はこの『五世界』には存在しません。俺が、この五世界からあいつ結城魁斗を消しました」

「ッツ」

 さすがに俺の言葉に驚いたか、塚本さん。

「塚本さん。とんで二年前のことっす。塚本さん達が『あいつら』の襲撃を受けたとき、なにか大事な物をあいつらに奪われませんでしたか?特にその、魁斗『黯き天王カイト』に」

「大事なもの?僕が、かい」

 きょとん、っと、塚本さんは

 塚本さん貴方じゃない、俺が言っているのは。

「いえ―――」

 俺は視線を横に流す。俺の視界に入ったのは、羽坂さんだ。


 やや首を傾げる羽坂さん。

「??」


「―――はい」

 そう、ちらり、っと俺は、羽坂さんと見て、『その様子』を敢えて、塚本さんに見せつける。『近角信吾さんです』、と俺が直接言えば、それが羽坂さんにも聞こえて、また塚本さんを刺激しかねないもんな。

「っつ」


 聡い塚本さんだ、それで俺の意図を察してくれた。

「俺が、魁斗から氣導銃を取り返しておきました。本人に返したいんです、俺。この場には持ってきていませんが、―――、今ここに『彼の』氣導銃『くさか零零参號』を持ってきましょうか?」

 ―――、ちらっ、っと俺は塚本さんの脇をチラ見。また俺は、塚本さんに見せつけるように、羽坂さんを見た、俺の、その様子を塚本さんに見せつけたんだ。『彼の』と俺が言ったのは、羽坂さんの親父さんの信吾さんのことですよ、という俺の意志の表れだ。

「―――、いや大丈夫だ、その必要はないよ、健太くん」

 哂みの消えた塚本さんは、そう言ってくれた。実は、俺は塚本さんが、そう言うと予測していたんだが、敢えて。

「そうっすか」

「・・・、、、―――」

 俺は塚本さんに、返答の隙を与えず―――。

「ところで塚本さん」

「、なにかな、、、健太くん」

「『イデアル』の次期導師と目されていた『黯き天王カイト』を、俺は倒した。塚本さんの条件、俺達は『弱者ではない』ということ。それは解ってもらえたっすか?」

 ま、でも『自惚れ』や『力におぼれる』ということは、常々俺は祖父ちゃんから言われて肝に銘じて、そんなことにならないよう意識はしてるさ。

「、、、そう、だね・・・」

「じゃあ、塚本さん。論点に立ち戻って、『弱者ではない俺達には、日之国国家警備局の、アイナも言う監視目的の護衛官は必要ない』、との理論が成り立ちませんか? アイナの天雷山踏破においての、ここ津嘉山邸への逗留―――、それを認めてください」

 塚本さんは、俺を見詰めて―――、

 だが、その塚本さんの目には『怒り』や『憎しみ』などと言った負の感情は見えず。むしろ、俺の真意を推し量ろうとしているように俺の眼には視得た。

「―――」

 そんな俺も塚本さんを、見つめ返すように見据得る。


「―――・・・」


 あぁ、この人塚本さん。自身の『曲がる異能』を自身に用いて、俺の本心を探ろうとしているな。

「―――」

 だが、俺は『真っ直ぐ』のはずだ。俺小剱 健太という人間は、曲がった嘘や、曲がったような小細工をせずに、塚本勝勇という一人の男に挑んでいるのだから―――。


 長い沈黙の後、長いと言っても五分ほどだろうか。塚本さんは、口を開き―――。

 人の気配―――、ちょうどそのとき、そのタイミングで一之瀬祖父孫が戻ってくる。

「―――解った」

 だが、一之瀬祖父孫が、迎賓館の応接の間に戻って来ても、塚本さんは躊躇うことはなかった。塚本さんは、一之瀬祖父孫が戻ったことに、気づいていないわけがない。

 それでも、口を開くということは、自身の話すその話を、一之瀬さん達に聞かれていいと判断したんだろう、塚本さんは。

「僕は、『僕達』は、きみに、きみ達と協力しよう」

 その言葉を待っていたぞ俺は、塚本さん。

「ありがとうございます・・・っ塚本さん・・・っ」

 バっ、っと俺は、両腕は体側、腰を直角に折って、塚本さんに深々と頭を下げた―――。

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