第二百六十四話 逃がさん・・・っつ!!俺は、ちょうどあんたに、話があるんだよ―――
警備局の関係者四人の対面の席に座る俺から見て―――、左から順番に『塚本さん』『一之瀬泰然さん』『一之瀬春歌さん』『羽坂さん』の順番に席に着いている。
「奈留」
―――そんな中で、塚本さんは、羽坂さんに声を掛ける。
第二百六十四話 逃がさん・・・っつ!!俺は、ちょうどあんたに、話があるんだよ―――
塚本さんの声量は、俺達に聴こえてしまうからあくまで小声、のような先ほどまでの、一之瀬さん達に話した小声とは違い、今度の『奈留』と羽坂さんを呼んだのは、平時の、普通の声の会話するときの声の大きさだった。
塚本さんは、間に座る一之瀬さん(春歌)を通り越し、羽坂さんのところへ。
「奈留ちょっといいかな」
塚本さんが側に来ても、この会合に際して、だるそうな、興味なさそうな、そんな羽坂さんの態度。
「・・・ん?なに塚本・・・、、、。。。」
だるだる。。。おもおも。。。
その様子を、塚本さんと羽坂さんのやり取りを観ていて、俺は―――。
「、、、」
一方の羽坂さんはやる気のなさそうな声色と、その態度で塚本さんに返事する。そう言えば羽坂さんって、塚本さんのことを『塚本』って呼び捨てなんだよな。なんでだろ?まぁ当人同士が納得しているみたいだからいいけど。
塚本さんは、口を開いて、羽坂さんに話を切り出す。
「奈留。もしもの話だけど、奈留は―――」
「行かない。私はダンジョンに潜るのにとても忙しい・・・ふんすっ」
「そっか、分かった」
「ん。そゆこと塚本」
行かない、って、、、即答かよ、羽坂さん。しかもダンジョン。たぶんゲームだろう。
「・・・」
羽坂さんは、またその退屈そうにしている態度に戻る。俺達と警備局との議論の紛糾は、どこか他人事のような、そんな風に羽坂さんは思っているのかもしれない。
でも、きっと―――、
「っつ」
塚本さんは平時の声の大きさで、羽坂さんに問うたのは、きっと羽坂さんが『断る』と解っていたからに違いないさ。
そして、羽坂さんの下の名前は『奈留』。その羽坂さんの名前を改めて俺は意識した。そして、羽坂さんの『銀髪』と、俺が祖父ちゃんの夜話で聞いた、近角信吾さんと愛莉さんの娘の名前は『奈留』。
つまり―――
これを俺が言えば、、、一波乱起こるかもな。でも、この膠着した事態は動かせる・・・っ
「―――」
塚本さんの、先ほどのエシャール卿の『扱い方』で俺は気づいたんだよ。きっと塚本さんは、祖父ちゃんの夜話の出来事を周りに、直隠しにしているんだと。
六年前の日下部市で起こったこと、日下部市を攻めてきた『イデアル』の戦闘部隊『十二人会』の四人、そして、第六感社の空挺部隊。
「―――っつ」
日下部市を襲ったそれら敵対勢力を壊滅させ、殲滅したのは、、、塚本さん率いる『灰の子』。それと俺の祖父ちゃん。もちろんその中に、近角さんもいた―――。
たぶんおそらく、羽坂さんは、俺の祖父ちゃんの夜話に聞いた信吾さんと愛莉さんの娘だろう。
俺が悶々と、羽坂さん自分自身のことを考えていることなどに、全く気付いていないんだろうな、、、羽坂さんは。
羽坂さんは、かわいく欠伸。
「くぁ・・・」
まるで、小動物たとえば猫がするかのようなそんな、かわいらしい欠伸だ。
「っ」
俺が思うに、羽坂さんは、なんで近角と名乗っていないんだろう?
羽坂さんはやっぱり知らないのか? そうだろう。自身の両親が、実は生きている、ということを。塚本さんが直隠しにしている所為で。
すなわちこの事実を、俺がこの場で、言えば交渉における均衡は、崩れる可能性が大きい。ひょっとして塚本さんから大幅な譲歩を引き出せるかもしれない。
ただし、きっとリスクは伴うだろう。塚本さんが、皆を連れて席を立つ可能性だってある。
「ケンタひょっとして、この紛糾する事態を打開するなにか妙案でも思いついたのでは?」
俺は突然、アイナに話しかけられ―――、
「!!」
相変わらずよく見てるよな、アイナは俺のこと。すこしこわいぐらいだ。
でも実は、それがアイナの真の異能の『パッシブスキル』の効果?で、その効果が、アイナ自身が気づかないうちに無意識下で、彼女自身に影響を与えているのかもしれない。
「アイナ。あぁ、実は・・・」
「なにか、思う所でも?たとえば、あのハサカという女性が気になりますか?」
「うん、なんとなく・・・。アイナ、一度俺の考えを聞いてくれるか?」
「はい健太・・・♪」
俺は、囁くようにアイナに耳打ち。違うさ、羽坂さんが気になるという、好意の意味合いの気になる、ではなく意味が違う。
俺の、腹案を聞いたアイナは、にこり、っと。
「解りました、ケンタ。一芝居打ちましょう」
「従姉さん、よろしいでしょうか」
「はい、アイナ様」
「そろそろ一度、休憩になさいませんか?疲れているでしょう?従姉さんも」
「え?アイナ様」
「サーニャ貴女は、お腹は空いていませんか?」
「(ぐぅ、きゅるるる)―――ひ、姫様、その、こっこれは・・・っ///」
一芝居ありがとな、アイナ。
「・・・」
アイナの発言を機に、俺は真正面に視線を向けた。
「(ぐで~)おふぅ・・・。。。」
あ、羽坂さん。目が死んでる。今にもたおれそう。『疲れた~』『話がなが~い』『早く帰りたい』のような、そんな疲れた様子が、ばしばし、と表に出ている羽坂さんだ。
「なるほどアイナ様。あちらの羽坂さまも。長丁場にて、だいぶお疲れのご様子です」
アイナとアターシャの間に流れるのは、相互の以心伝心のようなものだ。アターシャはアイナの意図、『一芝居』を察したのだ。
「ふふ♪ そうですね、従姉さん」
「確かに、、、俺も見ていてそう思う」
アイナとアターシャとサーニャのやり取りで、ついでアターシャの言葉で、羽坂さんを見れば、彼女羽坂さんは今にも机の上に突っ伏してしまいそうだ。
「・・・」
「。。。。(うー、だるい)(しんどい)(帰りたい)(続きしたい、『主にセーブポイントからゲームの続きを』、う~、話ながい)(こんなとこについてくるんじゃなかったぁ)」
「・・・」
羽坂さんって、ずっとこんな、やる気なしの態度、、、感じだもん。一之瀬さん(春歌)と違って、羽坂さんには、やる気は微塵も感じないもん。俺の羽坂さん見た感じでは。
そう言えば、この会議で羽坂さんって、ほとんど発言しなかったような。ずっと、ぼーっと、口元を△にして、退屈そうに目を細めるような、白い目で俺達の話を聞いていて。
そもそも俺達の話すら聞いていたのかすらもあやしいんじゃないか?羽坂さんのこの態度は。
あ、そう言えば羽坂さんって、塚本さんに来いって言われたから、ついて来たってぼやくように言っていたなぁ。
「日之国国家警備局のみなさま。ここいらで一息入れませんか?」
「・・・」
俺の腹案。アイナの、アターシャとサーニャの意思統一。
しれっと、じゃ、ここで休憩かな。向こうの警備局の人達も、それに同意。
「っ(きゅぴーん)」
っと、羽坂さんは、まるで水を得た魚のように復活。突っ伏す寸前になっていた、羽坂さんは、起き上がる。
そのきれいな銀色の髪の毛が、ぶあっ、って浮かぶほどの勢いで、羽坂さんが起き上がったのは、すごいと思ってしまった。
羽坂さんの、今まで死んだ魚のようだった目にも、活力というものが戻っている・・・。
「な、奈留さん・・・?」
ほら、一之瀬さん(春歌)もちょい面食らった感じ、だ。
「うん、続きしないといけないのっ春歌っ―――ふんすっ」
「つ、続きですか?奈留さん・・・?」
「うん。塚本に来るように言われて、中断してしまったの。せっかく結晶を採れるところだったに、、、。はぁ~、塚本のせいで・・・」
「はぁ?」
「ん。続き頑張るっ。目標はマナ結晶十個・・・ふんすっ」
「―――」
どんなゲームをやっているのかなぁ、羽坂さん。マナ結晶とか言ってるし。マナ結晶・・・、俺はそれを実際に手に触れたりもしたことはあるんだよな。
そうそう、羽坂さんの話を聞いている感じは、そんなゲームでもやっている印象を受けるんだけど羽坂さんは。そう、ブラウザか電話でやる、しかもダンジョンに潜るようなSRPGのようなゲームだ。
「そだ、塚本」
「なにかな、奈留」
それは塚本さんが、席から立ち上がるちょうどのタイミングで。そんなときに羽坂さんが塚本さんに声を掛けた。
「もう私帰っていい?ゲームの続きしたいの」
「え?」
「帰りたいのですか?奈留さん」
「うん。今『死霊の廟』のちょうど地下九階。そこのボスを倒せば次は、『砂廊の魔塔』。今から、私は『死霊の廟』のボスと戦うちょうどいいところなの。私は早くダンジョンに潜りたいっ、ふんすっ」
「は、はぁ・・・?」
「ふんすっ春歌も、このゲームをやればきっとハマる。する? おふぅこれで春歌も『廃人確』」
「廃人!? え、えと私は、奈留さん。私は廃人にはなりたくないので―――」
「ううん、大丈夫。三か月もすれば、戻ってこられるよ? またお日様」
「あ、そういえば奈留さん。最近任務の間に腑抜けていることがありますよね?」
「ううん、そんなこと、、、ない。私はいつも『潜る』準備万全っ・・・ふんすっ」
「あの、奈留さんそれは」
羽坂さんと、和気藹々としたそんな一之瀬さんに、
「そうだ、春歌くん」
塚本さんの声。
「はい、塚本特別監察官」
塚本さんは、一之瀬春歌さんに、声を掛けたんだ。
「もし―――、あ、いや後でいいか」
塚本さんは話を切り、ここ応接の間から、休憩を取りに行こうと。
だが、あんただけは、塚本さん―――。
―――逃がさん・・・っつ!!
「っつ・・・!!」
俺は、ちょうど塚本さんに、話があるんだよ―――。