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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第二十四ノ巻
261/460

第二百六十一話 っつ、過ぎた称賛は『いやみ』に聞えてくるんだよ

「さて、と。奈留の話も終わったことですし、僕の発言を続けますね」

「はい、ツカモト」

 再び塚本さんが、話の場に返り咲く。その視線の先に、アイナと俺がいる。俺も、アイナも真正面の席に座る塚本さんを見据え―――。

 おそらく彼が喋るその内容は、『俺達がどうして天雷山から、ここ日府に、こんな短期間で帰って来るのができるのか』、それが、その彼塚本さんの疑問だろう。

 きっと一之瀬さんも、そのような疑問を、疑いを俺達に抱いているに違いない―――。


第二百六十一話 っつ、過ぎた称賛は『いやみ』に聞えてくるんだよ


 すっ、っと、アイナの行動を察したアターシャが、アイナの椅子を引き、アイナは席から立ち上がる。

「ツカモト貴方は私に、『天雷山に挑んでいるはずの我々が、なぜここツキヤマの迎賓館にいる』のか、と貴方は、我々に問いましたね?」

「えぇ、アイナ皇女殿下」

「さらに、そこに付け加えて、『天雷山と、ここツキヤマの家がある日府は、一日では到底帰って来ることができるような距離ではない』、とも」

「―――はい。アイナ皇女殿下」


「・・・」

 俺は、はっきりと肯定した塚本さん以外の、対面に座る三人を観、―――、

「「「―――」」」

 ―――、つまり一之瀬さん祖父孫と羽坂さんも、俺は一瞥したが、その三人は一様に押し黙ったままだ。それはきっとこの居並ぶ三人の意見も、塚本さんと同じ意見だからだろう。

 ただ、その中において、羽坂さんだけは、退屈そうにしているその眼差しが気になった。力なく、もしくは疲れたように、目蓋を落とし目を細めているから。


「―――」

 アイナは、視線を円卓の机上に落とし、諦めにも似た、その表情で自身の意志を、対面の警備局の面々に示す。


 この愁いを帯びた諦めのアイナの表情と、言動は、おそらくアイナ自身の外に向けた演技であり、外交交渉における硬軟織り交ぜた駆け引きだろう。

「、、、ふぅ・・・」

 アイナは軽く息を吐く。その吐息は、この応接の間に消えていく。

 表情一転―――、きりっ、っとアイナは眼差しを正す。

「いいでしょう、ハルカ、ツカモト。私はあなた方の疑問に答えます」

 そのアイナの凛々しい双眸が向くのは、真正面の塚本さんと一之瀬さん(春歌)だ。

「「―――」」

 アイナの『答えます』の言葉。そのアイナの発言に、塚本さんも一之瀬さんも、アイナに注目。

 

 でも、アイナの、イニーフィネ皇国皇族の異能は、『他言無用』極秘事項のはず。本当に、自身が使っている『空間跳躍』の異能を、この面々の前で、アイナは他人に言うのか!?

「っつ」

 ついにアイナは自身が使っている異能『空間跳躍』で、天雷山とここ日府にある津嘉山の迎賓館とを行き来していることを、この居並ぶ日之国国家警備局の面々に話すのか!?


「我々の、天雷山への移動手段ですが、実は、天雷山へと挑むこの人員の中に、『空間跳躍』を使える者がおり、その者の『空間跳躍』の異能により我々は、天雷山へと毎日赴き、そして帰投。それを繰り返しながら、毎日天雷山踏破に挑んでいるのです」


 アイナの口から、それを聞いて―――、

「「っ」」

 ―――、っ、っと塚本さんと一之瀬さんは。アイナのその、『空間跳躍』の発言を聞き、驚いたように目を見開く。


 なるほどな、アイナのやつ。そうか、そういう言い方もあるのか。

 あくまでアイナは、自身が行使する異能を秘匿しつつ彼女は、『空間跳躍』で天雷山へ挑んでいることを話すんだ。

「・・・」

 だが、アイナは、自身が『空間跳躍』を行使して、俺達ごと天雷山へと飛んでいることは言わなかった、というわけだ。これがアイナの作戦か。


 アイナは、素知らぬ顔で、それを貫きとおしつつ、

「その者は、皆の、特に私の身の安全を憂慮し、天雷山の、その頂へと挑戦するその道中で、野営しながら天雷山脈を踏破するのではなく、自身の『空間跳躍』で、ここ日府にあるツキヤマの家と、天雷山を行き来する手段を思いついたというわけで、私はその者の妙案を、採用したのです、ツカモト」


 実際は、その妙案の発案者はアイナ自身なんだがな。

「・・・」

 ちらり、っと、俺は視点を、アイナの後方に静かに佇む二人を一瞥。


「「―――」」

 アターシャとサーニャは、ぴくりとも顔色を変えず。まるで鉄面皮。


「―――っ」

 すごいな、この二人アターシャとサーニャは。

 この二人は、アイナの側近として、このような、表情から誰かに己の感情を悟られないような訓練を受けているのかもしれない。

 俺は視点を、アターシャとサーニャより、円卓の前の塚本さんに戻す。塚本さん、一之瀬さん二人の、驚くようにしていたその表情は和らぎ、既に元に戻っていた。


 そんな中、塚本さんは口を開く。

「なるほどっ―――それはいいっ。素晴らしい名案ですね、流石はアイナ皇女殿下の臣下の方・・・っ。そしてアイナ皇女殿下の素晴らしい英断っ!! 素晴らしいお考えだ・・・アイナ皇女殿下っ」

 塚本さん右人差し指を立てて、、、。


「・・・、っ」

 塚本さん納得し過ぎ。俺にはまるで、それが皮肉ように聞こえるぞ。いや、皮肉や当て擦りのように、わざとそう取られるようにして、塚本さんは言ったのかもしれないが。


「そうでしょう?ツカモト」

 だが、アイナは、あくまで冷静に、塚本さんに対処。

「はいっアイナ皇女殿下。その『空間跳躍』を用いれば、安全に天雷山を登ることができる、ということですねっ。っつ、素晴らしい」

「えぇ。そして、もし、、、考えたくはありませんが―――、踏破の中で、危機的状況に陥った場合は、その者の『空間跳躍』の異能にて、すぐに安全圏へと、退避できるというわけです」

「素晴らしい御考えに尽きます、アイナ皇女殿下・・・っ」

 嫌味に聞こえてくるほど、塚本さんはアイナを、そして、俺達を『褒め称える』、『その妙案は素晴らしいっ』、と。


 だが、な―――、

「・・・っつ」

 ―――、っつ、過ぎた称賛は、『いやみ』に聞えてくるんだよ、塚本さん。しかも、塚本さん貴方の『灰の子』の仲間にも、『空間跳躍』もしくは、『空間転移』の異能を持った九十歩(くじゅうぶ)颯希という女性がいるじゃないか。


「ありがとうございます、ツカモト。ふふっ」

 アイナは笑みをこぼす。その笑みは、アイナの心の底から喜んでいる笑みではなく、愛想笑い、もしくはアイナから塚本さんへの、その彼の『いやみ』への意趣返しの笑みだ。


「なんという素晴らしい合理的な手段だ。そうは思わないかい―――、春歌くん」

 塚本さんは一之瀬 春歌さんに話を振った。

 塚本さんに話を振られた一之瀬 春歌さんは、―――

「はい、塚本特別監察官。私もそう思います。もし、『空間跳躍』を用いることのできる能力者が、私達日之国国家警備局の中にいれば―――、」

 一之瀬春歌さんは、考えこむ。

 大方自身の警備局の利になるとでも考えて、もしも、そのような異能を持つ者が自分達警備隊にいれば、のことについて思いを巡らしているんだろうけど。


 一方の塚本さんは―――、にやり、っとやや、その自身の二つ名に等しい哂みを浮かべる。まるで、『自分達灰の子の中には、その空間跳躍の異能を使える仲間がいるんだよ』、、、という哂みなのかもしれない。

「では、アイナ皇女殿下。貴女さまが、天雷山よりここ日府に帰投する―――」

 塚本さんは、ハッとして、その自身が喋っていた言葉を止めた。そして、その哂みも改める。

 その様子はまるで何かの事実に気が付いたというべきか。

「―――、いやアイナ皇女殿下」

「はい」

「ここ日府より、その臣下の方に、天雷山へと『空間跳躍』させるのではなく、御自身が住まわれる皇国の皇都より、天雷山へ『空間跳躍』すればよいのではないでしょうか?わざわざ日之国に入境せずとも、天雷山へと行けるのではありませんか?アイナ皇女殿下」


「?」

 あれ?塚本さん。アイナが『空間跳躍』を行使できると、気づいているのか?その塚本さんの言い回し。


「だ、そうですよ従姉さん」

「アイナ様。そこで私に振るのですか?」

「えぇ。さ、従姉さん答えてあげて」


 でも、アイナは敢えて、そこでアターシャに話を振ったんだ。たぶん、アターシャなら即興でも、それなりに納得できる説明ができると踏んで。

「っ」


「かしこまりました、アイナ様」

 すっ、っとそこでアターシャの視線が、目の前の塚本さんへ移ろう。

「『空間跳躍』という異能は、距離が離れれば離れるほど、その行使に必要となるアニムスの消費量が多くなります。また『空間跳躍』するときに一緒に伴う人数。此度はアイナ様、ケンタさま、サンドレッタ、そして私の四人。さらには登山に必須となる物資まで『持っていくため』、かなりの量のアニムスを、いうなれば気力と体力を使ってしまいます。よって、皇都より天雷山に近いここ日府のほうが、拠点として使えると判断したのです」

 そこで、アターシャに、アイナの援護射撃―――、

「それにここツキヤマの家は、従姉さんの実家ですし、顔が利きますから♪ ね、従姉さん♪」

「はい、アイナ様」

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